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2017年5月10日発売

フォーリン・アフェアーズ・リポート
2017年5月号

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フォーリン・アフェアーズ・リポート2017年5月号 目次

<戦後秩序の崩壊と戦争リスク>

  • トランプと戦争
    ――イラン、中国、北朝鮮との戦争シナリオを考える

    フィリップ・ゴードン

    雑誌掲載論文

    歴史を顧みれば、トランプのような指導者が市民の不満を追い風に権力を握り、敵を屈服させると約束しつつも、軍事、外交、経済上の紛争の泥沼にはまり込み、結局は後悔することになったケースは数多くある。もっとも、トランプの主張が正しい可能性もある。大規模な軍部増強、予想できない行動をとる指導者のイメージ、一か八かの交渉スタイル、そして妥協を拒む姿勢を前に、他の諸国が立場を譲り、アメリカを再び安全で繁栄する偉大な国にするかもしれない。だが、彼が間違っている可能性もある。核合意を解体し、中国との貿易戦争を始め、北朝鮮の大陸間弾道ミサイル実験を力尽くで阻止すれば、そのすべてが紛争へとエスカレートしていく恐れがある。トランプの常軌を逸したスタイルと対決的な政策が、すでに不安定化している世界秩序を崩壊させ、アメリカがイラン、中国、北朝鮮との紛争へと向かう恐れもある。

  • トランプから国際秩序を守るには
    ――リベラルな国際主義と日独の役割

    G・ジョン・アイケンベリー

    雑誌掲載論文

    古代より近代まで、大国が作り上げた秩序が生まれては消えていった。秩序は外部勢力に粉砕されることでその役目を終えるものだ。自死を選ぶことはない。だが、ドナルド・トランプのあらゆる直感は、戦後の国際システムを支えてきた理念と相反するようだ。国内でもトランプはメディアを攻撃し、憲法と法の支配さえほとんど気に懸けていない。欧米の大衆も、リベラルな国際秩序のことを、豊かでパワフルな特権層のグローバルな活動の場次第にとみなすようになった。すでに権力ポストにある以上、トランプがそのアジェンダに取り組んでいくにつれて、リベラルな民主主義はさらに衰退していく。リベラルな国際秩序を存続させるには、この秩序をいまも支持する世界の指導者と有権者たちが、その試みを強化する必要があり、その多くは、日本の安倍晋三とドイツのアンゲラ・メルケルという、リベラルな戦後秩序を支持する2人の指導者の肩にかかっている。・・・

  • 切り崩されたリベラルな秩序
    ―― 格差を是正し、社会的連帯を再生するには

    ジェフ・D・コルガン、ロバート・O・コヘイン

    雑誌掲載論文

    欧米におけるポピュリズムの台頭は、リベラルな民主社会の社会契約が破綻していることを物語っている。経済格差が人々を異なる生活環境で暮らす集団へ分裂させ、社会の連帯感そのものが損なわれている。中間層や労働者階級を犠牲にしてグローバル化の恩恵を富裕層が独占する状況が続けば、米経済が依存するグローバル・サプライチェーンや移民受入への政治的支援は今後さらに損なわれていくだろう。ポピュリズムは、タフさとナショナリズム、さらには移民排斥論を基盤とする、人受けのするはっきりとしたイデオロギーをもっている。開放的なリベラルな秩序の支持者たちがこれに対抗していくには、同様に明快で、一貫性のある代替イデオロギーを示し、労働者たちが切実に感じている問題を無視するのではなく、それに対応していく必要がある。

