
フォーリン・アフェアーズ・リポート2025年2月号 目次
歴史の流れと強権指導者
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歴史のなかのトランプ
繰り返される秩序との闘い雑誌掲載論文
ある種の指導者は歴史の流れを変えられるという見方を受け入れるとしても、政治や社会が大きく変化するのは、制度が権威を失いつつあるときだ。事実、民主国家への信頼は失われつつある。そして、国際ルールを破って何の責任も問われない指導者がいれば、それに続く者がでてくる。1914年のように、過ちや誤解が対決へつながっていく危険は常に存在するが、いまやその危険はますます大きくなっているようだ。トランプ政権が孤立主義的政策をとり、NATOから脱退し、中国と対立し、世界の多くの国々と関税戦争に突入すれば、世界はどうなるだろうか。それによって、世界がより安全な環境を手にするとは思えない。
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民主主義の危機にどう対処するか
ポピュリズムからファシズムへの道Subscribers Only 公開論文
ファシストが台頭した環境は現在のそれと酷似している。19世紀末から20世紀初頭のグローバル化の時代に、資本主義は西洋社会を劇的に変貌させた。伝統的なコミュニティ、職業、そして文化規範が破壊され、大規模な移住と移民の流れが生じた。現在同様に当時も、こうした変化を前に人々は不安と怒りを感じていた。だが、第一次世界大戦、大恐慌という大きなショックを経験したことを別にしても、根本的な問題は、当時の民主主義が、戦間期の社会が直面していた危機にうまく対処できなかったことだ。要するに、革命運動が脅威になるのは、民主主義が、直面する課題に対処できずに、革命運動がつけ込めるような危機を作り出した場合だ。ポピュリズムの台頭は、民主主義が問題に直面していることを示す現象にすぎない。だが、民主的危機への対応を怠れば、ポピュリズムはファシズムへの道を歩み始めることになるかもしれない。
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リベラルな民主主義の奇妙な勝利そして停滞
Subscribers Only 公開論文
なぜ20世紀に民主主義が生き残り、ファシズムも共産主義も淘汰されてしまったのか。1930年代から21世紀初頭にいたるまで、ヨーロッパ全域が民主化すると考えるのは現実離れしていたし、リベラルな民主主義が勝利を収める必然性はどこにもなかった。なぜ、社会に提示できるものをもち、圧倒的な力をもっていたマルクス主義がリベラルな民主主義に敗れ去ったのか。そしていまや、多くの人が(民主主義を支える経済制度である)資本主義が経済利益を広く社会に行き渡らせる永続的な流れをもっているかどうか、疑問に感じ始めている。ヨーロッパとアメリカの昨今の現実をみると、民主的政府は危機に適切に対応できず、大衆の要望を満たす行動がとれなくなっている。現在、世界が直面する危機によって、市場原理主義、急激な民営化、新自由主義では、「近代的でグローバル化した経済秩序をどうすれば持続できるか」という問いの完全な答えにはなり得ないことがすでに明らかになりつつある。・・・
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スターリンとヒトラー
二十世紀を分けた独裁者の思想と地政学戦略Subscribers Only 公開論文
人種偏見をもち、ソーシャル・ダーウィニズムを信じ、地政学をゼロサムで捉えていたヒトラーが、ドイツの民族的優位を立証するには、(ヨーロッパ支配に加えて)ソビエトとイギリスの双方を粉砕する必要があった。スターリンとの不可侵条約をさらに深化させて、大英帝国のすべてを手に入れる作戦に乗り出すべきか、それとも、ターゲットをソビエトに据え、大英帝国の攻略を後回しにすべきか。一方、スターリンは、大規模な軍備増強路線で戦争に備えつつも、ドイツとの戦争を避け、ドイツがイギリスとの対決へと向かうような環境を作り出そうとしていた。彼はドイツ軍が物資不足に苦しんでいることを理解していた。ソビエトからのさらなる物資供給を必要としているドイツが、その供給を途絶えさせるソビエトとの戦争を開始するのは自滅的だと読んでいた。・・・
