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中東に関する論文

CFR Interview
追い込まれたサウジアラビア

2016年2月号

トビー・マティーセン オックスフォード大学シニアリサーチフェロー

サウジ政府がエネルギー補助金の大幅な削減などの緊縮財政策を発表した後、ニムル師の処刑が実施されたのは偶然ではないし、同じタイミングでイエメンでの停戦合意をキャンセルして空爆を再開したのも偶然ではない。リヤドは宗派主義を政治ツールとして用いている。サウジにとって、イエメン、シリアでの紛争も思うようには展開していない。しかも、国内では経済問題を抱え、政治改革も行われていない。サウジが宗派対立や反イラン感情を煽るのは、こうした問題から民衆の関心をそらすためでもある。一方、地域的な反シーア派感情を煽り立て、ニムル師を処刑し、イランとの関係を遮断することで、ロウハニなどのサウジとの和解を求めるイランの穏健派の影響力は抑え込まれ、テヘランでは強硬派を勢いづかせている。一方で、サウジの新しい指導層もかなりの強硬派で、反イランの地域的グレートゲームの図式を、外交政策の基盤に据えている。・・・(聞き手はザチャリー・ローブ、オンラインライター・エディター)

サウジとイランの終わりなき抗争
―― 対立が終わらない四つの理由

2016年2月号

アーロン・デビッド・ミラー ウッドロー・ウィルソンセンター 副会長 (ニュー・イニシアティブ担当)、ジェイソン・ブロッドスキー  ウッドロー・ウィルソンセンター (リサーチアソシエーツ)

スンニ派の盟主、サウジは追い込まれていると感じている。原油価格は低下し、財政赤字が急激に増えている。イエメンのフーシ派に対する空爆コストも肥大化し、イランが地域的に台頭している。サウジは、複数の嵐に同時に襲われる「パーフェクトストーム」に直面している。一方、シーア派のイランは核合意によって経済制裁が解除された結果、今後、数十億ドル規模の利益を確保し、新たに国際社会での正統性も手に入れることになる。しかもテヘランは、シリアのアサド政権、イラク内のイラン寄りのシーア派勢力、レバノンのヒズボラを支援することで、地域的影響力とパワーを拡大している。シリア、イラクという中東紛争の舞台で、サウジとイランは代理戦争を展開し、いまや宗派対立の様相がますます鮮明になっている。このライバル抗争は当面終わることはない。その理由は四つある。・・・

CFR Events
激化する宗派対立と中東の混乱

2016年2月号

フィリップ・ゴードン 米外交問題評議会シニアフェロー (アメリカ外交担当)、レイ・タキー 米外交問題評議会シニアフェロー(中東担当)、アニヤ・シュメーマン 米外交問題評議会・ワシントンディレクター

「この10年間でイランは、イラク、レバントなど、かつてはプレゼンスをもっていなかった地域へと影響力を拡大している」とサウジはみている。一方イランは、「包囲されたサウジは、最近のシーア派指導者の処刑を含めて、自滅的な行動をとっている」とみなし、「これはリヤドが国内的に追い込まれている証拠だ」と考えている。もっとも、サウジでシーア派指導者が処刑されたことにイランが反発し宗派対立が激化することは、サウジにとっては織り込み済みだった。宗派対立の緊張を高め、スンニ派の立場を擁護していくとアピールし、サウジにおける支配体制を正当化できるとすれば、それはリヤドの利益になるからだ。さらに、今回の事件を通じてサウジが送ろうとしたメッセージの一つはワシントンを意識していた。すでに「アメリカはサウジの立場に反対している」とリヤドが判断しており、メッセージの目的は「サウジかイランか、どちらかを選ぶように」とワシントンに再考を迫ることにあった。・・・シリアやイエメンでの地域紛争が続く限り、基層部分に宗派対立という構図をもつサウジとイランの地政学的なライバル抗争は今後も続くだろう。・・・・

シリア紛争を外交的に決着させるには
―― 誰を暫定政府に参加させるのか

2016年2月号

ケネス・ロス ヒューマン・ライツ・ウォッチ エグゼクティブ・ディレクター

2015年10月のウィーン会議でシリア紛争を政治的解決に導くためにアウトラインが示されたが、合意には「それに必要な信頼感を紛争勢力間にどのように育んでいくか」という視点が欠けていた。必要なのは、シリア人を分裂させている民間人への攻撃の停止を求め、その責任を負うべき人物を協議の場から外すことで、信頼醸成に取り組むことだ。そのためにも最終的にはアサドを退陣させ、大量殺戮に関する真相究明委員会を立ち上げ、「重大な人権の乱用への責任を負っている」と判断された者は、公職から追放すべきだ。もちろん、イスラム国とヌスラ戦線を粉砕する必要もある。そして、少なくとも当初は強固な中央集権国家ではなく、一連の地方政府に多くの権限を与えるべきだろう。とにかく、民間人の殺戮を止めさせることが外交的解決に向けた最優先課題だろう。

イスラム国とカリフ制国家
―― 何が異質で、どこに継続性があるのか

2016年1月号

ヒシャム・メルヘム アルアラビヤ コラムニスト

イスラム国と、過去の原理主義運動の間には多くの連続性があるが、戦術と戦略には歴然とした違いがある。・・・イスラム国は、中東に国家を樹立することを主眼とし、イスラム教徒を虐殺することも厭わない。また、ソーシャルメディアなど最新のテクノロジーを駆使して、高度かつ広範にわたるプロパガンダを展開する点で、過去のいかなる原理主義組織とも大きく違っている。だがイスラム国が自らの目標を達成することはないだろう。中東のイスラム教徒たちは、イスラム国はまったく異質な存在であるという妄想を捨てて、イスラム国がマフディーやカリフを語るのは、イスラムの長い流血の伝統の一つにすぎないことを認めれば、イスラム国との戦いの本質、つまり、どの伝統が今後のイスラム教の中心になるかを決める戦いがみえてくるはずだ。・・・

