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中国に関する論文

米中に引き裂かれる世界
―― 欧米なき世界と中国なき世界への分裂

2013年9月号

マーク・レナード
ヨーロッパ外交問題評議会共同設立者

冷戦期には、超大国の社会が次第に似た存在になっていくことで、緊張緩和(デタント)が育まれていった。だが、現在の国際的相互依存環境では、このダイナミクスが逆転する。大国間の立場が違えば関係は相互補完的になり、協調へと向かうが、似通った国へと収斂していけば、むしろ対立と紛争のルーツが作り出される。米中関係はまさにこのパターンに符合する。事実、もはや中国には、欧米が主導する国際アジェンダを支持するつもりはなく、中国はすでにグローバル秩序を変化させようと洗練された多国間外交を展開している。欧米も、TPPやTTIPなど、自らの思い通りに国際システムを作り替えようとする中国の能力を制約するような関係と政策を模索している。緊張が高まっていけば、米中関係においてこれまで機会と考えられてきたものが、脅威とみなされるようになる。今後出現するのは、表面的には冷戦構造に似た、新しく奇妙な二極世界になるだろう。

Foreign Affairs Update
習近平が質素・倹約を求める理由
―― 儒教的価値と政治的支持

2013年9月号

ジョン・デルーリー
延世大学国際関係大学院
アシスタント・プロフェッサー

中国共産党総書記に就任して以降、習近平は政府官僚に対して質素・倹約を求める一連の緊縮措置を通達している。政府官僚が豪華な晩餐会を主催することは禁止され、デザイナーウォッチを身につけることも、新たに政府ビルを建設することも禁止されている。だが、緊縮財政といっても彼の意図は、経済領域にではなく、政治領域にある。「政治腐敗とは無縁の清廉潔白な官吏」という儒教の古い規範は、現在の資本主義と共産主義が交錯する準儒教的な中国社会でも依然として強く意識されており、習近平は優れた統治に関する伝統的な概念をアピールすることで自分の政治的支持につなげたいと考えている。逆に言えば、習近平は、GDPの成長率以上の何かが危機にさらされていると感じている。一時的には支持は高まるかもしれない。だが長期的には、トップダウンの規律強化路線だけでなく、政府の説明責任を求めるボトムアップの流れが必要だ。この二つを一体化させない限り、政治改革としての緊縮路線は近くその限界に達することになる。

模倣せよ、本物を造れるまで
―― 中国経済のイノベーションとイミテーション

2013年8月号

カル・ラウスティアラ/カリフォルニア大学ロサンゼルス校 国際関係センター所長
クリストファー・スプリグマン/バージニア大学法科大学院特任教授

知的所有権、著作権の侵害行為には破壊的な側面もあるが、生産的な側面もある。中国政府が模倣活動に目をつぶり、ときにそれを奨励しているとしても、欧米企業が直ちに大きなダメージを被ることはない。中国ではまだほとんどの人々が貧しく、欧米製品を買えるのは一握りの富裕層に過ぎないため、コピー商品が必ずしも欧米企業の売り上げを低下させるとは限らないからだ。それどころか、コピー商品は、オリジナル製品の効果的な前宣伝になることが多い。かつてのアメリカも模倣経済国家だったことを思い出すべきだ。ベンジャミン・フランクリンはイギリスの作家の本を許可もなくアメリカで出版し、これに対してチャールズ・ディケンズは、多くのイギリス人作家の感情を代弁して、「アメリカ人が私の本で莫大な利益を上げても、そこから6ペンスも得られないというこの上ない正義」と皮肉ったものだ。だが、アメリカで海賊版が幅広く流通したことが彼の社会的認知度を高め、後にディケンズはアメリカで一財産を築くことになる。中国の模倣活動をうまく管理し、そのマイナス面とプラス面の双方をバランスよくとらえるべきだろう。

