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米国に関する論文

多国間協調と単独主義の間

2000年2月号

ロバート・W・タッカー/ジョンズ・ホプキンス大学名誉教授

「グローバリゼーションは実在するが秩序を保証できないし、一方で多極世界は秩序を保証できるかもしれないが、実在しない」。したがって、アメリカがもつ支配的な力が世界秩序への特別な責任を作り出すのは避けられない。ここでの問題は、アメリカは単独で行動すべきか、あるいは他国とともに行動すべきか、という古くからのテーマにある。「国際コミュニティーによるコンセンサスなどいまなお幻想」なのだから、現実には原則や利益を共有する「より小さなコミュニティーによる支持」をアメリカは模索し、こうした諸国ととも多国間協調がともなう制約や妥協という重荷を担っていくべきだろう。アメリカが力の誘惑に抵抗できる唯一の国家だと信じこむのは問題がある。肝に銘ずべきは、「力に乱用は付き物だが、一方で力は責任を生む」という真理のバランスである。

外交問題評議会タスクフォース・レポート
国際金融構造の将来

1999年12月号

ピーター・ピーターソン、カーラ・ヒルズ、モーリス・ゴールドシュタイン他

一九九七年にタイで始まった金融混乱によって、国際コミュニティーは危機の予防と解決に関するこれまでの制度、構造、そして政策の見直しを余儀なくされている。一九九八年九月、クリントン米大統領は、卓越した民間組織が国際金融構造改革の必要性に関する分析をまとめるべきだと提言した。これを踏まえて、外交問題評議会は、ピーター・ピーターソンとカーラ・ヒルズを共同議長とする「国際金融構造の将来」を考えるタスクフォースを組織した(ピーター・ピーターソンは外交問題評議会理事長で、ブラックストーン・グループ会長を兼務。ニクソン政権で商務長官を務めた。カーラ・ヒルズは、ヒルズ・アンド・カンパニーの最高経営責任者で、ブッシュ政権の通商代表部代表を務めた)。プロジェクト・ディレクターを務め、このリポートを執筆したのは、国際通貨基金(IMF)の前・調査副ディレクターで、現在は国際経済研究所上席研究員のモーリス・ゴールドシュタインである。タスクフォースの参加メンバーについては、文末のメンバーリストを参照されたい。以下の論文は、評議会のタスクフォース・リポートの統括である。リポートの全文と議論の少数意見は評議会のウェブ(www.cfr.org)で公開している。

可哀想な国連

1999年12月号

マイケル・ハーシュ/ニューズウィーク誌記者

このままでいけば、クリントン政権は国連を無視し、国連システムを崩壊させた米政権として記憶されることになりかねない。コソボ空爆の際には北大西洋条約機構(NATO)を頼みに安全保障理事会を迂回し、その後には人道的単独介入をめぐる「クリントン・ドクトリン」の構築を試み、さらに、東ティモール問題を契機に、アジア太平洋経済協力会議(APEC)を地域的な安全保障フォーラムにする可能性も示唆されている。しかし、組織されたフォーラムであれ、富める諸国の一時的連帯関係であれ、国連という枠組みを離れてうまく問題解決にあたることはできず、この点、アメリカとて例外ではない。「唯一の超大国もひとり頂点にいるわけではない」。グローバルな問題への取り組みには国連システムが不可欠であり、今や国連とアメリカの関係修復に向けたワシントンと国連本部間の「シャトル外交」が急務だろう。

地域・文化対立が米外交を引き裂く

1999年11月号

マイケル・リンド 「ハーパーズ・マガジン」ワシントン・エディター

反介入主義と反軍部を旨とするリベラルな北部と、介入主義的で軍に好意的な保守派の南部という対立構図は、米国が誕生して以来のものだ。「南部は、それが何をめぐって、どの国を相手とする戦争であるかなどお構いなく、アメリカの戦争のすべてを支持してきた」。これに対して、北部は一貫して非介入、反軍事路線を崩さなかった。これは、アメリカの内的な地域文化対立である。問題なのは、そうした北部と南部の地域的な下位文化が融合しないどころか、むしろ、民主党、共和党という対立構図と重なり合いつつあることだ。経済ブームがこうした南北間の価値観や利益をめぐる対立を覆い隠す役割を果たしてきたが、ひとたびリセッションが起きたり、新たな安全保障上の脅威が登場すれば、「軍事路線と自由貿易を支持する南部と南西部、そして、反介入主義的で保護主義的な北東部の間」のやっかいな政治対立が先鋭化するに違いなく、その衝撃は同盟関係さえも揺るがしかねない。政党やメディアに、こうした二つの地域文化がバランスよく反映されるシステムを導入しない限り、南北戦争まがいの対立がなくなることは決してありえない。

