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政治・文化・社会に関する論文

分離独立運動の未来
―― なぜ暴力路線へ向かう危険が高いか

2018年8月号

タニシャ・M・ファザル ミネソタ大学准教授(政治学)

分離独立運動が直面するジレンマは深い。国家の仲間入りを果たしたい以上、分離独立運動も主権概念を尊重している。だがそのためには、分離独立しようとする国の主権を犯すことになる。しかも、非暴力主義が独立して国家をもつための最善の道なのかどうか、はっきりしなくなってきている。国際社会と国際機関が、国家として機能できそうなクルディスタンやカタルーニャの分離独立の承認を拒絶し続ければ、これらの運動は、これまでの自制をかなぐり捨てて、いずれ、暴力路線や一方的独立宣言に踏み切るかもしれない。分離独立勢力が「(国際社会が求めるルールを守って目的の実現を目指しても、ほとんど何も得られない」と判断すれば、その帰結は忌まわしいものになる。

中国モデルとは何か
―― 権威主義による繁栄という幻想

2018年8月号

ユエン・ユエン・アン ミシガン大学准教授(政治学)

途上国は「リベラルな民主主義」よりも「中国モデル」に魅力を感じ始め、習近平自ら、「他の諸国は人類が直面する問題への対策として、中国のやり方に学ぶべきだろう」と発言している。当然、中国モデルが注目を集めているが、それがどのようなものかという質問への答は出ていない。その経済的成功が何によって実現したかも定かではない。現実には、鄧小平期の北京が、官僚制度の改革を通じて、地方の下級官僚たちが、現地の資源を用いて経済開発を急速に進めるのに適した環境を提供したことが、中国モデルの基盤を提供している。だが、こうした特質は民主国家にとっては、おなじみのものだ。懸念すべきは、中国モデルが欧米や途上世界で広く誤解されていること、そして中国のエリートたちでさえ、中国モデルを誤解していることだろう。

都市外交の台頭
―― グローバルな課題に対処する新アクター

2018年8月号

アリッサ・アイレス 米外交問題評議会シニアフェロー(南アジア担当)

各国の都市がグローバルレベルで直接交流するケースが増えている。都市の指導者たちは、他国の都市と連携し、災害からの復旧やリスク緩和について意見交換し、持続可能な開発、インフラ、治安、気候変動などの問題に取り組んでいる。まるで国際機関のようなネットワークを通じた都市の協調ネットワークもある。都市多国間主義(city multilaterals)と呼べるこのネットワークを通じて、都市が自分たちにとって無縁ではない地球規模の切実な課題に協調して取り組むようになり、国際社会で都市がリーダーシップを発揮する機会が作り出されている。国際条約に署名するのは今も国家の役割だが、都市は迅速に行動できるし、集積された知識を行動に生かし、グローバルな問題に協調して取り組むことができる。

多様性を受け入れる秩序へ
―― リベラルな国際秩序という幻

2018年8月号

グレアム・アリソン ハーバード大学教授(政治学)

戦後のアメリカの世界関与を促したのは、自由を世界に拡大したい、あるいは国際秩序を構築したいという思いからではなく、国内でリベラルな民主主義を守るための必要性に駆られてのことだった。民主的な統治の価値を信じる現在のアメリカ人にとっての最大の課題も、まさに、国内で機能する民主主義を再建することに他ならない。必要なのは、アメリカは自らがイメージする通りに戦後世界を形作ったとする空想上の過去に戻ることではない。幸い、国内の民主主義を再建するために、中ロその他の国の人々にアメリカの自由主義思想を受け入れてもらう必要はないし、他国の政治制度を民主体制に変える必要もない。むしろ、1963年にケネディが語ったように、自由主義であれ、非自由主義であれ、「多様性を受け入れる」世界秩序を維持するだけで十分ではないか。

マルキスト・ワールド
―― 資本主義を制御できる政治形態の模索

2018年8月号

ロビン・バーギーズ オープンソサエティ財団・経済促進プログラム アソシエートディレクター

共産主義モデルを取り入れた国が倒れ、マルクスの政治的予測が間違っていたことがすでに明らかであるにも関わらず、その理論が、依然として鋭い資本主義批判の基盤とされているのは、「資本主義が大きな繁栄をもたらしつつも、格差と不安定化をもたらすメカニズムを内包していること」を彼が的確に予見していたからだ。欧米が20世紀半ばに社会民主的な再分配政策を通じて、資本主義を特徴づけたこれらの問題を一時的に制御することに成功して以降の展開、特に、70年代末以降の新自由主義が招き入れた現状は、まさにマルクスの予測を裏付けている。今日における最大の課題は、「人類が考案したもっともダイナミックな社会システムである」資本主義の弊害を制御できる新たな政治システムを特定することにある。しかし、そのためには先ず、社会民主的政策を含めて、過去に答が存在しないことを認識しなければならない。・・・