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平等と格差の社会思想史
労働運動からドラッカー、そしてシュンペーターへSubscribers Only 公開論文
多くの人は貧困関連の社会統計や極端な貧困のケースを前に驚愕し、格差の現状を嘆きつつも、「ダイナミックな経済システムのなかで所得格差が生じるのは避けられない」と考えている。要するに、目に余る格差に対して道義的な反感を示しつつも、格差是正に向けた理論的基盤への確固たるコンセンサスは存在しない。だが、20世紀初頭から中盤にかけては、そうしたコンセンサスがなかったにも関わらず、一連の社会保障政策が導入され、格差は大きく縮小した。これは、政治指導者たちが、共産主義革命に象徴される社会革命運動を警戒したからだった。だが、冷戦が終わり、平和の時代が続くと、市民の国家コミュニティへの帰属意識も薄れ、福祉国家は深刻な危機の時代を迎えた。財政的理由からだけでなく、個人の責任が社会生活を規定する要因として復活し、ドラッカーから再びシュンペーターの時代へと移行するなかで、社会的危機という概念そのものが形骸化している。・・・
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切り崩されたリベラルな秩序
格差を是正し、社会的連帯を再生するにはSubscribers Only 公開論文
欧米におけるポピュリズムの台頭は、リベラルな民主社会の社会契約が破綻していることを物語っている。経済格差が人々を異なる生活環境で暮らす集団へ分裂させ、社会の連帯感そのものが損なわれている。中間層や労働者階級を犠牲にしてグローバル化の恩恵を富裕層が独占する状況が続けば、米経済が依存するグローバル・サプライチェーンや移民受入への政治的支援は今後さらに損なわれていくだろう。ポピュリズムは、タフさとナショナリズム、さらには移民排斥論を基盤とする、人受けのするはっきりとしたイデオロギーをもっている。開放的なリベラルな秩序の支持者たちがこれに対抗していくには、同様に明快で、一貫性のある代替イデオロギーを示し、労働者たちが切実に感じている問題を無視するのではなく、それに対応していく必要がある。
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戦後秩序は衰退から終焉へ
壊滅的シナリオを回避するにはSubscribers Only 公開論文
保護主義、ナショナリズム、ポピュリズムがさらに勢いをもち、民主主義は廃れていく。内戦や国家間紛争が頻発して常態化し、大国間のライバル関係も激化する。グローバルな課題に向けた国際協調も不可能になっていく。この描写に違和感を覚えないとすれば、現在の世界がこの方向に向かっているためだろう。但し、戦後秩序をもはや再生できないとしても、世界がシステミックリスクの瀬戸際にあるわけではない。それだけに、米中関係の破綻、ロシアとの衝突、中東での戦争、あるいは気候変動と、何がきっかけになるにせよ、それがシステミックな危機にならないようにしなければならない。世界が壊滅的な事態に遭遇するというシナリオが不可避でないことはグッドニュースだ。バッドニュースは、そうならないという確証が存在しないことだ。
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トランプが権力に返り咲けば
「アメリカ・ファースト」が導く無秩序Subscribers Only 公開論文
トランプは、ヨーロッパやアジアの小国を守るために、なぜアメリカが第三次世界大戦を引き起こす危険を冒さなければならないのかと問いかけている。アメリカの利益が危機にさらされているときには、積極策をとるべきだと考えているが、その利益にアメリカが長年維持してきたリベラルな秩序が含まれるとは彼は考えていない。リベラルな秩序が崩壊すれば、アメリカも最終的には、より無秩序な世界で苦しむことになる。だが、現在からその時がやってくるまでに、他のすべての国がより大きな代価を支払うことになるだろう。
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新国際主義外交の薦め
