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アジアに関する論文

中国の政治介入に揺れるオーストラリア
―― 民主的対抗策の原則を探る

2018年5月号

ジョン・ガーナー 元豪首相上級アドバイザー

オーストラリアにおける「中国の影響力とソフトパワーに対するとらえどころのない不安」は、「中国共産党による水面下での政治介入に対する明確な懸念」へとすでに変化している。中国とつながっている政治資金提供者が政治へのアクセスと影響力を強め、大学は中国の「プロパガンダのツール」として取り込まれている。一方、キャンベラは、明確な現状分析によって、リスクを管理し、ダメージを特定する一方で、全般的な中国とのエンゲージメントを維持するという問題と恩恵を区別する対応をみせている。リスクとダメージを管理する一方で、相手にエンゲージし続けるためのバランスをとるのは容易ではない。いずれ、同じような環境に遭遇する民主国家の指導者たちは、オーストラリアの経験と対策を注意深く見守る必要がある。

核能力の核戦力化を阻止せよ
―― 北朝鮮は非核化には応じない

2018年5月号

トビー・ダルトン カーネギー国際平和財団  核政策プログラム共同ディレクター
アリエル・レバイト カーネギー国際平和財団 シニアフェロー

北朝鮮は、アメリカ本土に到達可能な長距離ミサイルに核弾頭を搭載する能力を獲得しようと試みてきた。当然、金正恩が意味のある時間枠のなかで非核化に応じることはほぼあり得ない。彼は「国の存亡に関わる」核抑止力を放棄することは自殺行為だと考えており、現状では完全な非核化は実質的に交渉テーブルには載せられていないとみなすべきだ。戦争を通じてしか実現しない非核化に固執するよりも、北朝鮮の戦略核能力及びそれに関連する活動に上限を設けて制約し、それが順守されていることを検証していくこと、つまり、核能力の戦力化を阻止していくことを交渉の戦略目的に据えるべきだろう。こうした能力と活動を大枠で制約するというアプローチなら、アメリカそして日韓という同盟国の中期的利益になるし、中国と北朝鮮も受け入れるかもしれない。

朝鮮半島をめぐる米中の攻防
―― 金正恩の訪中を演出した中国の思惑

2018年5月号

オリアナ・スカイラー・マストロ ジョージタウン大学外交大学院 アシスタント・プロフェッサー

金正恩を北京に迎えたとしても、北京が北朝鮮の生存を我が事のように心配しているわけではない。両国の「同盟」関係はいまも名目的なままだ。北京の目的は平壌との関係修復ではなく、アメリカの地域的影響力に対抗し、朝鮮半島への中国の影響力を強化することに他ならない。仮に北京が米朝交渉における仲介者の役割を担えば、朝鮮半島での影響力を譲るようにアメリカを説得しやすくなる。一方、有事となれば、北朝鮮の領土と核兵器の大半を管理下に置くために、中国は半島北部に大がかりな軍事介入を試みることもできる。北京が重視しているのは、戦争、外交のいずれのシナリオであっても、朝鮮半島における中国の利益を確保することにある。

誰も望まない戦争はどのように始まるか
―― 外交から戦争への転びやすい坂道

2018年5月号

ロバート・ジャービス コロンビア大学教授(国際関係論)
ミラ・ラップ=フーパー イエール大学中国センター シニアフェロー

金正恩はなぜトランプとの首脳会談を求めたのか。トランプが期待するように、何としても制裁を緩和させるために、妥協せざるを得ないと考えているのか。それとも、米大統領と会談することで名声を手にし、核保有国として北朝鮮が実質的に受け入れられることを望んでいるのか。この認識上のギャップが交渉で明らかになれば、米朝関係にすでに埋め込まれているイメージ上の間違い(ミスパーセプション)によって、ともに望んでいない壊滅的事態が引き起こされる恐れがある。人間は自らの行動が、自分が意図する通りに他者からもみなされると考えがちだが、これは間違っている。ワシントンは北朝鮮の目的だけでなく、北朝鮮の高官たちがアメリカの目的をどのように理解し、米政府(や大統領)の表明を信頼できると考えているかどうかを検証する必要がある。

北朝鮮に対する包括的強制策を
―― 外交で脅威を粉砕するには

2018年5月号

ビクター・チャ 元米国家安全保障会議アジア部長
カトリン・フレーザー・カッツ 元米国家安全保障会議 ディレクター(日韓担当)

米朝サミットへの流れは劇的だが、結局は長期的なゲームへと姿を変えるだけかもしれない。平壌がオファーしている核・ミサイル実験の凍結は、(アメリカを)交渉に応じさせるための誘因に過ぎない。交渉が終わった翌日から実験を再開できるし、核プログラムを水面下で進めることもできる。しかも、核保有国としての認知を取り付け、韓国から米軍を締め出し、韓国へのアメリカの軍事コミットメントを形骸化させるという長期的な目的を平壌が見直したと信じる理由もない。ワシントンは今後も平壌に最大限の圧力をかけ、北朝鮮との交渉をより広範な地域戦略に紐付けなければならない。軍事オプションを回避しつつ、むしろ、日韓という同盟諸国との緊密な協調を通じて、地域的抑止体制と拡散防止策のための新たな試みを開始すべきだ。

