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歴史認識と国際政治に関する論文

日中戦争をいかに記憶するか
―― なぜ共産党は国民党の役割を認めたか

2021年4月号

ジェシカ・チェン・ワイス コーネル大学 准教授

「国連の創設メンバー、国連憲章に署名した最初の国として中国は国際システムをしっかりと支えていく」と習近平は発言している。もちろん、そうした役割を担ったのは共産党ではなく、国民党だった。昨今の「強硬でとかく軋轢を引き起こす路線」が国際的リーダーシップを確立したい北京の目的からみれば逆効果であるために、戦後国際システムとのかかわりを強調することで、北京は緊張を緩和したいのかもしれない。台湾との関係を育んでいくことへの関心、未解決の戦争の過去を日本に思い出させるという思惑もあるのだろう。だがリスクもある。中国が戦後秩序の擁護者として自らを描けば描くほど、中国民衆は国際社会でより中心的な役割を果たす権利があるという感覚を強く持つようになるかもしれないからだ。・・・

中国が望む世界
―― そのパワーと野心を検証する

2021年1月号

ラナ・ミッター オックスフォード大学教授(現代中国史・政治)

世界第2位の経済大国である中国が、ライバルが規定した条件で世界秩序に参加するはずはない。特に、2008年のグローバル金融危機以降、中国指導部は、自国の権威主義的統治システムは、自由主義国家に至るプロセスにおける一つの形態ではなく、それ自体が目的地であると明言するようになった。明らかに国際秩序を作り替えることを望んでいる。中国は間違いなく、国際社会の「舞台中央に近づきつつある」と習はすでに宣言している。今後の展開にとっての重要な鍵は、中国が世界における自らの野心を、他国にとってある程度許容できるものにできるかどうかだ。現実には、もっともらしい新世界秩序を作る中国の能力を脅かしているのは、その権威主義体質に他ならない。

永続化するか、イスラエルとアラブの雪解け
―― そのポテンシャルと限界

2019年10月号

ヨエル・グザンスキー 国家安全保障研究所 シニアフェロー ダニエル・B・シャピロ 元駐イスラエル米大使

イランを共通の脅威とみなすイスラエルと湾岸諸国の関係はかつてなく良好な状態にある。ともに、「2015年のイラン核合意は核領域でのテヘランの長期的な野心や能力を封じることなく、結局はその攻撃的な行動を高めただけだ」という見方を共有し、トランプ政権のより対決的なアプローチを歓迎している。イスラエルの国防担当高官は、「イランとの戦いをめぐって、イスラエルがサウジと情報共有をすることもできる」とさえ述べている。リヤドもイスラエルとの関係正常化に前向きのようだ。しかし、アラブ大衆のイスラエルへのイメージは大きく変化しているわけではなく、王室内にも伝統的路線にこだわる勢力もいる。・・・

日韓対立と中国の立場
―― 東アジア秩序の流動化の始まり?

2019年10月号

ボニー・S・グレーサー  戦略国際問題研究所 ディレクター(中国パワープロジェクト) オリアナ・スカイラー・マストロ   アメリカン・エンタープライズ公共政策研究所 レジデントスカラー

日韓関係の亀裂を利用しようとする中国の最終目的が何かは明確ではない。韓国にアメリカとの同盟関係を破棄するように公然と促してはいないし、第二次世界大戦期の残虐行為にペナルティを課す対日キャンペーンを展開するようにけしかけてもいない。むしろ、日韓関係の緊張をアメリカのリーダーシップの衰退として認識させようとしている。アジアにおける米同盟システムが十分に傷つくほどに緊張が高まることを望みつつも、日韓関係が完全に破たんしてしまうほど悪化することは望んでいない。とはいえ、北京は、近隣諸国が中国のことを「アメリカよりも信頼できるパートナー」と位置づけることを望んでいる。もちろん、その結果、東アジアの優先順位とパワーが大きく変化すれば、アメリカの地域的立場は形骸化し、アジアの戦後秩序は再編へ向かうことになる。

新「ドイツ問題」とヨーロッパの分裂
―― 旧ドイツ問題を封じ込めた秩序の解体

2019年5月号

ロバート・ケーガン ブルッキングス研究所 シニアフェロー

アメリカの安全保障コミットメント、国際的な自由貿易体制、民主化への流れ、ナショナリズムの封じ込めというリベラルな戦後秩序の四つの要因によって、ドイツ問題は地中深くに葬り去られた。問題は、ドイツ問題を封じ込めてきたこれら戦後秩序の要因が、いまやすべて曖昧化していることだ。ヨーロッパ全域でナショナリズムが台頭し、民主主義はあらゆる地域で逆風にさらされている。国際的な自由貿易体制もトランプ政権に攻撃され、アメリカのヨーロッパへの安全保障コミットメントもいまや疑問視されている。ヨーロッパそしてドイツの歴史からみて、このように変化する環境が、ドイツ人を含むヨーロッパ人の行動パターンを変えないと言い切れるだろうか。アメリカと世界が現在のコースを歩み続ければ、穏やかな時代があとどれくらい持ち堪えられるのかについて、考えざるを得なくなるはずだ。

