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政治・文化・社会に関する論文

イスラム国の全貌
―― なぜ対テロ戦略は通用しないか

2015年3月号

オードリー・クルト・クローニン ジョージ・メイソン大学教授(国際安全保障プログラム)

イスラム国はテロ集団の定義では説明できない存在だ。3万の兵士を擁し、イラクとシリアの双方で占領地域を手に入れ、かなりの軍事能力をもっている。コミュニケーションラインを管理し、インフラを建設し、資金調達源をもち、洗練された軍事活動を遂行できる。したがって、これまでの対テロ、対武装集団戦略はイスラム国には通用しない。イスラム国は伝統的な軍隊が主導する純然たる準軍事国家で、20世紀に欧米諸国が考案した中東の政治的国境を消し去り、イスラム世界における唯一の政治、宗教、軍事的権限をもつ主体として自らを位置づけようとしている。必要なのは対テロ戦略でも対武装集団戦略でもない。限定的軍事戦略と広範な外交戦略を組み合わせた「攻撃的な封じ込め戦略」をとる必要がある。

プーチン世代の若者たち
―― ロシアエリート予備軍の現状維持志向

2015年2月号

サラ・E・メンデルソン  戦略国際問題研究所 人権イニシアチブ・ディレクター

ロシアのエリート校の大学生たちは政治に対して非常に懐疑的であるにも関わらず、強い現状維持志向をもっている。彼らの関心は大学でいい成績をとって、政府か大手企業に就職することだけで、チュニジアやウクライナなど世界中で若者が自由と尊厳を求めて抗議行動を起こしていることについて、感銘を受けることはない。むしろ大衆運動は自発的には起きないと考えている。要するに、反政府運動はアメリカが裏で糸を引いているというプーチンの確信を、彼らも共有している。こうした若手エリート層の台頭は、ロシアにおける民主主義の覚醒を少なくとも一世代にわたって遅らせることになるだろう。

精神障害の経済・社会コストに目を向けよ
―― 見えないコストと偏見、放置される対策

2015年2月号

トーマス・R・インセル  米国立精神衛生研究所 所長 パメラ・Y・コリンズ 米国立精神衛生研究所 部長 (グローバル・メンタルヘルス) スティーブン・E・ハイマン ハーバード&MIT「ブロード研究所」 所長

精神障害は直接・間接に世界経済に年間2兆5000億ドルのコストを強いている。2030年までに精神障害のコストは、心臓疾患、ガン、糖尿病、そして呼吸器系疾患が強いるコストの合計を上回る6兆ドルへと増大すると予測されている。だが、この迫りくる危機が適切に認識されていない。これは、富裕国では精神障害が個人や家族が直面する問題として狭義にとらえられ、低所得諸国や中所得諸国では先進諸国の病気とみなされているからだ。精神障害の問題をこのまま放置すれば、いかに大きな問題が作り出されるかを理解する必要があるし、「メンタルヘルスの改善がより健康な体を保つことにつながるという事実」に焦点を合わせた対策をとるべきだ。人々の精神障害への認識と議論をさまざまな角度から変えていく必要がある。

ドイツの極右運動ペギーダが動員するデモ隊は「重税、犯罪、治安問題という社会的病巣を作り出しているのはイスラム教徒やその他の外国人移民だ」と批判している。「ドイツはいまやイスラム教徒たちに乗っ取られつつある」と言う彼らは、「2035年までには、生粋のドイツ人よりもイスラム教徒の数の方が多くなる」と主張している。実際には、この主張は現実とはほど遠い。それでもドイツ人の57%が「イスラム教徒を脅威とみなしている」と答え、24%が「イスラム系移民を禁止すべきだ」と考えている。「ドイツのための選択肢」を例外とするあらゆるドイツの政党は、ペギーダを批判し、彼らの要求を検討することさえ拒絶している。だが今後、右派政党「ドイツのための選択肢」の支持が高まっていけば、ペギーダ運動が政治に影響を与えるようになる危険もある。

フランスのアルジェリア人
―― フランス紙銃撃テロの教訓

2015年2月号

ロビン・シムコックス  ヘンリー・ジャクソン・ソサエティ リサーチフェロー

17人が犠牲になった2015年1月のフランス紙銃撃テロは、イスラム過激派がフランスを対象に実施した初めてのテロではない。実際には、1995年以降、フランスで起きたイスラム過激派のテロによって12人を超える人が犠牲になり、数百人が負傷している。しかも、これはフランスに留まる話ではない。最近の歴史から明らかなのは、ジハーディストが攻撃を正当化する大義をつねに見いだすということだ。2011年のフランスによるリビア介入でなければ、2013年のマリへの介入が大義に持ち出される。外交政策でなければ国内政策が、ヘッドスカーフ(ヒジャーブ)の公共空間での禁止でなければ、侮辱的な風刺画を描いたことが攻撃の大義にされる。この理由ゆえに、今回のテロ攻撃から教訓を学ぼうとしても、それを政策として結実させるのは難しい。テロリストは攻撃を常に正当化しようとする。・・・

