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2016年9月10日発売

フォーリン・アフェアーズ・リポート
2016年9月号

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フォーリン・アフェアーズ・リポート2016年9月号 目次

  • 欧州のシルバー民主主義と年金危機
    ―― その弊害をいかに緩和するか

    エドアルド・カンパネッラ

    雑誌掲載論文

    ヨーロッパの若年層が「自分たちも親世代と同じように寛大な年金を受けとれる」と考えていたのはそう昔の話ではない。だが、現実にはヨーロッパ全域で、未来の世代に重荷が押しつけられ、高齢者の立場が「政治的に」優遇されている。年金危機対策にしても、結局は、「将来の年金受給者」を対象とする見直しが行われただけで、引退世代の社会保障は温存されている。イギリス、イタリア、スペイン、フランスなどで実施された一連の制度改革は、いずれも現在の年金受給者には何の影響も与えない。しかも実際には、ヨーロッパの退職者の所得の中央値は現役労働者の所得の中央値と等しく、退職者の方が高い国さえある。年金制度の破綻を防ぐには、財政の持続可能性、世代間の連帯、世代間の公正という三つの原則間のバランスをとる必要がある。

  • 日本を抑え込む「シルバー民主主義」
    ―― 日本が変われない本当の理由

    アレクサンドラ・ハーニー

    Subscribers Only 公開論文

    日本社会は急速に高齢化している。そして高齢者たちには、政治家が現行の社会保障システムに手をつけるのを認めるつもりはない。だが、高齢社会に派生する問題に向き合うのを先送りすればするほど、その経済コストは大きくなる。これが日本の現実だ。事実、政府の年金財源は2032―2038年の間に枯渇するという試算もある。だが、年齢層からみた多数派で、投票率も高い高齢者集団にアピールするようなキャンペーンを実施すれば、政治家はもっとも忠誠度の高い支持基盤を手に入れることができる。こうして、高齢社会が日本経済にどのようなコストを与えることになるとしても、「高齢者に優しい政策」が最優先とされている。高齢層の有権者の支持を失うことに対する恐怖が、政治家が長期的に国の未来を考えることを妨げ、これが若者に対する重荷をさらに大きくしている。1票の格差同様に、世代間の不均衡問題に目を向け、もっと若者の意見を政治に反映させる必要がある。そうしない限り、日本の経済未来は今後も暗いままだろう。

  • 衰退する日米欧経済

    ロバート・マッドセン

    Subscribers Only 公開論文

    かつては圧倒的なパフォーマンスを誇った日本経済も、バブル経済の崩壊とともに失速し、いまや成長のために、そして再び金融危機に直面するのを避けるために必要な、経済改革に向けた政治的コンセンサスを構築できるかどうかも分からない状態にある。そして、金融危機後のさまざまな対策を通じて「自分たちは日本の二の舞にはならない」というメッセージを市場に送った欧米諸国も、結局、日本の後追いをしている。欧米経済がこの5年間で経験してきたことは、1990年代の日本の経験と非常に似ている。今後の日米欧にとって、社会契約をいかに再定義するかが最大の政治課題になる。予算を均衡させ、再び金融危機に直面するのを回避するには、税率を引き上げ、社会保障支出を削減するしか方法はないからだ。アメリカ、日本、そしてヨーロッパ諸国は、この困難なプロセスとそれが引き起こす社会的緊張への対応に長期的に追われることになるだろう。地政学バランスはすでに東アジアへと傾斜しつつあるが、主役は日本ではない。うまくいけば傍観者として、最悪の場合にはその犠牲者として、日本は東の台頭を見つめることになるだろう。

  • コペンハーゲン・コンセンサス
    ――デンマークでアダム・スミスを読む

    ロバート・カットナー

    Subscribers Only 公開論文

    現在のデンマークモデルの中核は、労働市場の柔軟性(フレキシビリティー)と雇用保障(ジョブ・セキュリティー)のバランスをうまく組み合わせた「フレキシキュリティー」という概念、つまり、労働市場の柔軟性と雇用保障を両立させていることにある。労使協調路線がとられ、極端に高い課税率も結局は、社会サービスとして市民に還元されている。世界でもっとも平等で社会格差が小さく、それでもきわめてリバタリアンな思想を持つこの国は、どのようにして平等と効率、社会的正義と自由貿易を両立させているのか。グローバル化がつくりだす問題に対処するために、資本主義国がデンマークモデルを取り入れる余地はあるのか。