アメリカと世界Subscribers Only 公開論文
かつて同様に、リビジョニスト(現状変革)国家は力によって領土を獲得し、国際秩序は崩壊しつつある。さらに憂慮すべきは、かつて同様にアメリカが内向きになり、孤立主義の誘惑に駆られていることだ。ポピュリズム、移民排斥主義、孤立主義、保護主義に席巻されるアメリカの国際社会での立ち位置はどこにあるのか。アメリカのグローバルな関与が、過去80年間とまったく同じように進むとは考えられないが、それでもアメリカの国際主義外交が求められている。そうできるかで、未来が民主的で自由市場国家間の同盟によって規定されるのか。それとも、リビジョニストパワーによって規定される権威主義的政治の時代に逆戻りするのかが左右されるだろう。
核をめぐる韓国の立場
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韓国の核武装を認めよ
北朝鮮の脅威とアメリカの干渉雑誌掲載論文
大陸間弾道ミサイルを開発した平壌は、いまや核兵器でアメリカの都市を攻撃する能力をもっている。このために、アメリカが(自国が反撃されるリスクを冒しても)韓国への安全保障コミットメントを果たすかどうかがいまや問われている。しかも、米韓同盟を批判してきたドナルド・トランプが大統領としての2期目を迎える。北朝鮮の核の兵器庫が拡大し、トランプ政権下のアメリカが後ろ盾としての信頼を失うにつれて、韓国の市民やエリートの核武装オプションへの支持は高まる一方だ。問題は、ワシントンが韓国の核武装路線に否定的なことだ。同盟国が危険にさらされたままの状態にあることを求めるのではなく、ワシントンは、ソウルが安全保障への道を自ら見つけることへの障害を取り払うべきだろう。
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強大化した北朝鮮の核の脅威
平壌の核ドクトリンと韓国、東アジアSubscribers Only 公開論文
金正恩は、2022年9月に、核の「先制使用」ドクトリンを公表した。核兵器で米本土を脅かす力をもっているだけではない。北朝鮮の核は、北東アジアで軍拡競争を引き起こす危険がある。金正恩が突きつける脅威ゆえに、これまであり得ないと考えられていた核保有を求める韓国民衆の声は大きくなっている。だが、この流れが形成されれば、韓国が核開発を試みる前に、北朝鮮が韓国を攻撃するリスクは高くなる。日本も核武装に向かうかもしれない。問題は、北朝鮮の脅威が増大するなか、トランプ政権以降のアメリカの安全保障コミットメントが、かつてほど手堅くはないようにみえることだ。実際、北朝鮮の核攻撃によるアメリカの脆弱性が高まるなか、東アジアの同盟国がアメリカの「核の傘」に依存し続けられるかどうか、はっきりしない状況にある。
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東アジアの新戦略環境と同盟関係
同盟国の不安にどう対処するかSubscribers Only 公開論文
「アメリカは、核兵器を含む、あらゆるパワーを用いて、同盟国の領土と主権に対する外からの攻撃を抑止し、必要なら、相手を打倒する」。ワシントンはこの安全保障コミットメントを守れるのか。東京やソウルを守るために(北朝鮮を攻撃して)、アメリカの都市が核攻撃の対象にされるリスクをワシントンは本当に引き受けるのか。同盟諸国は疑念を払拭できずにいる。いまや韓国人の70%以上が核武装を支持し、50%以上が米軍の戦術核の再配備を求めている。日本でも80%以上が中国、北朝鮮、ロシアを軍事的脅威とみなしている。不安を募らす東京とソウルを安心させるために、ワシントンはどのように対処すべきなのか。
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北朝鮮危機と台湾有事
半島危機と台湾有事のリンケージSubscribers Only 公開論文
