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アジアに関する論文

モンゴルにとって史上最大の資本が投下されているオユトルゴイ鉱山の開発が危機にさらされている。モンゴル政府がプロフィットシェア(利益分配率)をめぐる再交渉を求めたことで、欧米資本による開発プロジェクトの先行きに暗雲が立ちこめている。だが、過度に悲観的になる必要はない。モンゴルは、中ロ以外のパートナーを切実に求めているからだ。ロシアはモンゴルに対する石油輸出を政治ツールとして用い、北京も鉱物資源の輸出先が中国に限定されていることにつけ込んできた。こうしてモンゴルは、中ロ以外のパートナーを求める「第3の隣国政策」を制度化し、外資誘致策もこの枠組みのなかに位置づけられている。モンゴルは社会問題を解決し、経済開発を進めるために外資、とくに中ロ以外の外資を望んでいる。必要とされるのは、より明確な投資に関わる法環境の整備だ。これを実現できれば、モンゴルは資源開発の最後のフロンティアとしてのポテンシャルを十分に生かせるようになる。

CFR Meeting
習近平の中国にどう対応すべきか

2013年4月号

エリザベス・エコノミー  米外交問題評議会シニア・フェロー、チェン・リ ブルッキングス研究所中国センター リサーチディレクター、エドワード・N・ラトワック 戦略問題国際研究所シニアアソシエート

中国側の言葉、主張、行動を前に、近隣諸国はまとまりつつある。中国の優位をある程度受け入れつつあるかにみえる韓国はこのグループに入っていないが、(日本、フィリピン、インド、ベトナムを含む)他の近隣諸国は、明確に中国の覇権を拒絶し、連帯を組織しつつある。(E・ラトワック)

現指導層が進めている反政治腐敗キャンペーンは、共産党を再生させることが目的だと私はみている。つまり、政治改革を進めるつもりはなく、党を再生するための党内民主化を図っているにすぎない。(E・エコノミー)

中国のリベラル派は習近平のことを新たな鄧小平とみなし、保守派は新たな毛沢東とみている。外国の専門家のなかには、彼のことを中国のゴルバチョフになると予測する者もいる。だが、私の予測は、彼が中国の蒋経国、(つまり、民主化に踏み切る指導者)になることだ。(チェン・リ)

アジア重視戦略が高めた軍事衝突リスク

2013年4月号

マイケル・クレア
ハンプシャーカレッジ教授

アメリカがイラクとアフガニスタンの問題に気を取られている間に、中国は東シナ海と南シナ海における「議論の余地のない」領有権を思うままに主張するようになり、自国の立場を力で裏付ける軍事戦略をとるようになった。だが、2011年、オバマ大統領は「アジア太平洋地域は、グローバルな経済ダイナミズムの新しい中枢になった」と表明し、これらの海域での米軍事力の支配的優位の再確立に乗り出した。アメリカは領有権論争をめぐって中立を装っているが、現実には、中国と敵対する諸国に肩入れしている。このため、中国人の多くは、「ワシントンは中国の台頭を牽制しようと、領有権論争のある海域でより積極的な行動をとるように日本やフィリピンに働きかけている」とみている。こうした認識が、ワシントンに対する中国の不信と反発を強め、今後、海洋で偶発事故が起きる危険を高めている。アジア重視戦略は、これらの海域での小競り合いが起きるリスク、当事国が挑発行動をとるリスクを高め、南シナ海、東シナ海で戦争が起きる危険を高めてしまっている。

北朝鮮の強硬路線と軍事衝突のリスク

2013年04月

スコット・スナイダー
米外交問題評議会シニア・フェロー(朝鮮半島担当)

「北朝鮮が強硬路線を続けているのは、外からの脅威に屈すれば、国内的に面目を失うことを懸念しているからでもある。金正恩が確固たる国内基盤を築いていないために、ここで圧力に屈することは選択肢にならない。国内基盤を確立させない限り、平壌が現在のエスカレーション路線を緩和させることはないだろう。・・・われわれは、程度の違いこそあれ、同じパターンの北朝鮮の行動を何度も目にしているが、金正恩は、彼の父親よりもさらに大きなリスクを冒す戦術をとるつもりかもしれない。・・・ 平壌は、アメリカが北朝鮮のことを核保有国として認めることを望んでいる。韓国に対しては、朴槿恵政権が、前政権よりも平壌との安定した関係を望んでいるかどうかを、見極めたいと考えていると思う。・・・現状における大きな危険は、判断ミス、状況の誤認から衝突が起きてしまうことだ。・・・判断ミスによって深刻な事態に陥る危険がある。もう一つは、確たるエビデンスは存在しないが、国内の不安定化を前に北朝鮮が無茶な行動をとり始め、これが南北間の衝突につながっていく危険もある」

モンゴル経済の奇跡、それとも幻想

2013年3月号

モリス・ロッサビ
ニューヨーク市立大学歴史学教授

2010年に6・4%の成長を遂げたモンゴル経済は、2011年には実に17・3%の経済成長率を実現し、この圧倒的な成長は今も続いている。IMF(国際通貨基金)は2012年のモンゴルの成長率を12・7%と推定している。だが、最近の見事な経済成長は鉱業というたった一つの産業の成長、別の言い方をすれば資源開発バブルで説明できる。銅、金、石炭、ウラン、スズ、タングステンなどの鉱物資源の存在が確認され、現地にはオーストラリア、カナダ、中国、フランス、ロシアの企業が殺到している。それがバブルであることを別にしても、モンゴルの劇的なGDP成長には曖昧な部分がある。豊かな鉱物資源と天然資源を持っているために当面は成長を期待できるが、政治腐敗が横行しているだけでなく、所得格差、貧困、遊牧経済の衰退、環境の悪化という根の深い問題も進行している。

