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― 北東アジア安全保障に関する論文

米中貿易戦争の安全保障リスク
―― 対立は中国をどこへ向かわせるか

2018年9月号

アリ・ワイン ランド・コーポレション  政策アナリスト

ごく最近まで米中の経済的つながりは、戦略的な不信感がエスカレートしていくのを抑える効果的なブレーキの役目を果たしてきたが、いまや専門家の多くが、世界経済を不安定化させるような全面的な貿易戦争になるリスクを警戒するほどに状況は悪化している。経済・貿易領域の対立が、安全保障領域に与える長期的な意味合いも考える必要がある。北京がアメリカとの経済関係に見切りをつければ、国際システムに背を向け、明確にイラン、ロシア、北朝鮮との関係を強化し、アメリカと同盟諸国の関係に楔を打ち込もうとすると考えられるからだ。相互依存関係の管理にトランプ政権が苛立ち、(現在の路線を続けて)経済・貿易領域で中国を遠ざけていけば、安全保障領域でより厄介な問題を抱え込む恐れがあることを認識する必要がある。

中台関係の新たな緊張
―― 北京が強硬策をとる理由

2018年9月号

マイケル・マッザ アメリカン・エンタープライズ・インスティチュート 客員フェロー(外交・国防政策)

この20年間の中台関係の歴史からみても、「交渉による統一」が実質的なカードではないことは明らかだ。それでも、習近平は、台湾に焦点を合わせる路線から遠ざかるのではなく、「中国の夢」の重要な一部に統一を据え、「中華民族の偉大なる復興」のためには、あらゆる中国人に繁栄をもたらすだけでなく、台湾の公的な統一が必要になると主張している。しかし、「偉大なる復興」に必要とされる経済成長は停滞期に入りつつあるのかもしれない。実際「力強い市場志向の改革なしでは、中国の経済成長は2010年代末までに終わる」と予測する専門家もいる。あらゆる中国人に繁栄をもたらせないとすれば、習近平は海峡間関係の緊張をむしろ歓迎するかもしれない。台湾海峡の風は強く、波は高い。

日本の新しい防衛戦略
―― 前方防衛から「積極的拒否戦略」へのシフトを

2018年9月号

エリック・ヘジンボサム
マサチューセッツ工科大学国際研究センター 首席リサーチサイエンティスト
リチャード・サミュエルズ マサチューセッツ工科大学教授(政治学)

日本本土が攻撃されても、日米の部隊は中国の攻撃を間違いなく押し返すことができる。しかし、中国軍が(尖閣諸島を含む東シナ海の)沖合の島に深刻な軍事問題を作り出す能力をもっているだけに、東京は事態を警戒している。実際、中国軍との東シナ海における衝突は瞬く間にエスカレートしていく危険がある。最大のリスクは、尖閣諸島や琉球諸島南部で日本が迅速な反撃策をとれば、壊滅的な敗北を喫し、政府が中国との戦闘を続ける意思と能力を失う恐れがあることだ。日本は東シナ海における戦力と戦略を見直す必要がある。紛争初期段階の急変する戦況での戦闘に集中するのではなく、最初の攻撃を生き残り、敵の部隊を悩ませ、抵抗することで、最終的に敵の軍事攻撃のリスクとコストを高めるような「積極的拒否戦略」をとるべきだろう。ポイントはこの戦略で抑止力を高めることにある。

非核化と体制保証の間
―― 交渉で何が起きるか分からない理由

WEB限定

ジョセフ・ユン 前米北朝鮮政策特別代表

トランプは「カードを握っているのは自分だ」と考えている。「最大限の圧力」によってひどく追い込まれているために、「金正恩は核兵器の放棄に応じるだろう」とトランプは考えている。韓国の文在寅大統領は「金正恩は非核化を真剣に考慮している」と頑なに主張しているが、現実には「核保有を実質的に立証した国の指導者として、金正恩が交渉を有利に進められると考えていることは明らかだ」。金正恩にとって、父と祖父が望みながらも、果たせなかった夢を実現し、有利な立場で交渉すること以外、米大統領と一対一で交渉する理由などないはずだ。トランプはすでに段階的な非核化への理解を示している。しかし、米朝双方が完全に異なる立場から交渉をスタートし、全く別の結末を望み、しかも、相手の交渉力へのイメージにも食い違いがあるだけに、交渉は容易ではない。・・・

トランプ政権は、経済制裁の緩和や外交的承認を認める前に、平壌に非核化を受け入れさせ、北朝鮮の核開発プログラムの全貌を明らかにした上で、高度に踏み込んだ査察手続きを認めさせるのが好ましいと考えてきた。これが6月12日のサミットが中止された理由だったかもしれない。交渉に臨んでいれば、それは「壊滅的な失敗」に終わり、軍事的解決策が再浮上していたはずだ。一方で、少しばかりの妥協に多くの見返りを与えれば、合意をまとめるのは簡単になるとしても、その結末はいわば「壊滅的な成功」となる。中核的課題は、トランプ政権が北朝鮮へのアプローチを見直す準備ができているのか、「問題を解決するのではなく、安定化させるような戦略を模索するつもりかどうか」にある。

北東アジアの地政学と北朝鮮問題
―― 米朝二国間と多国間ゲームの間

2018年6月号

マイケル・グリーン 戦略国際問題研究所  シニア・バイスプレジデント(アジア担当)