北朝鮮がアメリカとその同盟国をミサイル発射で挑発したタイミングで、中国が他の地域で行動に出る恐れがある。すでにそのリスクは高まっているのかもしれない。中国と競い合っているアメリカにとっては特に深刻なダメージになるだろう。戦略的競争の時代にある現在、朝鮮半島、東シナ海、台湾海峡は、良くも悪くも、ますます関連性とリンケージを高めている。こうした安全保障環境の変化に対応するには、日米韓の戦略家がこれらの問題をパッケージ化して捉え、対応策を考案しなければならない。金正恩や習近平を牽制するには、必要なら二つの戦争を同時に戦い、その双方に勝利できることを立証する必要がある。
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個人独裁国家と核の脅威
新しい抑止概念の構築をSubscribers Only 公開論文
核を保有するか、獲得するかもしれない個人独裁国家が台頭している。事実、北朝鮮による核のブレイクスルーによって、現在の世界は、その行動を予見も牽制もできない個人独裁者が数百万の人々の運命を握っている。ワシントンは長期的な軍備管理にコミットしつつも、一方で、保有する核、その核ドクトリンを個人独裁国家の核武装という課題に適応できるように見直す必要がある。こうした個人独裁者の行動をうまく抑止し、必要なら、相手と「効果的かつ倫理的に」戦い、打倒できるような小型核を中心とする、個人独裁者をターゲットとする抑止戦略を準備する必要がある。
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アメリカは同盟国を本当に守れるのか
拡大抑止を再強化するにはSubscribers Only 公開論文
尖閣諸島の防衛を約束しているとはいえ、中国は「価値のない岩の塊のためにアメリカが大国間戦争のリスクを冒すことはない」と考えているかもしれない。一方、ワシントンが信頼できる形で反撃すると約束しなければ、拡大抑止はその時点で崩壊し、尖閣の喪失以上に深刻な帰結に直面する。アメリカが何の反応も示さないことも許されない。これが「尖閣パラドックス」だ。今後の紛争は、大規模な報復攻撃を前提とする伝統的な抑止が限られた有効性しかもたない、こうしたグレーゾーンで起きる。中国とロシアの小規模な攻撃に対しては、むしろ、経済戦争、特に経済制裁を重視した対応を想定する必要がある。脅威の質が変化している以上、ワシントンは軍事力と経済制裁などの非軍事的制裁策を組み合わせた新しい抑止戦略の考案を迫られている。
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米同盟国が核武装するとき
クレディビリティの失墜と核拡散の脅威Subscribers Only 公開論文
中国とロシアが核戦力を近代化し、強硬路線に転じるにつれて、アジアとヨーロッパ双方の米同盟諸国は軍事的脅威の高まりにさらされている。一方で「アメリカは長年の軍備管理合意から距離を置き、米市民も、もはやグローバルなエンゲージメントに前向きではない」と同盟諸国はみている。このために「自国の防衛と安全保障をワシントンに頼れるのか、それとも、核武装を考える時期がきたのか」と考え始めている。脅かされているのは、アメリカへの信頼そして地球上で最大の破壊力をもつ兵器の拡散を阻止してきた数十年にわたる成功にほかならない。うまく対処しない限り、アメリカの同盟諸国は核武装を選択することになるかもしれない。
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核拡散後の世界
Subscribers Only 公開論文
イランが弾道ミサイルで中東全域を射程に収め、アメリカやヨーロッパに対しても(船舶その他の方法で)核攻撃を行う力を得る。サウジアラビアとトルコも、恐怖、あるいはライバル意識に突き動かされて、核武装する。アジアでも、中国、インド、北朝鮮、パキスタン、ロシアという核保有国に加えて、日本と台湾がアジアの核保有国の仲間入りをする可能性もある。仮に現実がこのように推移するとしたら、この新しい世界における戦略的な流れはどのようなものになるだろうか。核大国の一方で、数多くの核小国が共存するようになれば、冷戦期の抑止理論、軍備管理論は陳腐化する。
トランプが直面する世界
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プーチンの対欧米戦争は続く
ウクライナを越えた戦い雑誌掲載論文