ロシアが歴史に向き合わぬ理由
―― 国内的抑圧と対外的膨張主義を正当化するために

2018年2月号

ニキータ・ペトロフ 「メモリアル」研究教育センター副理事長

最近のロシアでは、スターリン時代の怪物たちが歴史的復権を果たしつつあり、プーチン大統領はスターリン時代のイデオロギーを都合よく利用している。実際、ロシア政府にとって、歴史は客観的に扱われるべきものではなく、国家イデオロギーを推進するためのツールなのだ。政府は常に正しく、たとえ過去の政策が多大な犠牲を民衆に強いたとしても、それは、政府が選んだ特別な道を歩み続けるためには必要だったとされる。現在のロシア政府は、強権政府のカルトを民衆の意識に植え付け、ロシア民衆と国の歴史的例外性、世界のロシア系住民を統合していくことの特別な価値を訴えるプロパガンダを唱えている。そうすることで、ロシアの対外的膨張主義と国内での抑圧を正当化しようとしている。

人種的奴隷制と白人至上主義
―― アメリカの原罪を問う

2018年2月号

アネット・ゴードン=リード ハーバード大学法科大学院教授

依然として、事実上の人種差別がアメリカのかなりの地域に存在する。黒人の大統領を2度にわたって選び、黒人のファーストファミリーを持ったものの、結局、後継大統領選はある意味でその反動だった。歴史的に、肌の白さは経済的・社会的地位に関係なく、価値あるものとされ、肌の黒さは価値が低いとみなされてきた。この環境のなかで白人至上主義が支えられてきた。肌の色という区別をもつ「人種的奴隷制」は、自由を誇りとする国で矛盾とみなされるどころか、白人の自由を実現した。黒人を社会のピラミッドの最底辺に位置づけることで、白人の階級間意識が抑制されたからだ。もっとも貧しく、もっとも社会に不満を抱く白人よりもさらに下に、常に大きな集団がいなければ、白人の結束は続かなかっただろう。奴隷制の遺産に向き合っていくには、白人至上主義にも対処していかなければならない。

消し去られた中国共産党の歴史
―― 共産党は歴史をいかに抹殺したか

2018年1月号

オービル・シェル アジア・ソサエティ 米中関係センター ディレクター

毛沢東時代の中国共産党はさまざまな社会層を対立させただけでなく、残忍な大衆運動が作り出す波状的なうねりのなかで、考えられぬ規模の人々が殺されるか、破滅へと追い込まれた。民衆に想像を絶する苦しみと死をもたらしたにもかかわらず、党がその過ちを公的に認めたことはない。現在の中国は、比較的安定した時代にある。中国は過去を清算して、その傷を癒やし、次の段階に進む道を見つけたと考える人もいるかもしれない。だが、実態はそのイメージからはかけ離れている。共産党は「過去をなかったことにしよう」と試みている。少しでも過去の不徳を認めるのは、党の正統性と一党独裁の権限を傷つける恐れがあるからだ。中国共産党が権力の座にあるかぎり、過去への反省が表明されることは決してないだろう。だが、その帰結を考える必要がある。

レーニン主義と習近平の中国モデル
―― 北京のボリシェビキ

2017年12月号

ニック・フリック イエール大学大学院  博士候補生(アジア研究)

ボリシェビキそして彼らが形作ったソビエトという国家は、中国共産党にとってモデルであり、反面教師でもあった。ソビエト崩壊の記憶ゆえに(その二の舞になるのを避けようと)中国共産党指導部は権力維持に向けた決意を固め、党が軍部を支配することの重要性を肝に銘じた。なぜ習近平が個人への権力集中や民衆の生活のより多くの側面への党の介入路線の強化へと動いているかも、これである程度説明できる。だが目的は変化した。習の「中国の夢」が約束するのは、ボーダーレスなプロレタリアの楽園ではなく、党の支配の下で、中華文明の栄光を取り戻すことだ。こうした固有のナショナリズムとレーニン主義の鉄の規律の組み合わせは、トルコからフィリピンにいたるまでの権威主義の指導者たちにとって、代表制民主主義に代わる魅力的な選択肢なのかもしれない。

ドイツにおける核武装論争
―― なぜ核武装は危険思想なのか

2017年8月号

ウルリッヒ・クーン カーネギー国際平和財団 核政策プログラムフェロー トリスタン・ボルペ カーネギー国際平和財団 核政策プログラムフェロー

ロシアによるウクライナ侵略、アメリカの対ロ政策の迷走、そして、欧州安全保障へのコミットメントに懐疑的なトランプ政権の誕生を前に、ベルリンの困惑とヨーロッパ安全保障への不安は高まった。「アメリカの核の傘による安全保障(の今後)に対する懸念を取り払う、独自の核抑止力の形成を検討すべきだ」と提案する者もいる。たしかに、ヨーロッパが「敵対的なロシア」と「無関心なアメリカ」の板挟みになれば、ベルリンはヨーロッパを政治的に守るだけでなく、軍事的に防衛することを求める大きな圧力にさらされる。だが、この国の核武装には「ドイツ問題」という歴史問題が関わってくるだけでなく、EUを中核に据えてきた戦後ドイツの国家アイデンティティそのものが揺るがされる。しかも、ドイツが核戦力をもてば、EUとロシアの関係が不安定化するだけでなく、他の諸国が核開発を試みる核拡散の連鎖が生じる。・・・

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