1994年以降に発表された邦訳論文を検索できます。

― アメリカの衰退に関する論文

バイデン外交の本質
―― アメリカは信頼できるか

2021年11月号

リチャード・ハース 米外交問題評議会会長

戦後に形作られた外交パラダイムでは、米国家安全保障は国益を超えたアジェンダを前提にしているとされ、この意味でも、長期的にアメリカの安全保障と繁栄を支えてくれるような国際システムを維持していく必要があると考えられていた。だが、現在の新しいパラダイムではそうした外交アプローチの核心部分が拒絶されている。「より平和で繁栄した未来に向かって、あらゆる人々のために世界を導くのを助ける」というバイデンの公約にもかかわらず、現実には「新秩序の構築と維持という骨の折れる仕事なしで、国際秩序の恩恵を確保したいと望んでいる」。バイデンとトランプの外交政策の間には、一般に認識されている以上に多くの継続性があるし、こうした継続性の重要な要素は、トランプ政権に先立つ、オバマ政権時代から始まっている。・・・

グレーゾーン事態と小さな侵略
―― 台湾、尖閣、スプラトリー

2021年11月号

ダン・アルトマン ジョージア州立大学 アシスタントプロフェッサー(政治学)

小さな侵略・征服行動の背後には明確な戦略がある。それを取り返すのではなく、仕方がないと侵略された側が諦めるような小さな領土に侵略をとどめれば、あからさまに国を征服しようとした場合に比べて、全面戦争になるリスクは大きく低下する。だが現実には、中国による台湾侵攻、封鎖、または空爆のシナリオばかりが想定され、(金門島・馬祖島、あるいは太平島を含む)台湾が実行統治する島々を中国が占領するという、より可能性の高いシナリオが無視されている。そうした小領土の占領を回避する上でもっとも効果的なのが、(応戦の意図を示す小規模な)トリップワイヤー戦力、特にアメリカのトリップワイヤー戦力だ。だが、そうした戦力が配備されていないために、尖閣、スプラトリー、台湾など、中国との潜在的なホットスポットの多くで抑止力が不安定化している。

アフガン撤退後の米欧同盟
――アメリカのコミットメントは信頼できるか 

2021年10月号

ロビン・ニブレット  英王立国際問題研究所 ディレクター

バイデン大統領は当初から、大多数の米有権者の利益に合致する「中間層のための外交」を優先すると表明してきた。そして、中国に対する関税を維持する一方で、パリ協定に復帰し、アフガンへの永続的介入を終わらせることは「中間層のための外交」の試金石だった。たしかに、アフガン国軍が蜘蛛の子を散らすように敗走し、政府が倒れ、カブールの国際空港が極度の混乱に陥るという展開は、アフガン情勢を読み誤ったバイデン政権に対するヨーロッパの信頼を揺るがした。とはいえ、アフガンからの混沌とした撤退が、21世紀のアメリカの世界的衰退を予兆しているわけではない。アメリカとヨーロッパは、アフガン戦争の混乱に満ちた終結を、安全保障への相互コミットメントを示す機会にすべきだろう。

アルカイダ対イスラム国
―― アフガンにおける権力闘争

2021年11月号

コール・ブンゼル  フーバー研究所フェロー

タリバンは、アルカイダとの関係を維持する一方で、アフガンの正統な支配者として国際的な承認を得たいと考えている。アルカイダの「トランスナショナルな(テロ)アジェンダ」は共有していない。タリバンの利益認識はアフガンに始まりアフガンに終わる。一方、イスラム国(ISIS)は強硬路線をとることで、タリバン内の強硬派を取り込んでアフガンでの基盤を拡大したいと考えている。(米軍の撤退と)タリバンの復権によって、アルカイダは組織を再編する上でこの10年で最大の機会を手にするかもしれないが、それを生かすのは容易ではない。一方、ISISが民衆の支持を勝ち取り、マンパワーと資金面でタリバンと五分に持ち込むのもおよそ不可能だ。・・・

中国のアフガニスタン・ジレンマ
―― 失われる安定と予測可能性

2021年11月号

セス・ジョーンズ  米戦略国際問題研究所(CSIS) シニアバイスプレジデント ジュード・ブランシェット  米戦略国際問題研究所(CSIS) 中国研究部長

「ポストアメリカの中央アジア」情勢は中国に恩恵よりもリスクをもたらすことになるだろう。国境の西側でアフガンという破綻国家に直面し、南西側ではインドとの緊張が高まっている。北東には北朝鮮という不安定で厄介なパートナーがいる。しかも、台湾海峡を含めて、アメリカとの競争はエスカレートしている。習近平は安定と予測可能性を模索しているが、アメリカのアフガン撤退後の地域情勢では、そのどちらも手に入れられなくなるだろう。実際、アメリカのアフガン撤退は、(台湾を含む)東部での競争のエスカレーションに集中すべきタイミングで、北京を身動きできなくする恐れがある。

アフガン難民はどこに行くのか?