  • トランプが寄り添うジャクソニアンの思想
    ―― 反コスモポリタニズムの反乱

    ウォルター・ラッセル・ミード

    Subscribers Only 公開論文

    「不満を表明する手段として(非自由主義的なイデオロギーや感情に訴えているのは)苦々しい思いを抱くルーザーたち、つまり、銃の所有や(相手の)宗教にこだわり、自分たちとは違う人々を毛嫌いする人たちだけだ」。アメリカのエリートたちはこう考えるようになっていた。(国や民族に囚われない)コスモポリタン的感情をもつアメリカ人の多くは、道義的、倫理的にみて、人類全般の生活の改善に取り組むことが重要だと考えていた。一方、ジャクソニアンはコスモポリタン・エリートのことを、「アメリカやその市民を第1に考えることを道徳的に疑問視する、国に反逆的な連中」とみている。ジャクソニアンがアメリカのグローバル関与路線を敵視しているのは特定の代替策を望んでいるからではない。むしろ、外交エリートに不信感をもっているからだ。そして彼らは、「トランプは間違いなく自分たちの側にある」と考えている。

  • CFR Events
    ――次期米大統領への政策提言

    マイケル・マレン、サム・ナン、アダム・マウント、ジュディ・ウッドラフ

    Subscribers Only 公開論文

    「すべての提言は、平壌の選択次第で北朝鮮にどのような帰結が待ち受けているかを明確にするとともに、中国の北朝鮮への認識を変化させることを意図している。現状では中国は北朝鮮のことをアメリカの東アジアにおける影響力に対するバッファーとみなしているが、そうではなく、中国の安全保障や地域的な安定に対する脅威としての北朝鮮へと認識を見直させたいとわれわれは考えている」(A・マウント)

    「中国との協調を模索しつつも、アメリカ、韓国、日本の3国間関係を強化しなければならない。リポートでは、1国への攻撃であっても自国が攻撃されたとみなす(北大西洋条約機構型の)集団安全保障態勢が必要になると提言した。・・・THAAD(終末高高度)ミサイル防衛システムを配備する必要がある。核弾頭を小型化させれば、北朝鮮はアメリカも攻撃できるようになる」(M・マレン)

    「現政権の政策と今回のリポートが示す政策の大きな違いは、経済制裁の成果を待って、その後、交渉に移るのではなく、交渉と制裁を同時に試みる必要があると提言したことだ。・・・中国との率直な交渉も必要になる。中国の利益にも配慮する必要がある。中国なしで、北朝鮮問題を平和的に解決するのは難しい。(もちろん)韓国と日本の抑止力と防衛力を強化する必要がある」(S・ナン)

  • 「リベラルな覇権」後の世界
    ―― 多元主義的混合型秩序へ

    マイケル・マザー

    Subscribers Only 公開論文

    リベラルな国際秩序およびそれを支えるさまざまな原則の存続がいまや疑問視されている。中国やロシアなどの不満を募らす国家は「現在の国際システムは公正さに欠ける」とみているし、世界中の人々が、現秩序が支えてきたグローバル化が伴ったコストに怒りを募らせている。大統領に就任するトランプがアメリカの世界における役割についてどのようなビジョンをもっているのか、正確にはわからないが、少なくとも、現在のようなリベラルな秩序は想定していないようだ。現在のリベラルな秩序を立て直そうとすれば、逆にその解体を加速することになる。むしろアメリカは、すでに具体化しつつある、より多様で多元主義的なシステム、つまり、新興パワーがより大きな役割を果たし、現在の秩序よりも他の諸国がこれまでより大きなリーダーシップをとる国際システムへの移行の先導役を担うことを学んでいく必要があるだろう。

  • 平等と格差の社会思想史
    ―― 労働運動からドラッカー、そしてシュンペーターへ

    ピエール・ロザンヴァロン

    Subscribers Only 公開論文

    多くの人は貧困関連の社会統計や極端な貧困のケースを前に驚愕し、格差の現状を嘆きつつも、「ダイナミックな経済システムのなかで所得格差が生じるのは避けられない」と考えている。要するに、目に余る格差に対して道義的な反感を示しつつも、格差是正に向けた理論的基盤への確固たるコンセンサスは存在しない。だが、20世紀初頭から中盤にかけては、そうしたコンセンサスがなかったにも関わらず、一連の社会保障政策が導入され、格差は大きく縮小した。これは、政治指導者たちが、共産主義革命に象徴される社会革命運動を警戒したからだった。だが、冷戦が終わり、平和の時代が続くと、市民の国家コミュニティへの帰属意識も薄れ、福祉国家は深刻な危機の時代を迎えた。財政的理由からだけでなく、個人の責任が社会生活を規定する要因として復活し、ドラッカーから再びシュンペーターの時代へと移行するなかで、社会的危機という概念そのものが形骸化している。・・・

