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日本に関する論文

太平洋の断層線
―― 高まる中国の影響力

2022年7月号

チャールズ・エデル 米戦略国際問題研究所(CSIS)上級顧問

2022年4月、ソロモン諸島は「中国との安全保障協定を締結した」と発表し、5月後半には中国の王毅外相が同様の協定を取りつけようと太平洋の他の島嶼国を訪問した。しかも、ソロモン諸島との協定は「社会秩序を維持する」要請を受けた場合、中国は警察や軍を派遣できるとされている。こうした協定は中国軍の影響圏を拡大して、海上交通の要衝へのアクセスを与えることになる。こうして、太平洋諸島はグローバルな地政学的競争に引きずりこまれ、この地域の安全保障が損なわれる恐れがある。アメリカと同盟国は目を覚ますべきだ。北京がこれ以上、太平洋全域に軍事的プレゼンスを拡大するのを阻止するには、従来のアプローチを早急に見直す必要がある。・・・

ウクライナ危機と北朝鮮
―― 金正恩の思惑、変化した半島情勢

2022年5月号

スー・ミ・テリー 元米中央情報局(CIA)分析官

ロシアのウクライナ侵攻を前に、北朝鮮の指導者、金正恩は核の兵器庫を増強する決意をさらに強くしたはずだ。核を保有していれば、ロシアがあえてウクライナを攻撃したはずはないと彼は考えている。この半年間、北朝鮮は新型の潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM)、鉄道発車式弾道ミサイル、新型地対空ミサイルシステム、長距離巡航ミサイル、極超音速ミサイルを実験し、3月24日には米全土と欧州を射程に収めると考えられる大陸間弾道ミサイル(ICBM)を試射している。一方、次期韓国大統領の尹錫悦は文在寅よりもバイデンに近い立場をとると考えられ、平壌が核実験を行えば、2人はより積極的な制裁の実施に向けて連携するだろう。日米韓の連携を強化するために、ソウルが東京との関係を修復する必要性でもバイデンと次期韓国大統領は一致している。

秩序の崩壊と再生
―― 生き残るのは米中どちらの秩序か

2022年5月号

マイケル・ベックリー タフツ大学准教授(政治学)

ストレスの多い仕事をし、太った喫煙者の習近平は2030年代初頭には、生きていたとしても80代だ。中国の人口危機が本格化し、現在から2030年にかけて生産年齢人口は7000万程度減少し、高齢者人口が1億3000万増えると予測されている。これほど多くの課題に直面している国が、世界の富裕国からの断固とした反対を前にしても、独自の国際秩序を長く維持できるとは考えにくい。だがアメリカが主導する民主的秩序が維持されるという保証もない。2024年の米大統領選挙で憲政危機が起き、アメリカが国内闘争に陥る危険さえある。そうならないとしても、アメリカとその同盟国は立場の違いによって分断されていくかもしれない。よくも悪くも、明らかなことが一つある。それは、中国との競争が新しい国際秩序を形成しつつあることだ。

米同盟ネットワークの本質
―― 独仏日韓と同盟関係の未来

2022年4月号

ロバート・E・ケリー 釜山国立大学教授(政治学) ポール・ポースト シカゴ大学准教授(政治学)

傷ついた同盟関係を慎重に修復することをバイデンに求める人々は、トランプ政権期に実際に起きたことを誤解している。アメリカの同盟システムは、上下関係と依存そしてアメリカパワーの永続性の上に築かれている。このシステムは、世界的影響力を獲得・維持しようとするワシントンの努力を支えることでアメリカに利益をもたらし、同盟国には防衛費削減の道を開くだけでなく、貿易利益を拡大することで恩恵をもたらしてきた。これが同盟関係に奥行きと打たれ強さを与えてきた。トランプによる権限の乱用やバイデンによるアフガニスタンからの一方的撤退を同盟国が許容したのも、こうした奥行きをもっていたからだ。外交的伝統からの逸脱という空騒ぎがあったとしても、アメリカの同盟関係は極めて堅牢であり、いかに同盟国を安心させるかに思い悩む必要はない。

北朝鮮危機と台湾有事
―― 半島危機と台湾有事のリンケージ

2022年3月号

ソンミン・チョ 米国防総省 アジア太平洋安全保障研究センター 教授 オリアナ・スカイラー・マストロ  スタンフォード大学 国際問題研究所センターフェロー

北朝鮮がアメリカとその同盟国をミサイル発射で挑発したタイミングで、中国が他の地域で行動に出る恐れがある。すでにそのリスクは高まっているのかもしれない。中国と競い合っているアメリカにとっては特に深刻なダメージになるだろう。戦略的競争の時代にある現在、朝鮮半島、東シナ海、台湾海峡は、良くも悪くも、ますます関連性とリンケージを高めている。こうした安全保障環境の変化に対応するには、日米韓の戦略家がこれらの問題をパッケージ化して捉え、対応策を考案しなければならない。金正恩や習近平を牽制するには、必要なら二つの戦争を同時に戦い、その双方に勝利できることを立証する必要がある。