かつてなく危険な世界

  • 日韓の核開発をアメリカは容認すべきか
    ―― 核の傘から「フレンドリーな拡散」へ

    ダグ・バンドウ

    雑誌掲載論文

    日本や韓国が核武装を考えているとすれば、なぜワシントンが彼らの防衛と安全を保証しなければならないのかという考えが浮上してもおかしくない。一方で、ワシントンが日韓への防衛コミットメントを続けるかどうか迷い始めれば、両国を核武装へと向かわせるかもしれない。日本と韓国が中国や北朝鮮に対抗していくために、(核開発を通じて)独自の抑止力を構築することを望むのなら、ワシントンはそれを許容することも考えるべきだろう。日韓が核抑止力を手に入れれば、仮に紛争が起きても、アメリカが自動的に戦争に巻き込まれることもなくなり、ワシントンは自国の防衛に向けて戦力を再編できる。アメリカのグローバルな防衛上のコミットメントに必要とされるコストは、コミットメントから得られる利益を上回っている。ソウルと東京が北朝鮮に対抗する兵器を開発するのを決意するのであれば、それを許容することをワシントンが検討しないのは愚かだろう。

  • 次期米大統領のための新国防戦略
    ―― 形骸化した軍事的優位を再確立するには

    マック・ソーンベリー、アンドリュー・F・クレピネビッチ

    雑誌掲載論文

    西太平洋、湾岸地域、ヨーロッパというアメリカが重要な利益をもつ地域で支配的な力をもつ覇権国が登場するのを阻止するというアメリカの戦略目的は今も変化していない。だが、これらの地域には中国、イラン、ロシアというリビジョニスト国家が存在するために、地域的覇権国出現の阻止、グローバルコモンズの擁護という二つの課題をクリアーしていくのは容易ではない。リビジョニスト国家は、長距離精密誘導兵器、対衛星兵器システム、サイバー兵器などを利用して接近阻止・領域拒否(A2/AD)能力を高め、すでにアメリカの優位を脅かしているからだ。グローバルコモンズも同様だ。海や空、宇宙空間だけでなく、サイバー空間も経済戦争やテロの舞台へと変化し、海中・海底の経済インフラが攻撃ターゲットにされるのも時間の問題だろう。

  • かつてなく危険な世界
    ―― デンプシー前米統合参謀本部議長との対話

    マーチン・デンプシー

    雑誌掲載論文

    「私の知る時代のなかで、いまや世界はもっとも危険な状態にある。それぞれの脅威は小さいとみなすこともできる。だが適切に対処しなければ、そうした課題は現在われわれが考えている以上に大きな脅威へと変化していく。ロシアや中国のような国家アクターが、ヨーロッパと太平洋でわれわれの利益を脅かしている。中ロのいずれも今のところわれわれの純然たるライバルの域には達していないが、一部の領域については、われわれのレベルに近づきつつある。一方で、イスラム国(ISIS)のような非国家アクターがいる。これらの問題のいずれも無視することは許されない。根底にあるのは、現在のアメリカが、例えば、20年といった長期的なビジョンを描いて、それを政策と権限、さらには必要とされる資源で支えることができずに、一年単位で問題を捉えてしまいがちなことだ」 (聞き手はギデオン・ローズ フォーリン・アフェアーズ誌編集長)

  • アメリカはグローバルな軍事関与を控えよ
    ―― オフショアバランシングで米軍の撤退を

    ジョン・ミアシャイマー、スティーブン・ウォルト

    Subscribers Only 公開論文

    イラク、アフガニスタン戦争など、冷戦後のグローバルエンゲージメント戦略が米外交を破綻させたことが誰の目にも明らかである以上、いまやアメリカは「リベラルな覇権」戦略から、オフショアバランシング戦略へのシフトを試みるべきだろう。オフショアバランシング戦略では、アメリカの血と財産を投入しても守る価値のある地域はヨーロッパ、北東アジア、そしてペルシャ湾岸地域に限定され、その戦略目的はこれらの地域で地域覇権国が出現するのを阻止することにある。さらに、その試みの矢面にアメリカが立つのではなく、覇権国の出現を阻止することに大きなインセンティブをもつ地域諸国に防衛上の重責を担わせることを特徴とする。ヨーロッパにも、ペルシャ湾岸地域にも潜在的覇権国が登場するとは考えにくく、米軍を駐留させ続ける合理性はない。一方、北東アジアについては、地域諸国の試みをうまく調整し、背後から支える必要がある。・・・・

