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中東に関する論文

イランとロシアのパートナーシップ
―― 孤立国家の連帯は続くのか

2023年4月号

ディーナ・エスファンダイアリー 国際危機グループ(ICG) 中東・北アフリカプログラム 上級アドバイザー

イラン・ロシア間の緊密な協力関係は、特有の環境に導かれている。ウクライナ戦争の兵器需要が高まるなかで、世界の主要なテクノロジー供給国がロシアとの取引を閉ざしていなければ、モスクワがテヘランに助けを求めることはなかっただろう。一方、核合意再建の不調や国内の抗議行動を前に、イランの国際的な孤立も深まっていた。だが、このような歴史の偶発性が、重要な長期的同盟を誕生させることもある。イランとロシアは、引き続き、欧米の影響を押し返し、孤立から身を守り、米主導の秩序に対抗する連合を維持していくだろう。お互いに信頼し合っているわけでも、好きですらないかもしれない。だが、どのような協力なら自国の助けになるかを両国はともに理解している。

体制変革を求めるイラン民衆
―― 社会的連帯を助けるには

2023年2月号

エリック・エデルマン 元米国防次官
レイ・タキー 米外交問題評議会 シニアフェロー(中東担当)

これまでのイランの民衆蜂起には社会的まとまりがなかったが、今回は違う。民衆は広く連帯している。農民たちは水不足に、学生たちは自由の欠如に、教員たちは報酬の不足に、そして退職者たちは社会保障の乏しさに不満を抱いてきた。蓄積されてきた人々の怒りと苛立ちを発散する抗議運動に火をつけたのが、ヒジャブの着用方法が不適切だという理由で警察に連行されたマフサ・アムニの死だった。最高指導者ハメネイが創刊した日刊紙でさえ、「インフレ、失業、少雨、環境破壊などの問題が、退職者から教育者、学生に至るまでの人々を抗議に駆り立てている」と指摘している。バイデン政権は、変革を起こすために命を危険にさらしているイランの人々が国を取り戻せるように、できる限りの手を尽くすべきだ。・・・

サウジの新しい世界ビジョン
―― 対米パートナーシップの終わり

2022年12月号

カレン・ヤング コロンビア大学 グローバル・エネルギーセンター 上級研究員

もはやサウジはかつてのようなアメリカのパートナーではない。むしろロシアと組んで、石油市場への影響力とサウジの未来ビジョンを守ろうとしている。リヤドとワシントンは、市場においても、経済発展モデルでも、お互いがパートナーではなく、競争相手であることに今後気づくことになるだろう。サウジは国際政治と貿易の双方において、新興国がより大きな役割を果たす、アメリカとは異なる経済ビジョンを思い描いている。世界はエネルギー不安の時代に入りつつあるが、化石燃料需要は少なくともあと20年は続く。国際システムがますます流動化するなか、サウジは国際関係でこれまで以上に大きな役割を果たすことになるのかもしれない。

右へ急旋回するイスラエル
―― 強硬派ネタニヤフの新路線は

2022年12月号

ダーリア・シェインドリン ハーレツ紙コラムニスト

イスラエルは、ネタニヤフをさらに右へと向かわせる「全面的右派」連立への道を歩んでいるようだ。現実にそうなれば、次の政権はイスラエル史上、もっとも極端な右派政権になるかもしれない。もっとも、ネタニヤフ政権の「外交やパレスチナ問題」という二つの重要領域の政策は、現在の政権と比べても、程度の差はあっても、本質的な違いはおそらくないはずだ。しかし、民主的制度の運用を含む国内問題については、現政権との違いが、イスラエルの社会と国家に非常に大きな影響を与えることになると考えられる。イスラエルは、政治的には右派多数派の専制、社会的には少数派である正統派と超正統派の専制というかつてない時代に入ろうとしている。ポイントは、ネタニヤフがどこまで右寄りの政策をとるかだろう。・・・

ウクライナ戦争と食糧危機
―― 小麦粉不足と中東の社会騒乱

2022年6月号

カリ・ロビンソン Writer@cfr.org

世界の穀倉地帯であるロシアとウクライナは、小麦、トウモロコシ、大麦などの穀物の主要輸出国だ。2020年まで、両国は生産した小麦の約半分を中東や北アフリカの国々に輸出してきた。だがウクライナ戦争が、穀物、種子油、食用油、肥料など、中東・北アフリカがもっとも必要とする物資の供給を妨げている。こうして、多くの地域諸国が政策を見直し、代替策を模索している。例えば、エジプトは数カ月分の食糧を備蓄し、アラブ首長国連邦から資金援助を受けて、パン(小麦粉)の価格統制を維持している。各国は特にパンの値上げを何とか回避しようとしている。この地域の多くの国ではパンに対する補助金は社会契約の一部と考えられており、値上げは不安を煽ることになる。一般に「アラブの春」として知られる中東・北アフリカの反乱も、2010年のロシア小麦の不作に派生する値上げの後に起きている。

