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に関する論文

トランプが寄り添うジャクソニアンの思想
―― 反コスモポリタニズムの反乱

2017年3月号

ウォルター・ラッセル・ミード バードカレッジ教授(外交)

「不満を表明する手段として(非自由主義的なイデオロギーや感情に訴えているのは)苦々しい思いを抱くルーザーたち、つまり、銃の所有や(相手の)宗教にこだわり、自分たちとは違う人々を毛嫌いする人たちだけだ」。アメリカのエリートたちはこう考えるようになっていた。(国や民族に囚われない)コスモポリタン的感情をもつアメリカ人の多くは、道義的、倫理的にみて、人類全般の生活の改善に取り組むことが重要だと考えていた。一方、ジャクソニアンはコスモポリタン・エリートのことを、「アメリカやその市民を第1に考えることを道徳的に疑問視する、国に反逆的な連中」とみている。ジャクソニアンがアメリカのグローバル関与路線を敵視しているのは特定の代替策を望んでいるからではない。むしろ、外交エリートに不信感をもっているからだ。そして彼らは、「トランプは間違いなく自分たちの側にある」と考えている。

トランプとアメリカの同盟関係
―― 同盟国に防衛責任を委ねよ

2017年3月号

ダグ・バンドウ ケイトー研究所シニアフェロー

トランプが同盟国から米軍を撤退させる可能性は低そうだが、かといって現状を受け入れるのも間違っている。同盟国が軍事支出を少しばかり増やすことで満足するのではなく、ワシントンは自国を守る責任を引き受けるように同盟国に求めるべきだ。・・・それによってアメリカの安全保障が強化されるケースなら同盟国を防衛すべきだが、同盟国の安全だけを強化するような行動はとるべきではない。例えばモンテネグロ、バルト三国、そしてウクライナの問題は、アメリカの安全保障には関わってこない。朝鮮半島で戦争が起きても、アメリカの安全保障を直接脅かすわけではない。新大統領は、同盟国に自国を防衛する責任を引き受けさせることに力を注ぐべきだし、そのためには同盟諸国は戦争を抑止し、戦争になればそれに勝利できる通常戦力を構築すべきだろう。

「リベラルな覇権」は終わりつつある。すでに世界は多極化し、地政学の時代を迎えている。アメリカのリーダーシップが衰退するなか、まるで大国による勢力圏がつくりだされつつあるかにみえ、流れは明らかに統合から反統合へと向かっている。プーチンや習近平が独裁色を強めているだけではない。欧米でもナショナリズムが台頭し、ポピュリストが政治を主導しつつある。ドナルド・トランプ率いるアメリカが経済ナショナリズムを標榜するなか、今後リベラルな欧米秩序を主導していくのはドイツのアンゲラ・メルケルになるとみなされている。大きな反発にさらされながらも、それでもグローバル化は続くと考えられている。民主国家の衰退と権威主義的資本主義国家の台頭に特徴づけられる時代に、資本主義と民主主義は持ち堪えられるのか。歴史は再び動きだしている。

日米自由貿易協定の交渉を
―― 日米関係の戦略基盤を強化するには

2017年2月号

マイケル・オースリン  アメリカン・エンタープライズ研究所 日本研究担当ディレクター

トランプは、TPP(環太平洋パートナーシップ協定)という複雑な多国間貿易協定を批判しつつも、「私なら必要になれば再交渉できるような、透明性があり、よりシンプルで合理化されたアメリカの労働者にダメージを与えない二国間合意をまとめる」と約束している。(多国間貿易合意であるTPPへの反対をもって)トランプのことを「自由貿易に反対する重商主義者だ」と考える評論家は、彼が現実には自由貿易政策を模索するかもしれないことを無視している。(多国間貿易合意は拒絶しても)自由貿易体制を維持していくことに本気なのであれば、トランプはまず日本と自由貿易合意を交渉すべきだろう。日米二国間自由貿易合意の原型はすでにTPPによって描かれているからだ。日米の安全保障面での協調はすでに深化しており、二国間自由貿易協定交渉を通じて関係をさらに固めていけば、日米関係の戦略基盤をさらに強化できるだろう。

ジョン・ケリー国務長官が回顧する
オバマ外交と米外交の課題

2017年1月号

ジョン・ケリー 第68代米国務長官

問題は貿易ではないことを、人々に理解させる必要がある。彼らが必要なものを手に入れ、まともな給料をもらい、ふさわしい社会保障を得られるようにしなければいけない。だが、生まれたての(TPPという)赤ん坊を、捨ててはいけない。(アメリカ製品の)買い手の95%は外国にいるのに、貿易を放棄してはいけない。政治システムに人々が失望していることが人々の不信感を高めている。それは私にも理解できる。しかしTPPを批准して、企業がトップを目指して競争するルール、世界中の人々の権利を強化するルール、環境を守り、労働基準を確立し、市場を開放するルールを作らなければ、アメリカは豊かになれない。アメリカが世界から手を引けば、その空白を埋めようと考えている国はたくさんある」。(聞き手 ジョナサン・テッパーマン フォーリン・アフェアーズ誌副編集長)

