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年度別傑作選に関する論文

暴かれたアメリカの偽善
―― 情報漏洩とアメリカのダブルスタンダード

2013年12月号

ヘンリー・ファレル ジョージ・ワシントン大学准教授(政治学、国際関係論)
マーサ・フィネモアー ジョージ・ワシントン大学教授(政治学、国際関係論)

E・スノーデンがリークした情報によって情報源や情報収集の手法が明るみに出たとはいえ、予想外のものは何も出てきていない。専門家の多くは、かねて「アメリカは中国にサイバー攻撃をし、ヨーロッパの政府機関を盗聴し、世界のインターネット・コミュニケーションを監視している」と考えてきた。リークが引き起こしたより深刻な問題は、アメリカのダブルスタンダードが明らかになり、理念と原則の国としてのアメリカのイメージを失墜させたことだ。アメリカは、自分たちが唱道する価値を一貫して擁護し、順守してきたわけではなかった。この矛盾を前に、他の諸国は「アメリカが主導する秩序は正統性を欠いている」と判断するかもしれない。ワシントンは(米情報機関の行動に対する)厳格な監視体制を導入し、政策に関する論争をもっと民主的に進めるべきだろう。安易な偽善(とダブルスタンダード)の時代はすでに終わっている。

Foreign Affairs Update
インターネットでデータ化される世界
―― 「モバイルインターネット」と「モノのインターネット」の出会い

2013年11月号

ジェームズ・マニュイカ
マッキンゼー・グローバルインスティチュート ディレクター
マイケル・チュイ
マッキンゼー・グローバルインスティチュートプリンシパル

レンズなしメガネのように見えるヘットギアから、ネット閲覧のできるスマートウォッチ、データ測定機能を備えた運動靴やスポーツウェアといった装着型デジタル機器の流行は、奥深い経済的・社会的な変化が進行していることを物語っている。モバイル対応型の「モノのインターネット」化は、人が身に付けるものにとどまらない。位置、活動、状態に関するデータを収集・電送する小型検出器は、すでに橋、トラック、心臓ペースメーカー、糖尿病患者用のインスリンポンプなど、ありとあらゆるものに組み込まれている。これが、主要産業の再編を促しているだけでなく、人間とコンピュータの境界をあいまいにしつつある。こうした変化が、暮らし・仕事のやり方に広く奥深い変革をもたらすのは疑いようがなく、その経済価値は、総額数兆ドルにも達すると考えられる。

中国の労働者はどこへ消えた
―― 経済成長至上主義の終わり

2013年11月号

ダミアン・マ
ポールソン研究所フェロー
ウィリアム・アダムス
ピッツバーグ大学アジア研究センターアソシエート

中国の輸出と安価な製品をこれまで支えてきた季節労働者が不足するにつれて、中国経済の成長は鈍化している。市場レベルへと賃金を引き上げなかった工場のオーナーたちは、労働者が工場を後にし、戻ってこないという事態に直面している。「安価な労働力」の時代は終わり、企業は労働者を生産現場につなぎ止めようと賃上げに応じ、よりやる気のある季節労働者を確保できる内陸部へと工場を移転させる企業もある。一方、米企業の一部は生産部門をアメリカ国内に戻すか、メキシコやベトナムに移動させることを検討し始めている。だが、悪いことばかりではない。急速に上昇する賃金レベルが、投資・輸出主導型経済から内需主導型経済モデルへのシフトを促している。中国の指導者がこれまでの流れを維持したいのなら、利益集団としての労働者の集団化を認識し、安定よりも成長を重視する、これまでの社会契約を見直す必要があるだろう。

米中に引き裂かれる世界
―― 欧米なき世界と中国なき世界への分裂

2013年9月号

マーク・レナード
ヨーロッパ外交問題評議会共同設立者

冷戦期には、超大国の社会が次第に似た存在になっていくことで、緊張緩和(デタント)が育まれていった。だが、現在の国際的相互依存環境では、このダイナミクスが逆転する。大国間の立場が違えば関係は相互補完的になり、協調へと向かうが、似通った国へと収斂していけば、むしろ対立と紛争のルーツが作り出される。米中関係はまさにこのパターンに符合する。事実、もはや中国には、欧米が主導する国際アジェンダを支持するつもりはなく、中国はすでにグローバル秩序を変化させようと洗練された多国間外交を展開している。欧米も、TPPやTTIPなど、自らの思い通りに国際システムを作り替えようとする中国の能力を制約するような関係と政策を模索している。緊張が高まっていけば、米中関係においてこれまで機会と考えられてきたものが、脅威とみなされるようになる。今後出現するのは、表面的には冷戦構造に似た、新しく奇妙な二極世界になるだろう。

日本を抑え込む「シルバー民主主義」
―― 日本が変われない本当の理由

2013年8月号

アレクサンドラ・ハーニー 前外交問題評議会インターナショナルフェロー

日本社会は急速に高齢化している。そして高齢者たちには、政治家が現行の社会保障システムに手をつけるのを認めるつもりはない。だが、高齢社会に派生する問題に向き合うのを先送りすればするほど、その経済コストは大きくなる。これが日本の現実だ。事実、政府の年金財源は2032―2038年の間に枯渇するという試算もある。だが、年齢層からみた多数派で、投票率も高い高齢者集団にアピールするようなキャンペーンを実施すれば、政治家はもっとも忠誠度の高い支持基盤を手に入れることができる。こうして、高齢社会が日本経済にどのようなコストを与えることになるとしても、「高齢者に優しい政策」が最優先とされている。高齢層の有権者の支持を失うことに対する恐怖が、政治家が長期的に国の未来を考えることを妨げ、これが若者に対する重荷をさらに大きくしている。1票の格差同様に、世代間の不均衡問題に目を向け、もっと若者の意見を政治に反映させる必要がある。そうしない限り、日本の経済未来は今後も暗いままだろう。