CFR Interview
薄熙来公判と中国の法の支配
―― 高まる社会不満と指導層の混乱

2013年8月号

ジェローム・コーエン
ニューヨーク大学教授

中国では、政治腐敗を含めて、とにかく不正に対する人々の反発が高まっている。社会不満を感じる多くの人々は、自分たちの声が社会に反映され、高潔さと社会的調和を重視する裁判を求めている。それだけに薄熙来の公判は人々の大きな関心を集めた。(毛沢東主義的な見せしめ裁判としての思惑と側面があったとしても)、公判中に彼が発言し、自分で弁護することが許されたこと、それが、共産党の政治裁判では非常に珍しいケースであることを、彼の支援者を含む、多くの人が感じたはずだ。さらに、一部検閲されているとはいえ、彼の発言は文書化され公開された。これは中国における法の正義にとっては、画期的な進歩だ。だが、政治腐敗その他への高まる社会不満は政府に圧力として跳ね返ってきており、これが今後、どの程度深刻化していくかわからない状況にある。習近平体制は大きな混乱のなかにある。

北朝鮮は経済改革を模索している
―― 崩壊か経済改革か

2013年8月号

ジョン・デルーリー 延世大学国際関係大学院准教授

北朝鮮は2030年までに崩壊すると予測する専門家もいるが、平壌はすでに中国流の経済改革導入への道を歩みつつあるとみなすこともできる。これを理解するには、中国はどのような手順で改革へと歩を進めたかを考える必要がある。1960年代に核兵器を獲得した北京は、1970年代に対米デタントによって体制の安定と安全を確保した上で、経済改革路線を優先させるようになった。つまり、今日の北朝鮮は1970年の中国同様に、経済改革に着手する前に、まずワシントンから体制の安全に関する保証を取り付けたいと考えている段階にある。金正恩は「経済建設」の次の局面に進みたいと考えていると示唆し、4月1日には実務派テクノクラートの朴奉珠を首相に登用して、経済成長の舵取りを委ねている。朴奉珠が北朝鮮の首相に抜擢されたこと自体、金正恩が経済を重視し、改革志向を持っていることの現れとみなせる。平壌の穏健派に力を与えるためにも、アメリカは強硬策ではなく、北朝鮮の安全を保証し、経済改革にむけた環境整備に手を貸すべきだ。体制を揺さぶり、崩壊を待つ路線を続ければ、偶発事件によって次なる朝鮮戦争が誘発される恐れがある。

中国における外国医薬品メーカー黄金期の終わり?――国内産業育成策で変化するビジネス環境

2013年8月号

ヤンゾン・ファン 外交問題評議会シニア・フェロー グローバル・ヘルス担当

多国籍製薬企業にとって中国市場が依然として夢の市場であることに変わりはない。しかし、そのビジネス環境は今や大きく変わりつつある。中国政府は、国内の製薬企業が競争優位に立てるようなルールを選択的に強制しつつあるようだ。すでに、中国政府は特許法を見直し、強制ライセンシング制度を導入して、国内企業による後発医薬品の生産に道を開いている。多国籍企業が当面中国の製薬企業に対する優位を維持するとしても、今後、より困難で複雑なビジネス環境に直面することになるのは間違いない。

北極圏開発ブームに備えよ

2013年7月号

スコット・G・ボルガーソン / 北極圏サークル共同設立者

夏場の北極圏から氷がなくなるのはいつなのか。その時期は2075年とも2035年とも、あるいは2020年とさえ言われる。これが現実となった段階で北極圏のエコシステムは劇的に変化する。だが、悪いことばかりではない。氷が溶け出すにつれて、世界の石油と天然ガス未確認資源の4分の1と膨大な鉱物資源を含む、北極圏の豊かな資源へのアクセスが開かれつつある。夏場に誕生する北極海の航路によって太平洋と大西洋間の距離は数千マイル短くなり、いずれ北極海がグローバルな海洋ルートの拠点になるポテンシャルも生まれている。さらに、北極海周辺諸国はこれまでのライバル競争をやめて、協調するようになった。アンカレッジやレイキャビクのような都市はいずれ主要な海洋輸送の拠点、金融センターとして、高緯度におけるシンガポールとドバイのような役割を果たすようになるかもしれない。最大の試金石は、環境と開発のバランスをいかにうまくとるかにある。

