1994年以降に発表された邦訳論文を検索できます。

― 迫り来る台湾危機に関する論文

アジアにおける戦争を防ぐには
―― 米抑止力の形骸化と中国の誤算リスク

2020年7月号

ミシェル・A・フロノイ 元米国防次官

中国の積極性の高まりと軍備増強、一方での米抑止力の後退が重なり合うことで、米中戦争がアジアで起きるリスクはこの数十年で最大限に高まっており、しかもそのリスクは拡大し続けている。アメリカを衰退途上の国家だと確信し、すでに抑止力は空洞化しているとみなせば、北京は状況を見誤って台湾を封鎖あるいは攻撃する恐れがある。早い段階で台湾に侵攻して既成事実を作り、ワシントンがそれを受け入れざるを得ない状況を作るべきだと北京は考えているかもしれない。要するに、北京はワシントンの決意と能力を疑っている。こうして誤算が起きるリスク、つまり、抑止状況が崩れ、2つの核保有国間で紛争が起きる危険が高まっている。

米軍の選択的撤退を
―― 現状維持と全面撤退の間

2020年4月号

トーマス・ライト ブルッキングス研究所 米欧センター所長

グローバルな関与からの撤退を求める立場が大きな流れを作り出しつつある。だが、それを追い求めるのは重大な過ちだ。必要なのは、外国でのコミットメントを「慎重に刈り込むこと」であって、数十年にわたってうまく機能してきた戦略を無条件に破棄することではない。現状維持でもない。アメリカの中東戦略に苛立つのは理解できる。しかし中東を理由に世界からの全面的撤退を模索するのは、ヨーロッパとアジアに関与することからアメリカが確保している恩恵を無視することになる。これらの地域には明確な目的と強力なパートナー、そして共有する利益が存在する。本当に重要な関与とそうではない関与を見分ける必要がある。

中国は近く台湾に侵攻する?
―― 重層的誤算と戦争リスク

2019年4月号

ピーター・グリース マンチェスター大学教授(中国政治)
タオ・ワン マンチェスター大学  博士候補生(東アジア政治)

中国で対台湾強硬論が高まっている。「アメリカは台湾を守る戦闘のために部隊を送り込むとは考えにくい」とメディアは指摘し、北京も「台湾を締め付けてもアメリカは静観する」と信じているようだ。しかも、再統一を実現すれば、「習近平は毛沢東や鄧小平に劣る」とは誰も言わなくなる。一方、台湾人の多くは「中国に台湾を侵略するつもりはない」と確信している。かたや、トランプ米大統領は「(中国を刺激するような)波風をたててもたいしたことにはならない」と考えている。問題は、これらがすべて間違っており、こうした希望的観測が重なり合うことで紛争リスクが高まっていることだ。

迫り来る中台危機に備えよ
―― 米中台のレッドラインと危機緩和策

2019年4月号

マイケル・チェース ランド研究所シニアポリティカルサイエンティスト

アメリカ、中国、台湾での政治的、政策的展開によって新たな台湾海峡危機が起きる危険が高まっている。中国が1995―96年の危機の時よりも、台北を屈服させるよりパワフルでさまざまなオプションをもっているだけに、リスクは高い。台湾統一は、習近平が重視する「中国の夢」における重要なアジェンダの一部であり、国内での正統性を強化するためにも台湾問題を解決しようとするかもしれない。一方、台湾では台湾人としてのアイデンティティが高まり、一国二制度への支持も低下し、しかも、2020年に総統選挙を控えている。そして、ワシントンはすでに中国を敵視する路線にギアを入れ替えている。状況が悪化していくのを座視するのではなく、それが不可避となった場合にうまく対応できるように態勢を整え、台湾海峡危機を阻止するためオプションを実施できる態勢を整備しておく必要がある。

中台関係の新たな緊張
―― 北京が強硬策をとる理由

2018年9月号

マイケル・マッザ アメリカン・エンタープライズ・インスティチュート 客員フェロー(外交・国防政策)

この20年間の中台関係の歴史からみても、「交渉による統一」が実質的なカードではないことは明らかだ。それでも、習近平は、台湾に焦点を合わせる路線から遠ざかるのではなく、「中国の夢」の重要な一部に統一を据え、「中華民族の偉大なる復興」のためには、あらゆる中国人に繁栄をもたらすだけでなく、台湾の公的な統一が必要になると主張している。しかし、「偉大なる復興」に必要とされる経済成長は停滞期に入りつつあるのかもしれない。実際「力強い市場志向の改革なしでは、中国の経済成長は2010年代末までに終わる」と予測する専門家もいる。あらゆる中国人に繁栄をもたらせないとすれば、習近平は海峡間関係の緊張をむしろ歓迎するかもしれない。台湾海峡の風は強く、波は高い。

トランプの台湾カードと台北
―― 急旋回する米中台関係

2018年5月号

ダニエル・リンチ 香港城市大学教授(アジア・国際研究)

