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政治・文化・社会に関する論文

危険な道路を変えるには
―― 車ではなく歩行者を重視した道路のデザインを

2020年4月号

ジャネット・サディク=カーン   ブルームバーグ・アソシエーツ  プリンシパル セス・ソロモナウ  ブルームバーグ・アソシエーツ  マネジャー

道路はなぜ危険なのか。根本原因は、自動車やドライバーの運転よりも、道路の設計そのものにある。より速度を出せるように設計された大型道路は、必然的により多くの死者をもたらした。車線の幅が広すぎると、ドライバーは危険なほどスピードを出し、道路上にあるものを障害物とみなすようになる。一方、どうみても安全にはみえない渋滞するニューヨーク市の道路における2017年の歩行者の死亡率は、アメリカの他の大都市の3分の1程度だ。重要なのは歩道を大きくし、交差点での横断歩道の距離を短くすること。車線の幅を狭めて、ドライバー、歩行者、自転車に乗る人がアイコンタクトを取りやすくすることだ。さらに道路スペースを自動車だけでなく、自転車レーンとバスレーン、そして新しい歩行者スペースに変える。これだけでも、道路は格段に安全な場所になる。

引き裂かれた家族と自画像
―― 湾岸における「 一時的な人々」

2020年4月号

ディーパック・ウニクリシュナン 作家

(湾岸の外国人労働者だった)父が、母と子供を現地に呼んでともに暮らせるだけの所得があったという意味では、他の外国人労働者に比べて私の家族は恵まれていた。だがそれでも、私の家族は特有の心の傷と格闘しなければならなかった。誰かがいないことを常に我慢し、合理的には受け入れられない別離に直面した。インド・ケララ州の人々は外国から自州に126億ドルを毎年送金し、州の経済成長率を11%へ押し上げるのに貢献しているかもしれない。しかし、湾岸に「一時的な人々」として出稼ぎにいった私の両親のような人々がどのようになり、いかにして私のような民族、国家、あるいは親戚にさえ忠誠心をほとんどもてない少年を作りだしたかを考える必要がある。「一時的な人々」が陥る家庭環境だけでなく、社会・心理状況そしてアイデンティティを定義する新しい言葉が必要だろう。

ビッグテックを分割すべき理由
―― 分割で米国家安全保障は強化される

2020年4月号

ガネシュ・シタラマン  ヴァンダービルト法科大学院 教授

大きな利益を計上し、成長し、強大化している巨大テクノロジー企業が、政府から分割される脅威から逃れようと「自分たちを分割すれば、中国が利益を手にする」と国家安全保障問題を引き合いに出していることに不思議はない。しかし、国家安全保障の観点からも、ビッグテックを競争から保護する理由はない。アメリカのビッグテックは中国と競争しているというより、むしろ中国と統合しようとしており、この状況の方がアメリカにとってより大きな脅威だ。アメリカにとって、イノベーションを生み出す最善の道筋は、統合されたテクノロジー産業ではなく、競争と研究開発への公的支出によって切り開かれるはずだ。現在のような大国間競争の時代にあって、競争力とイノベーションを維持する最善の方法は市場競争、適切な規制、そして研究開発への公的支出に他ならない。ビッグテックの分割は国家安全保障を脅かすのではなく、むしろ強化するだろう。

米軍の選択的撤退を
―― 現状維持と全面撤退の間

2020年4月号

トーマス・ライト ブルッキングス研究所 米欧センター所長

グローバルな関与からの撤退を求める立場が大きな流れを作り出しつつある。だが、それを追い求めるのは重大な過ちだ。必要なのは、外国でのコミットメントを「慎重に刈り込むこと」であって、数十年にわたってうまく機能してきた戦略を無条件に破棄することではない。現状維持でもない。アメリカの中東戦略に苛立つのは理解できる。しかし中東を理由に世界からの全面的撤退を模索するのは、ヨーロッパとアジアに関与することからアメリカが確保している恩恵を無視することになる。これらの地域には明確な目的と強力なパートナー、そして共有する利益が存在する。本当に重要な関与とそうではない関与を見分ける必要がある。

ウイルスが暴いたシステムの脆弱性
―― われわれが知るグローバル化の終わり

2020年4月号

ヘンリー・ファレル  ジョージ・ワシントン大学 教授(政治学、国際関係論) アブラハム・ニューマン ジョージタウン大学外交大学院 教授(政治学)

コロナウイルスの経済的余波への対処を試みるにつれて、各国の指導者たちはグローバル経済がかつてのように機能していないという事実に向き合うことになるはずだ。パンデミックは、グローバル化が非常に高い効率だけでなく、異常なまでに大きな脆弱性を内包していたことを暴き出した。特定のプロバイダーや地域が専門化された製品を生産するモデルでは、サプライチェーンがブレイクダウンすれば、予期せぬ脆弱性が露わになる。今後、数カ月で、こうした脆弱性が次々と明らかになっていくはずだ。その結果、グローバル政治も変化するかもしれない。これまでのところ、アメリカは、コロナウイルスのグローバルな対応におけるリーダーとはみなされていない。そうした役割の一部を中国に譲っている。・・・

