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資本主義と民主主義の後退に関する論文

欧州のシルバー民主主義と年金危機
―― その弊害をいかに緩和するか

2016年9月号

エドアルド・カンパネッラ ウニクレディト銀行ユーロ圏エコノミスト

ヨーロッパの若年層が「自分たちも親世代と同じように寛大な年金を受けとれる」と考えていたのはそう昔の話ではない。だが、現実にはヨーロッパ全域で、未来の世代に重荷が押しつけられ、高齢者の立場が「政治的に」優遇されている。年金危機対策にしても、結局は、「将来の年金受給者」を対象とする見直しが行われただけで、引退世代の社会保障は温存されている。イギリス、イタリア、スペイン、フランスなどで実施された一連の制度改革は、いずれも現在の年金受給者には何の影響も与えない。しかも実際には、ヨーロッパの退職者の所得の中央値は現役労働者の所得の中央値と等しく、退職者の方が高い国さえある。年金制度の破綻を防ぐには、財政の持続可能性、世代間の連帯、世代間の公正という三つの原則間のバランスをとる必要がある。

逆風にさらされる民主主義
―― 内向きのアメリカと衰退する世界の民主主義

2016年8月号

ラリー・ダイアモンド  スタンフォード大学 フーバー研究所 シニアフェロー

「人権を重視する民主国家が自国の市民に暴力的な行動をとるリスクは低く、しかも、民主国家同士は戦争をしない」。当然、アメリカが世界で民主化促進策をとる価値は十分にあるが、「国際問題よりも、むしろ国内問題に専念すべきだ」と考える内向きの社会圧力という逆風にワシントンはさらされている。しかも、アメリカの民主主義が世界であこがれや模倣の対象とされることもなくなった。米大統領選挙からも明らかなように、アメリカ市民は大きな疎外感を抱き、現状に怒りを募らせ、一方ワシントンは現状にうまく対処できずにいる。法案はなかなか成立せず、超党派外交など望みようもなく、議会で予算案が紛糾し、定期的に政府機関が閉鎖の危機に追い込まれている。だがこの環境でもアメリカの民主主義への信頼を回復し、民主化促進策をとる余地は残されている。・・・

資本主義と民主主義の緊張と妥協が相互に作用することで、これまで政治と経済のバランスが形作られてきた。民主体制のなかで、労働保護法や金融規制の導入、社会保障制度の拡大が実現することで、市場の猛威は緩和されてきた。こうして労働者は労働搾取を試みる資本家を抑え込み、企業は労働者の生産性を高めるための投資を重視するようになった。これが戦後における成長のストーリーだった。しかし「いまや政府は戦後の税金を前提とする国家から、債務を前提とする国家へと変貌している」。この変化は非常に大きな政治的帰結を伴った。政府債務の増大によって、国際資本が、各国の市民の望みを潰してでも、自分たちの意向を各国政府に強要する影響力をもつようになったからだ。格差が拡大し、賃金が停滞する一方で、政府は、資金力豊かな金融機関が問題の兆候を示しただけで救済の対象にするようになった。こうして市民たちは、いわゆる調整コストを運命として受け入れるのを次第に嫌がるようになった。・・・

近代化と格差を考える
―― 再び格差問題を政治課題の中枢に据えるには

2016年3月号

ロナルド・イングルハート ミシガン大学教授(政治学)

19世紀末から20世紀初頭にかけての産業革命期に、左派政党は労働者階級を動員して、累進課税制度、社会保険、福祉国家システムなど、様々な再分配政策を成立させた。しかし脱工業化社会の到来とともに、社会の争点は、経済格差ではなく、環境保護、男女平等、移民などの非経済領域の問題へと変化していった。環境保護主義が富裕層有権者の一部を左派へ、文化(や社会価値)に派生する問題が労働者階級の多くを右派へ向かわせた。そしてグローバル化と脱工業化が労働組合の力を弱め、情報革命が「勝者がすべてをとる経済」の確立を後押しした。こうして再分配政策の政治的支持基盤は形骸化し、経済的格差が再び拡大し始めた。いまや対立の構図は労働者階級と中産階級ではない。「一握りの超エリート層とその他」の対立だ。

長期停滞にどう向き合うか
―― 金融政策の限界と財政政策の役割

2016年3月号

ローレンス・サマーズ 元米財務長官

今後10年にわたって、先進国のインフレ率は1%程度で、実質金利はゼロに近い状態が続くと市場は読んでいる。アメリカ経済についても同様だ。回復基調に転じて7年が経つとはいえ、市場は、経済がノーマルな復活を遂げるとは考えていない。この見方を理解するには、エコノミストのアルヴィン・ハンセンが1930年に示した長期停滞論に目を向ける必要がある。長期停滞論の見方に従えば、先進国経済は、貯蓄性向が増大し、投資性向が低下していることに派生する不均衡に苦しんでいる。その結果、過剰な貯蓄が需要を抑え込み、経済成長率とインフレ率を低下させ、貯蓄と投資のインバランスが実質金利を抑え込んでいる。この数年にわたって先進国を悩ませている、こうした日本型の経済停滞が、今後、当面続くことになるかもしれない。だが、打開策はある。・・・

平等と格差の社会思想史
―― 労働運動からドラッカー、そしてシュンペーターへ

2016年2月号

ピエール・ロザンヴァロン コレージュ・ド・フランス教授(政治史)

