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年度別傑作選に関する論文

デジタル経済が経済・社会構造を変える
―― オートメーション化が導くべき乗則の世界

2014年7月号

エリック・ブラインジョルフソン MIT教授(マネジメントサイエンス)
アンドリュー・マカフィー MITリサーチ・サイエンティスト(デジタルビジネス)
マイケル・スペンス ニューヨーク大学教授(経済学)

グローバル化は大きな低賃金労働力を擁し、安価な資本へのアクセスをもつ国にこれまで大きな恩恵をもたらしてきたが、すでに流れは変化している。人工知能、ロボット、3Dプリンターその他を駆使したオートメーション化というグローバル化以上に大きな潮流が生じているからだ。工場のようなシステム化された労働環境、そして単純な作業を繰り返すような仕事はロボットに代替されていく。労働者も資本家も追い込まれ、大きな追い風を背にするのは、技術革新を実現し、新しい製品、サービス、ビジネスモデルを創造する一握りの人々だろう。ネットワーク外部性も、勝者がすべてを手に入れる経済を作り出す。こうして格差はますます広がっていく。所得に格差があれば機会にも格差が生まれ、社会契約も損なわれ、・・・民主主義も損なわれていく。これまでのやり方では状況に対処できない。現実がいかに急速に奥深く進化しているかを、まず理解する必要がある。

アベノミクスの黄昏
―― スローガンに終わった構造改革

2014年7月号

リチャード・カッツ オリエンタル・エコノミスト・レポート誌編集長

3本の矢すべてが標的を射抜けば、安倍政権が強気になってもおかしくはない。だがすでに2本の矢は大きく的を外している。財政出動による景気刺激効果は、赤字・債務削減を狙った時期尚早な消費税率の引き上げによって押しつぶされ、構造改革は曖昧なスローガンが飛び交うだけで、具体策に欠ける。量的緩和も、他の2本の支えなしでは機能しないし、物価上昇の多くは円安による輸入品の価格上昇で説明できる。結局、自信を取り戻すには、有意義な構造改革を通じて停滞する日本企業の競争力を回復するしかない。そうしない限り、一時的な景気浮揚策も結局は幻想に終わる。問題は、安倍首相がもっとも重視しているのが経済の改革や再生ではなく、安全保障や歴史問題であることだ。

北朝鮮の崩壊を恐れるな
―― リスクを上回る半島統一の恩恵に目を向けよ

2014年7月号

スー・ミ・テリー 元米中央情報局(CIA)上席分析官

朝鮮半島の統一が韓国を経済的・社会的に押しつぶすわけでも、アメリカ、中国、日本に受け入れがたいリスクを作り出すわけでもない。たしかに、朝鮮半島の統一はドイツ統一以上にコストがかかり、多くの課題を伴うだろう。例えば、北の崩壊シナリオとしてもっとも現実味があるのは北朝鮮が内破し、体制が崩れていくことで、この場合、核兵器の安全な管理をいかに確保し、人道的悲劇を回避して大規模な難民が発生しないようにすることが大きな課題となる。だからといって、半島の統一を回避すべきだと考えるのは間違っている。崩壊を経た半島統一の最大の恩恵は、北東アジアにおける主要な不安定化要因が消失することだが、特に韓国は大きな経済的恩恵を手にできる。これまで各国は、平壌が挑発的行動を前にしても、北朝鮮を不安定化させることを懸念して、経済制裁の強化や、対抗策をとることを躊躇ってきたが、今後はそのような配慮をすべきではない。統一の恩恵はリスクやコストを遙かに上回るのだから。

21世紀の資本主義を考える
―― 富に対するグローバルな課税?

2014年6月号

タイラー・コーエン ジョージメイソン大学教授(経済学)

西ヨーロッパが19世紀後半に享受した平和と相対的安定は、膨大な資本蓄積を可能にし、先例のない富の集中が生じ、格差が拡大した。しかし、二つの世界大戦と大恐慌が資本を破壊し、富の集中トレンドを遮った。戦後には平等な時代が出現したが、1950年から1980年までの30年間は例外的な時代だった。1980年以降、拡大し続ける格差を前に、トマ・ピケティのように、19世紀後半のような世界へと現状が回帰しつつあると考え、格差をなくすために、世界規模で富裕層の富に対する課税強化を提言する専門家もいる。しかし、大規模な富裕税は、資本主義民主体制が成功し繁栄するために必要な規律や慣習とうまくフィットしない。もっとも成功している市民への法的、政治的、制度的な敬意と支援がなければ、社会がうまく機能するはずはない。

「歴史の終わり」と地政学の復活
―― リビジョニストパワーの復活

2014年5月号

ウォルター・ラッセル・ミード バードカレッジ教授(歴史・外交)

政治学者フランシス・フクヤマは、「冷戦の終わり」をイデオロギー領域での「歴史の終わり」と位置づけたが、多くの人は、ソビエトの崩壊はイデオロギー抗争の終わりだけでなく、「地政学時代の終わり」を意味すると考えてしまった。現実には、ウクライナをめぐるロシアとEUの対立、東アジアにおける中国と日本の対立、そして中東における宗派間抗争が国際的な紛争や内戦へとエスカレートするリスクなど、いまや歴史は終わるどころか、再び動き出している。中国、イラン、ロシアは冷戦後の秩序を力で覆そうとしており、このプロセスが平和的なものになることはあり得ない。その試みは、すでにパワーバランスを揺るがし、国際政治のダイナミクスを変化させつつある。いまや、リベラルな秩序内に地政学の基盤が築かれつつあるのを憂慮せざるを得ない状況にある。・・・・

