1994年以降に発表された邦訳論文を検索できます。

― アメリカの衰退に関する論文

各国は、あたかも2020年夏まで経済生産がゼロの状態が続くかのような財政支出を約束している。ニューディールを含めて、このレベルの政府支出には歴史的先例がない。つまり、これは「ハイパーケインズ主義」の実験のようなものだ。有事であると平時であると、先例はない。このような試みがアメリカ経済、ヨーロッパ経済、世界経済を救えるかどうかは誰にもわからない。希望をもてるとすれば、パンデミック前の段階で対GDP比債務がすでに230%近くに達していたにもかかわらず、日本の金利とインフレ率が引き続き安定していたことだ。多額の借入と財政出動がジンバブエよりも日本のような状況を作り出すのなら、楽観的になれる根拠はある。しかし、政府支出で永遠に現実世界の経済活動を代替することはできない。

パンデミックは歴史の転換点ではない
―― 国際協調とナショナリズム

2020年5月号

リチャード・ハース 米外交問題評議会会長

アメリカのリーダーシップの衰退、形骸化するグローバルレベルでの協調、対決的な大国間関係など、COVID19 が出現する前から存在する国際環境の特質は、パンデミックによって緩和されるどころか、先鋭化し、これらは今後の世界におけるより顕著な特質になっていくだろう。実際、パンデミックに対応する主体は国あるいは地方で、国際社会ではない。そして、危機が終息すれば、焦点は国の復興・再生へと移る。さらに悲観的にならざるを得ない理由の一つは、国際協調でグローバルな課題の多くに対処していくには、大国間の協力が不可欠であるにも関わらず、すでに長期にわたって米中関係が悪化していることだ。現状そして今後にとって、関連性の高い歴史的先例は、戦後に国際協調が進められた第二次世界大戦後ではなく、国際的な混乱が高まりつつも、アメリカが国際的な関与を控えた第一次世界大戦後の時代かもしれない。

コロナウイルスと米中の覇権
―― パンデミックと中国の野心

2020年5月号

カート・M・キャンベル  元米国務次官補(東アジア・太平洋担当) ラッシュ・ドーシ  ブルッキングズ研究所 中国戦略イニシアティブ・ディレクター

ワシントンがパンデミック対策に失敗する一方、迅速な動きをみせた北京は、パンデミックの対応を主導するグローバルリーダーとして自らを位置づけようと試みている。自国の体制のメリットを喧伝し、諸外国に援助を提供し、外国政府を一つの方向へ動員しようとするなど、大胆な行動をみせている。アウトブレイクを隠蔽しようとした北京の初動ミスが、世界の多くの地域を苦しめている危機を助長したのは事実だろう。それでも、「中国がリーダーシップをとっているようにみなされ、ワシントンにはその能力も意思もないと判断されれば」、21世紀の世界のリーダー争いを根本的に変化させられることを北京は理解している。

米軍の選択的撤退を
―― 現状維持と全面撤退の間

2020年4月号

トーマス・ライト ブルッキングス研究所 米欧センター所長

グローバルな関与からの撤退を求める立場が大きな流れを作り出しつつある。だが、それを追い求めるのは重大な過ちだ。必要なのは、外国でのコミットメントを「慎重に刈り込むこと」であって、数十年にわたってうまく機能してきた戦略を無条件に破棄することではない。現状維持でもない。アメリカの中東戦略に苛立つのは理解できる。しかし中東を理由に世界からの全面的撤退を模索するのは、ヨーロッパとアジアに関与することからアメリカが確保している恩恵を無視することになる。これらの地域には明確な目的と強力なパートナー、そして共有する利益が存在する。本当に重要な関与とそうではない関与を見分ける必要がある。

米金融帝国の黄昏
―― 金融制裁で損なわれるパワー

2020年3月号

ヘンリー・ファレル ジョージ・ワシントン大学  教授(政治学、国際関係論) アブラハム・ニューマン ジョージタウン大学  教授(政治学)

トランプ政権は、バグダッドが米軍のイラクからの撤退を強要するようなら、(世界が)みたこともない「対イラン制裁さえ控えめに思えるような、激しい制裁を(イラクに)発動する」と威嚇し、米連邦準備制度のイラク中央銀行の口座凍結さえ示唆した。ワシントンは、金融関係を帝国のためのツールに変えることで、アメリカは古代アテナイのやり方を踏襲しつつある。だが、アテナイがその後どのような運命をたどったかを理解すれば、ワシントンが、今後を楽観できるはずはない。同盟勢力を思いのままにするために金融力を用いたアテナイは、結局は、自らの破滅の時期を早めてしまった。

絶望死という疫病?
―― アメリカ特有の現象か、グローバル化するか

2020年3月号

アン・ケース プリンストン大学名誉教授(経済学) アンガス・ディートン プリンストン大学名誉教授(経済学)