多くの人は貧困関連の社会統計や極端な貧困のケースを前に驚愕し、格差の現状を嘆きつつも、「ダイナミックな経済システムのなかで所得格差が生じるのは避けられない」と考えている。要するに、目に余る格差に対して道義的な反感を示しつつも、格差是正に向けた理論的基盤への確固たるコンセンサスは存在しない。だが、20世紀初頭から中盤にかけては、そうしたコンセンサスがなかったにも関わらず、一連の社会保障政策が導入され、格差は大きく縮小した。これは、政治指導者たちが、共産主義革命に象徴される社会革命運動を警戒したからだった。だが、冷戦が終わり、平和の時代が続くと、市民の国家コミュニティへの帰属意識も薄れ、福祉国家は深刻な危機の時代を迎えた。財政的理由からだけでなく、個人の責任が社会生活を規定する要因として復活し、ドラッカーから再びシュンペーターの時代へと移行するなかで、社会的危機という概念そのものが形骸化している。・・・

同性愛者に優しく、労働者に冷たい社会
―― アメリカの左派運動の成功と挫折

2014年10月号

マイケル・カジン ジョージタウン大学教授(歴史学)

著名人が同性愛者に差別的な発言をしたニュースが瞬く間にインターネットで広がることからも明らかなように、現代のアメリカ社会は同性愛者の権利については敏感に反応する。一方、労働組合が衰退していることもあって、経済的平等の実現に向けた意識は低い。文化活動を通じた社会変革活動は、多くのアメリカ人にアピールし、いまやレズビアン、ゲイ、バイセクシュアル、トランスジェンダー(LGBT)の権利を認めることを求めてきた左派の運動は、次々と大きな勝利を収めている。一方、労働組合は目的を実現できず、経済格差の是正を求めた、最近の「ウォール街を占拠せよ」運動も勢いを失った。結局、現代のアメリカはリバタリアン(自由至上主義)の時代にあり、「一人の痛みを皆で連帯して分かち合う」という昔ながらのスローガンは、ユートピア的とは言わないまでも、時代遅れなのかもしれない。・・・

日本を抑え込む「シルバー民主主義」
―― 日本が変われない本当の理由

2013年8月号

アレクサンドラ・ハーニー 前外交問題評議会インターナショナルフェロー

日本社会は急速に高齢化している。そして高齢者たちには、政治家が現行の社会保障システムに手をつけるのを認めるつもりはない。だが、高齢社会に派生する問題に向き合うのを先送りすればするほど、その経済コストは大きくなる。これが日本の現実だ。事実、政府の年金財源は2032―2038年の間に枯渇するという試算もある。だが、年齢層からみた多数派で、投票率も高い高齢者集団にアピールするようなキャンペーンを実施すれば、政治家はもっとも忠誠度の高い支持基盤を手に入れることができる。こうして、高齢社会が日本経済にどのようなコストを与えることになるとしても、「高齢者に優しい政策」が最優先とされている。高齢層の有権者の支持を失うことに対する恐怖が、政治家が長期的に国の未来を考えることを妨げ、これが若者に対する重荷をさらに大きくしている。1票の格差同様に、世代間の不均衡問題に目を向け、もっと若者の意見を政治に反映させる必要がある。そうしない限り、日本の経済未来は今後も暗いままだろう。

資本主義の危機と社会保障
―― どこに均衡を見いだすか

2013年4月号

ジェリー・Z・ミューラー 米カトリック大学歴史学教授

資本主義は人々に恩恵をもたらすだけでなく、不安も生み出すために、これまでも資本主義の進展は常に人々の抵抗を伴ってきた。実際、資本主義社会の政治と制度の歴史は、この不安を和らげるクッションを作り出す歴史だった。資本主義と民主主義が調和して共存できるようになったのは、20世紀半ばに近代的な福祉国家が誕生してからだ。認識すべきは、現状における格差は、機会の不平等よりも、むしろ、機会を生かす能力、人的資本の違いに派生していることだ。この能力の格差は、生まれもつ人的ポテンシャルの違い、そして人的ポテンシャルを育む家族やコミュニティの違いに根ざしている。このために、格差と不安は今後もなくならないだろう。この帰結から市民を守る方法を見出す一方で、これまで大きな経済的、文化的な恩恵をもたらしてきた資本主義のダイナミズムを維持する方法を見つけなければならない。そうしない限り、格差の増大と経済不安が社会秩序を蝕み、資本主義システム全般に対するポピュリストの反動を生み出すことになりかねない。

先進民主国家体制の危機
―― 改革と投資を阻む硬直化した政治

2013年2月号

ファリード・ザカリア  国際政治分析者

先進民主世界を悲観主義が覆い尽くしている。ヨーロッパでは、ユーロ圏だけでなく、欧州連合(EU)そのものが解体するのではないかという声も聞かれる。日本の経済も停滞したままだ。だが、もっとも危機的な状況にあるのはアメリカだろう。停滞する先進国が本当に必要としているのは、競争力を高めるための構造改革、そして、将来の成長のための投資に他ならない。問題は政治領域にある。政治が、効率的な改革と投資を阻んでいる。その結果、われわれが直面しているのが民主主義体制の危機だ。予算圧力、政治的膠着、そして人口動態が作り出す圧力という、気の萎えるほどに大きな課題が指し示す未来は低成長と停滞に他ならない。相対的な豊かさは維持できるかもしれないが、先進国はゆっくりとそして着実に世界の周辺へと追いやられていくだろう。今回ばかりは、民主主義の危機を唱える悲観論者が未来を言い当てることになるのかもしれない。

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