流れは独ロが規定する新ヨーロッパへ
―― ウクライナ危機と独ロの特別な関係

2014年4月号

ミッチェル・A・オレンシュタイン
ノースイースタン大学教授(政治学)

ヨーロッパでの紛争を回避するために戦後ドイツがフランスとともに西側の枠組みに参加したように、冷戦後のドイツは東ヨーロッパにおける平和的な秩序を支えようと、クレムリンとの強固なパートナーシップの構築を試みた。そしてウクライナ危機が起きた。ヨーロッパとの明確な境界線を引きたいロシアにとっては、クリミアの支配という現状を維持し、ウクライナを不安定化させようと試みるのが合理的なのかもしれない。一方、ドイツは、ロシアとウクライナを直接交渉させる道筋へと向かわせたいと考えている。ロシアに対する制裁には及び腰で、むしろ緊張緩和に努めているとしても、ドイツはウクライナをヨーロッパの経済的軌道に組み込むことを決意しているようだ。クリミアの混迷は膠着状態から抜け出せないかもしれないが、いずれドイツとロシアは協調し、いまはまだ共有していない新しいヨーロッパのビジョンに向けて動き出すかもしれない。

ビッグデータやモノのインターネットに象徴される情報テクノロジーの進化、ヒトゲノムの解読、そして合成生物学の進化はわれわれの社会や生活だけでなく、人間の生命観や価値観そのものを大きく変化させている。一方、資本主義民主体制は、少子高齢化による社会保障負担の重圧だけでなく、民主体制を支えてきた自由とプライバシーを蝕む監視社会・ビッグデータ権威主義の潜在的脅威にもさらされている。そして、利便性の高い情報技術の進化と拡散が一方で監視と抑圧のツールを作り出すなか、歴史や領土をめぐる古くからの確執が再燃している。現状は、技術によって急速に変化した価値に翻弄され、困惑する社会が、新しい国家構造と社会契約のアイデンティティを模索し、もがいているかにみえる。先端技術の進化と価値観の変貌、少子高齢化と資本主義民主国家体制の危機、歴史的確執の再燃、そして変化するグローバル経済は2014年の世界をどこへ導くのか。

CFR Meeting
世界エネルギーアウトルック
―― 中東原油の重要性は変化しない

2014年1月号

ファティ・ビロル 国際エネルギー機関チーフエコノミスト、セオドア・ルーズベルト バークレーキャピタル・クリーンテク・イニシアティブ マネジングディレクター

エネルギー市場における各国の役割が変化しつつある以上、急速な変化のなかで市場の流れを読み、自国を適切な場所に位置づける必要がある。そうしない限り、敗者になる。アメリカは天然ガスの輸出国に姿を変え、中東諸国は石油消費国への道を歩みつつある。ヨーロッパ、アメリカという輸出市場を失いつつあるロシアとカナダは、天然ガス輸出のターゲットを次第に中国や日本などのアジアに向け始めている。そして、シェールガス革命が進展しても、世界の天然ガス価格の地域格差は、今後20年はなくならない。もっとも重要なのは、アメリカ国内における原油生産の増大を前に、「もはや中東に石油の増産を求める必要はない」と考えるのは、政治的にも分析上も完全に間違っていることだ。生産コストが低くて済む、中東石油へ投資しておかなければ、アメリカの石油増産トレンドが終わる2020年頃には、世界は大きな問題に直面する。中東石油の投資を止めれば、原油価格の高騰は避けられなくなる。

CFR Briefing
WTOと地域貿易構想
―― TPPとTTIPの可能性

2014年1月号

ジェイミー・ザブルドフスキー・クーパー
メキシコ国際問題評議会(COMEXI)代表
セルジオ・ゴメス・ローラ
IQOM、CEO

多国間貿易ラウンドが大きな危機に瀕しているため、その空白を地域およびサブ地域レベルでの貿易交渉が埋めつつある。少なくとも短・中期的には、国際貿易の未来はこれら地域レベルでの交渉の結果にかかっていると言えよう。なかでも環太平洋パートナーシップ(TPP)は、その経済的・戦略的な重要性において際立っている。仮にTPPで国際規格(TBT)や規制の標準化、反政治腐敗、Eコマース、環境などの「WTOプラス」に該当する交渉アジェンダに合意されれば、そのアレンジメントは、今後環太平洋および環大西洋の市場統合に関するプラットフォームとしての役割を果たすことになる。TPPと環大西洋貿易投資パートナーシップ(TTIP)という二つの重要な貿易交渉が成功すれば、WTOプラスに積極的に取り組む国、現行のWTOルール以上の自由化を受入れる準備ができていない国の二つへ分かれていくだろう。この段階で、WTOの役割を再検証する必要がある。・・・

軋みだした中国の統治システム
―― 変化した社会に適応できる政治構造を

2014年1月号

デビッド・M・ランプトン ジョンズ・ホプキンス大学 ポールニッツスクール教授(中国研究)

中国は力強い経済、パワフルな軍隊をもっているかもしれないが、その統治システムは非常に脆い。いまや中国を統治するのは、毛沢東や鄧小平の時代と比べてはるかに難しくなっている。中国の指導者の権力は年を追うごとに弱くなり、中国社会は、経済や官僚組織同様に分裂し、多元化している。しかも、市民社会と民間が大きな力をもちつつある。問題は、政策決定に世論の立場を取り入れつつも、政治構造をそのままに放置していることだ。法の支配への強いコミットメントを示すだけでなく、社会紛争の解決に向けて、司法や立法などの政治制度への信頼性をもっと高める必要がある。優れた政府規制を整備し、より踏み込んだ情報公開を行い、もっと説明責任を果たす必要がある。そうしない限り、今後、中国は過去40数年に経験した以上の大きな政治的混乱に直面することになる。

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