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テーマに関する論文

トランプと金正恩
―― 同盟国は悪辣な米朝取引に備えよ

2025年7月号

ビクター・チャ ジョージタウン大学教授

国際社会は北朝鮮の兵器開発・増強路線を止めさせることができず、いまや金正恩はこれまで以上に多くの交渉カードを持っている。当然、ワシントンのこれまでの北朝鮮外交モデルは選択肢にならない。条件を受け入れさせるには、大きな譲歩を示す必要がある。それは、北朝鮮を核保有国と認め、朝鮮半島から米軍を撤退させることを含む、同盟国に衝撃を与える内容になるかもしれない。ノーベル平和賞受賞への執着、ウクライナでの戦闘を終わらせたいという願望、そして金正恩に独特の友達意識をもつトランプは、北朝鮮の核保有を認め、同盟国を売り渡し、プーチンをなだめるような取引を、すべて「アメリカ・ファースト」の名の下に行うのかもしれない。

イエメン危機の国際的衝撃
―― 米軍の空爆停止の意味合い

2025年6月号

エイプリル・ロングリー・アレイ 元アメリカ平和研究所 上級専門家(湾岸諸国・イエメン担当)

5月上旬、ワシントンとフーシ派の停戦を仲介したオマーンは、双方ともお互いを標的にしないことに合意したと明らかにした。だが、フーシ派は停戦合意を「勝利」と呼んでいる。実際、米軍による空爆の停止だけでなく、米軍特殊部隊の撤退を前にイエメン政府軍は意気消沈し、経済問題も政治的内紛も深刻化しており、政府は崩壊しかねない状況に追い込まれている。現実にそうなれば、ほぼ確実にフーシ派の支配領域が拡大し、南部ではアルカイダが勢いを増すだろう。「イエメン国内で起きていること」と「紅海あるいはペルシャ湾を中心とする中東全域で起きていること」は区別できないことを、ワシントンは認識する必要がある。

新勢力圏の形成へ
―― 大国間競争から大国間共謀へ

2025年6月号

ステイシー・E・ゴダード ウェルズリー・カレッジ 政治学教授

中国やロシアと競争するのではなく、トランプ政権は中ロと協力することを望んでいる。トランプの世界観が大国間競争ではなく、「大国間共謀(great power collusion) 」、つまり、19世紀の「ヨーロッパ協調」に似ていることは、いまや明らかだろう。こうして、アメリカの外交路線は、ライバルとの競争から、温厚な同盟諸国をいたぶる路線へ変化した。他の大国から有利な譲歩を引き出すために、トランプがビスマルクのような外交の名手になる可能性もある。しかし、ナポレオン3世のように、よりしたたかなライバルに出し抜かれてしまうかもしれない。

エネルギー転換の幻
―― 現状認識と現実的アプローチ

2025年6月号

ダニエル・ヤーギン S&Pグローバル副会長
ピーター・オルザグ ラザード社CEO兼会長
アタル・アルヤ S&Pグローバル チーフエネルギーストラテジスト

再生可能エネルギーによる電力生産は増えているが、化石燃料による電力生産も史上最高レベルに達している。しかも、世界人口の8割が暮らすグローバル・サウスでは、「脱炭素化」の前にまず「炭素化」が進むと考えられる。つまり、現在進行しているのは、「エネルギー転換」というよりも、むしろ「エネルギーの追加」に他ならない。実際には、エネルギー転換は、エネルギーだけの問題にとどまらない。それは、世界経済全体を再構築するに等しい。経済成長、エネルギー安全保障、エネルギー・アクセスが関わってくる以上、われわれはより現実的なエネルギー転換の道筋を模索する必要がある。

プーチンのロシアと欧米
―― 永遠の戦争メカニズムを断ち切るには

2025年6月号

アレクサンダー・ガブエフ カーネギー国際平和財団 ロシア・ユーラシアセンター ディレクター

プーチンは「欧米との対立」をロシアの生活を規定する基本原理に据え、すでに「反欧米」はロシアの生活の一部として定着している。いかなる停戦も、この基本原理、国内メカニズムを覆すことはない。それでも、ロシアエリートの多くは、ウクライナでの戦争が戦略的な過ちであることを理解している。彼らが、欧米との関係改善をイメージしやすい環境を今から準備しておけば、プーチン後の権力抗争で、彼ら、プラグマティストが勝利する可能性を高め、欧米とロシアが熱い戦争と冷たい戦争を永遠に繰り返す事態を避けられるかもしれない。実際、そうしない限り、欧米との永遠の対立を政治遺産にしようとするプーチンの試みに手を貸すことになる。

