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プレス・リリース 6月号

2015-06-10

論争 シルクロード構想とAIIB
――目的は「中国を恐れ、中国に服従するシステム」の構築なのか

中国は外交攻勢に出ていると誰もが考えている。アジアインフラ投資銀行(AIIB)だけではない。北京はインド洋沿いの港湾施設に投資する「真珠の首飾り戦略」、そして「一帯一路」としても知られる新シルクロード構想も表明している。

一連の構想は、既存の国際秩序への挑戦なのか、共産党体制を支える中国経済の成長を実現するためなのか、それともアジアでの覇権確立が目的なのか。

これらの新構想をアメリカのアジアシフト戦略への対抗措置とみる専門家もいれば、中国が2008年のグローバル金融危機をアメリカ衰退のシンボルとみなしたことが、そのきっかけだと考える専門家もいる。

しかし、中国国内では「中国の夢」というスローガンが掲げられ、権威への服従を求める儒教思想が強調されている。問題は「儒教思想を前提とする中国的特性」の今日的価値は何であるかがはっきりしないことだと中国研究者ペリー・リンクは言う。

民主化へ向けた流れはもはや覆せないとみるリンクは次のように指摘する。「習近平は伝統的な政治道徳モデルを復活させようとしているが、いまや中国の大衆は民主主義という言葉をそのまま受け入れている。・・・政治道徳理念に関する議論は続き、今後、それが不安定化と社会暴力を招き入れる危険もある」(1)

こうした不安定な社会・思想環境、成長率の鈍化に象徴される先行きのはっきりしない経済環境、そして高まる政治不安のなかで、さまざまな対外構想が発表されていることの意味合いについても考えるべきだろう。

AIIBに日米が参加すべきだという議論もある。「多国間開発銀行で主導権をもつことは大国の証のようなものだ」とみるフィリップ・リプシーは、「アメリカは世界銀行を通じて、日本はアジア開発銀行を通じて優位を手にしてきた」と言う。

「多国間開発銀行の設立か、空母の調達のいずれかで、中国が影響力と国際的な名声の確立しようと試みるとして、どちらの道筋が好ましいだろうか」と問いかける彼は、米日がAIIBに参加すれば、より大きな利益を確保できる」と結論づけている。(2)

一方、米輸出入銀行のホッチバーグ総裁は、「相手国への輸出契約を独占しようと数十億ドル単位の資金をばらまいてきた」中国が、AIIBを通じて途上国の大規模プロジェクトへの融資に大きな役割を果たすことの意味合いを警戒し、「このレースを規定するルールは極めて重要だ」と言う。「ルールをねじ曲げた行動がとられれば、その結果もいびつなものになる」と。(3)

AIIBを含むそれぞれの構想には「大して警戒する要因はないようにみえても、一連の構想によって中国の戦略的戦略ポジションは強化される」とジェフ・スミスは分析する。それぞれの構想を戦術的に理解するのではなく、一連の構想を戦略的に捉える必要がある、と。

彼によれば、北京の高官の多くは、歴史的な朝貢システム、つまり、地域諸国が中国に依存するか、中国を恐れて服従するようなシステムを再現したいと考えている。(4)


(1)ペリー・リンク
 「中国の夢と現実 ―― 習近平時代の中国の夢と民衆の思い 」

(2)フィリップ・Y・リプシー
 「 AIIBを恐れるな ―― 米日がAIIBに参加すべき理由 」

(3)フレッド・P・ホッチバーグ
 「 中国との貿易競争をいかに管理するか ―― AIIB時代の貿易と米輸出入銀行 」

(4)ジェフ・M・スミス
 「 中国の大戦略を見誤るな ―― レッドラインを定義し対中強硬策を 」

最近の中国関連論文から

・アイバン・クラステフ、マーク・レナード
 「ユーラシアで進行する露欧中の戦略地政学 ―― 突き崩されたヨーロッパモデルの優位」

・ロバート・カーン
 「 アジアインフラ投資銀行 ―― 国際経済秩序への挑戦か協調か 」

・ジェイコブ・ストークス
 「中国の新シルクロード構想 ―― 現実的な構想か見果てぬ夢か」

・ヨーウエイ(匿名)
 「 中国という砂上の楼閣 ―― 改革時代の終わり 」

・シブ・チェン
 「 このままでは中国経済は債務に押し潰される ―― 地方政府と国有企業の巨大債務 」

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