経済相互依存で日中紛争を抑え込めるか
―― ナショナリズムかそれとも貿易か

2013年7月号

リチャード・カッツ
オリエンタル・エコノミック・リポート誌編集長

尖閣問題をめぐって緊張が高まっているとはいえ、現状では日中の経済相互依存とワシントンの防衛コミットメントによって、何とか平和が保たれている。もちろん、この海域で武装した(日中の)船が偶発的に衝突すれば、意図しない紛争へとエスカレートする危険もある。だが、より重要なポイントは、日中の経済的相互依存が紛争のリスクを抑え込めるかどうかだろう。安倍晋三首相が、2012年の選挙キャンペーンで表明した強硬路線を手控えているのは、日本が経済的に中国に依存していることで、ある程度説明できる。中国も同様で、その輸出主導型経済は(日本からの)輸入に依存している。2013年3月に北京で開かれた日中経済協議の際に中国の李克強首相はメディアに対して「自分が日本の財界指導者と握手している様子を写真にとらないように」と要請したかもしれないが、それでも、日本の経済指導者たちに対中投資を要請している。雇用と歳入を求める中国各省の政府も、危機が先鋭化した後も、日本企業に中国での事業を拡大するように強く求めている。現状では、相互抑止の経済バージョンがエスカレーションを抑え込んでいる。

ビッグデータの台頭

2013年6月号

ケネス・クキエル
ビクター・メイヤー=ションバーガー
エコノミスト誌データ・エディター
オックスフォード・インターネット研究所教授

歴史のほとんどの時期を通じて、われわれは比較的限られたデータを前提にものを考えてきた。そのような時代に重視されたのがサンプリングだ。ランダムに抽出されている限り、選挙の出口調査のように、サンプリングで全体を推し量ることができた。だがビッグデータの台頭によって、かつては量的に計測できなかった世界をデータ化できるようになった。これによってわかるのは、なぜ現象が起きているかの因果関係ではなく、あくまで相関関係だ。例えば、カナダの医療チームは、未熟児の心臓の鼓動、血圧、呼吸、血中酸素のレベルを含む16の重要な兆候をデータ化し、病気の発症を予見することに成功している。誰が法に触れる行為を行いそうなのか、どのビルで火災が起きそうなのかも、ビッグデータで量的に計測されつつある。ビッグデータは政府の機能、そして政治の本質も変化させることになるかもしれない。だが、それが社会を監視する政府の力を強め、ビッグデータ権威主義を出現させる恐れもある。・・・

アベノミクスと日本経済
――過激なケインズ主義のリスクとベネフィット

2013年05月

ベイナ・シュウ オンラインライター・エディター

日本政府は、短期的には機動的な財政政策、中央銀行による大胆な金融緩和を通じたインフレターゲット政策、そして(中・長期的には)国内の労働市場を活性化させる構造改革(成長戦略)という3本の矢、そしてTPPを含む貿易パートナーシップを強化することで経済成長を実現しようと考えている。・・・安倍首相は金融緩和政策によって為替レートが円安に振れ、これによって日本の輸出産業が活気づくことを期待している。・・・企業収益が上昇すれば、賃金も引き上げられ、民間消費が拡大して株価も上昇すると考えられている。これまでのところ、市場は活況を呈している。・・・もちろん、ハイパーインフレが起き、下手をすると円が崩壊する恐れがあるだけでなく、この政策ではデフレからの脱却がほとんど進まない恐れもある。量的緩和による円安が通貨戦争を誘発しないか、金利上昇がさらに債務と財政赤字を膨らませるのではないか、選挙区への利益誘導型でない公共投資が適切に実施されるか、本当に構造改革が実施されるかといったさまざまな懸念もある。だが、日本が流動性の罠から脱出する道筋を示せば、先進国は大いに勇気づけられるとアベノミクスに期待する声もある。ほぼすべての先進諸国は、金利ゼロでも資金が動かない流動性の罠にはまり、だれもがここから抜け出せないのではないかと心配しているからだ。・・・

緊縮財政という危険思想

2013年5月号

マーク・ブリス
ブラウン大学教授

懐にある以上のカネは使うなという緊縮財政の思想は直感的な説得力をもっている。だが、ユーロ危機後のヨーロッパのケースからも明らかなように、緊縮財政は機能しない。この1世紀を振り返っても、政府支出を減らして成長を呼び込めた歴史的な事例は存在しない。大恐慌期に各国で実施された緊縮財政は状況をさらに悪化させ、最終的に日独を戦争へと駆り立ててしまった。緊縮財政は失業と低成長をもたらし、社会格差を増大させるだけで、それが消費を刺激し、成長を促すことはあり得ない。唯一機能するのは、経済ブームに沸き返る大国を輸出市場にもつ小国が緊縮財政を実施した場合だけだろう。むしろ、政府は民間部門が債務をなくせる環境をつくり、公的支出を維持する必要がある。そうすれば、民間部門が成長するにつれて、税収も増大し、債務や赤字を削減していけるようになる。シュンペーターの言う「創造的破壊」を可能にするのは、「ケインズ主義の浪費」なのだ。技術革新と成長の「原料」は、多くの場合、民間の支出ではなく、政府支出によって作り出される。

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