<トランプと東アジア>

  • 日本のプラグマティズム外交の代償
    ―― 安倍外交の成果を問う

    トム・リ

    雑誌掲載論文

    フィリピンのドゥテルテ大統領、ロシアのプーチン大統領、アメリカのトランプ大統領のようなとかく論争のある指導者たちと進んで接触する安倍首相は、長期的な経済・安全保障上のアジェンダのためなら、自らの信条を傍らに置き、短期的に政治リスクの高い動きをとることも辞さないつもりのようだ。確かに、世界的にネオリベラルな規範が衰退するなか、反リベラル主義を掲げる指導者たちと関わりを持つことの政治リスクが少なくなっているのは事実だろう。しかし、こうした権威主義的指導者と付き合うことで、果たして結果を出せただろうか。さらに、民主国家としての日本の名声を危機にさらしてはいないだろうか。権威主義的な指導者たちと付き合うことに派生するリスクからみれば、安倍首相にとっては世界の民主主義のリーダーという日本の名声を守ることがよりプラグマティックな路線ではないだろうか。そうしない限り、いずれ彼は歴史の間違った側にいる自分を見出すことになるだろう。・・・

  • TPPをRCEPで代替せよ
    ―― アジアの自由貿易をいかに実現するか

    シロー・アームストロング

    雑誌掲載論文

    アメリカの離脱によって、環太平洋パートナーシップ(TPP)構想は実質的に消滅しつつあり、いまやアジアの優先課題は「市場開放路線を維持し、リベラルな秩序を強化していく他の方法を見つけ出すこと」にある。日米間の二国間貿易協定は有益だが、これだけでは、アジア全域の自由貿易を保証することにはならない。地域的自由貿易を実現するには、中国、インド、インドネシアなど、他の主要なアジアの経済大国が市場開放へのコミットメントを示すことが不可欠だからだ。当然、アジアにおいてルールに基づく経済秩序を強化する上でもっとも有望なのは、東アジア地域包括経済連携(RCEP)構想だろう。RCEPは中国主導の構想と思われがちだが、現実にはRCEPを支えているのは東南アジア諸国連合(ASEAN)だ。今後の合意にTPPの一部条項を取り込んでいくこともできる。世界で保護主義とナショナリズムが台頭するなか、アジアにとっても、これまでのやり方を続けるだけでは十分ではないのだから。

  • トランプ時代のアジア
    ―― アジアを犠牲にした米中合意はあり得ない

    ビラハリ・コーシカン

    雑誌掲載論文

    北京の高官の一部は、中国を頂点とする地域的ヒエラルヒーを再建して伝統的な中華秩序を再現することを望んでいるようだ。そのためには、アジアからワシントンの影響力を取り除き、その空白を中国自身が埋めなくてはならない。だがこの場合、アメリカとの同盟関係が頼りにならないと判断した日本が核武装する可能性は十分にある。日本が核兵器を獲得すれば、韓国、そして台湾もそれに続く強いインセンティブをもつようになる。中国はそのような事態は何としても避けたいはずだ。こう考えると、アジア秩序が中華秩序に置き換えられていくことも、アジアを互いの影響圏に二分するような大掛かりな米中合意が結ばれる可能性も低い。最終的に、アジアはかつて変化に直面したのと同じように「適応」を通じてトランプ政権に対応していくことになるだろう。