次期大統領の外交課題

1999年10月号

リチャード・ハース  ブルッキングス研究所副会長

グローバリゼーションと分散化、平和と紛争、そして繁栄と貧困という具合に、世界は相反する力学に引っ張られており、今日の多極世界における協調が明日には対立へと転じる危険は十分ある。アメリカの軍事・経済上の優位が現在圧倒的なものだとしても、それが未来永劫続くことはあり得ないし、アメリカの覇権確立や単独主義が選択肢になることもない。必要とされているのは、現在の優位を利用して、アメリカが世界秩序の安定化を促すような建設的な秩序概念を提示し、他の国家だけでなく、NGOなどの非国家主体を含む、すべてのアクターにとっても、これを支持することが自己利益にかなうと納得させることである。「人道的介入」を含めて、「多極世界における大国間の協調」を間違いないものとするために、国内的、そして対外的に何をなすべきか、これこそ、次期アメリカ大統領の大きな課題となろう。

イラク経済制裁の戦略的解除を

1999年8月号

F・グレゴリー・ゴーズ  バーモント大学政治学准教授

アメリカは経済制裁の解除と引き換えに、イラクの大量破壊兵器(WMD)開発計画を監視・管理するための現地査察を復活させる提案を示すべきだ。経済制裁によって苦しんでいるのはもっぱらイラク民衆であり、この事実ゆえに、サダム・フセインの反米プロパガンダがもっともらしく聞こえ、国際コミュニティーにおけるアメリカの封じ込め政策への支持も低下しつつある。加えて、イラクのWMD開発がアメリカの国益に対する重大な脅威だとすれば、「査察なき制裁より、制裁なき査察」のほうが国益にかなう処方箋である。もしサダムが「制裁なき査察」の枠組みの下で査察を妨害した場合には、イラクの軍事ターゲットを即座に徹底的に空爆すればよい。ここに示した「制裁解除=査察の再開=軍事的封じ込めの強化」という道筋は、イラクの平均的市民の日々の生活を向上させるだけでなく、イラクのWMD開発計画に対する大きな障害を提供してくれるだろう。

米中パートナーシップはどこへ行った

1999年7月号

ベーツ・ギル  ブルッキングス研究所上席研究員

貿易問題、人権問題、核スパイ疑惑などによって、そもそも先行きの暗かった米中関係は、ベオグラードの中国大使館誤爆事件でさらに手痛いダメージを被ってしまった。わずか一年前の、米中の「建設的な戦略パートナーシップ」は一体どうなってしまったのか。大切なのは、共通の戦略利益と互いの立場の違いについて米中が了解し、そうした相互理解を支えるような国内コンセンサスを形成することである。それなくしては、外交手段ではあってもそもそも目的ではない「エンゲージメント」(穏やかな関与)政策は、今後も浮遊し続けたままだろう。新しい対中政策は、今後の北京との関係をめぐってより現実主義的な視点によって導かれるものでなければならず、それは「穏やかな関与」と危機回避の賢明なバランスをもった、限定的エンゲージメント政策であるべきだ。

コソボ危機が変える米欧関係の今後

1999年7月号

ピーター・ロッドマン ニクソン・センター国家安全保障問題ディレクター

コソボ問題を契機に、ヨーロッパ、アメリカの双方とも、お互いの存在なしにはヨーロッパでの重要な目標を実現するのは不可能だということを再認識したようだ。しかし、もしコソボで失敗すれば、ヨーロッパ各国の指導者は、「嫌いなアメリカ」に依存しつつも意に沿わない結果に甘んじたという国内での批判にさらされるだろう。事実、アメリカとの協力体制が、ヨーロッパ各国の極左政治勢力からの非難にさらされたため、各国の指導者は「人道的見地」からのNATOの結束を強く訴えてきた。だが、ミロシェビッチとのあいまいな妥協によってコソボ危機に終止符が打たれるとすれば、人道主義を訴えてきただけにヨーロッパ人の幻滅感は強く、政治的な余波も大きいだろう。その場合、ヨーロッパの国内政治力学とアメリカの覇権に対する反発を欧州の指導者たちは抑えこめるだろうか。コソボが問いかけているのは、たんに人道主義介入の是非と課題だけでなく、NATOを中心とするアメリカとヨーロッパの関係そのものなのだ。

Review Essay
情報化時代に経済はついてゆけるのか

1999年7月号

ジェフリー・E・ガーテン クリントン政権前商務次官

これまでの産業技術革命のすべては、技術的な非連続性と、ブレイクスルーとなった新技術の創造の双方によって導かれてきた。新技術の誕生によって、それまでの富の創造のための手法は当然時代遅れの長物と化す。だとすれば、情報革命のまっただ中にある現在、富を創造するために国は新たに何をすべきなのだろうか。各国の経済・社会システム、そして、世界の制度は、情報化時代という第三の産業革命からうまく利益を引き出せるのだろうか。どうやらレスター・サローは、今回も悲観主義に陥っているようだ。

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