1994年以降に発表された邦訳論文を検索できます。

論文データベース(最新論文順)

ニューライトの知識人たち

1997年2月号

ヤコブ・ハイルブラン  『ニューリパブリック』誌副編集長

ホロコースト、ナチス・ドイツという大きな歴史の重荷を背負い、占領期にアメリカの多文化主義の洗礼を受け、何事にも罪悪史観にとらわれ控えめに徹してきた旧西ドイツ、そしていまや統一を果たし、事実上ヨーロッパの覇権国家となった統一ドイツ。自らが現実に手にしている力と、控えめな自己認識の隔たりのなかで、その乖離に目を向けようとしない政治家をよそに、ニューライトの知識人たちが積極的な発言を行ないだし、文化と歴史の継続性をめぐって大きな論争が起きている。「歴史の正常化」とは何を意味するのか。ニューライトたちの本当の狙いは何なのか。だが、「ニューライトの思想を前にして何もパニックに陥ることはない。それは、ドイツにおける一九八九年以後の自然の成り行きと考えることも可能だろう。おそらくドイツ人たちはナショナリズムという悪魔を追い払うためにも、それを抑え込むのではなく、むしろ一度表へと引きずり出すべきなのかもしれない」。

持続的成長と市民の政治参加

1997年1月号

マイケル・ペティス コロンビア大学準教授

ワシントン・コンセンサスを重視する国際的バンカーたちは、「市場経済路線こそ長期的成長をもたらすと主張し、所得の不平等に短期的に目をつむることついてはあまりに寛容な立場を依然としてとりつづけている」。グローバルな過剰流動性の流れのなかで、市場経済を重視する政治リーダー率いるラテンアメリカ諸国に大規模な資金が流れ込み、一時的に急速な経済成長が起きたとしても、経済ブームの後には、政治指導層だけでなく、改革路線に対する反発が起こるだけである。過剰流動性を背景とする成長を「ワシントン・コンセンサスの成功と混同するのは愚かである」。大衆の政治への真の参加が実現されていない状態で、経済成長が貧困層の助けになったケースはこれまでほとんど存在しないのだから。

保護主義か、金融市場の規制か?

1997年1月号

ウィル・ハットン  オブザーバー紙・エディター

通貨市場の混乱やそれが引き起こす高金利に象徴されるような不確実性は、投資にとって疫病神のような存在である。そして、これらの不確実性がもたらす失業を減らしたり、さらには財政拡大を通じて保護主義圧力を軽減したりという試みに素早く懲罰を加えるのも、(これらの諸問題を作り出した張本人である)通貨市場である。自由貿易を維持しつつ、この悪循環を断ちきり、なおかつ世界の成長を再び燃え立たせるには、「金融市場を規制してそのスピードと力を削減する必要がある」。低い実質金利、長期的視野に立った投資、投機の減少、そして、実質投資と成長の増大を目的に、ドル、円、マルクの価値を安定的に維持することを中軸とする新たなブレトンウッズ体制を構築し、金融市場を規制する新たな枠組みをただちに導入する必要がある。さもなければ、「外貨を稼ぐのが重要なら、さっさと輸入を制限しろ」という悪魔のささやきが再び世界を席巻してしまうだろう。

優先すべきは「独仏通貨統合」

1997年1月号

リチャード・メドレー  イエール大学国際金融研究所副所長

ドイツはともかく、フランスがマーストリヒトで定められた通貨統合の加盟基準を目標日までにクリアできる可能性は低い。だが、基準をねじ曲げてフランスの参加を強引に認めれば、ヨーロッパは政治的・経済的な大混乱に陥るかもしれない。基準を曖昧にすれば、参加資格のない国々までがドサクサ紛れに統合へ参加する道を開いて通貨統合への政治的反対派勢力を勢いづけ、さらに、金融資本家たちが一斉にヨーロッパ債券を売り、出口に殺到する危険があるからだ。こうしたシナリオを回避するのに必要なのは、今回もヘルムート・コールのリーダーシップによる英断、つまり、「コール・ショック」である。「ある気持ちのよい土曜日の朝に、ドイツ・マルクとフランス・フランを永久的にリンクさせると発表する」ことで、独仏通貨統合をミニEMUとして既成事実としてしまうことだ。

欧州通貨統合という悪しき幻想

1997年1月号

ルディ・ドーンブッシュ
マサチューセッツ工科大学経済学教授

ヨーロッパ通貨統合が伴う最大のコストとは、為替変動がなくなると同時に、その調整機能も消滅してしまうことだ。為替レートの変動を通じた競争力や価格面での調節機能を放棄すれば、結局は、その帳尻合わせを労働市場に押しつけることになる。そうでなくても福祉国家のいきづまりときわめて深刻な失業問題を抱えるヨーロッパの労働市場にツケが回れば、結局は高金利と高い失業率を招き、問題は経済にとどまらず政治領域に拡大していく。「アメリカは通貨統合を懸念している。その理由は、通貨統合がリセッションを伴う危険を秘め政治的問題を招くために、過去の例と同じく世界の他の地域に高いコストを強いると考えられるからだ」。欧州通貨統合は悪質で危険な幻想である。