金正恩の真意は、「非核化に応じた場合に得られる特権」を何の譲歩をすることもなく引き出すことにあるのかもしれない。平壌が今回の首脳会談で望んでいるのは、核保有国として受け入れられること、そして、経済制裁を緩和させることだろう。結局、金正恩は非核化を口にしつつも、交渉を通じて妥協と見返りを段階的に繰り返し、再びエスカレーション策をとれるようになるまで時間稼ぎをするつもりかもしれない。さらに重要なのは、中国の立場だ。習近平は、外交交渉を通じて、北朝鮮の脅威が実質的に低下するかどうかよりも、朝鮮半島からの米軍撤退のような、アメリカの同盟関係を機能不全に追い込むような外交プロセスを開始することが好ましいと考えている。北朝鮮問題の一方で、北東アジアの今後の地政学をめぐるゲームが展開されることを忘れてはならない。

米朝間の立場の違いと韓国の立場
―― 非核化に向けた今後の課題

2018年6月号

文正仁 韓国大統領特別補佐官 (統一外交安保担当)

アメリカは「非核化が先で見返りは後」という立場なのに対し、北朝鮮は非核化の(部分的)履行と見返りを繰り返す段階的なアプローチを求めている。一方、韓国は折衷型のアプローチを提言している。懐疑派は、金正恩は、自分の行動一つ一つに対してアメリカが見返りをもって応じる段階的な非核化、つまり、「サラミ戦術」に訴えるつもりだと主張している。さらに、北朝鮮軍が完全な非核化合意を受け入れない恐れもある。しかし、北朝鮮が非核化を履行しなければ取引全体が崩壊し、新たな危機や軍事行動の可能性、さらには朝鮮半島での全面戦争にまでつながっていく危険がある。トランプ政権は金正恩と非核化の詳細を詰める必要があり、そのためにはワシントンにとって望ましい包括的な即時解決と、平壌が主張する段階的なアプローチとの間での歩み寄りが必要になるだろう。

核能力の核戦力化を阻止せよ
―― 北朝鮮は非核化には応じない

2018年5月号

トビー・ダルトン カーネギー国際平和財団  核政策プログラム共同ディレクター
アリエル・レバイト カーネギー国際平和財団 シニアフェロー

北朝鮮は、アメリカ本土に到達可能な長距離ミサイルに核弾頭を搭載する能力を獲得しようと試みてきた。当然、金正恩が意味のある時間枠のなかで非核化に応じることはほぼあり得ない。彼は「国の存亡に関わる」核抑止力を放棄することは自殺行為だと考えており、現状では完全な非核化は実質的に交渉テーブルには載せられていないとみなすべきだ。戦争を通じてしか実現しない非核化に固執するよりも、北朝鮮の戦略核能力及びそれに関連する活動に上限を設けて制約し、それが順守されていることを検証していくこと、つまり、核能力の戦力化を阻止していくことを交渉の戦略目的に据えるべきだろう。こうした能力と活動を大枠で制約するというアプローチなら、アメリカそして日韓という同盟国の中期的利益になるし、中国と北朝鮮も受け入れるかもしれない。

北朝鮮に対する包括的強制策を
―― 外交で脅威を粉砕するには

2018年5月号

ビクター・チャ 元米国家安全保障会議アジア部長
カトリン・フレーザー・カッツ 元米国家安全保障会議 ディレクター(日韓担当)

米朝サミットへの流れは劇的だが、結局は長期的なゲームへと姿を変えるだけかもしれない。平壌がオファーしている核・ミサイル実験の凍結は、(アメリカを)交渉に応じさせるための誘因に過ぎない。交渉が終わった翌日から実験を再開できるし、核プログラムを水面下で進めることもできる。しかも、核保有国としての認知を取り付け、韓国から米軍を締め出し、韓国へのアメリカの軍事コミットメントを形骸化させるという長期的な目的を平壌が見直したと信じる理由もない。ワシントンは今後も平壌に最大限の圧力をかけ、北朝鮮との交渉をより広範な地域戦略に紐付けなければならない。軍事オプションを回避しつつ、むしろ、日韓という同盟諸国との緊密な協調を通じて、地域的抑止体制と拡散防止策のための新たな試みを開始すべきだ。

トランプの台湾カードと台北
―― 急旋回する米中台関係

2018年5月号

ダニエル・リンチ 香港城市大学教授(アジア・国際研究)

中台関係と米中関係の緊張が同時に高まっている。中国は台湾海峡に空母を、この島の上空近くに頻繁に戦闘機を送り込んでいるだけでなく、中国の外交官は「米海軍の艦船が高雄港に寄港すれば、中国軍は直ちに台湾を武力統合する」とさえ警告している。一方ワシントンでは、台湾カードを切ることを求めるジョン・ボルトンが大統領補佐官に就任した。いずれトランプ政権が、中国との軍事衝突を引き起こしかねないやり方で台湾カードを切る可能性は現に存在する。トランプがアメリカと台湾の関係を大幅に格上げすれば、この動きは台湾では大いに歓迎されるだろう。しかし、蔡英文はそのような変化を受け入れる誘惑に耐えた方がよい。誘惑に負ければ、台湾は「ワシントンの中国対抗策における人質」にされてしまう。

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