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2023.11.28 Tue
バルカンとプーチンの思惑
―― 欧州におけるロシアの第2戦線
ロシアは、バルカン半島をヨーロッパの弱点とみなし、なかでもセルビアをもっとも脆弱なポイントと捉えている。プーチンの目標は、モスクワをバルカンにおける唯一の信頼される紛争調停者にして、モスクワが欧米に対して影響力をもてるようにすることだ。(シェッド、ストラドナー)
コソボ紛争は奇妙な戦争であったし、戦争を周到な政策の延長とみれば、これは完全な失敗だった。コソボのアルバニア系住民は、「民族自決権」に基づく独立を求めて戦った。一方、セルビア人は「既存の国境線の不可侵」という原則を盾にコソボをユーゴスラビアの一部に留め置こうと戦ってきた。(マンデルバーム)
プーチン大統領はバルカンを再びロシアの勢力圏にしようと、この地域における分裂や社会・経済的な弱点につけ込んでいる。モスクワは、バルカンを北大西洋条約機構や欧州連合から遠ざけ、その地域的エネルギー供給を支配することでバルカンを完全にロシアに依存させたいと考えている。(スキルペック)
欧州におけるロシアの第二戦線
―― セルビアとプーチンの思惑
2023年12月号 デイビッド・シェッド 元米国防情報局長官代理 イヴァナ・ストラドナー 民主主義防衛財団 リサーチフェロー

ロシアは、バルカン半島をヨーロッパの弱点とみなし、なかでもセルビアをもっとも脆弱なポイントと捉えている。プーチンの目標は、モスクワをバルカンにおける唯一の信頼される紛争調停者にして、モスクワが欧米に対して影響力をもてるようにすることだ。すでに、コソボのセルビア系住民が警察部隊を襲撃し、その数カ月後、セルビア軍がコソボとの国境地帯に動員されるという事態も起きている。セルビアの指導者は、コソボで作戦を展開する機会がすぐにでも訪れるだろうと考えている。しかも、セルビアとコソボの紛争は、バルカンの他の地域に簡単に飛び火しかねず、これこそ、欧米がウクライナから他の場所へ関心を移すことを望んでいるプーチンが望む展開だろう。
完全な失敗としてのコソボ
1999年9月号 マイケル・マンデルバーム 外交問題評議会フェロー

コソボ紛争は奇妙な戦争であったし、戦争を周到な政策の延長とみれば、これは完全な失敗だった。コソボのアルバニア系住民は、「民族自決権」に基づく独立を求めて戦った。一方、セルビア人は「既存の国境線の不可侵」という原則を盾にコソボをユーゴスラビアの一部に留め置こうと戦ってきた。かたやNATOといえば、コソボには自治権が認められるべきだという立場をとりつつも、それでもコソボはユーゴの一部にとどまるべきだと主張した。当然、戦争が終わったときも、主権にまつわる中核的な政治問題は未解決のままだった。NATOは介入して紛争勢力の一方を打破しつつも、戦争目的をめぐっては、うち負かした側が掲げていた大義を共有していたからである。つまりコソボはNATOの軍事的成功ではあっても政治的には大失策だったのだ。
バルカンに対するロシアの野望
――クロアチアはロシアの攻勢を阻めるか
2017年9月号 ダグマール・スキルペック 南東ヨーロッパ分析者

プーチン大統領はバルカンを再びロシアの勢力圏にしようと、この地域における分裂や社会・経済的な弱点につけ込んでいる。モスクワは、バルカンを北大西洋条約機構や欧州連合から遠ざけ、その地域的エネルギー供給を支配することでバルカンを完全にロシアに依存させたいと考えている。すでにボスニアでは、プーチンの財政支援によって勢いづいたスルプスカ共和国のミロラド・ドディク大統領が分離独立を強く求めている。これが実現すれば、1990年代のバルカン紛争のような事態が再現されかねない。救いは、クロアチアがハンガリーやポーランドで勢力を拡大しつつあるナショナリズムを寄せ付けていないことだ。クロアチアは今やヨーロッパ南東部のリーダーであり、この国の政治状況が地域のダイナミクスに大きな影響を与えている。欧米はクロアチアの穏健派政府が、ロシアの影響力拡大に対抗していく上でのもっとも力強い(防波堤、そして)同盟相手であることを認識する必要がある。