2021年10月号

リンジー ・メイズランド  Writer@cfr.org

2021年8月、タリバンがカブールを含むアフガニスタンの多くの地域を掌握して以降、すでに数万人が国を後にしている。国連難民高等弁務官事務所によると、年末までに50万人が家を追われて難民化する恐れがある。その多くは、陸路で隣国のイランとパキスタンに向かっている。これまでのところイランとパキスタンは、これ以上の難民を受け入れることを嫌がり、国境線の一部を閉鎖し、文書をもたないアフガン難民は国外追放処分にすると表明している。今回の危機ですでにアフガンから国外へ逃れた8万人の一部はアフガン戦争中に米軍やその家族に協力した個人が利用できる特別移民ビザ(SIV)を保有するか、その対象とされる資格を満たしている。数千人のアフガン難民がアメリカへの入国を果たしたが、より多くのアフガン人が世界各地の米軍基地に一時的に収容されている状態にある。

白人至上主義と欧米の極右テロ
―― 社会的レジリエンスの強化を

2021年10月号

シンシア・ミラー=イドリス アメリカン大学教授

9・11後の暴力的なジハード主義の台頭は、アメリカ政治を歪め、極右の過激主義思想の肥沃な温床を作り出した。アルカイダを含むイスラムテロ組織が、欧米における極右勢力の妄想を裏付ける存在だったからだ。こうして、米欧社会は極右勢力が何十年も煽ろうと試みてきた恐怖に取り憑かれた。2020年、米国内おけるテロの件数は1994年以降で最多となり、これらの事件の3分の2が白人至上主義者などの極右過激派によるものだ。依然としてイスラム主義テロが最大の脅威とされるヨーロッパでも極右の社会暴力が増えている。いたるところに巣くう過激主義と闘う最善の方法は、それを抑え込むだけでなく、社会のレジリエンスを高め、極右勢力のアピールに対する脆さを克服していくことだ。

今度こそアジアシフト戦略を
―― 経済・安全保障エンゲージメント

2021年10月号

ザック・クーパー アメリカンエンタープライズ研究所 リサーチフェロー アダム・P・リフ インディアナ大学 準教授(国際関係論)

バラク・オバマがアジアリバランシング戦略を表明して10年。そこにある現状は「野心的なレトリックと控えめな行動間のギャップが作り出した不安と懸念」でしかない。今後、三つのポイントが重要になる。アジアへの関与を中国への対応枠組みの一部としてではなく、前向きなアジェンダ、地域戦略ととらえること。アメリカが離脱した後に成立した、TPPをベースとする「環太平洋パートナーシップに関する包括的及び先進的な協定(CPTPP)」の参加に向けて交渉を再開すること。そして、中東での軍事プレゼンスを削減してアジアでの抑止力を強化することだ。特にアジアの同盟国やパートナーと協力して、力強い拒否的抑止戦略を考案し、武力行使ではアジアでの目標は達成できないと北京に納得させる必要がある。ワシントンがアジアリバランスといったレトリックを何回使ったかはほとんど意味がない。重要なのは、実際にそうするかどうかだ。

経済制裁依存症は何を物語る
―― アメリカの衰退、外交的影響力の低下

2021年10月号

ダニエル・W・ドレズナー  タフツ大学フレッチャースクール 教授(国際政治)

経済制裁によって相手国がワシントンの意に沿って行動するようになるのなら、経済制裁に依存するのも無理はない。だが、実際にはそうではない。制裁の効果をもっとも前向きに評価した分析でも、制裁が譲歩につながるのはせいぜい3分の1から2分の1程度だ。ワシントンが制裁に固執するのは、その効果とはほとんど関係なく、実際には、アメリカの衰退が最大の要因だ。もはや無敵の大国ではなく、広く世界に影響力を行使する力はない。アメリカの軍事力と外交的影響力は相対的に縮小している。制裁は、管理された環境で効果を発揮する特別な手段で、日常的に使用できる万能ツールではない。制裁は手術用のメスであり、スイス・アーミー・ナイフのように扱うべきではない。

分裂した世界とグローバルな脅威
―― パンデミック・気候変動と大国間競争

2021年10月号

トーマス・ライト  ブルッキングス研究所米欧センター所長

この100年で最悪のパンデミックはいまも収束していない。気候変動危機も加速する一方だ。しかも、大国間競争という環境下で、ワシントンはこれらのトランスナショナルな脅威に対処していく戦略を考案していかなければならない。米中のライバル関係は熱い戦争は引き起こしていないが、冷たい戦争に火をつけかねない状況にある。だが、未来のパンデミックに備え、気候変動と闘うには、ライバル諸国、特に中国との協調を模索しなければならない。だが一方で、協調路線が破綻した場合に備える必要もある。同盟諸国とパートナー諸国が、グローバルな公共財のためにより大きな貢献をするバックアッププランも用意しておくべきだろう。2020年には存在しなかったそうした計画を、次の危機までに間違いなく準備しておかなければならない。

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