CFR Meeting
民主国家同盟D10を立ち上げよ
――なぜ民主国家によるフォーラムが必要か

2013年2月号

◎スピーカー
アッシュ・ジェイン / ユーラシアグループ・コンサルタント
◎プレサイダー
スチュアート・パトリック / 米外交問題評議会シニアフェロー

経済領域ではグローバルな規範に向けたコンバージェンス(収斂)が進んでいるが、民主的秩序の中核である政治や安全保障領域では、民主国家とそうでない国の間に依然として大きな立場の違いがある。問題は民主国家間の戦略調整メカニズムが希薄になってきていることだ。NATO(北大西洋条約機構)やG8ではこの現実を克服できない。脅威が多様化しているために、任務を安全保障領域に限定しているNATO(北大西洋条約機構)が果たせる役割には限界があるし、ロシアをメンバーに迎え入れたことでG8は空虚な声明を発表するだけのフォーラムと化している。必要なのは民主的価値を共有する諸国によるフォーラムを立ち上げることlだ。このフォーラムのメンバーを構成すべきは、ヨーロッパのイギリス、フランス、ドイツ、イタリア、アジア・太平洋の日本、オーストラリア、韓国、そして北米のカナダとアメリカだろう。これにEU(欧州連合)を加えればD10になる。民主的価値を共有する民主諸国連合(D10)は、現在の世界の課題に対処していくもっとも適切な枠組みとして機能するポテンシャルを秘めている。

儒教とアジアの政治
―― 中国が「民主主義」という表現を使う理由

2012年12月号

アンドリュー・ネーサン
コロンビア大学政治学教授

シンガポールのリー・クアンユー上級相(当時)は「個人の権利を重視する欧米型民主主義は、家族主義の東アジア文化にはなじまない」とかつて主張した。これが多くの論争を巻き起こした「アジア的価値の仮説」の源流だ。結局、アジアでは民主主義は機能しないと主張した点で、この仮説は間違っていた。一方で、社会が近代化していくにつれて権威主義体制は崩れていくという(主に欧米の研究者による)主張も間違っていた。権威主義政府は、教育やプロパガンダを通じて「これまでの社会規範で十分に民主的だ」と人々に信じ込ませることができたからだ。だが、教育やプロパガンダだけで権威主義体制を支えていくのはもはや難しくなっている。政治的正統性の危機を回避するには政治腐敗を隠し、経済成長を維持するしか道はなくなっている。今後、経済が失速し、社会保障制度が崩壊してゆけば、権威主義国家の市民たちも、近隣諸国のように自国も民主体制をとるべきだと考えだす可能性が高い。

BRICsの黄昏
―― なぜ新興国ブームは終わりつつあるのか

2012年12月号

ルチール・シャルマ
モルガン・スタンレー・インベストメント・マネジメント
新興市場・グローバルマクロ担当ディレクター

これまで「途上国経済は先進国の経済レベルに近づきつつある」と考えられてきた。この現象と概念を支える主要なプレイヤーがBRICsとして知られるブラジル、ロシア、インド、中国という新興国の経済的台頭だった。だが、途上国と先進国の間で広範なコンバージェンスが起きているという認識は幻想にすぎなかった。新興国台頭の予測は、90年代半ば以降の新興国の高い成長率をそのまま将来に直線的に当てはめ、これを、アメリカその他の先進国の低成長予測と対比させることで導き出されていた。いまや新興国の経済ブームは終わり、BRICs経済は迷走している。「その他」は今後も台頭を続けることになるかもしれないが、多くの専門家が予想するよりもゆっくりとした、国毎にばらつきの多い成長になるだろう。

韓国の新ミサイル指針
―― 北朝鮮の反発と地域的波紋

2012年10月

スコット・スナイダー
米外交問題評議会朝鮮半島担当シニア・フェロー

射程800キロで弾頭重量500キロの弾道ミサイルを韓国が配備することへの米韓合意が10月に成立した。北朝鮮国防委員会は予想通り、強い反発を示し、北朝鮮のミサイルは「朝鮮半島の米軍基地だけでなく、日本、グアム、米本土の米軍基地を攻撃する能力ももっている」と示唆した。現実からみれば、これは口先だけのブラフだが、この展開を前に平壌が新たに衛星打ち上げを試みる危険はある。今回の合意によって、米韓同盟関係はさらに進化し、韓国が自国の安全保障の管理についてより大きな責任を引き受ける純然たるアメリカの軍事パートナーへと進化したのは間違いない。問題は、韓国の弾道ミサイルの射程が拡大されることで、地域的な軍拡レースが起きる危険があること、そして、韓国が長距離ミサイル能力を開発すれば、加盟国に300キロ以上の射程をもつミサイル開発と輸出の自粛を求めるミサイル技術管理レジーム(MTCR)が潜在的に揺るがされる危険が出てくることだ。

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