  • 緊縮財政時代の米国防戦略
    ―― 日本の安全保障とA2・AD戦略

    アンドリュー・F・クレピネビッチ

    Subscribers Only 公開論文

    アメリカの国防予算が大幅に削減されるのは避けられず、アメリカの安全と繁栄に不可欠な「西太平洋と湾岸地域」、そして(海洋、宇宙、そしてサイバースペースという)「グローバルな公共財」へのアクセスを維持することに焦点を合わせた戦略をとる必要がある。西太平洋の安定とアクセスを保障するアメリカの戦略の要となるのは、やはり日本だ。日本は接近阻止・領域拒否(A2・AD)戦略への投資を大幅に増やして、中国や北朝鮮による攻撃の危険を低下させるべきだ。同盟国によるこうした試みが実現すれば、(中国など)ライバル国が持つA2・ADシステムの射程外から使用できる長距離攻撃システム、敵のA2・ADのレンジ内でも効果的に活動できる攻撃型原子力潜水艦など、米軍の強みを生かせるようになる。ここに提言するアクセス保障戦略とは「米軍は(予算の制約下で)現実的に何ができるか」を前提にした戦略だ。

  • 蘇るロシアの歴史的行動パターン
    ―― プライドと大きな野望、
    そして脆弱なパワーという現実

    スティーブン・コトキン

    Subscribers Only 公開論文

    自らの弱さを理解しつつも、特別の任務を課された国家であるという特異な意識が、ロシアの指導者と民衆に誇りを持たせ、一方でその特異性と重要性を理解しない欧米にモスクワは反発している。欧米との緊密なつながりを求める一方で、「自国が軽く見られている」と反発し、協調路線から遠ざかろうとする。ロシアはこの二つの局面の間を揺れ動いている。さらにロシアの安全保障概念は、外から攻撃される不安から、対外的に拡大することを前提としている。この意味でモスクワは「ロシアが旧ソビエト地域で勢力圏を確立するのを欧米が認めること」を望んでいる。だが現実には、ロシアは、経済、文化など)他の領域でのパワーをもっていなければ、ハードパワー(軍事力)だけでは大国の地位を手に入れられないことを具現する存在だ。現在のロシアは「新封じ込め」には値しない。新封じ込め政策をとれば、ロシアをライバルの超大国として認めることになり、欧米は相手の術中にはまることになる。・・・

  • 中国をいかに抑止するか
    ―― 拒否的抑止と第1列島線防衛

    アンドリュー・F・クレピネビッチ

    Subscribers Only 公開論文

    領有権をめぐる北京の拡大主義的な主張は、日本、フィリピン、台湾を内包するいわゆる第1列島線に位置するあらゆる諸国を脅かしている。そしてアメリカは、これらの諸国を防衛する責務を負っている。中国の攻撃を阻む信頼できる抑止力を形成するには、ペンタゴンはより踏み込んだ対抗策をとる必要がある。中国の軍備増強の意図は、同盟諸国やパートナー諸国を支援する米軍の軍事能力を機能不全に陥れることにある。もちろん、アメリカの同盟国を攻撃すれば空爆や海上封鎖などの懲罰策を受けるという認識が、中国の軍事的冒険主義に一定の歯止めをかけている。だが、ワシントンそして同盟諸国とパートナー国は、拒否的抑止(deterrence through denial)、つまり、北京に力では目的を達成できないと納得させることを目的に据える必要がある。・・・・

次期米大統領の課題 TPP、イラン、中国

  • 貿易叩きという歴史的な間違い
    ―― なぜ真実が見えなくなってしまったか

    ダグラス・アーウィン

    雑誌掲載論文

    ドナルド・トランプは、「愚かな」交渉人がまとめたひどい貿易合意のせいで、中国、日本、メキシコがアメリカを貿易面で追い込んでいると訴えている。ヒラリー・クリントンでさえ、反対派に歩調を合わせざるを得なくなり、いまやTPPに反対であると明言している。現実には、貿易はアメリカに大きな利益をもたらしている。雇用喪失の85%以上はオートメーション化による生産性の向上が原因で、貿易が原因による雇用喪失は13%にすぎない。それでも、大統領候補たちは貿易を激しく批判し、それが歴史的な間違いであるにも関わらず、議会によるTPP批准まで危険にさらされている。現実にはアメリカは貿易上の問題には直面していない。問題は、かつて非熟練労働者が中間層の仲間入りを果たすことに道を開いた経済的なはしごが壊れてしまったことだ。