アメリカは台湾をめぐる戦争で敗北する軌道にある。だが今からでも路線を見直せる。既存のすぐに手に入る軍事資源の分配を見直し、より効率的な計画を立て、重要な同盟関係をうまく生かせば、アメリカは早ければ2020年代の半ばまでには、台湾をめぐる戦争を阻止し、必要であれば相手に勝利する能力を手に入れているはずだ。中国共産党の自制心や10年以上先にならなければ利用できない技術に賭けるのではなく、アメリカの議会と政府は、新たな太平洋防衛戦略を遂行しなければならない。「バトルフォース2025」を新たに構築すれば、アメリカとその同盟国は、中国の侵攻を短期的に抑止し、必要に応じて撃退できるようになる。

環境・社会・ガバナンスと政府の役割
―― 企業の社会的責任のポテンシャルと限界

2022年3月号

ダイアン・コイル  ケンブリッジ大学教授(公共政策)

「環境、社会、ガバナンス(ESG)」に関する活動報告を企業が導入しようと試みるのは歓迎すべき流れだが、こうした切実な問題を企業が解決できると考えるのは大きな間違いだろう。純粋に世界をよくすることに関心があるわけではなく、多くの企業は、ESG基準やその他の持続可能性の指標を主に自社の評判を上向かせるために利用していることも多い。社会変革に向けて行動を起こすべきはやはり政府で、経済に新たな規制を導入すべきだろう。市場をうまく機能させ、環境の持続可能性や低所得労働者の賃金向上など、社会的価値を映し出す法律も必要になる。世界が必要としているスピードと規模で社会の変化を実現するには、政府は、企業が決して同意しないような措置を規制で強制しなければならない。

パンデミックの現状をどう捉えるか
―― オミクロンとニューノーマル

2022年3月号

マイケル・T・オスタホルム ミネソタ大学感染症研究・政策センター所長 マーク・オルシェーカー 作家・フィルムメーカー

考えるべきは、現在進行しているヒトへの感染が新たな変異株を作りだしている危険があることだ。世界人口の約40%は依然としてCOVID19ワクチンを一度も接種しておらず、非常に感染に脆い状態にある。もちろん、オミクロンによる大規模感染とワクチン接種率の上昇が重なることで、最終的に現在のパンデミック(世界的流行)がエンデミック(地域的流行)へ後退し、インフルエンザのような季節性の呼吸器疾患へコロナが変化していくという楽観論もある。だが悲観的な見方をすれば、デルタとオミクロンは来るべき悪夢の前触れに過ぎないかもしれない。いずれ、以前のバージョンと同じかそれ以上の感染力をもち、より重篤な症状を引き起こし、免疫を回避する能力をもつ新しい変異株が登場するかもしれない。政府や国際機関は「あらゆる問題への解決策など持ちえないこと」を認識し、未知の事態に備える必要がある。




サプライチェーンの混乱と再編は続く
―― 産業政策と保護主義の長期的弊害

2022年2月号

シャノン・K・オニール  米外交問題評議会副会長

各国で産業政策が復活するにつれて、世界でいかにモノが作られ、提供されるかをめぐって構造的な変化が起きるかもしれない。グローバルな生産と流通を永久に変える可能性があるのは、パンデミックの一時的な余波ではなく、むしろこのような国の政策だ。市場や産業そして企業の活動に各国政府は直接的に影響を与えようと試みるようになった。理由は、グリーン経済への移行、公衆衛生対策、人権保護、国家安全保障など多岐にわたる。もちろん、保護主義や地政学的思惑もある。実際、経済・技術・国家安全保障上の思惑を基盤とする政策上のアメとムチの世界的な拡散とエスカレーションは、世界の半導体産業の再編にとってパンデミックによる供給不足以上に重要な意味合いを持っている。半導体だけではない。電気自動車などに使われる大容量バッテリー、重要鉱物(クリティカル・ミネラル)、重要な医薬品などへの政府の関与も高まりつつある。

台湾有事と日米同盟
―― 事前協議で解決しておくべき課題

2022年2月号

デビッド・サックス 米外交問題評議会 リサーチフェロー

中国は尖閣諸島を「台湾省」の一部とみなしているため、台湾をめぐって紛争になれば、尖閣諸島も攻略しようとするかもしれない。米軍の介入にもかかわらず、中国が目的を達成すれば、日本は、同盟国のアメリカはひどく弱体化したとみなし、外交政策や防衛態勢を根本的に見直さざるを得なくなるだろう。中国による台湾編入が成功すれば、日本の経済的安全保障も損なわれる。だが、市民の平和主義が根強いために、アメリカを支援することに伴う潜在的なコストやリスクが、日本による支援を制約することになるかもしれない。アメリカにとって重要なのは、中国が挑発もされないのに台湾を攻撃した場合に日本がどのように反応するか、東京がどのようなタイプの支援をどの程度提供する用意があるかについての理解を深めておくことだろう。

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