新しいアラブ・イスラエル関係
―― アブラハム合意のポテンシャル

2022年5月号

マイケル・シン ワシントン近東政策研究所 マネージング・ディレクター

2020年、イスラエルとアラブ首長国連邦(UAE)、バーレーン王国はアメリカの仲介で国交を正常化した。アブラハム合意として知られるこのアレンジメントは、これまで経済統合がなかなか実現しなかった中東地域での奥深い経済統合を促すだろうし、世界の投資家を魅了し、この地域全体の成長に貢献すると考えられる。すでにモロッコとスーダンが、UAEに続いてイスラエルと国交正常化合意を結んでいる。一連の和平合意は、かつては望みようもなかったイスラエルとアラブ諸国との政治・安全保障協力に道を開き、地域紛争を抑え、イランを抑止できる地域国家連合の形成へとつながっていくポテンシャルを秘めている。・・・

ウクライナ危機とイラン核合意再建交渉

WEB限定掲載論文

レイ・タキー 米外交問題評議会シニアフェロー(中東問題担当)

いまやイラン核合意再建交渉は山場を迎えつつも、ウクライナ危機によって、交渉の先行きは不透明化している。合意再開がまとまれば、イランに対する経済制裁は解除されるが、ロシア側が「ウクライナ侵攻でロシアに課された制裁対象にイランとの貿易を含めないように要求したからだ」。交渉が中断されたと伝える報道もあれば、ロシアの要求が受け入れられたという報道もある。一方で、ロシアのウクライナ侵攻はイラン国内の分裂をはっきりと表面化させている。最高指導者のハメネイ師は、ロシアの侵略は「アメリカの責任だ」と、ワシントンを批判し、一方、穏健派の政治家たちは「イランはロシアによるウクライナ攻撃を非難して独自性を示さなければならない」と考えている。イランとロシアの関係は常に便宜的な同盟で、共通の価値によって結ばれているわけではない。

変貌したサウジ経済
―― 脱石油の経済モデルと財政規律

2022年3月号

カレン・ヤング 中東研究所ディレクター(経済・エネルギー担当)

石油を財源とする福祉国家モデルはもはや維持できないことを理解したサウジの指導者たちは、社会的支出の拡大を求める圧力が高まっているにもかかわらず、規律あるオーソドックスな財政政策を模索している。消費によって牽引される経済を促し、支出を削減し、世界的な石油需要の低下を乗り切ることを重視し、無駄をそぎ落とした政府を構築しようとしている。新たな歳入源を探るとともに、原油価格の変動に応じた歳出をなくすことで、サウジ政府は湾岸諸国における財政保守の新たなモデル基盤を築こうとしている。

中東における宗派対立の再燃
―― カギを握るイラン核合意の再建

2022年3月号

ヴァリ・ナスル ジョンズ・ホプキンス大学 高等国際問題研究大学院 教授(中東研究)

中ロが中東への関心を高め、イランが頑迷な路線を崩さず、スンニ派アラブ諸国がアメリカの安全保障コミットメントをかつてなく疑いだしたタイミングで、ワシントンは中東における活動を手控えようとしている。シーア派イランの優位を覆そうとするスンニ派の動きが地域的に広がりをみせている。しかも、混乱のなかで各国の社会契約が破綻し、国が機能不全に陥るなか、過激派の動きが勢いづいている。より安定した地域秩序への道を切り開かない限り、アメリカは遠ざかろうと試みても、結局、中東の地域紛争に引きずり込まれるだろう。大きな鍵を握るのが、イランとの核合意を再建できるかどうかだ。交渉が決裂すれば、イランとアメリカは危険な対立の道を再び歩み始め、アラブ世界を巻き込んで、宗派対立もさらに激化することになるだろう。

中東への新しいエンゲージメントを
―― 軍事援助から社会経済支援へ

2022年1月号

ダリア・ダッサ・ケイ カリフォルニア大学ロサンゼルス校 バークル国際関係センター シニアフェロー

アメリカが中東との関係を終わりにしたいと考えているとしても、アラブ諸国が同様に考えているわけではない。アメリカの中東からの撤退は現実的でないだけでなく、地域の人々の生活を向上させ、より公正な政治秩序の構築に貢献するためにアメリカはどのように政策を調整できるかという重要な議論を妨げてしまう。戦略的流動性のなかで、アメリカはこれまでとは違ったやり方で、経済開発と公平性のための戦略を考案し、遂行する機会を手にしている。巨大な軍事投資ではなく、現地の人々がより健全な生活を手に入れるのを妨げている社会経済問題や統治問題を解決するための投資を試みるべきだろう。


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