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米国に関する論文

対中戦争に備えるには
―― アジアシフトに向けた軍事ミッションの合理化を

2021年7月号

マイケル・ベックリー  タフツ大学准教授(政治学)

もし中国が台湾を攻略すると決めたら、米軍がいかにそれを阻止しようと試みても、中国軍に行く手を阻まれると多くの専門家はみている。だが、これは真実ではない。中国の周辺海域や同盟国にミサイルランチャー、軍事ドローン、センサーを事前配備すれば、(容易に近づけぬ)ハイテク「地雷原」を形作れる。これらの兵器ネットワークは、中国にとって無力化するのが難しいだけでなく、大規模な基地や立派な軍事プラットフォームを必要としない。問題は、アメリカの国防エスタブリッシュメントがこの戦略への迅速なシフトを怠り、時代遅れの装備と重要ではないミッションに資源を投入して浪費を続けていることだ。幸い、中国に厳格に対処すること、そしてアジアへの戦力リバランシングについては超党派の政治的支持がある。適正な戦略にシフトしていく上で欠けているのは、トップレベルのリーダーシップだけだ。

中国の台湾侵攻は近い
―― 現実味を帯びてきた武力行使リスク

2021年7月号

オリアナ・スカイラー・マストロ   スタンフォード大学国際関係研究所 センターフェロー

この数カ月、北京が平和的な台湾アプローチを見直し、武力による統一を考えていることを示唆する不穏な動きがある。「アメリカが台湾有事に介入してきても、状況を制することができる」と考えられている。かつては台湾への軍事作戦など現実的オプションではないと考えていた中国政府も、いまや、それを現実の可能性として捉えている。習近平は台湾問題を解決するという野心を明らかにし、武力統一というオプションへの中国市民と軍指導層の支持も強化されている。この30年で初めて、ほぼ1世紀にわたる内戦を決着させるために中国が軍事力を行使する可能性を真剣に憂慮すべき環境にある。

中ロ離間戦略を
―― 対ロエンゲージメントのポテンシャル

2021年6月号

アンドレア・ケンドール=テイラー  新アメリカ安全保障センター 大西洋横断安全保障プログラム ディレクター
デヴィッド・シュルマン 共和党国際研究所 シニアアドバイザー

中国とロシアの利益の重なり合い、軍事力その他の分野での相互補完性は、アメリカのパワーに対する両国の脅威をたんなる足し算以上に大きくしている。中国は、ロシアとの関係を利用して軍事力のギャップを埋め、技術革新を加速し、アメリカのグローバルリーダーシップを切り崩そうとしている。一方、国際社会で周辺化されていくことを警戒するモスクワは、アメリカがロシアと交渉せざるを得ないと考える環境を作り出そうと考え、北京との関係をそれを強化するための手段とみているようだ。例えば、中国に洗練された兵器を販売することで、モスクワはそうした関係の構築を模索してきた。ワシントンは関係の強化へと両国を向かわせるような行動を避けつつ、中ロの接近と協調をいかに制約するかをクリエーティブに考える必要がある。

データ量が経済とイノベーションを左右する
―― データアクセスとプライバシーの間

2021年6月号

マシュー・スローター  ダートマス・カレッジ ビジネススクール 教授(国際ビジネス) デビッド・マコーミック   ブリッジウォーター・アソシエーツ 最高経営責任者

持続的な生産性の優位は国がアクセスできるデータの量に左右され始めている。自律走行車であれ、人工知能であれ、膨大な量のデータがイノベーションを左右するからだ。専門家が言うように「大量のデータにアクセスできる優秀な科学者は、一定量のデータにしかアクセスできないスーパーサイエンティストに勝る」。一方、データを管理する国際的な枠組みがなければ、市民のプライバシーが脅かされる。データが国境を越えて移動することを認めるのなら、政府は、どうやって自国民のプライバシーを保護できるのか。データはイノベーションを推進し、経済パワーを生み出し、国家安全保障にも関わってくる。アメリカを含む民主諸国は、テクノ権威主義モデルに対抗するためにも、データの潜在能力を引き出せる新しい国際枠組みを構築する必要がある。

「台湾と中国」というアメリカ問題
―― 台頭する新興国と衰退する超大国

2021年6月号

チャールズ・L・グレーザー  ジョージ・ワシントン大学エリオット・スクール 教授(政治学、国際関係論)

ワシントンは慎重なアジア政策をとっていると考えられているが、実際には、環境が変化していることを考慮せずに、既存のコミットメントを維持している。かつてのようなパワーをもっていない大国が、現状を無理に維持しようと試みれば、非常に危険な賭けに打って出る恐れがある。もちろん、東アジアの同盟関係へのコミットメントは維持すべきだが、台湾を含む南シナ海地域への関与路線は見直すべきだろう。アメリカのパワーが低下しているのなら、最善の選択肢はコミットメントを減らすことかもしれない。これは、南シナ海において中国がより多くの影響力をもつことを認め、台湾を手放し、もはや東アジア地域における支配的なパワーではないことをワシントンが受け入れることを意味する。・・・