  • アメリカのイラン・ジレンマ
    ―― 和解と対立の間

    リュエル・マーク・ゲレチェット、レイ・タキー

    雑誌掲載論文

    ワシントンは、イランと和解することも対決することもできる。しかし、二兎を同時に追うことはできない。核合意を結び、しかも戦争疲れした米市民が中東から手を引きたいと考えている以上、対決路線をとるのはかなり難しい。一方、テヘランは依然としてイラク政府への影響力を行使している。イスラム国(ISIS)に対するイラクの戦略を指令し、イラク内のスンニ派に対する強硬策を促しているのは、イランの革命防衛隊だ。しかもシリアでは、依然としてバッシャール・アサドを支持している。ペルシア湾岸地域でもイランは策謀をめぐらしている。それでも核合意をめぐる譲歩のバランスをとるには、欧米はビジネス上の恩恵を確保する必要があると考えるのも無理はない。そして、核合意は崩壊したと判断しない限り、次期政権を含む今後の政権に経済制裁という選択肢はないも同然だ。・・・

  • 追い込まれた中国にどう対応するか
    ―― 南シナ海の領有権問題

    ミラ・ラップ・ホッパー

    雑誌掲載論文

    仲裁裁判所は、南シナ海で中国が主張する領有権を全面的に退け、フィリピンの立場を支持した。しかしその結果、中国がこれまで以上に好戦的になれば、この勝利は多くの犠牲をもたらす割の合わないものになる。今後、南沙諸島に造成した人工島を中国が放棄したり、かつての状態に戻したりすることはあり得ない。北京は海域の実効支配を強めて、裁定を無視する意向をもっと明確にしていくかもしれない。2013年に東シナ海に防空識別圏を設定したように、南シナ海についても同じ行動をみせるかもしれない。ワシントンとアジアのパートナー諸国が、危険な状況がさらに深刻化するのを回避するには、中国に対して裁定に従うよう促しつつも、もはや身動きできないのではなく、そこに中国にとって建設的な選択肢が存在することを示す必要がある。・・・・

  • テロ情報共有で変化する米欧関係
    ―― プライバシー保護とテロ対策の間

    ミシェル・フロノイ、アダム・クレイン

    雑誌掲載論文

    依然としてスノーデン事件の衝撃の余波が残るヨーロッパでも、アメリカのサーベイランス活動をどう受け止めるかについての政治ダイナミクスは変化し始めている。ドイツでは、自国の情報機関が外国の政府機関を諜報の対象にしていたことが明らかになったことで変化が生じた。ジハード主義者の攻撃に脅かされるベルギー、フランスその他のヨーロッパ諸国世論も、(プライバシー保護よりも)安全保障重視へと大きく傾斜し、情報活動への見方は変化している。すでにホワイトハウスは、ヨーロッパの同盟諸国の防衛と国境警備の強化のため、ヨーロッパの主要都市に対テロ専門家チームを派遣している。アメリカの次期政権は、ヨーロッパの情報活動に関する政治ダイナミクスの変化がもたらしている機会をうまく生かす必要がある。

中東アップデート

  • ギュレン派とエルドアンとトルコ軍
    ―― 軍事クーデターとその後

    ジョン・バトラー、ドブ・フリードマン

    雑誌掲載論文

    依然としてトルコでのクーデター計画の全貌、そして誰が計画に関与したのか、首謀者が誰だったのかについての詳細ははっきりしない。但し、AKPとギュレン運動が(クーデター前から)権力抗争を続けていたことは明らかだ。(2013年に)ギュレン派はAKPの指導層を標的に政治腐敗の調査に着手し、エルドアンはギュレン派を官僚、メディア、ビジネスからパージすることでこれに報復した。クーデターが起きた7月15日の時点でも、パージは続いていた。そして、ギュレン派の動機と能力を警戒した軍高官たちは、ギュレン派のシンパとみられる将校たちのリストを作成していた。重要なのは、このリストが、ギュレン派が今回のクーデターを企てたとする主張を支える証拠とされていることだ。このリストには、ムハレム・コセだけでなく、クーデターの首謀者とみられる人物の名前、そしてクーデターを支援した部隊駐屯地を指揮した人物、さらには、アカル参謀長の誘拐を助けた人物、同僚の高官を逮捕した人物、トルコの都市に戒厳令を出した人物の名前があった。・・・