プーチンの最終目的は、ウクライナではない。ヨーロッパのポスト冷戦秩序を解体・再編し、アメリカを弱体化させ、彼がふさわしいと考える地位と影響力をロシアがもつ新しい国際システムを形作ることが目的だ。ウクライナでの戦闘が終われば、ロシアはより大胆になり、軍事態勢を立て直せば、ヨーロッパの安全保障秩序を再編するための新たな戦いを始めるだろう。すでにプーチンは、欧米との戦いに備えて、ロシアの社会と経済そして外交政策を大きく変化させている。ロシアの問題は、グローバルな問題でもある。隣国に侵攻し、民主主義社会を攻撃し、国際ルールを破りながらも、制裁から逃れがちだったことは、彼のやり方に追随する者を生み出すと考えられるからだ。
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北京が対米関係を静観できる理由
緊張と孤立主義の間雑誌掲載論文
北京にイデオロギーを国際的に広める計画はなく、中国共産党は国内の政治的安定を維持していくことを重視している。トランプも同様に国内を重視しており、両国が直接衝突するようなイデオロギー対立に緊張がエスカレートすることはないだろう。むしろ、ロシアと緊密な関係にある中国は、その影響力を利用して、効果的な和平取り決めを特定するために、トランプと協力できるだろう。米大統領の経済保護主義志向は緊張を高めるだろうが、北京はそのような対立をうまく切り抜けられると考えている。トランプの孤立主義も、北京が米同盟国との関係を改善する機会を提供するとみている。中国の指導者たちは彼の権力者としての復活を恐れてはいない。
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いかに戦争を終わらせるか
ウクライナのNATO加盟を認めよ雑誌掲載論文
戦争を終わらせるには、ロシアにウクライナの一部領土を与えるのと引き換えに、北大西洋条約機構(NATO)へのウクライナ加盟を実現させる洗練された計画が必要になる。恒久的な平和を生み出すには、このような妥協をするしかない。「勝利しつつある」と考えているプーチンに和平交渉に入るように説得できても、トランプはゼレンスキーも説得しなければならない。これは大きなチャレンジになる。領土奪還を諦めるならば、これらの土地に住む市民も見捨てるのか、それともウクライナ西部への移住を保証するのか、ゼレンスキーは決断しなければならない。そして、トランプ自身、和平交渉を実現するために、ウクライナ支援を維持(さらには拡大)する必要がある。
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対中貿易規制と国際協調
グローバル貿易と同盟関係雑誌掲載論文
世界の工業生産に占める中国の割合は2000年の6%から2030年には45%に達すると予測されている。これに対してアメリカのシェアは25%から11%に低下する。これは、中国との地政学的対立のさなかにあるアメリカと同盟国にとって、許容できるコースではないだろう。トランプは(同盟国の製品を含む)すべての輸入品に20%の「普遍的基本関税」をかける路線を見直し、同盟諸国と協調して新たな合意をまとめる方が、アメリカの経済と安全保障にはうまく機能することを認識すべきだろう。冷戦期のように、多国間輸出規制レジームなどを通じて貿易と安全保障の両面で協力する一方で、同盟国との二国間貿易赤字には関税よりも、むしろ、相手国の内需を促す路線をとるべきだろう。
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プーチン・ドクトリンの目的
勢力圏の確立とポスト冷戦秩序の解体Subscribers Only 公開論文
「欧米は30年にわたってロシアの正統な利益を無視してきた」。この確信がプーチンの行動を規定している。近隣諸国、旧ワルシャワ条約機構加盟国の主権上の選択を制限するロシアの権利を再び主張し、そうした制約を課すロシアの権利を欧米に認めさせることを彼は決意している。要するに、ロシアのことを、近隣地域に特別な権利をもち、あらゆる重大な国際問題について発言権をもつ、尊敬し、畏怖すべき大国として接するようにさせることが大きな狙いだ。プーチン・ドクトリンは、世界の権威主義政権を擁護し、民主主義国家を弱体化させることも意図している。ソビエト崩壊という結末を覆し、大西洋同盟を分裂させ、冷戦を終結させた地理的解決策を再交渉すること。これがプーチンの包括的な目的だ。
