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中国に関する論文

経済活動再開の恩恵とリスク
―― 感染率拡大の国家間格差はなぜ生じたか

2020年8月号

ジョシュ・ミックハウド  カイザーファミリー財団  アソシエイト・ディレクター (グローバルヘルス政策担当) ジェン・ケーツ  カイザーファミリー財団  シニアバイスプレジデント (グローバルヘルス&HIV政策担当)

都市封鎖、行動規制解除後の感染率の推移は国ごとにばらつきがある。感染を封じ込めるほど十分長期にわたって封鎖や行動規制を続け、公衆衛生システムを強化し、レジリエンスを高め、社会にメッセージを適切に伝えた国は、日常生活への復帰後も壊滅的な事態には陥っていない。しかし、大した準備もせずに、経済・社会活動の再開に踏み切り、いまや大きなコストを支払わされているブラジルやアメリカのような国もある。経済・社会活動再開のための最善の計画も、予期せぬ事態に遭遇することもある。各国で、ステイホームの指令やソーシャルディスタンシングのガイドラインがデモ行動で覆されたことはその具体例だ。社会・経済活動再開に向けたロードマップが存在することは安心材料だが、数週間から数カ月先にはそれを書き換える必要が出てくるだろう。

アジアにおける戦争を防ぐには
―― 米抑止力の形骸化と中国の誤算リスク

2020年7月号

ミシェル・A・フロノイ 元米国防次官

中国の積極性の高まりと軍備増強、一方での米抑止力の後退が重なり合うことで、米中戦争がアジアで起きるリスクはこの数十年で最大限に高まっており、しかもそのリスクは拡大し続けている。アメリカを衰退途上の国家だと確信し、すでに抑止力は空洞化しているとみなせば、北京は状況を見誤って台湾を封鎖あるいは攻撃する恐れがある。早い段階で台湾に侵攻して既成事実を作り、ワシントンがそれを受け入れざるを得ない状況を作るべきだと北京は考えているかもしれない。要するに、北京はワシントンの決意と能力を疑っている。こうして誤算が起きるリスク、つまり、抑止状況が崩れ、2つの核保有国間で紛争が起きる危険が高まっている。

デジタル人民元とドル
―― 脅かされる米ドルの覇権

2020年7月号

アディティ・クマール ハーバード大学ケネディスクール ベルファー・センター エグゼクティブディレクター
エリック・ローゼンバッハ ハーバード大学ケネディスクール ベルファー・センター 共同ディレクター

一帯一路を通じて世界のインフラプロジェクトに資金を提供している北京が、途上国の金融インフラに投資すれば、この構想を補完する「デジタル一帯一路」を構築できるし、中国と大規模な輸出入関係にある企業に、アリペイを使って「デジタル人民元」で取引するように促すこともできる。実際、中国のデジタル通貨を利用できるようになれば、(経済制裁の対象にされても)テヘランはドル建ての取引と決済、そして米金融機関を迂回できるようになる。迫りくる「デジタル通貨の時代」における経済的優位を守るには、ワシントンは直ちに行動を起こす必要がある。競争力のあるデジタル通貨をワシントンが開発できなければ、情報化時代におけるアメリカのグローバルな影響力は大きく損なわれることになるかもしれない。

準備通貨ドルとデジタル人民元
―― 何がドル覇権を支えているのか

2020年7月号

ヘンリー・M・ポールソン・Jr  元米財務長官

ワシントンは、中国との競争で実際に何が危機にさらされ、問われているのかを明確に認識する必要がある。アメリカは金融と技術部門のイノベーションのリードを維持すべきだが、中国のデジタル通貨が米ドルに与える衝撃を過大評価する必要はない。むしろ、ドルの優位性を生み出した条件を維持していくことに気を配るべきだ。この意味で、健全なマクロ経済と財政政策が支える躍動的な経済、透明で開放的な政治システムと国際社会での政治・経済・安全保障上のリーダーシップを維持していく必要がある。つまり、ドルの覇権的地位を維持できるかは、中国で何が起こるかよりも、コロナウイルス後の経済にアメリカが適応していく能力、成功モデルであり続ける能力に左右されるだろう。

CFR Briefing
香港と国家安全法
―― 我々の知る香港の終わり?

