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ヨーロッパに関する論文

イギリスの新しい国際的役割とは
―― 衰退トレンドを克服するビジョンを

2016年3月

ピーター・マーチン APCOワールドワイド アソシエート・ディレクター

イギリスの政治階級は、バックミラーを見ながら、将来を考えようとしている。このために、変化する世界におけるイギリスの地位について考えることができずにいる。この現状の根底にあるのは、国家アイデンティティの危機だ。歴史的に、イギリスは世界の覇権国からの凋落を正面から受け止めてこなかった。この国の世論調査では依然として「我が国は大国であり続けることを望むべきか」という問いかけがなされる。2015年の調査でも63%がイエスと答えているが、世界は、大国としてのイギリスの時代が終わっていることを知っている。イギリスの衰退を覆すには、過去を前提にするのではなく、未来から現在を捉える必要がある。ロンドンは、イギリスのことを「グローバル化を促進するとともに、その問題に対処していくことを目的とする思想と議論を提供し、橋渡し役を担う存在にすること」を考えるべきだろう。

ユーラシアに迫り来るアナキー
―― ユーラシアのカオスと中ロの対外強硬路線

2016年3月号

ロバート・カプラン ニューアメリカン・セキュリティセンター シニアフェロー

1930年代までに十分なパワーを培ったドイツが対外侵略に打ってでたのとは逆に、中ロという現在のリビジョニスト国家は、国内の不安定化、脆弱性ゆえに対外強硬路線をとっている。ロシアは深刻なリセッションに陥っているし、中国の株式市場のクラッシュは今後の金融混乱を予兆している。経済的苦境のなかでアナキーに陥れば、中ロはナショナリズムを高揚させ、不満を募らす民衆の関心を外へ向かわせることで、内的な結束を固めようとするかもれない。クレムリンでのクーデター、ロシアの部分的解体、中国西部でのイスラムテロ、北京における派閥抗争、中央アジアの政治的混乱など、ワシントンは、カオスの到来に備えるべきだ。冷戦、ポスト冷戦という比較的穏やかな時代は過ぎ去り、ユーラシアの解体に伴うアナキーに派生する長期的な大国間紛争の時代に備えるべきだろう。

長期停滞にどう向き合うか
―― 金融政策の限界と財政政策の役割

2016年3月号

ローレンス・サマーズ 元米財務長官

今後10年にわたって、先進国のインフレ率は1%程度で、実質金利はゼロに近い状態が続くと市場は読んでいる。アメリカ経済についても同様だ。回復基調に転じて7年が経つとはいえ、市場は、経済がノーマルな復活を遂げるとは考えていない。この見方を理解するには、エコノミストのアルヴィン・ハンセンが1930年に示した長期停滞論に目を向ける必要がある。長期停滞論の見方に従えば、先進国経済は、貯蓄性向が増大し、投資性向が低下していることに派生する不均衡に苦しんでいる。その結果、過剰な貯蓄が需要を抑え込み、経済成長率とインフレ率を低下させ、貯蓄と投資のインバランスが実質金利を抑え込んでいる。この数年にわたって先進国を悩ませている、こうした日本型の経済停滞が、今後、当面続くことになるかもしれない。だが、打開策はある。・・・

平等と格差の社会思想史
―― 労働運動からドラッカー、そしてシュンペーターへ

2016年2月号

ピエール・ロザンヴァロン コレージュ・ド・フランス教授(政治史)

多くの人は貧困関連の社会統計や極端な貧困のケースを前に驚愕し、格差の現状を嘆きつつも、「ダイナミックな経済システムのなかで所得格差が生じるのは避けられない」と考えている。要するに、目に余る格差に対して道義的な反感を示しつつも、格差是正に向けた理論的基盤への確固たるコンセンサスは存在しない。だが、20世紀初頭から中盤にかけては、そうしたコンセンサスがなかったにも関わらず、一連の社会保障政策が導入され、格差は大きく縮小した。これは、政治指導者たちが、共産主義革命に象徴される社会革命運動を警戒したからだった。だが、冷戦が終わり、平和の時代が続くと、市民の国家コミュニティへの帰属意識も薄れ、福祉国家は深刻な危機の時代を迎えた。財政的理由からだけでなく、個人の責任が社会生活を規定する要因として復活し、ドラッカーから再びシュンペーターの時代へと移行するなかで、社会的危機という概念そのものが形骸化している。・・・

政治家アンゲラ・メルケルの光と影
―― 難民危機で問われる政治的立場

2016年2月号

クレア・グリーンシュタイン ノースカロライナ大学チャペルヒル校  博士候補生、ブランドン・テンスリー フルブライトスカラー(2012―2013)

アンゲラ・メルケルはメリハリがある政治家ではない。しかし、とにかく落ち着いている。政策も野心に満ちた大胆なものと言うよりも、穏やかさを特徴とする。彼女の政権が、ドイツ経済が安定していることを追い風としてきたのは間違いなく、プーチンとの対話チャンネルを維持していることも、彼女の対外的影響力を支えてきた。実際、ドイツはロシアにとって友人にもっとも近い存在であり、メルケルがロシア語を話せることもあって、ワシントンは実質的にドイツにあらゆるロシアとの交渉を代弁させている。だが、彼女の難民受け入れに寛容な路線を前に、キリスト教民主同盟内の反発が高まり、ドイツ市民の不満も高まっている。彼女の路線は「道義的帝国主義」と批判され、今後、極右勢力が勢いづいていくかもしない。・・・・市民の苛立ちは高まっているが、依然としてメルケルは潜在的な後継者を圧倒する力をもっている。