トランプの台湾カードと台北
―― 急旋回する米中台関係

2018年5月号

ダニエル・リンチ 香港城市大学教授(アジア・国際研究)

中台関係と米中関係の緊張が同時に高まっている。中国は台湾海峡に空母を、この島の上空近くに頻繁に戦闘機を送り込んでいるだけでなく、中国の外交官は「米海軍の艦船が高雄港に寄港すれば、中国軍は直ちに台湾を武力統合する」とさえ警告している。一方ワシントンでは、台湾カードを切ることを求めるジョン・ボルトンが大統領補佐官に就任した。いずれトランプ政権が、中国との軍事衝突を引き起こしかねないやり方で台湾カードを切る可能性は現に存在する。トランプがアメリカと台湾の関係を大幅に格上げすれば、この動きは台湾では大いに歓迎されるだろう。しかし、蔡英文はそのような変化を受け入れる誘惑に耐えた方がよい。誘惑に負ければ、台湾は「ワシントンの中国対抗策における人質」にされてしまう。

グローバル「#MeToo」ムーブメント
――女性の権利確立を促すグローバルな好循環

2018年5月号

ルディス・マーダビ デンバー大学 国際関係大学院 上席副学部長

「#MeToo」はアメリカで起きている出来事と結びつけられたグローバルなムーブメントだ。ソーシャルメディアで流された#ミィトゥーというハッシュタグがもつ意味合いを世界は直ちに受け入れ、アラビア語、ペルシア語、ヒンディー語、スペイン語を含む複数の言語で、同じムーブメントが展開されている。現在、85か国の女性たちがこのハッシュタグを使って、変革を求めている。メッセージの拡散を刺激しているのは、ソーシャルメディアだけではない。過去に築かれてきた各国の女性運動の基盤が今回のグローバルムーブメントを支えている。女性たちが団結して声を上げるなか、あまりに長い間抑え込まれてきた彼女たちの痛ましいストーリーが、変革を促す一貫した、断固たる流れを作り出しつつある。

北朝鮮崩壊後の危機に備えよ
―― 飢饉と難民流出を回避するには

2018年3月号

ジョーンバム・バエ ホバート&ウィリアム・スミスカレッジ 客員アシスタント・プロフェッサー
アンドリュー・ナチオス テキサスA&M大学 教授

北朝鮮の体制崩壊は、北朝鮮民衆が25年にわたって耐えてきた慢性的な食糧不足を一気に悪化させ、感染病や公衆衛生上の問題をさらに深刻にするはずだ。これによって、大規模な北朝鮮難民が中国に押し寄せる危険が生じる。このシナリオを回避するには、米韓は北朝鮮に食糧を供給し、北朝鮮民衆が中国との国境地帯に向かうのではなく、国内に留まるように仕向ける必要がある。そのためには食糧や医療物資を迅速に届け、感染症による犠牲を引きおこす汚染水対策をとる必要がある。治安を安定させ、人道支援団体の安全を確保し、食糧・医療物資を人々に届けるには、北朝鮮内に11万5000人から40万人の部隊を展開させる必要がある。問題は、38度線以北での米・韓国軍の活動が必要になるこのミッションを、中国が受け入れるかどうかだ。

中国が支配するアジアを受け入れるのか
―― 中国の覇権と日本の安全保障政策

2018年3月号

ジェニファー・リンド ダートマス大学准教授(政治学)

現在のトレンドが続けば、そう遠くない将来に、中国はアメリカに代わって、東アジアの経済・軍事・政治を支配する覇権国になるだろう。そして、地域覇権国は近隣諸国の内政にかなり干渉することを歴史は教えている。中国に対抗できるポテンシャルをもつ唯一の国・日本は、特に重要な選択に直面している。日本人は軍備増強には懐疑的で、むしろ、経済の停滞と高齢社会のコストを懸念しており、引き続き、銃よりもパンを優先する決断を下すかもしれない。だが実際にそうした選択をする前に、中国が支配するアジアにおける自分たちの生活がどのようなものになるかについて日本人はよく考えるべきだろう。北京は尖閣諸島の支配権を握り、日米関係を弱体化させ、中国の利益を促進するために、さらに軍事的・経済的強制力をとり、日本の政治に干渉してくるかもしれない。

北朝鮮危機に外交で対処するには
―― 非核化は棚上げし、核武装国家の脅威削減を

2018年2月号

マイケル・フックス 前米国務副次官補(東アジア・太平洋担当)

北朝鮮は、対米抑止に必要な態勢を整えたと確信するまで、交渉には関心を示さないかもしれない。しかし、平壌がミサイルと核実験を停止することに応じ、ワシントンが韓国との合同軍事演習を停止することを受け入れれば、双方が交渉テーブルに着く道も空けてくる。北朝鮮が報復攻撃を試み、大規模な犠牲者が出ると考えられる以上、アメリカの先制攻撃を前提とする受け入れ可能な軍事オプションは存在しないし、(外交交渉を通じて)北朝鮮が核兵器を近い将来に手放すこともあり得ない。それでも、平和を維持するには外交を機能させる必要がある。少なくとも現状では、非核化は(交渉を実現するためにも)棚上げにせざるを得ない。むしろ、交渉を通じて、核武装した北朝鮮が突きつける脅威を低下させることを短期的目的に据えるべきだ。・・・

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