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論文データベース(最新論文順)

グローバル・リセッションの本当の教訓  

2012年6月号

ラグラム・ラジャン
シカゴ大学教授

2008年に金融危機が起きるまでの数十年にわたって、先進国経済は「有益な何か」に投資して経済を成長させる能力を失いつつあった。これは、技術革新や外国との競争によって失われた雇用を「資金を生み出す何か」に置き換えて、高齢者に年金や医療ケアを提供する必要があったことに関係がある。こうして何とか経済を成長させようとした政府は限界を超えて支出を増やし、一方では家計支出を刺激しようと安易な融資に道を開く環境を作り上げた。こうして、借入金に依存した経済成長が実現したが、もちろん、これは持続可能な成長ではなかった。現状で、さらに多くを借り入れて、政府支出を増やすことで危機から脱出することなどできない。むしろ、最善の短期的政策とは長期的な持続的成長の実現に焦点を合わせることだ。だが、結局のところ、各国の政府と市民が危機に関するどのような解釈を受け入れるかで、国の将来、そしてグローバル経済の未来も左右される。

CFRブリーフィング
世界的水資源危機
――水の惑星の皮肉な現実

2012年6月号

スチュアート・パトリック 米外交問題評議会シニア・フェロー(国際機関・グローバル統治担当))

人類が誕生した当時から水資源をいかに確保するかは重要な課題だった。しかし、今日の水資源問題の特徴は、統治体制が脆弱で不安定な地域で急速に需要が増 大し、水不足が深刻化していることにある。この厄介なトレンドに人口の増大、地球温暖化などによる水資源の供給量低下が追い打ちをかけている。2030年 までに人類が1年あたりに必要とする水の量は「現時点で持続可能とされる供給量」を40%上回ると予測されている。

キケロ兄弟の選挙戦術
―― 現代に生きる古代ローマの知恵と戦術

2012年6月号

クィントゥス・トゥッリウス・キケロ 共和政ローマ法務官

候補者となった以上、あなたに好意をみせる人、あなたの仲間になりたいと考える人はすべて友人です。一方、家族そしていつもあなたの近くにいる人々には注意が必要です。悪い噂の大元は家族や友人たちであることが多いものです。・・・相手に好意を持っていることをあなたが示すことで、彼らがあなたに抱く敬意をさらに高めることができます。・・・あなたの立場を代弁してくれる人々を探すのです。・・・社会集団の指導者との接触を試み、(一方で)・・・元気な若者たちをあなたの支持者にすれば、非常に大きな力になってくれます。・・・市民がもっとも強い印象を受けるのは、候補者が自分のことを覚えてくれることです。毎日、人々の顔と名前を一致させることを練習すべきです。そして決してローマを離れてはいけません。・・・キャンペーンでもっとも大切なのは、人々に希望を与え、あなたに好感を抱かせることです。有権者に強い印象を与えるには、彼らのことを理解し、愛想良く優しく接し、自分をアピールし、誰とでも会い、決して諦めないことです。

CFR Interview
だが、いかなる成長路線なのか
―― 緊縮財政路線と成長路線

2012年6月号

トーマス・フィリポン ニューヨーク大学ビジネススクール准教授(金融)

重要なのは、欧州中央銀行(ECB)マリオ・ドラギ総裁が「新財政協定の内容を見直す必要はないが、アジェンダに経済成長という視点も加えるべきだ」と述べていることだ。ECBは、ヨーロッパの経済成長を実現するには、特に南ヨーロッパ諸国の労働市場の柔軟性を高める必要があると考えている。・・・一方、オランドは量的緩和を実施したいと考えている。ここからは交渉になるだろう。ユーロ圏のメンバー国が「受け入れ可能なものが何で、何を諦めてもいいと考えているか」をすり合わせていく必要がある。ドイツはある程度のインフレ(インフレターゲット)なら受け入れることはできると考えている。・・・ドイツがこの方向での議論に応じた場合には、フランスに労働市場の改革を強く求めるはずだ。・・・論点と重心が成長策へとシフトしていくのは避けられない。だが、何について合意できるだろうか。望ましい成長路線が何であるかについてヨーロッパが合意できる状況にはない。

CFR Interview
ユーロ危機で米経済もリセッションへ

2012年6月号

リチャード・クラリダ
コロンビア大学教授

無秩序なギリシャの離脱、あるいは、(南北ヨーロッパ間のギリシャ救済)合意へのコミットメントが放棄されるだけでも、直接的なエキスポージャーから想定できる以上の余波を米経済は被ることになる。・・・ヨーロッパは深刻なリセッションに陥りつつあり、GDPの規模は3・5%縮小している。この状況では、連邦準備制度がいかなる政策対応をとっても、米経済がリセッションへと向かうのは避けられない。