イノベーティブ国家を構築するには
―― 政府がベンチャーキャピタルを見習うべき理由

2015年2月号

マリアナ・マッツカート サセックス大学科学政策研究所(SPRU) 教授(イノベーション経済学)

イノベーションを推進するために国は何をすべきか。「余計な口出しをしないことだ」と考えられてきた。この見方は広く受け入れられているが、ひどく間違っている。現実にはイノベーションを通じて経済成長を遂げている国は、歴史的に政府が企業のパートナー役、それも多くの場合企業が嫌がるリスクを進んで引き受ける大胆なパートナーの役目を果たしてきた。むしろ、技術革新の方向性を見極めて、政府がその領域に投資できる仕組みを形作るべきだ。公的投資に関するこれまでの短絡的考え方を放棄し、政府と民間を分けて考えるのをやめるべきだろう。イスラエルやフィンランドのように、国がベンチャーキャピタルのように、融資先企業の株式を保有することもできる。政府は、イノベーションを推進する未来志向の政府機関を設立し、これを、国内における創造性、応用、実験の拠点とすべきだろう。・・・

起業を成功させる人物とは

2015年1月号

マイケル・モリッツ ベンチャー・キャピタリスト

はっきりとした考えをもち、明確に考えを表現するコミュニケーション能力があり、大きな使命感をもっている人物。大きな忍耐力をもち、痛みを伴う決定を下すことを厭わず、圧倒的なバイタリティをもつ人物。そして自分が始めようしていることが一生の仕事になると確信している。これが一握りの素晴らしい企業を支える優れた起業家がもっている資質だ。・・・多くの企業がもっとも遠ざけるべきは「プロフェッショナルなマネージャー」たちだ。ほとんどの企業は、マネージャーではなく、起業家が運営した方がうまくいく。企業が完全な状態にある必要はないし、少し荒削りで、混沌として、先が読めない状態でも、活力があれはいい。活力を保ち、新しい製品を送り出し、迅速に行動することが重要だ。・・・・

文化遺産とナショナリズム
―― 文化遺産を人類が共有するには

2014年12月号

ジェームズ・クノー J・ポール・ゲッティ財団最高経営責任者

文化遺産の返還を求めることで、エジプトはファラオの時代と、イランは古代ペルシャ時代と、そしてイタリアはローマ帝国とつながっていることを示したいと考えている。しかし、これは文化保護主義につながる。狭義なアイデンティティーを強化するために文化遺産とその歴史を利用すべきではないだろう。文化遺産の返還を要求する流れは、文化財交流を否定するだけでなく、ニューヨークのメトロポリタン美術館、ロンドンの大英博物館、パリのルーブル美術館などの世界的博物館の役割を否定することになる。博物館は、ある時期のある文化の美術品を、別の時期の異なる文化の作品と並べて展示することで、さまざまな世界と人々への関心と好奇心を刺激し、コスモポリタンな世界観を育む場所だ。文化財を、統治エリートの政治的アジェンダに左右される国家の遺産としてではなく、人類の遺産としてとらえる必要がある。

欧米はロシアへの約束を破ったのか
―― NATO東方不拡大の約束は存在した

2014年12月号

ジョシュア・R・I・シフリンソン  テキサスA&M大学准教授

「NATOゾーンの拡大は受け入れられない」と主張するゴルバチョフ大統領に、ベーカー米国務長官は「われわれも同じ立場だ」と応えた。公開された国務省の会議録によれば、ベーカーはソビエトに対して「NATOの管轄地域、あるいは戦力が東方へと拡大することはない」と明確な保証を与えている。この意味ではNATOを東方に拡大させないという約束は明らかに存在した。約束は文書化されなかったが、東西ドイツは統合し、ソビエトは戦力を引き揚げ、NATOは現状を維持する。これが当時の了解だった。ドイツ統一に合意すれば欧米は(NATOの東方拡大を)自制するとモスクワが考えたとしても無理はなかった。しかし、「ワシントンは二枚舌を使ったという点で有罪であり、したがって、モスクワのウクライナにおける最近の行動も正当化される」と考えるのは論理の飛躍がある。・・・・

イスラム国とイラクの現実

2014年12月号

ジェーン・アラフ アルジャジーラ・アメリカ・イラク特派員

イラクのクルド自治区議会は、(イスラム国に包囲された)シリアのクルド人を支援するために民兵組織ペシュメルガをシリアに派遣することを決議し、トルコ政府も一定数のペシュメルガがトルコを経てシリアに入り、コバニでの戦闘に参加することを認めた。一方で、コバニからの難民がトルコを経由してイラクのクルド人地域へと流れ込んでいる。その数は現地の収容能力をはるかに超えた1万1000人に達している。・・・イラク軍はすでに崩壊している。バグダッドの防衛にあたっているのはシーア派の武装組織で、イランがこうした武装集団を支援している。一方で米軍が空爆を実施している。・・・(イスラム国支配下にある地域では)イスラム国は国としての権威をアピールしようと試みている。行政組織を運営しようと試み、教師たちに教壇に戻るように促し、すべてはうまくいっているとみせかけようとしている。だが、これは真実ではない。(聞き手はバーナード・ガーズマン、cfr@orgのコンサルティング・エディター)

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