トランプがすでに表明している外交路線の見直しを受け入れない限り、ロシア、シリア、イランの独裁政権が強化され、(関税引上げで中国を激怒させ)貿易戦争が起きる(それによって中国とアメリカの同盟諸国の関係も不安定化する)。(アメリカの資金と戦力の貢献を削減することで)北大西洋条約機構(NATO)にダメージを与え、NATO条約第5条の集団防衛へのアメリカの関与は揺らぎ、(シリアがさらに混乱することで)難民流入の新たな波でヨーロッパはさらに大きな圧力にさらされる。要するに、トランプ・ドクトリンは、アメリカの安全保障上の核心的利益を大きく傷つける。嘆かわしいことに、国際関係にトランプのアメリカ第1主義が適用され、それが新たなアメリカの外交政策の象徴とされれば、すでに歴史的な分水嶺に立たされているアメリカと世界はさらに困難な状況に直面することになる。

トランプ大統領の課題
―― 問われる問題への対応能力

2016年12月号

フランシス・フクヤマ スタンフォード大学シニアフェロー

アメリカの政治システムの衰退を覆せるとすれば、現在の均衡を揺るがし、本当の改革を実現できるような環境を作り出す、パワフルな外からのショックが必要だ。トランプの勝利はそうしたショックに違いないが、残念なことに、彼が示す解決策は伝統的なポピュリストの権威主義者のそれでしかない。「私がうまくやるから、カリスマ指導者である私を信じて欲しい」。イタリアの政治を揺るがしたシルビオ・ベルルスコーニのケースからも明らかなように、本当の悲劇は、真の改革の機会が無為に費やされてしまうことだ。

トランプ後もポピュリズムは続く
―― なぜ欧米でポピュリズムが台頭したのか

2016年11月

ファリード・ザカリア 「ファリード・ザカリアGPS」 (CNN)のホスト

欧米世界ではポピュリズムが着実かつ力強く台頭している。先進国が直面する低成長や移民流入が作り出す問題に慎重に対処していくには、一連の対策を通じて、全般的に少しずつ状況を改善させていくしかない。しかし、有権者はより抜本的な解決策とそれを実施できる大胆で決意に満ちた指導者を求めている。このために多くの人が、いまや大差ない政策しか打ち出せない伝統的な政党に幻滅し、ポピュリズム政党やポピュリストの指導者を支持している。バーニー・サンダースからトランプ、ギリシャの急進左派連合から、フランスの右派政党・国民戦線はその具体例だ。アメリカ人の多くは、トランプ現象は特有のもので、より大きくて永続的なアジェンダを映し出しているわけではないと考えているが、それとは逆が真実であることを示す証拠が出揃いつつある。・・・

新しい独裁者たち
―― なぜ個人独裁国家が増えているのか

2016年11月号

アンドレア・ケンドール=テイラー 米国家情報会議・副国家情報官 (ロシア・ユーラシア担当)
エリカ・フランツ ミシガン州立大学助教授(政治学)
ジョセフ・ライト ペンシルベニア州立大学准教授(政治学)

極端に私物化された政治体制が世界各地に出現している。(プーチンのロシアや習近平の中国など)広く知られているケースを別にしても、バングラデシュからエクアドル、ハンガリーからポーランドまでの多くの諸国で権力者が自身に権力を集中させようと試みている。権力者個人に権力を集中させる政治システムは、冷戦終結以降、顕著に増加しており、この現象は大きな危険をはらんでいる。世界が不安定化するなかで、多くの人が、強権者の方が激しい変動と極度の混乱に対するより優れた選択肢をもっていると考えるようになれば、民主主義の基層的価値に対する反動が起きかねないからだ。実際、社会の変化と外からの脅威に対する人々の懸念が大きくなるとともに、秩序を維持するためなら、武力行使を躊躇しない強権的で強い意志をもつ指導者への支持が高まっていく恐れがある。

「エネルギー貧困」を克服するには
―― 農業の近代化、工業化、都市化が鍵を握る

2016年11月号

テッド・ノードハウス ブレイクスルー研究所 共同設立者
シャイヤラ・デビ 同研究所アナリスト
アレックス・トレンバス 同研究所コミュニケーション・ディレクター

世界の20億人が依然として電力や天然ガスなどのエネルギー資源へのアクセスをもたない「エネルギー貧困」の状態に置かれている、しかも、近代的エネルギーへのアクセス拡大に向けた努力の多くは、(ソーラーなど)送電網から離れた小型の分散型エネルギーの供給に集中している。(孤立したソーラー発電でも)エネルギーアクセスを強化することにはなる。しかし、「エネルギー貧困」をなくすには、この問題が構造的な側面をもっていることに目を向ける必要がある。工業化、農業の近代化、都市化そして所得の上昇とエネルギー消費の拡大には明確な相関関係がある。だが、マイクロファイナンス、マイクロ企業のためのマイクロエネルギーでは、工業やインフラ、中央管理型電力網の代わりはできない。「エネルギー貧困」を克服するには、途上国と多国間組織は、「生産的で大規模な経済活動を支えるエネルギーインフラの開発」を優先する必要がある。問題は、ここで環境問題とのトレードオフが生じることだ。・・・

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