中国の経済成長モデル見直しとエネルギー価格の自由化

2013年7月号

ダミアン・マ
ポールソン研究所フェロー

相対的に貧困な国で経済が急拡大した場合、インフレを警戒する必要がある。外国からの原材料輸入とともにインフレも輸入してしまうリスクがあるからだ。中国政府はこのリスクを回避しようと重工業を中心とする基幹産業のために人為的にエネルギー価格を抑え込む価格統制策をとってきた。低めに抑えられたエネルギー価格は、低く抑えられた為替レート同様に輸出競争力を支え、(インフレの抑制と)輸出主導型の経済成長モデルに貢献した。だがその結果、エネルギーの利用効率の改善や環境問題への配慮は二の次とされ、深刻な環境汚染と社会不満が広がりをみせ、いまや経済モデルを見直さざるを得なくなっている。すでに北京の新体制は中国の経済モデル移行に向けた重要な一部として、エネルギーの価格改革に高い優先順位を与えているようだ。現実にそうなれば、中央統制経済のもっとも頑迷な遺産を中国が取り払おうとしていることへの明確なメッセージになる。

中国はドローンを何に用いるつもりなのか

2013年7月号

アンドリュー・エリクソン 米海軍大学准教授
オースチン・ストレンジ  米海軍大学中国海洋研究所リサーチャー

「中国や他の独裁国家がドローンを入手したらどうなるか」と気を揉む段階はすでに終わっている。すでに中国はドローンを保有している。問題は、いつ、どのようにこれを使用するかだ。専門家は、中国空軍だけでも280機以上の戦闘用ドローンを保有しているとみている。これは、アメリカを例外とすれば、中国が世界最大の規模のドローンと洗練された関連技術基盤を持っていることを意味する。引退した彭光謙(ポン・グワンチエン)元少将が2013年に認めたように、中国は、日本との領有権論争を抱える尖閣諸島(中国名―釣魚島)の写真を撮るためにすでにドローンを利用し、北朝鮮との国境地帯の動きを監視するのにもドローンを用いている。たしかに、内政不干渉の原則と主権を重視する中国は、外国に対するドローン攻撃には慎重な立場を崩していないが、偵察・監視を超えて、敵のシステムのジャミングなどの電子戦争支援、ミサイルなどによるピンポイント攻撃のターゲット特定など、中国がドローンを兵器としてではなくとも、軍事行動の支援ツールとして利用する可能性は十分にある。

経済相互依存で日中紛争を抑え込めるか
―― ナショナリズムかそれとも貿易か

2013年7月号

リチャード・カッツ
オリエンタル・エコノミック・リポート誌編集長

尖閣問題をめぐって緊張が高まっているとはいえ、現状では日中の経済相互依存とワシントンの防衛コミットメントによって、何とか平和が保たれている。もちろん、この海域で武装した(日中の)船が偶発的に衝突すれば、意図しない紛争へとエスカレートする危険もある。だが、より重要なポイントは、日中の経済的相互依存が紛争のリスクを抑え込めるかどうかだろう。安倍晋三首相が、2012年の選挙キャンペーンで表明した強硬路線を手控えているのは、日本が経済的に中国に依存していることで、ある程度説明できる。中国も同様で、その輸出主導型経済は(日本からの)輸入に依存している。2013年3月に北京で開かれた日中経済協議の際に中国の李克強首相はメディアに対して「自分が日本の財界指導者と握手している様子を写真にとらないように」と要請したかもしれないが、それでも、日本の経済指導者たちに対中投資を要請している。雇用と歳入を求める中国各省の政府も、危機が先鋭化した後も、日本企業に中国での事業を拡大するように強く求めている。現状では、相互抑止の経済バージョンがエスカレーションを抑え込んでいる。

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