  • ユダヤ人国家と民主国家を両立させるには
    ―― 二極化するイスラエルの政治

    ツィピ・リブニ

    雑誌掲載論文

    いまや国家アイデンティティーや価値、ユダヤ主義、民主主義をめぐってイスラエルは二分され、ネタニヤフ政権はそのギャップを大きくする行動をとっている。実際、イスラエルの最終目的が「大イスラエル」なら、パレスチナ側にパートナーを見いだす必要はない。・・・一方、私たち(野党)にとって重要なのは、「ユダヤ人の民主国家」を維持することだ。そのためには、古代イスラエルの土地を二つの国に分けるしかない。イスラエルが(パレスチナの)領土を併合したら、民主国家としてのイスラエルと、ユダヤ人国家としてのイスラエルが衝突する。・・・「ユダヤ人的で民主主義のイスラエル」の実現が目的なら、(「大イスラエル」主義者が唱える)土地すべてを領土にすることはできない。二国家共存のなかでのイスラエルが必要だ。・・・二国家解決策が私たちの目標だと公言して、国際社会とパレスチナの信頼を勝ち取らなければならない。(聞き手はジョナサン・テッパーマン、フォーリン・アフェアーズ誌副編集長)。

  • トルコで何が起きているのか
    ―― 宗教化する政治と過激化する社会

    ソーナー・カギャプタイ

    Subscribers Only 公開論文

    トルコ共和国の初代大統領、ムスタファ・ケマル・アタチュルは「宗教が政治に入り込むのを阻止する堅固な防波堤を築き、トルコを西洋の国として定義した」。これに対してエルドアンは保守的イスラム主義をトルコの政治と教育システム、そして外交政策に反映させようとしている。市民が信仰を個人の生活レベルに留めることを求めたアタチュルクは、過度に保守的な宗教指導者を社会から排除したが、いまや流れは覆され、エルドアンは宗教保守の立場を共有しない人物を二流市民とみなしている。ジハーディストがシリアでの活動のためにトルコを拠点として利用し、イスラム国が台頭するなかで、このような政策がとられたために、いまやトルコ社会は過激化している。イスラム国の脅威が高まるなか、国家と社会にとって痛手なのは、クーデター未遂事件によって、かつてはトルコでもっとも信頼され、結束を誇った軍に対する政府と社会の信頼が今後失墜していくと考えられることだ。

  • エルドアンの予言
    ―― 軍事クーデターの政治的意味合い

    マイケル・J・コプロー

    Subscribers Only 公開論文

    エルドアンが軍の影響力から逃れられると考えたことはなく、軍事クーデターが起きる危険を常に意識してきた。こうして彼はトルコ軍、ギュレン運動、ゲジパークにおける市民の抗議行動と、それが何であれ、あらゆる政府に対する挑戦を策略・陰謀とみなすようになった。もちろん、軍のクーデターが成功していても、この国の民主主義を支えたはずはない。最善のシナリオをたどったとしても、現在とは違う、権威主義体制を出現させていただけだろうし、悪くすると、内戦に陥っていた危険もある。だからといって、クーデターの失敗を民主主義の勝利とみなすのも無理がある。エルドアンは今回のクーデター未遂事件を根拠に自分の見方の正しさを強調し、大統領権限の強化と反エルドアン派の弾圧を含む、望むものを手に入れるために最大限利用していくだろう。

  • アメリカ後の中東におけるイスラエルの立場
    ―― 紛争の中枢から安定の柱へ

    マーチン・クレーマー

    Subscribers Only 公開論文

    中東には巨大なパワーの空白が生じている。憶測を間違えた一連の行動をとった挙げ句、アメリカは中東から遠ざかろうとしている。オバマは同盟国へのコミットメントを減らす一方で、敵対勢力をなだめ、穏健化させることを通じて中東秩序の均衡を図ろうと考えていた。だが、伝統的な中東の同盟国がこの突然の戦略シフトを全面的に信用し、受け入れることはなかった。一方で、イランに対するアラブ諸国の懸念が、曖昧で決め手に欠ける和平プロセス以上に、中東におけるイスラエルとの存在を正常化する作用をし始めている。この流れが続けば、かつては紛争の中枢にあったイスラエルが地域的安定の柱とみなされるようになる可能性もある。

