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2018.1.30 Tue
【2月号プレビュー】
最低賃金の真実
―― 雇用破壊効果も格差是正効果も小さい、ほか
かつて最低賃金の導入に批判的だった国際通貨基金(IMF)と経済協力開発機構(OECD)も、いまやそれが適正なレベルの引き上げなら、最低賃金をうまく考案された労働政策の一部として位置づけるべきだと提言している。だが妥当なレベルをどのように決められるだろうか。穏当なレベルの引き上げなら、最低賃金レベルの就労者の所得は増える。だが、過度に最低賃金を引き上げれば、雇用は少なくなっていく。最低賃金の引き上げでは、格差を是正し、世界で政治を覆している経済の流れを覆すことにはならない。・・・(マニング)
格差は貧困の世代間連鎖の罠を作り出し、社会的流動性を低下させ、非常に多くの人を周辺化させる。このような現象が政治的余波を伴うのは避けられない。ピケティは大きな富の格差の存在は、平等主義的な政策対応を求める声を高めると指摘した。しかし、これまで以上の大きな富を手にした富裕層は、そうした変化を阻む手段をもつようになる。ピケティが特定した問題は本質的に政治問題だが、それに対処していくには政治が不可欠であることに彼はほとんど関心を示していない。・・・(カーニ―)
多くの人は貧困関連の社会統計や極端な貧困のケースを前に驚愕し、格差の現状を嘆きつつも、「ダイナミックな経済システムのなかで所得格差が生じるのは避けられない」と考えている。要するに、目に余る格差に対して道義的な反感を示しつつも、格差是正に向けた理論的基盤への確固たるコンセンサスは存在しない。だが、20世紀初頭から中盤にかけては、そうしたコンセンサスがなかったにも関わらず、一連の社会保障政策が導入され、格差は大きく縮小した。これは、政治指導者たちが、共産主義革命に象徴される社会革命運動を警戒したからだった。・・・(ロザンヴァロン)
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最低賃金の真実
―― 雇用破壊効果も格差是正効果も小さい2018年2月号 アラン・マニング ロンドン・スクール・オブ・エコノミクス 経済学教授
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政府は格差にどう対処していくべきか
―― アフター・ピケティ2017年12月号 メリッサ・S・カーニー メリーランド大学教授(経済学)
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平等と格差の社会思想史
―― 労働運動からドラッカー、そしてシュンペーターへ2016年2月号 ピエール・ロザンヴァロン コレージュ・ド・フランス教授(政治史)
2018年2月号プレビュー
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欧州ポピュリストが演出する「文明の衝突」
―― 文明論を語り始めたポピュリストたち現在のヨーロッパのポピュリストを移民排斥論者、ナショナリスト、極右と言うこれまでの言葉で語るのは適切ではない。彼らはナショナリズムではなく、ヨーロッパを包み込む文明を「キリスト教」という言葉で表現し、それをイスラム文明と対比させている。彼らがキリスト教を引き合いに出すのは、(他者と区別するための文明的)帰属を示すためだ。・・・
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ポーランドにおける急進右派勢力の台頭
―― 主流派イデオロギーとなった排外主義思想ポーランドではカトリックのキリスト教根本主義と結びつく形で急進右派が台頭し、排外主義感情が高まり、超国家主義やファシズムへの流れが生じている。「経済的な不満と難民の流入」というヨーロッパにおける急進右派の復活を促している全般的要素が作用しているのは事実としても、それだけではこの現象を説明できない。実際には、ポーランドの排外主義とキリスト教根本主義には、奥深い歴史的ルーツがある。・・・
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ロシアが歴史に向き合わぬ理由
―― 国内的抑圧と対外的膨張主義を正当化するために最近のロシアでは、スターリン時代の怪物たちが歴史的復権を果たしつつあり、プーチン大統領はスターリン時代のイデオロギーを都合よく利用している。実際、ロシア政府にとって、歴史は客観的に扱われるべきものではなく、国家イデオロギーを推進するためのツールなのだ。・・・