米欧データ戦争の衝撃
―― 覇者の奢りとヨーロッパの反撃

2016年2月号

ヘンリー・ファレル ジョージ・ワシントン大学 准教授(政治学、国際関係論)、エイブラハム・ニューマン ジョージタウン大学准教授

2015年10月、欧州司法裁判所は、「米民間企業によるデータ収集とアメリカ政府の国家安全保障活動の境界が曖昧である以上、(ヨーロッパの個人情報をEU域外に移転することを認めてきた)セーフハーバー協定を無効化する」という判決を下した。EUは域内企業を外国との競争から一方的に保護し、インターネットのオープンで民主的な特質を傷つけようとしていると批判する人もいる。しかし、オープンで安全なインターネット環境を擁護しつつ、アメリカはオンライン通信の暗号を無効化し、広範な通信監視システムを構築してきた。ワシントンが世界の相互依存状況を自国の安全保障目的に利用し続ければ、今回の判決がきっかけとなって、今後、他の国々と裁判所は、アメリカ中心の世界経済にますます抵抗するようになり、グローバルなクラウドコンピューティング構築の夢は絶たれ、デジタルの暗黒時代へと向かう恐れがある。

ヨーロッパの政治的混乱とイスラム主義
―― 代替策なきヨーロッパに苦悶する若者たち

2016年1月号

ケナン・マリク インターナショナル・ニューヨーク・タイムズ紙 コラムニスト

イスラム教徒の若者だけではない。ヨーロッパの若者の多くがその政治プロセスに幻滅し、自分の声を届けられないことへの政治的無力感、メインストリームの政党も、教会や労働組合のような社会的集団も自分たちの懸念や必要性を理解していないことへの絶望が社会に蔓延している。これまでなら、そうしたメインストリームに対する不満を抱く若者の多くは政治的変化を求める運動に身を投じたが、いまやそうした政治運動も現実との関連性を失っている。そして移民の社会的統合を目指したヨーロッパの社会政策が、より分裂した社会を作り出し、帰属とアイデンティティに関する視野の狭いビジョンを台頭させてしまった。皮肉にも、こうした欧州の社会政策が、不満をジハード主義に転化させる空間の形成に手を貸してしまっている。・・・・

ヨーロッパの危機と分裂をどうとらえるか
―― ドイツの覇権、移民、分離独立の流れ

2016年1月号

ニゲアー・ウッズ オックスフォード大学教授 (グローバル経済ガバナンス)

押し寄せる難民が「域内移動の自由」というEUの中核原則を脅かし、ギリシャ危機はユーロの存続に依然として大きな圧力をかけている。しかも、イギリスでは、EU脱退の是非を問う国民投票が近く実施される。どうみてもEUの存続は、かつてなく脅かされている。一方で、統合支持派はギリシャなど、ソブリンリスクを抱え込んだ諸国への寛大な救済策が政治的に許容されたことそのものが、統合が成功していることを裏付けていると言う。しかし、ユーロ圏メンバー国が団結したのは、ギリシャのユーロ脱退コストが、救済コストよりも高くつくことがわかっていたからだ。結局、EUにおけるドイツの事実上の覇権が今後さらに強化されていくだろう。だが多くの国にとって、ユーロ危機は、(緊縮財政を求める)ドイツの影響力を野放しにするとどうなるかを認識する機会でもあった。「欧州連合は少しずつ、『非民主主義的なドイツに支配されるヨーロッパ』へと変化している」という批判も出てきている・・・。

北欧モデルの教訓とは
―― テクノクラシーとポピュリズムの間

2015年12月号

ファブリッツィオ・タッシナーリ デンマーク国際問題研究所 外交政策研究部長

北欧諸国は民主社会主義を通じて市場経済と普遍的社会保障間の均衡を見いだし、大きな成功を収めてきたと考えられている。男女平等、国民皆保険、持続可能なエネルギーといった北欧発の進歩的社会政策はいまや広く世界に浸透し、これまで北欧(スカンジナビア)モデルは大きな称賛の対象とされてきた。さらに北欧諸国は他に先駆けて効率的で公正なテクノクラシーを確立してきた。だが近年では、移民規制や緊縮財政といった論争の対象とされる政策を実施し、反EU、反移民をスローガンに掲げる急進的なポピュリズム政党も台頭している。いまや北欧モデルも、自由民主主義とポピュリズムの政治運動との均衡を見いだす必要に新たに迫られている。

フランスのユダヤ人
―― シオニズムとフランスへの忠誠

2015年12月号

リサ・モーゼス・レフ
アメリカン大学准教授(歴史学)

現在と過去の反ユダヤ主義には多くの違いがあるが、基本的な構造は似ている。その背景には、政治と経済の危機があるし、世界中の民主主義国がアイデンティティーとその純度を重視する運動の圧力にさらされていることにも関係がある。そして、人種差別によって多くの人の機会が制限され、各国内の経済格差が劇的に拡大している。現代の反ユダヤ主義を突き動かしているのは、こうした社会の現象と風潮であり、イスラム教対ユダヤ・キリスト教の「文明の衝突」ではない。これをユダヤ人だけでなく、社会全体の問題として捉えなければならない。かつて自分がユダヤ人であることを公言して、フランスの首相になったレオン・ブルムも、「ユダヤ人問題と社会全体の問題間の区別はない」と考え、社会問題へ同じアプローチをとった。この思想を現在のフランス政府も引き継いでいる。

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