  • 日本の現実主義外交の伝統

    マイケル・グリーン

    Subscribers Only 公開論文

    近代日本の最大の強みは、国力を構成する軍事、経済、文化その他の要因を時代に即してうまく再定義してきたことにあり、小泉政権以降の日本政府は、アジアにおける主要なプレーヤーとしての地位を維持していこうと、新たな国力構成領域での強さを培いつつある。若手政治家たちは、日米同盟が両国にとってもっとうまく機能するようになることを願っており、より多くの役割を引き受け、その代わりにより多くを求めることについても躊躇しない。こうした状況にある以上、ワシントンが東京を犠牲にする形で北京との和解路線をとれば、東京は自主路線の度合いを高め、その結果、アジアの安全保障環境はますます不透明になる。ワシントンが中国との緊密な経済的絆に加えて、安定した戦略関係を築くことについて日本を過度に刺激しないようにするには、あくまでも東京との同盟関係を基盤に中国への関与策を進める必要がある。

  • トランプと日本
    ―― 潜在的紛争の火種としての認識ギャップ

    リチャード・カッツ

    Subscribers Only 公開論文

    2月の日米首脳会談は成功だったとみなされている。日本は、安全保障面の要望についてはほぼ満額回答を得たし、トランプは日本防衛へのコミットメントを再確認した。為替操作や安全保障のタダ乗りといった、かねてトランプが主張してきた対日批判に安倍首相がさらされることもなかった。共同声明でも為替問題への言及はなく、共同記者会見でもトランプは、為替を含むいかなる貿易問題への注文もつけなかった。ただし、共同声明の中には「二国間の枠組み」という曖昧な表現があり、この点で認識にずれがあれば、将来的に対立の火種となりかねない。しかも、トランプにとって厄介なのは、公約どおり貿易赤字を解消して、日本などの外国に奪われたと主張してきた雇用を「取り戻すこと」など、とうてい不可能なことだ。トランプ支持基盤の多くが反日感情を抱いていることも、今後の日米関係における不安材料だろう。・・・

  • 日本の新しいリアリズム
    ―― 安倍首相の戦略ビジョンを検証する

    マイケル・オースリン

    Subscribers Only 公開論文

    日本の地域的役割の強化を目指し、民主国家との連携強化を試みるために、安全保障行動の制約の一部を取り払おうとする安倍首相の現実主義的な外交・安全保障路線は、北朝鮮と中国の脅威という地域環境からみても、正しい路線だ。たしかに論争は存在する。市民の多くが平和主義を求める一方で、識者たちは日本の安全保障に対する脅威を憂慮している。しかし、そうした社会的緊張には、孤立主義や介入主義といった極端な方向に日本が進むことを防ぐ効果がある。超国家主義が日本を近隣諸国に対する侵略と戦争へと向かわせた1930年代と違って、現在の日本は、アジアを豊かさと安定へと導く「リベラルなシステム」を強化し、擁護していくために、古い制約を解体しつつある。再出現した権威主義国家がグローバルな平和を脅かすような世界では、日本の新しいリアリズムが太平洋地域の今後10年を形作るのに貢献し、アジアを特定の一国が支配するような事態にならないことを保証する助けになるはずだ。

  • 中国とアジアの新しい現実
    ―― アジアを求めるアジア

    エバン・A・ファイゲンバーム

    Subscribers Only 公開論文

    世界でもっとも急速に成長している国々を取り込まなければ、国際システムは機能しない。中国やインドといった新興国をきちんと仲間に入れなければ、これらの国はよそに目を向けるだけだ。逆に言えば、今後ほとんどの国際機関で、新興国の発言力が強化されるにつれて、自由主義的な価値をもつヨーロッパ諸国の発言力は低下していく。但し、中国に現在の国際システムを全面的に覆すつもりはない。むしろ、現在のシステムの不備を補完しようと試みている。AIIB(アジア・インフラ投資銀行)はその具体例だ。ワシントンはAIIBや一帯一路構想を、アメリカの試みにダメージを与える策略とみなすべきではない。むしろこの構想は、アジア諸国が投資や経済協力に関して、欧米に頼るのではなく、お互いを頼り始めた証拠だろう。その結果、アジアは2030年までに、アメリカが台頭する前に存在した統合された大陸、つまり「アジア太平洋」ではなく「アジア」になっていく可能性が高い。