ミャンマーを操る中国の二重戦略
―― 地域覇権を狙う北京の分断戦略

2025年6月号

イェ・ミョー・ヘイン 東南アジア平和研究所 上級フェロー

ミャンマーの安定回復と中国との友好関係の促進を強調しつつも、北京は、崩壊寸前の軍事政権を支えつつ、少数民族武装勢力を自国の影響下に取り込む一方で、欧米との結びつきが強いとみている民主派勢力を排除している。現実には、中国はミャンマーのカオスのなかにチャンスを見いだしている。崩れかけた軍事政権を支えることで影響力を強化し、武装抵抗勢力の連帯を切り崩して、その一部への影響力を拡大して欧米の影響力を抑え込んでいる。軍事政権による統治が続き、国内が分断されたままであれば、中国にとって、ミャンマーをより管理しやすい状態に保てるからだ。実際、ミャンマーを弱体化した状態にとどめることが、中国が絶対的な地域覇権を確立する前提条件なのだ。

トランプの強硬路線とアジア
―― アジアを強制するか、見捨てるか

2025年6月号

リン・クオック ブルッキングス研究所フェロー

アジア諸国が「中国かアメリカか」の二者択一を迫られれば、どう対応するだろうか。中国が常に利益を得るとは限らないが、地理的に近く、この地域と広範な経済的つながりをもち、経済的関与を戦略的優位に転化させるスキルをもつ中国は、もっとも利益を確保しやすい環境にある。アジアに選択を迫っても、その答えはワシントンの気に入るものにはならないかもしれない。一方でトランプ政権が、選択を迫るのではなく、同盟国やパートナーを見捨てることで、習近平と世界を勢力圏に切り分ける「グランド・バーゲン」をまとめようとする恐れもある。ワシントンが今後も圧力と無視という路線を組み合わせれば、北京を警戒する政府を中国の懐に送り込んでしまう危険がある。

アメリカなき世界システム
―― 新しい国際統治の形

2025年6月号

ヌゲール・ウッズ オックスフォード大学 教授(グローバル経済統治)

トランプ政権は、アメリカがその形成に深く関わってきた条約や国際機関、経済システムに背を向けつつある。この状況がカオスや紛争につながっていくかは、これまで秩序を支えてきた、欧州や日本を含む、多くの国の行動次第だろう。世界が米主導の制度、条約、同盟から離れて他国が主導するシステムへ移行していく道筋はいくつか存在する。世界銀行などの既存の国際機関でアメリカの役割を代替することもできる。既存の国際機関と同じ機能の一部を果たせる代替システムをみつけることも、協力関係を維持してG9やG12のようなものを形作ることもできる。だが、何もしなければ、これまで以上に危険に満ちた世界で、手段も影響力もなく、狭義の短期的な利益を守るために奔走することになる。

ボスニアの不安定化と欧州
―― 徘徊しだしたセルビアナショナリズム

2025年6月号

イスメット・ファティフ・カンカール 前ボスニア・ヘルツェゴビナ 安全保障相顧問

ボスニア・ヘルツェゴビナ(ボスニア)のスルプスカ共和国は、ボスニアからの分離・独立を画策している。共和国を率いる親ロシア派のセルビア人ナショナリスト、ミロラド・ドディックは、国と並立する政治構造を共和国内に組織し、民族間の緊張をあおり、ボスニアから分離・独立しなければならないと主張している。セルビア人の分離主義者たちは、ますます大胆になりつつあるし、彼らを支えるセルビア、ハンガリー、ロシアの指導者たちも同様だ。こうしてボスニアは、その短い歴史のなかでもっとも深刻な崩壊の危機に直面している。スターマー英首相、マクロン仏大統領、メルツ独首相など、「ワシントンが作り出した空白を埋める」と約束しているヨーロッパの指導者たちにとって、この問題にどう対応するかは、重要な試金石になるだろう。

ヨルダン国家存続の危機
―― トランプが作り出した悪夢

2025年5月号

カーティス・R・ライアン アパラチアン州立大学 教授

ヨルダンの政府も野党も市民も、トランプが提案したパレスチナ人のヨルダン再定住計画に激しく反発している。しかも、トランプ政権は、対外援助を90日間停止し、国連パレスチナ難民救済事業機関(UNRWA)への拠出をゼロにし、国際開発庁(USAID)を完全に廃止しようとしている。中東で、ヨルダンほどUSAIDやUNRWAに依存している国はない。基本的行政サービスを支えるこれらの援助・開発プロジェクトが打ち切られれば、ヨルダン社会は立ちゆかなくなる。トランプは、アメリカに依存する同盟国には何でも強制できると考えているのかもしれないが、中東の同盟国の強い訴えに配慮して、パレスチナとヨルダン、そして中東地域の大惨事を回避することに努めるべきだ。

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