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トランプ政権と中国
取引主義と競争戦略Subscribers Only 公開論文
トランプの関税引き上げの威嚇策は、中国側の行動を変化させるための交渉戦術なのか、デカップリングを達成するための確定路線なのか、あるいはこの二つのミックスなのかはわからない。いずれにしても、北京は、トランプ政権が(関税策などで)同盟パートナーシップを傷つければ、相手を取り込める余地が生じると期待している。北京は、ヨーロッパや日本との外交エンゲージメントを強化し、インドとの国境紛争の緊張緩和も模索している。さらに、中国への競争的なアプローチを実行する上でもっとも大きな障害となるのは、トランプの取引主義なのかもしれない。対中政策は、1期目同様に、大統領の「取引主義」と側近たちの「競争的アプローチ」という異なる衝動によって特徴付けられることになるかもしれない。
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ウクライナ戦争を終わらせるには
勝利の定義を見直せSubscribers Only 公開論文
ワシントンは、実現不可能な勝利の定義に固執するのではなく、戦争の厳しい現実と向き合い、より妥当な結末を受け入れ、折り合いをつけるべきだ。キーウが主権と独立を維持し、希望する同盟や連合に自由に参加できることを勝利とみなし、ウクライナ全土を解放する必要があるという考えは放棄すべきだろう。アメリカとその同盟国は、ウクライナに武器支援を提供する一方で、キーウにモスクワと交渉するように求め、その方法を具体的に示すという不快な対策をとらざるを得ない。外交を模索する一方で、ウクライナを支援し続けることが、紛争を終結させるためには必要であることをトランプが最終的に理解することを期待したい。
Current Issues
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中国の報復社会
何が問題を引き起こしているのか雑誌掲載論文
中国では2024年に、無差別に民衆を襲撃する暴力事件が少なくとも20件発生し、その犠牲者は90人を超えた。ある研究によると、2004―17年に世界で報告された大量刺殺事件の45%が中国に集中している。政府関係者は、こうした「社会への報復」攻撃を「孤立した事件だ」と説明している。だが、事件の背景には経済の停滞、格差、社会的流動性の欠落や社会的疎外などが引き起こす中国社会の亀裂があるし、根底には、社会不満を増幅させる政府の抑圧が存在する。共産党が経済的機会を拡大し、構造的な不平等や不公正を減らしていかなければ、やがて「社会への報復」攻撃以上の大きな問題に直面するかもしれない。
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AI開発レースの地政学リスク
米中、ビッグテック、ミドルパワー雑誌掲載論文
ワシントンにとって、AIはグローバルな技術優位を維持しなければならない新たなフロンティアだ。アメリカは輸出規制を通じて中国の技術開発を抑えようとし、一方の中国は国の力を動員してアメリカに追いつこうとしている。米中が技術覇権を模索する一方で、いずれの影響下にも入ることを避けたいミドルパワー、そして、開放的市場を通じた技術の世界的普及を重視するテクノロジー企業は、AI開発を通じた多極世界への道を思い描いている。問題は、AI規制によって追い詰められた北京が、アメリカを中国の存続を脅かす脅威とみなし、テクノロジー競争を安全保障領域へ向かわせる恐れがあることだ。
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ロシアの軌道に組み込まれるジョージア
ハンガリー化するジョージア雑誌掲載論文