  • 日米自由貿易協定の交渉を
    ―― 日米関係の戦略基盤を強化するには

    マイケル・オースリン

    Subscribers Only 公開論文

    トランプは、TPP(環太平洋パートナーシップ協定)という複雑な多国間貿易協定を批判しつつも、「私なら必要になれば再交渉できるような、透明性があり、よりシンプルで合理化されたアメリカの労働者にダメージを与えない二国間合意をまとめる」と約束している。(多国間貿易合意であるTPPへの反対をもって)トランプのことを「自由貿易に反対する重商主義者だ」と考える評論家は、彼が現実には自由貿易政策を模索するかもしれないことを無視している。(多国間貿易合意は拒絶しても)自由貿易体制を維持していくことに本気なのであれば、トランプはまず日本と自由貿易合意を交渉すべきだろう。日米二国間自由貿易合意の原型はすでにTPPによって描かれているからだ。日米の安全保障面での協調はすでに深化しており、二国間自由貿易協定交渉を通じて関係をさらに固めていけば、日米関係の戦略基盤をさらに強化できるだろう。

  • グローバリズム・イデオロギーの終焉
    ―― 米中は何処へ向かうのか

    エリック・X・リ

    Subscribers Only 公開論文

    世界をグローバルスタンダードで統一しようとする「グローバリズム」のビジョンは、アメリカの中間層の多くにダメージを与えた。冷戦の勝利からわずか一世代のうちにアメリカの工業基盤は空洞化し、インフラは荒廃し、教育制度は崩壊し、社会契約は引き裂かれた。トランプ大統領の誕生は偶然ではない。これは、エリートたちが長期にわたって無視してきた米社会内部の構造的な変化が蓄積されてきたことの帰結に他ならない。中国の指導者たちはこの現実を適切にとらえ、対応する必要がある。対応を誤れば、貿易戦争、地政学的な対立、軍事衝突さえ起きるかもしれない。幸い、中国の考えは、主権国家を重視し、多国間ルールよりも二国間合意を重視するトランプのビジョンに基本的にうまく重なり合う。協調できるだけの叡知とプラグマティズムを米中がもっていれば、おそらくいまよりも安定した世界を保証するグローバル統治に関する新しいコンセンサスを形作れるはずだ。

<移民の社会・経済学>

  • 目的地 ヨーロッパ
    ―― 難民危機を管理するには

    エリザベス・コレット

    雑誌掲載論文

    政策決定者が対応に奔走したにも関わらず、冬季を含め、現在も毎月数千人が地中海を渡ってヨーロッパを目指している。2年前と状況は変わっていない。中東や南アジアの破綻国家を逃れてくる人々には、ヨーロッパを目指す以外に長期的な代替策はないに等しい。とはいえ、ギリシャとイタリアにたどり着いた人々も、相変わらず悲惨な状況に置かれている。一時的な受入センターに数千人が押し込まれている。EUとトルコとの合意が破綻すれば、ギリシャは再びその対応能力を超える人の洪水に飲み込まれるだろう。フランス、ドイツでの重要な国政選挙が近づくにつれて、難民危機の捉え方は変化していく。今後、欧州統合の中核理念である人の移動の自由、そして難民保護制度に対するEUのコミットメントが試されることになる。・・・