東と西におけるポストリベラル思想
―― 宗教と国家の存在理由

2018年7月号

シャディ・ハミッド ブルッキングス研究所 シニアフェロー

ポピュリズムが台頭する欧米では、アイデンティティや帰属に関する非自由主義的で排他的なエスノナショナリズムが復活している。いまや「純然たる(リベラルの)道徳的コンセンサス」を否定する批評家も多く、リベラリズムは「真の思想的代替策を拒絶する野心的なイデオロギーと化している」と批判されることもある。一方、中東では、民主化が模索された「アラブの春」以降、社会における宗教の役割、国家の本質についての力強い論争が起きた。そこで支持されたのはリベラリズムではなく、イスラム主義だった。そしていまや政治的イスラム主義と宗教的イスラム主義の対立が起きている。ポストリベラル思想として、中東では宗教的イスラムコミュニティが、欧米では目的共同体が注目され始めている。・・・

フランシスコ法王とカトリックの分裂
―― 変化する社会と宗教

2018年7月号

マリア・クララ・ビンゲメル リオデジャネイロ・カトリック大学教授(神学)

フランシスコ法王は、史上もっとも評価の分かれるローマ教皇の一人かもしれない。その発言と解釈は超保守派を激怒させ、伝統主義者を不安にしている。テレビ、ラジオ、ソーシャルメディアで、フランシスコの教えを公然と非難する著名なカトリック教徒もいる。もちろん、進歩派は喜んでいる。世界が急速に世俗化しているにも関わらず、ヨハネ・パウロ2世とベネディクト16世が宗教保守の立場を貫いた時代についに終止符が打たれたとみなし、フランシスコを歓迎している。一方で、「法王は結婚や同性愛を含めて、特定の解釈を明確に選択することを拒否したため、すべて(の解釈)が受け入れられてしまった」と考える人もいる。これによって教会が二極化し、カトリック教会が過去数十年経験してこなかったような内紛に陥る危険があるという声も上がっている。だが果たしてそうだろうか。・・・

破綻したプーチンの統治モデル
―― 情報機関の没落と恐怖政治の復活

2018年7月号

アンドレイ・ソルダトフ 調査ジャーナリスト

ごく最近まで、ロシアの情報機関は「新しい貴族」としてのステータスを手にしてきた。潤沢な活動予算を与えられ、監督対象にされることもなく、クレムリンの敵に対して自由に行動を起こす権限をもっていた。高官たちには、国有企業、政府系企業の重要ポストも用意されていた。しかし、情報機関の多くは、本来なら監視の対象とすべきオリガークの傭兵と化し、ライバル抗争を繰り広げるばかりで、機能不全に陥ってしまった。いまやプーチンは、これまでのやり方を見直し、情報機関の権限と自主裁定権を縮小し始め、むしろ、大統領府に権限を集中させている。プーチンのロシアは急速にソビエトモデルへ回帰しつつある。但し、その帰結が何であるかを、プーチンはおそらく正確に理解していない。・・・

リベラル・ワールド
―― リベラルな秩序が今後も続く理由

2018年7月号

ダニエル・デュードニー ジョンズ・ホプキンス大学准教授(政治学)
ジョン・アイケンベリー プリンストン大学教授(政治学・国際関係論)

数十年前に欧米世界では淘汰されていたはずの世界政治の暗黒思想が息を吹き返している。だがこの風潮をリベラリズム理論への反証、そしてリベラルな民主主義とその国際秩序の解体の兆しとみなすのは間違っている。国際関係理論としてのリベラリズム、統治システムとしてのリベラルな民主主義、そしてグローバル政治の包括的枠組みとしてのリベラルな秩序のオビチュアリー(死亡記事)を書くのは時期尚早だろう。経済、安全保障、環境領域での相互依存状況が続く限り、各国の市民と政府は、問題を解決し、深刻なダメージから逃れるために、互いに協力せざるを得ない。その必要性ゆえに、協調行動が今後も続けられ、リベラルな秩序を支える制度は強化されていくだろう。

「自分の国に誇りをもてますか」
―― 国家アイデンティティと政治参加

2018年6月号

アンドレアス・ウィマー コロンビア大学教授(社会学)

国によって市民の国家へのこだわりや思い入れがなぜ違うのか。アメリカ人、ガーナ人、タイ人が、ドイツ人や台湾の人々よりも強い愛国心を持っているのはなぜなのか。研究者は、それを左右する要因として、民族的多様性やグローバル経済への統合レベル、あるいは戦争や内戦の(経験や)歴史などさまざまな説を唱えてきた。しかし現実には、自分たちの代表を政府に送り込んでいると考える人口が増えるほど、市民が国を誇りに思う気持ちは強くなる。一方で、教科書、国歌、公の儀式を通じて伝えられる単なるナショナリストのプロパガンダは、世界の多くの政治家が思っているよりも効果が薄い。人は自分が所属する集団の代表が国政に参加していると国との一体感を感じる。つまり、国家アイデンティティ意識には政治参加が重要であり、国が民族的に多様であっても同質的であってもそれは変わらない。

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