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2025.4.18 Fri

米中衝突の衝撃
―― 解体するグローバル貿易システム

アメリカは自由貿易へのコミットメントをすでに放棄している。関税を課し、複数の産業に巨額の補助金を投入することで、世界貿易機関(WTO)のルールと原則を公然と踏みにじっている。中国も、補助金や経済的威圧策を行使して貿易をゆがめ、次第にこれを兵器として用いつある。(ホープウェル)

経済的遮断で中国に大きなダメージを与えるには、米同盟国の参加が不可欠だが、同盟国は、平時の経済的遮断は躊躇するだろう。アメリカが中国を経済的に切り離すことで受ける被害は比較的小さいかもしれないが、日本、韓国、オーストラリアを含むパートナー諸国は大きな代償を払うことになる。(ブルックス、バーグリー)

トランプ政権は、中国政府が「国が支配する経済」から「市場経済」へと一夜にしてシステムを作り替えることを望んでいる。中国経済のあらゆる側面への管理を維持することで、権力を堅持してきた共産党政府がこれを受け入れるはずはない。(ボウン、アーウィン)

保護主義の台頭とWTOの衰退
―― 貿易秩序の崩壊は何を意味するか

2024年11月号 クリステン・ホープウェル ブリティッシュ・コロンビア大学 教授

アメリカは自由貿易へのコミットメントをすでに放棄している。関税を課し、複数の産業に巨額の補助金を投入することで、世界貿易機関(WTO)のルールと原則を公然と踏みにじっている。中国も、補助金や経済的威圧策を行使して貿易をゆがめ、次第にこれを兵器として用いつある。しかも、インドネシアやインドを含む、他の諸国もアメリカのやり方に追随して、WTOルールを公然と無視するようになった。このままWTOルールを無視する国が増え続ければ、いずれ、多国間貿易システムが完全に崩壊するティッピングポイントを迎え、世界は1930-1940年代へと回帰していくことになるのかもしれない。

対中デカップリング
―― 衝撃を抑え、効果を最大化するには

2025年4月号 スティーブン・G・ブルックス ダートマス大学 政治学教授 ベン・A・バーグリー 米財務省 政策アナリスト

平時に対中デカップリングを強行すれば、ワシントンがまさに回避したい紛争へ北京を向かわせる恐れがある。経済的混乱のなかで、台湾を侵略する機会も近く失われると考えて、武力行使に乗り出すかもしれないからだ。さらに、経済的遮断で中国に大きなダメージを与えるには、米同盟国の参加が不可欠だが、同盟国は、平時の経済的遮断は躊躇するだろう。アメリカが中国を経済的に切り離すことで受ける被害は比較的小さいかもしれないが、日本、韓国、オーストラリアを含むパートナー諸国は大きな代償を払うことになる。むしろワシントンは、危機に備えて、デカップリングを温存することで、対中抑止力を維持する一方で、同盟諸国が痛みに耐えられるように、経済同盟を組織して対策を考案していくべきだ。

米中経済のディカップリングの意味合い
―― 解体するグローバル貿易システム

2019年9月号 チャッド・P・ボウン ピーターソン国際経済研究所 ダグラス・A・アーウィン ダートマスカレッジ教授(経済学)

トランプ政権が永続的な中国との取引はもとより、北京が受け入れるかもしれない合意など望んでいないことはすでに明らかだ。表面的な合意が結ばれても、それは永続的な貿易戦争の一時的な休戦にすぎない。トランプ政権は、中国政府が「国が支配する経済」から「市場経済」へと一夜にしてシステムを作り替えることを望んでいる。中国経済のあらゆる側面への管理を維持することで、権力を堅持してきた共産党政府がこれを受け入れるはずはない。世界の2大経済大国のつながりが断ち切られ、分裂していけば、世界の貿易地図も書き換えられていく。各国はライバルの貿易ブロックのどちらかを選ばざるを得なくなり、これまでの「グローバル貿易システム」は解体へ向かう。

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2025年4月号(2025年4月10日発売)

Contents

  • 支離滅裂な関税政策
    壊滅的な間違い

    チャド・P・ボウン、ダグラス・A・アーウィン

  • トランプと競争的権威主義の台頭
    米民主主義は崩壊するのか

    スティーブン・レヴィツキー、ルーカン・A・ウェイ

  • ウクライナ戦争は続く
    ロシアに対する恐怖

    ナターリヤ・グメニュク

  • 同盟の流動化と核拡散潮流
    次の核時代に備えよ

    ギデオン・ローズ

  • 勢力圏の復活
    停戦交渉は第2のヤルタなのか

    モニカ・ダフィー・トフト

  • 領土拡張時代の到来
    気候変動と土地・資源争奪戦

    マイケル・アルバータス

  • 対中デカップリング
    衝撃を抑え、効果を最大化するには

    スティーブン・G・ブルックス、ベン・A・バーグリー

  • 反欧米枢軸と中国の立場
    北京はロシア、北朝鮮をどうみているか

    セルゲイ・ラドチェンコ

他全10本掲載

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