イスラエルとハマスそして自治政府
―― それぞれの政治、すれ違う思惑

2021年6月号

マーティン・インディク  米外交問題評議会 特別フェロー(中東問題担当)

ハマスはパレスチナ人社会での自分たちの地位をもっと引き上げたいと考え、イスラエルは、市民に対するハマスの攻撃に対する抑止力を再確立したいと望んでいる。だが双方とも、ワシントンが二国家解決を仲介することには関心がない。ハマスは「イスラエルのいない一国解決策」にこだわっている。ネタニヤフは「ガザをハマスが支配し、西岸をパレスチナ自治政府が統治する三国家解決策」にコミットしている。バイデン政権は・・・東エルサレムからのパレスチナ人の立ち退きや家屋解体をイスラエルに止めるように求め、アッバス自治政府議長に(無期限の延期としている)選挙の日程を定めるように求めるべきだろう。バイデン政権は、この危機から抜け出すためにも、二国家解決策への関係勢力の信頼と希望を再構築する必要がある。

権威主義へ傾斜する国際システム
―― 追い込まれたリベラルな秩序

2021年5月号

アレクサンダー・クーリー  バーナードカレッジ教授(政治学) ダニエル・H・ネクソン  ジョージタウン大学外交大学院教授

「世界を権威主義にとって安全な場所」にしようと、リベラルな秩序を支える主要な要因を排除しようとする権威主義国もある。特に中国とロシアは外交・経済力そして軍事力を行使して、オルタナティブ(代替)ビジョンを推進している。現在のトレンドをみるかぎり、世界政治を特徴づける非自由主義的要素と自由主義的要素のバランスは大きく変化していくかもしれない。国際システムはより独裁的で非自由主義的になっていくだろう。反動的なポピュリズムが力を増し、権威主義国家が頑迷な路線をとるようになったために、人権、政治的権利、市民権を尊重する思想が切り崩されつつある。現状でもっとも可能性が高いのは、泥棒政治家と利益供与ネットワークのニーズに即した国際秩序へ向かっていくことだ。

偽情報戦略の本当の目的
―― 独裁者の真意は国内にある

2021年5月号

ダレン・リンヴィル クレムソン大学 准教授(コミュニケーション) パトリック・ウォーレン クレムソン大学 准教授(経済学)

国家機関が関与するソーシャルメディア空間での偽情報キャンペーンの多くが、現実には、外国ではなく国内の民衆をターゲットにしていることはほとんど認識されていない。「ソーシャルメディアでの偽情報キャンペーンというグローバルトレンドは、現実には(国家間の影響力を競い合う)地政学ではなく、むしろ国内政治に根ざしている。結局のところ、ロシアの対米攻撃キャンペーンが実際には国内向けであるとすれば、ワシントンはロシアの有権者を念頭に置いて冷静な対応をしなければならない。そうしない限り、モスクワの偽情報を抑え込むのではなく、むしろ、増幅してしまう恐れがある。

グローバルな大国間協調の組織化を
―― 多極世界を安定させるために

2021年5月号

リチャード・N・ハース 外交問題評議会会長 チャールズ・A・クプチャン ジョージタウン大学 教授(国際関係学)

アメリカやヨーロッパにおけるポピュリズムや非自由主義への誘惑がそう簡単に下火になることはない。かりに欧米の民主主義が政治対立を克服し、非自由主義を打倒して、経済をリバウンドに向かわせても「多様なイデオロギーをもつ多極化した世界」の到来を阻止することはできない。歴史は、このような激動の変化を伴う時代が大きな危険に満ちていることをわれわれに教えている。だが、第二次世界大戦後に形作られた欧米主導のリベラルな秩序では、もはや世界の安定を支える役目は果たせないことを冷静に認めなければならない。21世紀の安定を実現するための最良の手段は「19世紀ヨーロッパにおける大国間協調」を世界に広げた、中国、欧州連合(EU)、インド、日本、ロシア、アメリカをメンバーとし、国連の上に位置する「グローバルな大国間協調体制」を立ち上げ、大国の運営委員会を組織することだ。

新保守主義がなぜ必要か
―― アメリカ政治再生の鍵を握る保守主義の再編

2021年5月号

オレン・キャス アメリカン・コンパス  エグゼクティブディレクター

経済リバタリアン、社会的保守派、外交タカ派の連合は、それぞれが自分たちのポートフォリオを重視するあまり、公共政策の多くが(最大公約数的に)市場原理主義者という小さな集団の手に委ねられてしまった。保守派の経済思想が衰退するにつれて、リバタリアンの思想が市場原理主義へ固定され、今日ではほとんどのコメンテーターはそうした原理主義思想の持ち主を「保守派」と呼んでいる。こうして、政治危機が引き起こされている。進歩主義はアイデンティティ政治や高学歴エリート特有のつかみ所のない悩みにますます執着している。だが「家族やコミュニティが依って立つ基盤に関する懸念に焦点を当てた(保守派の)イデオロギー的メッセージ」を前にすると進歩主義に力はない。今こそ保守派が中道右派としての立場を示すときだ。

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