中台関係と米中関係の緊張が同時に高まっている。中国は台湾海峡に空母を、この島の上空近くに頻繁に戦闘機を送り込んでいるだけでなく、中国の外交官は「米海軍の艦船が高雄港に寄港すれば、中国軍は直ちに台湾を武力統合する」とさえ警告している。一方ワシントンでは、台湾カードを切ることを求めるジョン・ボルトンが大統領補佐官に就任した。いずれトランプ政権が、中国との軍事衝突を引き起こしかねないやり方で台湾カードを切る可能性は現に存在する。トランプがアメリカと台湾の関係を大幅に格上げすれば、この動きは台湾では大いに歓迎されるだろう。しかし、蔡英文はそのような変化を受け入れる誘惑に耐えた方がよい。誘惑に負ければ、台湾は「ワシントンの中国対抗策における人質」にされてしまう。

蔡英文総統の対中ジレンマ
―― 「一つの中国」と92年コンセンサス

2017年6月号

チャールズ・I・チェン ロンドン大学台湾研究センター リサーチアソシエート

台湾の国際会議への参加は、通例オブザーバー資格での参加だが、それでも台湾にとって大きな意味をもつ。なんらかの形で台湾という領域の国際的認知につながるからだ。特に2009年から毎年続く世界保健機関(WHO)総会への出席は、そうした国際的認知の強化につながるだけでなく、中台関係の前進とみなされてきた。だが、今年は様相が違う。2017年にWHOからの招待状を受けとれるとしても、ふたたび国連決議・WHO総会決議の順守、つまり、「一つの中国」へのコミットメントを求められることになるだろう。一方、「一つの中国」を受け入れないと主張してきた蔡英文総統にとってこれは大きなジレンマとなる。もちろん、中国政府の圧力しだいでは招待そのものの中止もあり得るが、それではあまりに強硬姿勢とみなされ、台湾海峡の軍事的緊張につながる可能性もある。そうなれば蔡英文は、支持者をなだめるために中国に厳しい態度で臨まねばならなくなる。・・・

北京が台湾を取り戻すことなどあり得ない。台湾を中国の一つの省とみなす神話を永続化させるのは無意味であり、いまや台湾は普通の国家へ歩み出すタイミングだろう。そのためには、中華民国のかつての主張を前提とする南シナ海における領有権の主張を撤回し、「台湾が中華民国である」という虚構を捨てる必要がある。それがレトリックだとしても「中国大陸での一部の権利を有している」という主張を捨て去ることだ。公式に独立宣言を出す必要は必ずしもない。中華民国というこの島の名称を台湾へ公式に変えるべきだろう。これなら、独立宣言でなく、アイデンティティの宣言になる。もはや中華民国という(中国を想起させる)名称を用いない台湾なら、アメリカ、そして世界各国は、現在のパレスチナがそうであるように、今後より積極的に台湾と交流していけるようになる。

CFR Interview
民進党政権で中台関係はどう変化するか

2016年2月号

ジェローム・コーエン 米外交問題評議会シニアフェロー(非常勤)

国民党の馬英九政権は中国との協力関係を大きく進化させたが、交渉に関する十分な情報公開をせず、合意を市民による評価と監督に委ねることを怠った。これが間違ったやり方であることを立証したのが「ひまわり学生運動」だった。・・・台湾と大陸を一体化させていくことについて、民進党は今後も慎重な姿勢を崩さないだろうが、少なくとも、蔡英文は、これまでの協調路線を覆すのではなく、維持していくと表明している。・・・台湾と大陸との関係を進展させるかどうか、進展させるとして、それをどのように実現するか。これが次期政権の課題になるだろう。考えるべきは蔡英文が、台湾と中華人民共和国が「一つの中国」であるとする「92年コンセンサス」を受け入れるかどうかだ。・・・アジアでもっともパワフルな国である中国に近く、北東アジアと東南アジアの間に位置する「不沈空母」として、台湾はかなりの軍事戦略上の価値を持っている。しかし、可能性は低いとは言え、中国との統合を、台湾住民がリファレンダムを通じて明確に支持した場合には、アメリカがそれに反対することはないだろう。・・・(聞き手はエレノア・アルバート、オンラインライター・エディター)

対中関係をめぐる 台湾コンセンサスの形成を

2012年3月号

ダニエル・リンチ 南カリフォルニア大学准教授(国際関係論)

1月の総統選挙で、台湾の有権者たちが民進党政権では両岸関係が悪化し、台湾経済が深刻なダメージを受ける危険があると心配したのはおそらく間違いない。経済格差、雇用減少、住宅コストの高騰を含む社会経済問題が選挙の争点だったが、有権者は、これらの争点と中台関係が不可分の関係にあることを理解していた。台湾企業の中国進出によって、いまや、台湾の人口2300万のうち100万人以上が中国で生活している。だが、中国との友好的関係を心がける馬英九が総統に再選されたとはいえ、北京が台湾の事実上の独立状態を永遠に許容することはあり得ないだろう。今後、北京での指導層の交代を終えれば、中国は台湾に対する要求を強め、不安定な新時代の幕開けを迎えることになるかもしれない。実際、北京は台湾に対してアメリカからの武器購入を停止し、ワシントンとの軍事的つながりを弱めて「92年合意」を法制化することを要求してくるかもしれない。今後、馬英九は台湾の国内的分裂を修復し、中国との関係をめぐる「台湾コンセンサス」を形作る必要に迫られるだろう。

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