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アベノミクスの黄昏
―― スローガンに終わった構造改革

リチャード・カッツ オリエンタル・エコノミスト・レポート誌編集長

Voodoo Abenomics

Richard Katz アメリカの経済ジャーナリストで、日米関係、日本経済に関する多くの著作をもつ。オリエンタル・エコノミスト・レポート誌代表。東洋経済誌に定期的にコラムを執筆している。

2014年7月号 掲載論文

3本の矢すべてが標的を射抜けば、安倍政権が強気になってもおかしくはない。だがすでに2本の矢は大きく的を外している。財政出動による景気刺激効果は、赤字・債務削減を狙った時期尚早な消費税率の引き上げによって押しつぶされ、構造改革は曖昧なスローガンが飛び交うだけで、具体策に欠ける。量的緩和も、他の2本の支えなしでは機能しないし、物価上昇の多くは円安による輸入品の価格上昇で説明できる。結局、自信を取り戻すには、有意義な構造改革を通じて停滞する日本企業の競争力を回復するしかない。そうしない限り、一時的な景気浮揚策も結局は幻想に終わる。問題は、安倍首相がもっとも重視しているのが経済の改革や再生ではなく、安全保障や歴史問題であることだ。

  • 失速したアベノミクス
  • アベノミクスを統括すると
  • 必要とされる改革は何か
  • なぜ今後に期待できないか
  • 経済政策と歴史問題の間

<失速したアベノミクス>

日本の30代前半の若者のますます多くが直面している窮状を考えてみて欲しい。高校時代に塾に通って名の知れた大学に入ったのに、結局、彼らの多くはまともな会社の正社員としては就職できなかった。厳格な労働法ゆえに、企業は業績不振に陥っても正社員のレイオフができないため、人手不足をパートタイマーや一時雇用で凌ごうとする。

こうしたパートタイマーや一時雇用者の賃金レベルは正社員のそれよりも3分の1程度低い。現在、25―34歳の男性の17%がこうした非正規雇用で採用されて働いており、この割合は1988年と比べて4%上昇している。男女を含む全従業員のなかで賃金レベルの低い非正規社員が占める割合は38%に達している。かつて平等を誇った日本社会にとって、これは衝撃的な数字だろう。

2012年12月の首相就任時に日本経済の再生を約束した安倍首相は、その後国内雇用は改善したと語っている。だが雇用が増えたのは非正規雇用だけで、正規雇用は3・1%減少している。その結果、安倍政権の発足以来、労働者1人当たりの平均賃金(実質ベース)は2%低下している。

これでは個人消費が盛り上がらないのも無理はない。それどころか、低賃金のために非正規社員の若者たちは結婚し、家族をもつこともできずにいる。正規雇用されている30代男性の70%は結婚しているが、同年代で非正規雇用の男性の結婚率は25%でしかない。

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