バーチャル国家の台頭

1996年10月号

リチャード・ローズクランス カリフォルニア大学政治学教授

いまでは「土地、資源、原材料という生産要素よりも、良質な労働力、資本、情報」をもっぱら重視する、「頭だけをもち体をもたない」ダウンサイズされたバーチャル企業とバーチャル国家が誕生しつつある。 領土獲得を目的とする侵略戦争はその意味も必然性も失いつつある。バーチャル企業は他の企業の生産施設を必要とし、バーチャル国家は他国の生産能力を必要とする。その結果、国家間の経済関係は、「特定地域にある頭と、別の地域にある体を結びつける神経のようなもの」になっている。こうした流れは国内政治と国際関係にどのような影響を与えるのだろうか?

世界的失業増大に政策協調を

1996年7月号

イーサン・カプスタイン 外交問題評議会研究部部長

金融市場の安定を目的とする緊縮財政政策は「あまりに多くの人々をあまりに長期間にわたって困難な状況に追い込んでしまい」、失業や所得格差の増大という現象を背景に、労働者階級の「失われた世代」を誕生させ、犯罪率の上昇、麻薬の乱用、移民に対する暴力、極左極右の政治集団への支持の高まりという問題を招いている。こうした状況下、政府が雇用と社会福祉を労働者に提供するという第二次世界大戦後の「社会契約」が崩れさるとすれば、形成途上にあるグローバル経済への政治的支持も簡単に失われるだろう。したがって、今後の経済政策を、開放経済における「敗者」に焦点を絞ったものにしたうえで、成長と平等を重視する姿勢へと政策基盤を慎重に切り替える必要がある。そして成長重視の経済政策が通貨市場や債権投資家によるしっぺ返しをくわないようにするには、国際的な政策協調が不可欠となる。この世界史の重要な局面で、世界の指導者たちが協調的リーダーシップを発揮せずに無関心を決め込めば、保護主義や排外主義という選択肢を現状の「解決策」とみる騒々しいデマゴークたちが幅をきかすようになるだろう。

The Clash of Ideas
「冷戦の終焉」と旧秩序の再発見

1996年7月号

ジョン・アイケンベリー
ペンシルバニア大学・准教授

冷戦の終結は、封じ込め秩序の終わりではあっても、戦後秩序全般の終焉ではなかった。封じ込めの秩序の影に隠れあまり重視されるいこともなかった、大西洋憲章にその起源をもつ開放的な戦後経済体制はいまも健在で、これを中核とする戦後の「民主的でリベラルな秩序」は、共産主義の崩壊によって、むしろ強化されつつある。事実、民主的でリベラルな秩序と、冷戦期の西側秩序が異なっているとすれば、現在の秩序がよりグローバルなものになっていることだ。必要なのは、冷戦後の新秩序を夢見てその構築を試みることではなく、一九四〇年代以来の民主的でリベラルな秩序を維持・強化すべく、その歴史的ルーツとこれまでの成果をたどり、これを、現状に符合するように再調整することではないか。

ソマリアの悲劇と「人道的介入」

1996年6月号

ウォルター・クラーク 前在ソマリア米国大使館・人道介入担当補佐官 ジェフリー・ハーブスト プリンストン大学准教授

ソマリアへの介入が失敗に終わったのは、ブッシュ政権が設定した人道支援という限定的目的が、のちに国連によって国家拡大の領域にまで広げられたためだと一般的に考えられている。しかし、これは真実ではない。たとえ人道的介入であっても、「破綻した国家」へ介入する場合には、介入したその瞬間から、われわれはその国家の再建(国家建設)にかかわざるをえないくなる。ソマリアの場合も例外ではなかった。実際、「軍事ならびに民生的目標のあいだには切っても切れぬ相互補完性が存在する」。国際社会は、市民社会が暴力に広く苛まれている国家に対して、その国内政治に影響を与えることも、国家建設的に関与することもなく、人道的に介入できるという幻想をまず捨て去るべきだろう。

危うしアジアのエネルギー資源

1996年5月号

ケント・E・カルダー プリンストン大学政治学教授

アジアのエネルギー問題は、この地域での領有権論争、核拡散問題、軍拡路線に深く関連しており、これを純粋な経済問題とみなすのは間違いだ。なかでも中国のエネルギー需要の増大は、環境悪化だけでなく、海底資源をめぐる近隣諸国との対立、外洋型海軍力の増強路線、イランやイラクという中東とのコネクションの深まりなど、環境・政治・外交面での憂鬱な結末を招きかねない。エネルギー問題を、アジア・太平洋地域の不信と不確実性を先鋭化させる引き金とするのではなく、この問題への積極的な関与策、支援を通じて、日本、米国、そして大いなる暴発の危険性を秘めた大陸アジアとの協調の礎とすることが急務である。

Page Top