  • イスラム国の黄昏
    ―― 離脱したシリア人元戦闘員たちへのインタビュー

    マラ・レブキン、アハマド・ムヒディ

    Subscribers Only 公開論文

    イスラム国を後にするシリア人戦闘員が増えている。2016年3月だけでも、数百人のイスラム国戦闘員がラッカやアレッポを離れて、戦線離脱したと考えられており、その多くがシリア人だ。離脱後、穏健派の自由シリア軍(FSA)に参加する者もいれば、紛争から離れようと、国境を越えてトルコやヨルダンに向かう者もいる。シリアのイスラム国は、現地社会や地勢などをめぐるインサイダー情報をめぐってシリア人メンバーに多くを依存してきた。逆に言えば、シリア人戦士の戦線離脱の増大は、シリアにおけるイスラム国の統治と軍事活動を大きく脅かすことになるだろう。現在トルコにいる8人の元イスラム国戦闘員たちへのインタビューから浮かび上がるのは、もはや勢いを失い、自暴自棄となったイスラム国の姿だ。

  • ドナルド・トランプの黙示録
    ―― アメリカ政治における終末思想

    アリソン・マックイーン

    雑誌掲載論文

    「もっとタフにスマートになり、早く行動を起こさなければ、この国は崩壊する」。トランプはこうした黙示録的メッセージを繰り返し、「自分なら、アメリカがハルマゲドンに向かっていくのを回避できるし、アメリカを再び偉大な国にできる」と主張してきた。意外にも、こうした終末論を口にするアメリカの政治家はトランプが初めてではない。リンカーンからジョージ・W・ブッシュまで、終末論的レトリックはアメリカの政治で何度も用いられてきた。実際、憂鬱な予測を示すことで、国難に市民を立ち向かわせようとした政治家は数多くいる。アメリカにおける黙示録的レトリックの伝統は、民衆を分断するのではなく、団結させることを意図してきた。トランプに特有なのは、黙示録的な予測に危険な誇大妄想をまとわせ、分断と排除を求めていることだ。

  • 難民そしてギリシャの悲劇
    ―― EUに放置されたギリシャと難民たち

    ソニア・シャー

    雑誌掲載論文

    欧州連合(EU)の難民対策は、難民を保護し、彼らの人権を守るためではなく、難民危機を前にヨーロッパで台頭する排外主義や極右勢力への対策として考案されている。当然、「できるものなら見て見ぬふりをしたいとEUが考える難民」の権利を支えることにギリシャ政府が政治的インセンティブを見出すはずはない。しかも、ギリシャは2009年に財政危機に陥って以降、厳格な緊縮財政を強いられ、ギリシャ市民そのものが非常に困難な生活を強いられている。一方、難民たちは祖国で経験した恐怖やトラウマに加えて、「(避難先のギリシャでも)自分たちは見捨てられている」と絶望している。実際、難民の自殺や急性の精神疾患が急増している。しかも、ギリシャにいる難民が健康を維持できるかは、低賃金で、ただでさえオーバーワーク気味のギリシャの医師たちが、言葉も通じない患者に時間を費やしてボランティアで治療をするかどうかにかかっている。

  • 中国における米大学の挫折
    ―― 規制に屈した学問の自由

    ケント・ハリントン

    雑誌掲載論文

    中国に進出している外国の大学は20を超えるが、その半数以上がアメリカの大学と中国の大学のジョイントベンチャー(合弁大学)だ。中国の他の市場と同様に、中国の教育市場も大きなポテンシャルを秘めている。何十万もの中国人学生が外国の名門大学への留学を望んでいるだけでなく、南京のジョンズ・ホプキンス大学、上海のニューヨーク大学、昆山のデューク大学など、国内で受講できる米大学のプログラムへの参加を希望する学生も多い。だが、当局による言論の取り締まりが強化されており、米大学もその対象にされている。現地に進出した米大学側は、「中国キャンパスにおける言論活動はまったく自由だし、アメリカと同じ学問の自由が教授陣にも現地の学生にもあると主張している」。しかし、現実はそうではない。・・・

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