介入が許される条件とは何か
―― J・S・ミルと不介入の薦め

2016年1月号

マイケル・ドイル コロンビア大学教授(政治学)

いまや(欧米が)いつ地上戦を含むシリアへの軍事介入に踏み切り、政府と市民の間に強引に割って入るのか、というテーマさえ浮上している。軍事介入についてどのような立場をとるかは、人道的介入、主権、国家安全保障を人々がどのように認識しているかに左右される。19世紀のイギリスの哲学者ジョン・スチュワート・ミルは、「自由や民主主義を強制するための軍事介入」を否定し、基本的に不介入主義を説いた。一方ミルは「人道的な懸念」や「国家安全保障上の必要性が相手国の主権以上に重視される場合」、或いは「相手国が分裂し、国家として機能していないために、主権を無視してもかまわない」ケースでは介入が許容されるとしている。現在のシリア紛争はどうだろうか。・・・

原油安が好ましいとは限らない。例えば、原油価格が今後10年にわたって50ドル前後で推移した場合、中東産油国へのわれわれの依存度は高まっていく。北米、ブラジル、アフリカなどの原油は生産コストが高いために、生産量は削減され、生産コストの安い一部の中東産油国の石油への需要と依存が高まっていく。一方、中東は、誰もが知るとおり、大きな混乱のなかにある。つまり、石油安全保障の観点からみれば、長期的に原油が低価格で推移するのは、かなりのリスクがある。・・・さらに原油安によって、やっと勢いづいた再生可能エネルギーへの支援策を政府が見直す危険もある。だがそうならなければ、石炭から再生可能エネルギーへの大きなシフトが起きる。電力生産部門での石炭のシェアは低下し、近い将来、再生可能エネルギーが石炭を抑えて最大のシェアをもつようになる。例えば、3人のうち2人が電力へのアクセスをもっていないアフリカのサハラ砂漠以南の地域が、化石燃料ではなく、再生可能エネルギーで経済成長を遂げる最初の大陸になると考えることもできる。彼らは再生可能エネルギー資源に恵まれているし、再生可能エネルギーによる電力生産コストは大幅に減少している。・・・・

封じ込めではなく、
イスラム国の打倒と粉砕を

2016年1月号

ヒラリー・クリントン 元米国務長官

結局のところ、米軍機やドローンによる攻撃を含む、われわれが利用できる全てのツールを用いて、テロの危険がある全ての地域で対策をとらなければならない。外国人戦士のイスラム国への流入と流出、テロ資金の流れを遮断し、サイバースペースでの闘いを試みることが、イスラム国との戦いには欠かせない。今後の脅威に対抗していく上でも、これらの試みが対策の基盤を提供することになるだろう。・・・われわれの目的をイスラム国の抑止や封じ込めではなく、彼らを打倒し、破壊することに据えなければならない。・・・「スンニ派の第2の覚醒」の基盤作りを試みる必要もある。・・・アサドがこれ以上民間人や反体制派を空爆で殺戮するのを阻止するために、飛行禁止空域も設定すべきだ。有志連合メンバー国が地上にいる反体制派を空から支援して安全地帯を形作れば、国内避難民もヨーロッパを目指すのでなく、国内に留まるようになる。・・・

プーチンの中東地政学戦略
―― ロシアを新戦略へ駆り立てた反発と不満

2016年1月号

アンジェラ・ステント  ジョージタウン大学教授(政治学)

ロシアによるグルジアとウクライナでの戦争、そしてクリミアの編入は、「ポスト冷戦ヨーロッパの安全保障構造から自国が締め出されている現状」に対するモスクワなりの答えだった。一方、シリア紛争への介入は「中東におけるロシアの影響力を再生する」というより大きな目的を見据えた行動だった。シリアに介入したことで、ロシアはポスト・アサドのシリアでも影響力を行使できるだけでなく、地域プレイヤーたちに「アメリカとは違って、ロシアは民衆蜂起から中東の指導者と政府を守り、反政府勢力が権力を奪取しようとしても、政府を見捨てることはない」というメッセージを送ったことになる。すでに2015年後半には、エジプト、イスラエル、ヨルダン、クウェート、サウジアラビア、アラブ首長国連邦の指導者たちが相次いでモスクワを訪問している。・・・すでにサウジは100億ドルを、主にロシアの農業プロジェクトのために投資することを約束し、・・・イラクはイスラム国との戦いにロシアの力を借りるかもしれないと示唆している。・・・

難民の自立を助けよ
―― 難民危機への経済開発アプローチを

2015年12月号

アレクサンダー・ベッツ オックスフォード大学教授(政治学)、ポール・コリアー オックスフォード大学教授(経済学)

長期的な難民生活を強いられている人々は、永続性のある解決策、つまり、母国あるいはその他の国が「平和的な社会に自分たちを統合してくれること」を願っている。昨今のシリア難民への対応をめぐるヨーロッパの混乱からみても、難民危機への新しいアプローチが必要なことは明らかだ。難民の生活レベルを改善する一方で、難民受け入れ国の経済、安全保障利益を高める政策が必要とされている。現在の古色蒼然たる政策を、特別経済区を作って、難民に雇用を提供することで自立の道を与え、社会に統合していく政策へと見直していく必要がある。最終的に紛争が終わった時に備えてシリア難民はビジネスの下地を作っておく必要がある。このプロセスを難民受け入れ国経済の発展にも寄与するものにしなければならない。こうしたアプローチなら、難民の必要性と受け入れ国の利益を重ねあわせられるし、他の難民危機への対応にも適用できるだろう。

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