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政治・文化・社会に関する論文

テロリストと外相
――ドイツ左翼の系譜と歴史の正常化

2001年12月号

アンドレイ・S・マルコビッツ ミシガン大学政治学教授

今日のドイツ人を前世代のドイツ人や現在における他のヨーロッパ人の多くとは違う存在にしているのは何か。それは、「血か領土」ではなく、リベラルな価値観に忠誠を誓うハーバーマスの「立憲的愛国主義」の概念を定着させた、六八年世代の左翼活動家に負うところが大きい。「ドイツ文化の西側化、そして過去の歴史と政治の正常化」という20世紀ドイツの2つの遺産を作り上げたのは既存の体制を徹底的に批判し、文化と政治の価値観を一変させた60年代の左翼活動家たち、とくに左翼の西側協調派の貢献である。68年世代左翼のさまざまな人生と遺産は、21世紀ドイツに何を伝えるのか。

対テロ米ロ同盟とロシアの民主主義

2001年11月号

ティモシー・J・コルトン ハーバード大学政治学教授  マイケル・マクファール  スタンフォード大学政治学準教授

ブッシュ政権はテロという新たな世界規模の脅威に対する国際連帯を形成しようとするあまり、民主国家という連帯の相手に求められる資格を無視した動きに出るかもしれない。強権政治への逆コースをたどりつつあるロシア政府も、この対テロリズム連合に協力を表明した以上、アメリカに統治面でとやかく言われることもなくなるだろう。だが、対ロシア民主化支援を強化しないかぎり、アメリカの安全保障に将来大きな悪影響が出る。かつての宿敵の国境内に民主主義を根づかせるための努力をいまこそ再強化すべきである。

次なる攻撃に備えよ

2001年11月号

ウィリアム・J・ペリー  元米国防長官

アメリカに対する憎しみ、組織的な作戦を実行できるだけの資源、自らの命をも顧みないほどの狂信主義をテロリストが兼ね備えていれば、その帰結がいかに甚大なものになるかを、世界は目の当たりにした。そしていまやもっとも差し迫った脅威は、テロ集団が、トラック、貨物船、飛行機、小型船で核兵器や生物兵器攻撃をかけてくることである。脅威が出現する前に、それを抑え込む拡散防止などの「予防」戦略、相手に攻撃を思いとどまらせる「抑止」戦略、そして、予防と抑止が破られた場合に備えた「防衛」戦略という3つをバランスよく実施する必要があり、アメリカは米本土ミサイ防衛ばかりを重視したこれまでの防衛姿勢を大きく見直す必要がある。

クラシック・セレクション
西洋とイスラム : 近代化と文明の受容

2001年10月号

バーナード・ルイス  プリンストン大学名誉教授

「近代化と西洋化」をめぐる長期にわたる議論は、「自らの固有の文明を汚さずにいかに近代化をはかるか」という、文明の「受容と拒絶」をめぐる判断についての議論にほかならない。だが、同時代における議論は、近代性が「それに先立つ文明の遺産を継承した」現代文明の規範・基準であることをとかく忘れがちだ。かつてはイスラムがそれを定義づけ、現在は西洋が、そしていずれ過去の諸文明の上に成り立つ西洋文明の遺産を継承するまだ見ぬ文明がそれを規定することになるだろう。

米外交問題評議会タスクファース・リポート
二十一世紀の戦略的エネルギー政策の課題

2001年10月号

エドワード・L・モース 米外交問題評議会・エネルギー政策タスクフォース議長  エイミー・M・ジャッフェ 同ディレクター

以下は二〇〇一年四月に、米外交問題評議会とライス大学付属ジェームズ・べーカー公共政策研究所が発表したエネルギー政策に関するタスクフォース・リポートからの抜粋(英語の全文http//www.cfr.org/Public/publications/taskforce.htmlからアクセスできる)。同評議会のタスクフォース・リポート発表からほぼ一カ月後に、ディック・チェイニー副大統領が議長を務めたブッシュ政権のタスクフォースが「国家エネルギー政策」を発表した。