アメリカの平均寿命が低下し始めた大きな理由は、25歳から64歳の中年の死亡率が上昇しているからだ。ドラッグのオーバードーズ(過剰摂取)やアルコール性の肝臓疾患による死亡、そして自殺が増えている。これらの3タイプの絶望死のなかでオーバードーズがもっとも多く、2017年に7万人が犠牲になり、2000年以降の累計では犠牲者数は70万を超えている。厄介なのは、他の諸国もこのアメリカのトレンドの後追いをすることになるかもしれないことだ。他の富裕国の労働者階級もグローバル化、アウトソーシング、オートメーションが引き起こす経済的帰結に直面している。エリートが繁栄を手にし、教育レベルの低い人々が取り残されるという、アメリカの絶望死危機を深刻にしているダイナミクスが、他の富裕国でも壊滅的な結果をもたらす恐れがある。

デジタル独裁国家の夜明け
―― 民主化ではなく、独裁制を支えるテクノロジー

2020年3月号

アンドレア・ケンドル=テイラー 新アメリカ安全保障センター シニアフェロー  エリカ・フランツ ミシガン州立大学助教(政治学)   ジョセフ・ライト ペンシルベニア州立大学教授(政治学)

AIをはじめとする技術革新は日常生活を改善する素晴らしい未来を約束する一方で、権威主義体制の締め付け強化に利用されてきた。デジタル抑圧の強化は、国家の統制が拡大し続け、個人の自由は縮小し続ける荒涼たる未来を想起させる。楽観論者たちが21世紀の幕開けに展望したのとは逆に、権威主義国はインターネットをはじめとする新テクノロジーの犠牲にされるどころか、それから恩恵を引き出している。事実、巨大な治安組織を必要とする警察国家を築かなくても、新テクノロジーを購入して、その使い方を、(輸入元である)中国のような外国の力を借りて一握りの役人に教えれば、それだけでデジタル権威主義国家の準備は整う。民主国家も21世紀の技術的ポテンシャルが呪いとならないように、新しいアイデア、アプローチ、リーダーシップを育んでいく必要がある。

新しい勢力圏と大国間競争
―― 同盟関係の再編と中ロとの関係

2020年3月号

グレアム・アリソン ハーバード大学教授(政治学)

中国とロシアは自国の利益や価値のために、欧米の利益を無視して、公然とパワーを行使するようになり、ワシントンも、地政学が「大国間競争」によって規定されていることを認識している。今後、アメリカの役割は変化するだけでなく、小さくなっていく。同盟関係へのコミットメントそして同盟関係そのものを大きく下方修正しなければならない。すでに世界には複数の勢力圏が存在することをリアリティとして受け入れ、「実現不可能な野望」は放棄し、勢力圏が地政学を規定する中核要因であり続けると言う事実を受け入れる必要がある。

アメリカのリーダーシップと同盟関係
―― トランプ後の米外交に向けて

2020年3月号

ジョセフ・バイデン  前米副大統領

気候変動にはじまり、大規模な人の移動、テクノロジーが引き起こす混乱から感染症にいたるまで、アメリカが直面するグローバルな課題はさらに複雑化し、より切実な対応を要する問題と化している。しかし、権威主義、ナショナリズム、非自由主義の台頭によって、これらの課題にわれわれが結束して対処していく能力は損なわれている。地に落ちたアメリカの名声とリーダーシップへの信頼を再建し、新しい課題に迅速に対処していくために同盟諸国を動員しなければならない。アメリカの民主主義と同盟関係を刷新し、アメリカの経済的未来を守り、もう一度、アメリカが主導する世界を再現する必要がある。恐れにとらわれるのではなく、いまはわれわれの強さと大胆さを発揮すべきタイミングだ。

「新社会主義運動」の幻想と脅威
―― 富は問題ではない

2020年2月号

ジェリー・Z・ミュラー 米カトリック大学歴史学教授

資本主義には強さと弱さがある。実際、自由市場を基盤とする資本主義が18世紀に定着して以降、このシステムは長く批判にさらされてきた。一連の改革運動が刺激され、これが19世紀型のレッセフェール(夜警)国家を今日の先進民主国家が導入する混合経済・福祉国家(mixed welfare States)へ変貌させた。かつて「社会民主主義」と呼ばれたシステムを現状で模索する左派勢力も、おおむね似たものを追いかけている。だが、「新社会主義運動」はこれらとは違う。そのルーツは社会民主主義ではない。資本主義を改革するのではなく、むしろそれを終わらせようとする民主社会主義にある。彼らは、金の卵を産むガチョウの健康など気にかけていない。これを当然視した上で、不公正な状況を超富裕層の資産の突出を削り取るという簡単かつ直接的な方法でなくそうとしている。

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