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2023.12.02 Sat
キッシンジャー外交の本質
―― 冷徹なリアリストの素顔
キッシンジャーは・・・アジアと中東という、平和、繁栄、民主主義がまだ広く確実には根づいていない二つの重要な地域に対しては、アメリカの政策決定者は保守的な「パワー・バランス」(勢力均衡)路線を目指すべきで、(内側の改革を強硬に求めるべきではない)と指摘している。(マンデルバーム)
国益だけを見つめる冷徹な現実主義者として知られるキッシンジャーだが、彼の外交センスは、冷徹な分析能力というよりも、実際には、彼自身もあまり気づいていない二つの資質によって導かれていた。一つは、「膨大な情報を踏まえた上で、そこから実行可能なエッセンスを導き出す類い希な能力」である。・・・そしてもう一つの才能は、「他人の能力を直感的に見抜く力」、そして、でき得る限り相手の立場に「共感」を示す柔軟性である。(ゼリコー)
大国間戦争が80年近くもなかった国際秩序を形作るなかでわれわれが学んだ教訓は、いまAIと対峙する指導者にとって最良の指針となる。AIのもっとも危険な発展と応用を防止するためのガイドラインを作成する機会を手にしている米中は、この機会を早い段階で生かす必要がある。(キッシンジャー、アリソン)
レビュー・エッセイ
キッシンジャーの思想と保守主義の本懐
2001年7月号 マイケル・マンデルバーム ジョンズ・ホプキンス大学

キッシンジャーは人道的介入策を突き動かす動機には共感を示し、そうした行動を求めるアメリカの経験に深く根ざす価値も理解している。しかし彼は、これまでの人道介入政策の実施のされ方ゆえに、この政策の背後にある大義名分や価値がむしろ損なわれていると指摘する。また彼は、アジアと中東という、平和、繁栄、民主主義がまだ広く確実には根づいていない二つの重要な地域に対しては、アメリカの政策決定者は保守的な「パワー・バランス」(勢力均衡)路線を目指すべきで、(内側の改革を強硬に求めるべきではない)と指摘している。
Review
キッシンジャーの知られざる素顔
1999年6月号 フィリップ・ゼリコー バージニア大学教授

国益だけを見つめる冷徹な現実主義者として知られるキッシンジャーだが、彼の外交センスは、冷徹な分析能力というよりも、実際には、彼自身もあまり気づいていない二つの資質によって導かれていた。一つは、「膨大な情報を踏まえた上で、そこから実行可能なエッセンスを導き出す類い希な能力」である。彼は、タイミングよく本当の問題の所在をかぎ分け、それに対処するために、官僚や外交官がどのような行動をとるべきかを思い描く抜群のセンスの持ち主だった。そしてもう一つの才能は、「他人の能力を直感的に見抜く力」、そして、でき得る限り相手の立場に「共感」を示す柔軟性である。世間のキッシンジャー評、あるいは、彼の自画像にもない、この二つの資質が彼を当代一流の外交交渉者に押し上げたのである。
AI統治と軍備管理の教訓
―― 壊滅的事態を回避する米中の責務
2023年12月号 ヘンリー・A・キッシンジャー キッシンジャー・アソシエイツ会長 グレアム・アリソン ハーバード大学教授

この2年にわたって、AI革命の最前線にいるテクノロジーリーダーたちと問題を検証してきたわれわれ二人は、「AIの無制限、無節操な進化はアメリカと世界に破滅的な結果をもたらす」という見通しには大きな説得力があり、「各国の指導者はいますぐ行動を起こさなければならない」という結論に達した。そうする上で、われわれは冷戦期の核管理の歴史から教訓を学ぶことができる。大国間戦争が80年近くもなかった国際秩序を形作るなかでわれわれが学んだ教訓は、いまAIと対峙する指導者にとって最良の指針となる。AIのもっとも危険な発展と応用を防止するためのガイドラインを作成する機会を手にしている米中は、この機会を早い段階で生かす必要がある。