グローバル化と仏外相の現実主義

2001年9月号

スタンレー・ホフマン  ハーバード大学教授

現実主義者で国家主権を重視するフランスのベドリヌ外相は、国の主権とは「国の威厳やアイデンティティー」そのものであり、グローバル化という侵略に対する「盾」だと言う。だが現実には、主権が国内の悪に必要以上に大きな盾を提供している部分があることも忘れるべきではない。今後フランスは、その「ソフトパワー」を強化していく必要があり、また、その影響力を増していくには同調してくれるパートナーとの連帯が必要である。そのためには、ベドリヌが痛烈に批判するメディアや非政府組織といった理想主義を得意とする勢力の力を借りる必要がある。「理念的現実主義」はそれ自体好ましいだけでなく、現実主義の立場も強化してくれるのだから。

国際金融制度を脅かすダーティー・マネー

2001年9月号

ウィリアム・F・ウェシュラー  前米財務長官特別顧問

「口座情報の厳格な機密保持、顧客情報公開という行為の犯罪化、そして、他国の法執行当局との国際協調の禁止」を自国の法律に盛り込みさえすれば、スイスやケイマン諸島でなくても、簡単にダーティー・マネーを魅了できることを各国が理解し始め、いまや不法な資金の避難地域は世界に広く拡散している。こうした課税回避行動やマネーロンダリング行為ゆえに、国内でまじめに納税している市民の税負担の重みが増しているだけでなく、世界各地で金融メルトダウンが誘発されている。

債務救済の理念と現実

2001年9月号

M・A・トーマス  メリーランド大学経済学部付属研究所副所長

HIPC債務救済イニシアチブが、救済措置適用国の貧困層を潤しているわけではない。債務を帳消しにするとしても、その条件として、資金の有効な利用と構造改革の実施を義務づけない限り、貧困層が救われる可能性は低い。だが、迅速な債務救済をやみくもに求める現在の政治圧力は、そうした条件を考案し強制することをむしろ妨げてしまいかねない。HIPCで社会サービスが機能していない直接的理由は、社会保障支出が債務の金利支払いに充てられているからではなく、HIPCの統治がなっていないからである。水をザルでは運べないように、こうした諸国で社会保障支出を増やしても、社会サービスがそれを必要としている人々のところに届くわけではない。

レビュー・エッセイ
核の存在理由を問い直せ

2001年8月号

ロバート・ジャービス  コロンビア大学国際政治学教授

アメリカの安全保障政策をうまく機能させるには、その政策を国際社会が受け入れて認めることが前提だが、現実には世界の多くの諸国が、(北朝鮮やイラクよりも)むしろアメリカのことをならず者の超大国と見ている。ミサイル防衛構想に関連して、大量破壊兵器、ならず者国家、テロリズムに対する脅威認識が高まっているのは、アメリカの安全保障に対する伝統的な脅威が存在しなくなったためであり、これらが現実上の問題だからではない。外交政策の一手段として核兵器が存在するわけで、その逆ではないことを認識し、核兵器がどのように外交を利するかが、核の論争の基本テーマでなければならない。

国際法は戦争犯罪をどこまで追い込めるか
~国際法と国内法のあいだ~

1999年3月号

ジョン・R・ボルトン アメリカン・エンタープライズ公共政策研究所 上席副会長

戦争犯罪、大量虐殺、人権弾圧などの、世界の他の地域での「非人道的犯罪」に対するマスコミや市民権運動家たちの関心は高まる一方だ。一部には、「人間性に対する犯罪は、もはや虐待行為が行われた国だけの問題ではない」のだから、国際法をつうじて一律に処罰すべしという声も出てきている。たしかに、民意を代弁できる世界政府(あるいは国際機構)、そして世界憲法(あるいは強制力を伴う国際法)が存在すれば、特定の国家の内部で起きた非人道的事件をグローバルな規模でとりしまり、処罰するのも可能になるかもしれない。しかし、現実にはそのようなものは存在しないし、それが実現する見込みもない。国家は憲法を持ち、その憲法を軸に政府が秩序を維持し、しかも、政府がそうする権限は選挙をつうじた民意に支えられている。これを世界規模へと広げるのは、事実上不可能であることを認識した上で、問題に対応するしかない。だが、われわれはいずれ「憲法」と「国際法」のせめぎ合いの時代が到来する可能性に備えるべきだろう。

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