2020年7月号

ジェローム・A・コーエン 米外交問題評議会シニアフェロー

北京が国家安全法を導入すれば、これまで香港に約束されてきた(一国二制度に基づく)自治体制は実質的に終わりを迎えることになる。全人代で同法の制定方針を取り付けた北京は、香港の民主化運動を鎮圧する動きをすでにみせている。結局、北京は「香港の一国二制度の枠組みは着実に手に負えない状況を作り出しつつあり、香港民衆による抗議行動を阻止しなければ、情勢は手に負えなくなる」と先読みしているようだ。国際社会での香港弾圧への懸念も高まっている。イギリス当局は、北京が今後も立場を変えなければ、英国海外市民(BNO)旅券保有者は英国に住んで働き、最終的には英国の市民権を得ることを許されるかもしれないと示唆している。・・・

迫り来るアナーキー
―― 米中対立と国際社会

2020年6月号

ケビン・ラッド  アジア・ソサエティ政策研究所・会長 元オーストラリア首相

パンデミックの残骸のなかから、パックス・シニカが生まれたり、パックス・アメリカーナが再出現したりすることはあり得ない。むしろ、米中のパワーは国内においても対外的にも衰退していく。その結果、国際的アナーキーに向けた着実な漂流が続くだろう。秩序と協調の代わりに、様々な形態のナショナリズムが噴出する。米中対立が拡大するにつれて、多国間システムとそれを支えてきた規範や制度はすでに崩れ始めている。多くの多国間機関は、むしろ、米中のライバル関係の舞台と化しつつある。アメリカも中国もダメージを受け、しかもそこには、ジョセフ・ナイが言う、「国際システムを機能させるシステムマネージャー」はいない。間違った決断をし、配慮を怠れば、2020年代は1930年代へ回帰していく。

中国に迫り来る大混乱
―― コロナウイルスと不安定化する体制

2020年5月号

ミンシン・ペイ クレアモント・マッケナ大学教授

習近平改革のすべては、結局、共産党を弱体化させている。国有企業の不自然な成長は中国経済の構造を歪め、監視体制の強化は人々の反発を買い、新型コロナウイルス拡散への対応は、政府に対する市民の失望を高めた。米中競争に派生する緊張が、民衆を習近平体制の打倒へ向かわせるかもしれない。習の威信と権力が傷つけば、彼の政治的ライバルたちが大胆な行動をとるようになるかもしれない。少なくとも指導層内部での不協和音が大きくなれば、習近平の不安とパラノイア志向は大きくなり、着実なコースを描く彼の能力はさらに損なわれる。コロナウイルスの対応を含む、過去数カ月の出来事は、共産党の支配体制が多くの人が考える以上に不安定化していることを示している。

コロナウイルスと米中の覇権
―― パンデミックと中国の野心

2020年5月号

カート・M・キャンベル  元米国務次官補(東アジア・太平洋担当) ラッシュ・ドーシ  ブルッキングズ研究所 中国戦略イニシアティブ・ディレクター

ワシントンがパンデミック対策に失敗する一方、迅速な動きをみせた北京は、パンデミックの対応を主導するグローバルリーダーとして自らを位置づけようと試みている。自国の体制のメリットを喧伝し、諸外国に援助を提供し、外国政府を一つの方向へ動員しようとするなど、大胆な行動をみせている。アウトブレイクを隠蔽しようとした北京の初動ミスが、世界の多くの地域を苦しめている危機を助長したのは事実だろう。それでも、「中国がリーダーシップをとっているようにみなされ、ワシントンにはその能力も意思もないと判断されれば」、21世紀の世界のリーダー争いを根本的に変化させられることを北京は理解している。

ウイルスの拡散を封じ込めようと奮闘するなか、欧米のリベラルな民主国家は、アウトブレイクを制限するための中国のやり方に注目し、権威主義的な手法の一部を採用すべきかどうかを考えている。この10年というもの、中国はデジタル権威主義の監視(サーベイランス)国家を構築し、5G技術やオーウェル的な顔認識システムを外国に輸出してきた。パンデミックとの闘いにおいて強固なサーベイランス体制が不可欠であることを東アジア諸国はすでに立証している。一方、欧米の民主国家は、自国の市民を守るための「民主的サーベイランス」を確立しなければならない。どのようなモデルなら、リベラルな価値を犠牲にすることなく、AIの能力を利用したサーベイランス上の大きな恩恵を生かせるだろうか。今後数年間で、疫学とテクノロジー部門の世界的な混乱が重なり合い、グローバルな歴史が形作られることになる。

ビッグテックを分割すべき理由
―― 分割で米国家安全保障は強化される

2020年4月号

ガネシュ・シタラマン  ヴァンダービルト法科大学院 教授

大きな利益を計上し、成長し、強大化している巨大テクノロジー企業が、政府から分割される脅威から逃れようと「自分たちを分割すれば、中国が利益を手にする」と国家安全保障問題を引き合いに出していることに不思議はない。しかし、国家安全保障の観点からも、ビッグテックを競争から保護する理由はない。アメリカのビッグテックは中国と競争しているというより、むしろ中国と統合しようとしており、この状況の方がアメリカにとってより大きな脅威だ。アメリカにとって、イノベーションを生み出す最善の道筋は、統合されたテクノロジー産業ではなく、競争と研究開発への公的支出によって切り開かれるはずだ。現在のような大国間競争の時代にあって、競争力とイノベーションを維持する最善の方法は市場競争、適切な規制、そして研究開発への公的支出に他ならない。ビッグテックの分割は国家安全保障を脅かすのではなく、むしろ強化するだろう。

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