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政治家アンゲラ・メルケルの光と影
―― 難民危機で問われる政治的立場

クレア・グリーンシュタイン ノースカロライナ大学チャペルヒル校  博士候補生、ブランドン・テンスリー フルブライトスカラー(2012―2013)

The Merkel Magic

Claire Greenstein ノースカロライナ大学チャペルヒル校、博士候補生(比較政治)。
Brandon Tensley 2012―13年にフルブライトスカラーとしてドイツで研究し、現在はルーススカラーとしてタイに滞在している。

2016年2月号掲載論文

アンゲラ・メルケルはメリハリがある政治家ではない。しかし、とにかく落ち着いている。政策も野心に満ちた大胆なものと言うよりも、穏やかさを特徴とする。彼女の政権が、ドイツ経済が安定していることを追い風としてきたのは間違いなく、プーチンとの対話チャンネルを維持していることも、彼女の対外的影響力を支えてきた。実際、ドイツはロシアにとって友人にもっとも近い存在であり、メルケルがロシア語を話せることもあって、ワシントンは実質的にドイツにあらゆるロシアとの交渉を代弁させている。だが、彼女の難民受け入れに寛容な路線を前に、キリスト教民主同盟内の反発が高まり、ドイツ市民の不満も高まっている。彼女の路線は「道義的帝国主義」と批判され、今後、極右勢力が勢いづいていくかもしない。・・・・市民の苛立ちは高まっているが、依然としてメルケルは潜在的な後継者を圧倒する力をもっている。

  • ヨーロッパにおけるリーダーシップ
  • 何がメルケルを政治的に支えているのか
  • 指導者への道
  • 難民への対応

<ヨーロッパにおけるリーダーシップ>

2015年11月、アンゲラ・メルケル独首相は就任10周年を迎えた。彼女は、他のヨーロッパの指導者たちが目先の問題に翻弄されていたタイミングでも、ヨーロッパでもっともパワフルな国家、強靱な経済をもつ国の指導者として見事なリーダーシップを発揮してきた。11月13日にパリ同時多発テロが起き、イスラム国が犯行声明を出したときも、メルケルは「自由はテロよりも強い」と力強く表明し、「テロ実行犯を追い込んで、殲滅させる」というフランス政府の立場に理解を示し、共闘していくと表明する一方で、ヨーロッパ統合を支持する指導者として、ヨーロッパとその同盟諸国の連帯を強く訴えた。

この10年にわたってヨーロッパは大恐慌以来、もっとも深刻な経済的混乱を経験しているが、それでも彼女は(2005年以降)指導者のポストを維持している。対外的にも、彼女は、嫌がるプーチンを説得して、ウクライナ紛争や欧州連合加盟国との緊張を緩和させる措置を受け入れさせた。国連が言う「第二次世界大戦以降における最悪の難民危機」を前にしても、彼女は力強いリーダーシップを発揮している。メルケルは、ヨーロッパの「気乗りのしない覇権国」を危機に率先して対応する国家へと進化させた。それだけではない。EUの先行きが不透明になっている現状でも、ヨーロッパを束ねていくリーダーシップを発揮している。

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