12年前に政権党になって以降、「ジョージアの夢」は巧みに国を掌握してきた。かつて首相を務め、同党に大きな影響力をもつビジナ・イヴァニシヴィリは、官僚、司法、法執行部門の事実上すべての主要な役人を、段階的に党に忠実な支持者に置き換えていった。こうして、「ジョージアの夢」は、自分たちの条件で思うままに権力基盤を固め、ついには、欧米の影響力を遮断することを目的とする「外国の代理人」法を成立させ、不正な選挙を実施した。「ジョージアの夢」は、すでにビクトル・オルバン流の国家乗っ取りへ向けた重要な一歩を踏み出し、いまや欧米からロシアへと決定的に軸足を移そうとしている。
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中国は停滞と混乱の時代へ
社会不満と経済停滞が重なればSubscribers Only 公開論文
生活レベルの改善に貢献している体制への反政府運動は力を持ち得ないが、経済衰退期には、多くの人が反体制派や批評家に現実の説明を依存するようになる。これまでも、エコノミストたちは、中国経済の成長は鈍化し、停滞期に入りつつあると主張し、その理由として、人口動態の変化、政府債務、生産性の低下、市場志向改革の欠落などを指摘してきた。いまや「ピーク・チャイナ」という言葉さえ使われている。長期停滞に入った中国でも、人々は、反体制派の主張に現実の説明を依存するようになるかもしれない。いまや、北京は体制の安定を追求するあまり、技術的な進歩や民衆の支持さえも犠牲にし始めている。
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覚醒した中国民衆
激動の時代の幕開けSubscribers Only 公開論文
ゼロコロナ政策が刺激した今回の抗議行動を通じて、中国民衆は北京の政策に明確に異を唱えた。普段は(政治に)無関心な人々の間で大きな変化が起きていることは間違いない。習近平は今後5―10年あるいはそれ以上の期間にわたって、市民の不安の高まりだけでなく、危機が促す抗議行動に直面することになるだろう。最高指導者になって以降の10年間、習近平が前向きの改革ではなく、統制策の強化に血道を上げてきたために、いまや普通の人々もこの国が抱える大きな問題に気づき始めている。これが反ゼロコロナデモの意味合いに他ならない。民衆デモは、人々が個人の自由を求めていることだけでなく、中国政治が激動の時代を迎えることを告げている。・・・
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AIと経済革命
人間のツールとして生かす政策をSubscribers Only 公開論文
AIが突きつける危険、それが引き起こす壊滅的なダメージを防ぐための国際的AI規制の必要性を指摘する議論は多い。しかし同様に重要なのは、AIの生産的な利用を促すポジティブな政策の導入だろう。AIが経済に与える最大の影響は、人間の仕事のやり方を変化させることだ。仕事を構成するタスクの一部、全体の30%程度は、AIによってオートメーション化されるが、職業そのものがなくなることはない。但し、能力の高いマシンと協力して仕事をこなすことになるために、新たなスキルが必要になる。現在AIが世界に与える最大のリスクは、文明を破滅させることでも、雇用に大打撃を与えることでもない。それは、現在の経済格差を今後何世代にもわたって拡大するような形で開発され、使われる恐れがあることだ。これを回避する政策が必要になる。
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独裁者の台頭とハンガリーの衰退
ビクトル・オルバンの変節Subscribers Only 公開論文
「われわれの力を信じれば、共産主義独裁体制に終止符を打てる」。1989年の演説で(民主化に向けて)ハンガリー人をこう鼓舞した若者は、20年間でポピュリストの独裁者に変貌していた。2010年の選挙で大勝したオルバンが試みたのは、新政権の樹立ではなく、「体制変革」だった。憲法を改正し、憲法裁判所を意のままにし、メディアを押さえつけて管理し、政権に依存する社会経済エリート層を作り出した。ハンガリーのある政治家によれば、オルバンのハンガリーは「ポスト共産主義のマフィア国家で、それを率いるのは政党ではなく、ビクトル・オルバンの政治経済派閥だ」。オルバンは政府を批判する者を非愛国的な反逆者と非難し、自らの失敗やミスを欧州連合のせいにしている。・・・