パンデミックによる社会破綻
―― 経済政策で社会崩壊を阻止するには

2020年4月号

ブランコ・ミラノビッチ ニューヨーク市立大学シニアスカラー

コロナウイルス危機が終息しても、多くの人が希望も仕事も資産もない状態に放置されれば、彼らは、よりよい生活をしている人に敵意をもつようになるだろう。資金も雇用も、医療へのアクセスもない状態に放置され、絶望し、状況に怒りを感じるようになれば、イタリアの監獄で起きたような暴動、2005年にハリケーン・カテリーナに見舞われた後のニューオリンズで起きた略奪といった光景が、世界各地で再現されるかもしれない。現状における経済政策の主要な(あるいは、実質的に唯一の)目的は、社会的崩壊を阻止することかもしれない。ウイルスが作り出す異常な緊張のなかで、社会の絆を維持していくことを経済政策の目的に据える必要がある。

平壌とコロナウイルス
―― ウイルスと経済と体制危機

2020年4月号

スー・ミ・テリー  戦略国際問題研究所  シニアフェロー

コロナウイルスの侵入を警戒する北朝鮮は、国境線を封鎖し、あらゆるツーリズムを停止し、外国人のすべてに行動制限を課している。多くの公共サイトを閉鎖し、あらゆる学校を1カ月にわたって閉鎖している。こうした措置を続ければ、ウイルスの脅威は抑え込めても、経済的に追い込まれ、平壌の体制基盤が損なわれることになる。一方、北朝鮮にウイルスが入り込めば、感染は急速な広がりをみせるだろう。北朝鮮人口の43%(1100万人)が栄養失調に陥り、体力と抵抗力を失っており、この状況で感染症ウイルスが入り込めば、ひとたまりもない。しかも、この国にはパンデミックと闘うインフラはなく、病院システムはほとんど機能しておらず、医薬品も不足している。

中国の経験から各国は何を学べるか
―― コロナウイルス・パンデミック

2020年4月号

トマス・J・ボリキー  米外交問題評議会 グローバルヘルス・プログラム ディレクター  ビン・グプタ  ワシントン大学メディカルセンター アフィリエートアシスタントプロフェッサー (健康統計学)

世界がCOVID19に対処していく上で、中国がどのような経験をしてきたかを注意深く配慮する必要がある。(呼吸器疾患を抱え込みがちな)喫煙者が多く、大気汚染がひどいことも中国特有のリスク要因として考慮すべきだろう。認識すべきは、アウトブレイクの中核となった武漢を含む湖北省の医療システムが適切に機能できなくなったことだ。武漢の致死率は、他の国内地域のそれの4―6倍に達した。さらに、感染拡大を抑え込むために中国がとった大胆な措置を自国もとるべきかどうか。中国政府のやり方をそのまま取り入れられる国は他になさそうだし、そうすべきでもない。市民的自由や市民の権利を無視する政府の姿勢は、新型ウイルス発生(の迅速な情報公開を怠り)アウトブレイクを引き起こした政策や行動と表裏一体をなしているのだから。・・・

イギリスを待ち受ける嵐
―― 文化的内戦と予期せぬ現実

2020年3月号

ピッパ・ノリス ハーバード大学講師(比較政治)

今後もブレグジットに派生するイギリスの文化的断裂が埋まることはないだろう。若者と年長者、「コスモポリタン・リベラル」と「社会保守」間の大きな亀裂が埋まっていくとは考えにくい。「イギリスの内戦」は終わったのではなく、休戦状態にあるとみるべきだ。スコットランドが再び独立に向けた住民投票を実施する可能性も高まっている。北アイルランドとイギリス本土間で取引されるモノに関税が適用されれば、北アイルランドではアイルランドとの統合気運が高まっていく。世界におけるイギリスの役割が低下する事態を前に、英外務省は、いつも通り、アメリカとの関係強化を目指すかもしれないが、それも予期せぬ現実に直面するかもしれない。コストを強い、精神的な傷を残した離婚は、イギリスの新しい問題の先駆けなのかもしれない。

絶望死という疫病?
―― アメリカ特有の現象か、グローバル化するか

2020年3月号

アン・ケース プリンストン大学名誉教授(経済学) アンガス・ディートン プリンストン大学名誉教授(経済学)

アメリカの平均寿命が低下し始めた大きな理由は、25歳から64歳の中年の死亡率が上昇しているからだ。ドラッグのオーバードーズ(過剰摂取)やアルコール性の肝臓疾患による死亡、そして自殺が増えている。これらの3タイプの絶望死のなかでオーバードーズがもっとも多く、2017年に7万人が犠牲になり、2000年以降の累計では犠牲者数は70万を超えている。厄介なのは、他の諸国もこのアメリカのトレンドの後追いをすることになるかもしれないことだ。他の富裕国の労働者階級もグローバル化、アウトソーシング、オートメーションが引き起こす経済的帰結に直面している。エリートが繁栄を手にし、教育レベルの低い人々が取り残されるという、アメリカの絶望死危機を深刻にしているダイナミクスが、他の富裕国でも壊滅的な結果をもたらす恐れがある。

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