CFR Interview
ムハンマド・モルシとエジプト軍は協調できるのか
――軍と同胞団とタハリール広場

2012年6月号

ロバート・ダニン
米外交問題評議会
中東・アフリカ担当シニア・フェロー

ムスリム同胞団の物質面での力は限られている。戦車を保有しているわけでもなければ、政治機構を掌握しているわけでもない。だが、同胞団は一定の政治的正統性(民衆の支持)を持っている。対照的に軍は大きな力を持っているが、民衆が、軍が文民政府に権力を委ねることを求めていることも理解している。つまり、双方がカードを持っている。おそらく、対立ではなく、協調したほうが、互いのためになるという了解を共有している。だが今後、困難な局面に直面するのは避けられないだろう。平和な状況を維持し、最終的に、正統性のある政府機関を形作っていくプロセスがうまくいかなければ、いまやディフォルトの政治機構である「タハリール広場」が動き出すだろう。軍とムスリム同胞団がうまくバランスをとって状況を前に進めていかなければ、再び「タハリール広場」が政治を動かすことになる。

CFR Meeting
中国には法律はあっても、法の支配がない

2012年6月号

◎スピーカー
陳光誠
人権活動家
◎プレサイダー
ジェローム・コーエン
ニューヨーク大学教授

中国で社会蜂起が絶えないのは、社会が公正でないからだ。当局は、圧力をかけ弾圧して、問題を封印しようとする。このやり方で問題に蓋をしても、さらに問題は大きくなる。この6-7年の私の経験からみても、中国の法の支配はますますひどくなっている。法と秩序を担当する地方の共産党書記でさえ「法律など関係ない。われわれは超法規的な措置をとる」と発言している。法当局が法を守らなければ、他の人々が法を守ると期待することができるだろうか。・・・・だが、私が生きているうちにという時間枠でみれば、民主化が実現されると楽観できる。この数年間における情報・通信機器の発達によって、人々は情報を拡散できるようになり、社会は大きく変化している。この状況で情報を隠蔽できるだろうか。そうできる可能性は低下しつつある。役人が法律の上に自分の権限を位置づける事態を、人々が黙っていることはなくなると考えている。(陳光誠 )

Foreign Affairs Update
エジプトは再び軍支配の時代へ
―大統領選挙の真の勝者はモルシではない

2012年6月号

ジェフ・マーチニ
ランド・コーポレーションプロジェクトアソシエート

大統領選挙の本当の勝者はモルシではなく、エジプト軍だ。憲法も議会もない状態でモルシが大統領に就任しても、彼にどれだけ権限が残されているのかはっきりしない。すでにエジプト軍は布石を打っていた。最高裁の判断を受けて軍最高評議会は議会の解散を命じ、17日に暫定憲法を修正し、新議会発足までの立法権を手中に収め、制憲プロセスにおける軍の役割も強化した。軍高官は政治的監督体制の対象外とされ、軍の指導者を選び、経済プロジェクトを継続し、軍備調達を自由に行うことも法的に認められた。さらに18日には軍最高評議会は、国防評議会を復活させた。同胞団の選択肢は二つある。それでもモルシを大統領就任させ、事実上、エジプト軍の利益を促進するように設計されたポストムバラク体制の維持に手を貸すか、それとも、軍最高評議会の解体に向けて街頭デモに繰り出すか。どちらをとってもメリットはない。・・・同胞団と世俗派が相互不信故に、軍事的支配体制からの移行に向けて連帯できなければ、今後も軍がエジプトを支配し続けることになる。

CFR Interview
ロシアはシリア紛争への立場を見直しつつある?

2012年6月号

モナ・ヤコービアン
スティムソンセンター
中東担当シニアアドバイザー

シリア問題に関するロシアの立場は(安保理決議に拒否権を行使した)2月以降、ゆっくりだが、それでも着実に変化している。ロシアもわれわれ同様に、シリアはせい惨な宗派間戦争へと向かいつつあるとみている。ロシアの中東における利益からみても、これは厄介な展開だ。シリア情勢の悪化を目の当たりにするにつれて、モスクワも戦略的な見直しを行い、バッシャール・アサドと彼の取り巻きたちからは距離を置くことを決断するかもしれない。もっとも、モスクワはシリアの体制変革までは望んでいない。おそらくロシアが望んでいるのは、バッシャールと側近たちを排除しつつも、シリアの権力構造を温存するようなクーデターが起きることだろう。・・・

CFR Interview
シリア紛争の憂鬱な現実
―― 出口のない対立と極度の混乱

2012年6月号

ピーター・ハーリング
国際危機グループディレクター
(イラク、レバノン、シリア担当)

「シリアは攻撃されており、われわれは反撃を試みている」とダマスカスの高官たちは言う。この理屈を用いて、行き過ぎた武力行使に始まり、政治的イニシアティブの欠落、そして経済運営の失敗までのさまざまな問題を「自分たちではない誰か」のせいにし、行動のすべてを国家救済のためと、正当化している。

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