  • EUのもう一つの移民問題
    ―― 東中欧の人口流出危機

    テジ・パリク

    雑誌掲載論文

    優れた人材が欧州連合(EU)内のより裕福な加盟国に定住しようと西ヨーロッパに吸い寄せられた結果、東ヨーロッパは経済停滞と人口減そして高齢化という問題に直面している。1990年代初頭以降、約2000万人の優秀な労働者が中央・東ヨーロッパから流出している。人口が流出している大きな理由はEU内部に大きな賃金格差が存在するからだ。現状でも東ヨーロッパの労働者の平均月給は、フランスやドイツ、イギリスの半分に満たないレベルにある。そして、国外移住者の殆どは母国に戻ることはない。問題は、EUが拡大を続け、そして西ヨーロッパの暮らし向きの方が東ヨーロッパのそれよりもよく思える限り、移民の流出を阻止するのが難しいことだ。

  • インターネット統治の政治学
    ―― 誰がインターネットを管理すべきなのか

    カル・ロースティアラ

    雑誌掲載論文

    2016年、オバマ政権が、商務省とインターネットのドメインネームシステム(DNS)を管理するICANNとの長年にわたる契約を期間満了で終了させると、「政府はインターネットの自由を見捨てた」と非難する声が相次いだ。しかし批判派は、アメリカ政府とICANNとの関係が世界で批判されてきたことを見落としている。中ロを含む外国政府は、アメリカはドメインネームシステムの監督役を降りて、なんらかの多国間組織がインターネットを管理するより大きな権限を担うべきだと主張してきた。だが、こうした外国政府の主張の背後には「サイバー主権」を主張して、インターネットを規制しようとする政治上の思惑がある。ICANNとの契約終了は、民間にインターネットの管理権限を委ねることで、国際的批判を封じ、オープンかつグローバル、しかも自由なインターネットを守ることが目的だった。・・・

  • トランプとサウジアラビア
    ―― リヤドとの関係を見直すには

    マダウィ・アル=ラシード

    雑誌掲載論文

    イランに対してどのような路線をとるにせよ、トランプ米大統領は、「サウジとの特別な関係」の重要な側面の一部を見直す必要がある。依然としてサウジは国内で抑圧を続け、女性の権利も十分に認めていない。イエメン、シリアその他への対外軍事介入は、すべてライバルであるイランを意識したものだ。実際、ワシントンはサウジへの無条件の支援は控えるべきだろう。そうした路線は、リヤドの行き過ぎた行動の正当化に力を貸し、「ワシントンは独裁体制を支援している」という批判を招き入れることになる。無論、リヤドとの関係を断ち切るべきではない。それでも、アメリカの利益を守る形で関係の再定義を試みる必要がある。

  • ナレンドラ・モディの二つの顔
    ―― 経済成長とヒンドゥー至上主義の間

    カンチャン・チャンドラ

    雑誌掲載論文

    経済改革を主張するインドのモディ首相の「スローガン、演説、ツイートを通して絶え間なく流れてくる経済成長のかけ声も、本当はヒンドゥー国家としてのインドを重視するイデオロギーの隠れ蓑なのか」。ヒンドゥー教指導者を州首相に指名したモディの動きを前に、この国の民衆は大きな疑問を持ち始めている。だが、そこにはモディの政治的思惑があった。ナショナリズムと改革主義を同時に掲げれば政治的保険になるからだ。改革がうまく進まない場合にはヒンドゥー至上主義というアイデンティティ政治に軸足を移し、アイデンティティ政治でうまくいかなければ改革と経済成長を主張する。モディは改革者であると同時にヒンドゥーナショナリストでもあり続けている。この二つの顔を併せ持っていることが、モディがもつ最大のセールスポイントなのだ。

  • ヨーロッパの価値を救うには
    ―― イスラム系難民とヨーロッパ的価値の危機

    アレクサンダー・ベッツ

    Subscribers Only 公開論文

    ヨーロッパ市民がイスラム系移民を歓迎していないのは事実だが、問題は、極右政党がこうした市民の不安につけ込んで、排外主義を煽り立てているのに対して、その他の政治的立場をとる政治家が、沈黙を守っていることにある。大衆がイスラム教徒に懸念をもつ社会環境のなかで、パリでの同時多発テロ、そしてケルンでの女性を対象とする性的暴行・強奪事件が起き、これがヨーロッパの難民問題の決定的なゲームチェンジャーとなった。だがヨーロッパにとっての真の問題は、市民がヨーロッパのイスラム教徒をどうみなすべきか、「難民や移民」と「テロリストや犯罪者」の区別をどうつけるかについて、政治家たちがビジョンを示してこなかったことにある。彼らは、選挙に悪影響がでたり、メディアにレッテルを貼られたりすることを懸念し、口を閉ざしてきた。こうして市民の反応は混乱し、思い込みに囚われるようになり、ヨーロッパの価値が脅かされている。・・・

  • ヨーロッパの政治的混乱とイスラム主義
    ―― 代替策なきヨーロッパに苦悶する若者たち

    ケナン・マリク

    Subscribers Only 公開論文

    イスラム教徒の若者だけではない。ヨーロッパの若者の多くがその政治プロセスに幻滅し、自分の声を届けられないことへの政治的無力感、メインストリームの政党も、教会や労働組合のような社会的集団も自分たちの懸念や必要性を理解していないことへの絶望が社会に蔓延している。これまでなら、そうしたメインストリームに対する不満を抱く若者の多くは政治的変化を求める運動に身を投じたが、いまやそうした政治運動も現実との関連性を失っている。そして移民の社会的統合を目指したヨーロッパの社会政策が、より分裂した社会を作り出し、帰属とアイデンティティに関する視野の狭いビジョンを台頭させてしまった。皮肉にも、こうした欧州の社会政策が、不満をジハード主義に転化させる空間の形成に手を貸してしまっている。・・・・

  • 世界を変える四つの人口メガトレンズ
    ―― 先進国の衰退と途上国の台頭をどう管理するか

    ジャック・A・ゴールドストーン

    Subscribers Only 公開論文

    21世紀の新しい現実は、世界のどの地域で人口が減少し、どこで増大するのか、どのような国で高齢者が多くなり、どのような国で若者が多くなるか、世界の人口動態の変化が国境を越えた人の移動にどのような影響を与えるかで左右される。欧米を中心とする先進国は人口面でも経済面でも衰退し、世界経済の拡大はブラジル、中国、インド、インドネシア、メキシコ、トルコ等の新興途上国の経済成長によって刺激される。しかも、若者の多い途上国から労働力不足の先進国へと大きな人の流れが必然的に起きるし、一方で、経済基盤の脆弱な途上国の若年人口が世界で大きな混乱を作り出す恐れもある。必要なのは、こうした21世紀の新しい現実に備えたグローバル構造の構築を今から始めることだ。

  • ヨーロッパを待ち受ける忌まわしい未来
    ―― もはや衰退は回避できない

    アンドリュー・モラフチーク

    Subscribers Only 公開論文

    現在の政治状況からみれば、ユーロゾーンからの離脱も起きず、ユーロゾーンを機能させるための大がかりな改革も行われず、おそらくは、泥縄式に生きながらえていくための措置が小出しにされていくだけだろう。長期的に考えると、このやり方は最悪の結果をもたらすかもしれないが、それでもこの路線がとられる可能性がもっとも高い。壊滅的な経済危機が起こらない限り、ヨーロッパは自ら招き入れた緊縮財政のなかで泥縄式に生きていくしかなく、この選択ゆえに将来の見込みも、世界における地位も損なわれていく。「政治同盟やヨーロッパの深化(more Europe)についてのあらゆる議論は、民主的なヨーロッパ連邦への一歩ではなく、むしろ長期的な危機という鉄格子に入り、純然たるヨーロッパの民主的連邦への道を閉ざすことにつながっていく」

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