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年度別傑作選に関する論文

ドルとアメリカの赤字 (前編)
――次なる危機を回避するには

2009年11月号

C・フレッド・バーグステン ピーターソン国際経済研究所ディレクター

諸外国がアメリカの大規模な財政赤字を(米国債の購入などを通して)ファイナンスし続けるとすれば、現在の危機をもたらした状況が再現され、金融メルトダウンのリスクが再び生じる。同時に、外国資金への需要がますます高まっていけば、いずれその構図は維持不能になり、2030年に到達するはるか前にドル価値は暴落し、ハード・ランディングという事態に直目する。幸運に恵まれて今後において危機を回避できたとしても、ますます多くの所得を対外債務の返済に充てなければならなくなり、アメリカ人の生活レベルは低下する。・・・すでにアメリカの運命は、中国だけでなく、日本、ロシア、そして数多くの産油国など、債権国の手に握られている。速やかに持続可能な経済ポジションへと立ち返り、その路線を維持していかない限り、経済、外交領域での政策上の自由も次第に損なわれていくだろう。

経済成長率だけでは国を判断できない。いまや次なる覇権国との呼び声の高い中国も、社会保障を強化して、経済成長よりも社会的安定を選ばざるを得ない状況に直面し、必然的に成長率は低下していく。何が国を偉大な存在にするのか。大規模な人口、経済力、軍事力だけでは十分ではない。・・・比類なき研究・開発への取り組みと高い高等教育のレベル、そして、他国の利益も高めるようなやり方で自国の利益を模索し、世界の公共財を高めて行く路線を取ることが必要だ。この路線を取ったがゆえに、20世紀には、アメリカの行動を待望する各国の期待が育まれていった。中国やロシア、あるいはヨーロッパや日本が、自国の利益を超えた領域での行動をとるだろうか。アメリカを世界の中枢を担う「規格外国家」としている最大の要因は、国益を国際的な公共財へと変化させるリベラルな思想を持っていることだ。

米中露トライアングルの勝者は誰か
―中国の影響力拡大は続く

2009年10月号

スティーブン・コトキン
プリンストン大学歴史学教授

ポスト・ソビエト時代における衰退からはすでに立ち直っているが、依然として地域大国のレベルに甘んじているロシアは、それでもグローバルな大国として振る舞おうとしている。その結果、ロシアはアメリカの中央アジアその他での影響力拡大を阻止することに気を奪われ、結果的に中国に足元を脅かされている。一方、中国は、すでにグローバルな大国へと変ぼうを遂げているにも関わらず、多くの場合、地域大国として振る舞うことに徹している。北京は、米ロのジュニアパートナー役を受け入れることで、利益と影響力の最大化を狙っている。ロシアは、アメリカのジュニアパートナーに甘んじることを拒絶することで、図らずも、中国のジュニアパートナーになってしまった。この枠組みは、北京がそうすることが都合がよいと判断する限り続くだろう。

Classic Selection 2009
脅かされる基軸準備通貨、ドルのジレンマ
―― ユーロ、SDR、人民元の台頭

2010年9月号

バリー・エイケングリーン カリフォルニア大学バークレー校 経済学教授

基軸準備通貨は1通貨でなければならないという考え方は、歴史を見れば間違っていることが分かる。歴史的にみても、複数準備通貨制の下では、準備資産を求める新興市場国から唯一の準備通貨供給国へと膨大な資金が流入し、これによって資産バブルが起きるという、最近、アメリカで見られたような混乱は起きていない。第二次世界大戦後のドルの地位は、アメリカ経済のグローバル市場における圧倒的なプレゼンスに支えられていたが、もはやこの例外的な状況は存在しない。短期的には、ユーロがヨーロッパ域内と近隣地域において準備通貨としてのシェアを伸ばしていくだろうし、長期的には、人民元が特にアジアにおいて影響力を拡大していくと考えられる。しかし、予見できる将来について言えば、ドルが他よりも一頭抜きんでた準備通貨であり続けるだろう。

原油価格の安定がもたらす
地政学的チャンスに目を向けよ
―― 原油生産能力は増強され、
需要の伸びは低下する

2009年9月号

エドワード・モース ルイス・キャピタル・マーケッツ マネージング・ディレクター

石油産業の専門家の多くは、世界経済が回復に向かえば、原油の高価格時代がすぐにでもやってくると考えているが、おそらくこの見方は間違っている。より可能性が高いのは、石油その他の資源価格が一定の枠内で変動する時代へと向かうことだ。・・・今後数年は、過去5年間に比べて、原油価格は低い水準で推移すると言っても問題はないだろう。なぜ原油の相対的低価格時代が到来するのか。それは、サウジが余剰生産能力(生産調整能力)を回復し、世界の需要の伸びが長期的に鈍化し、横ばいをたどると考えられるからだ。価格安定期に、産油国に対する建設的な外交を試み、産油国と消費国間のよりバランスのとれた関係を形作るべきだろう。

輸出主導型経済成長モデルの終わり?
―― アジア経済が苦境に陥っている本当の理由

2009年8月号

ブライアン・P・クライン/外交問題評議会国際関係(日立)フェロー
ケネス・ニール・クキエル/英エコノミスト・ビジネス・金融担当東京駐在特派員

輸出依存型のアジアの経済成長モデルはこれまでうまく機能したし、20世紀最後の25年間にグローバル貿易が世界のGDP成長率の2倍のペースで拡大するという幸運にも恵まれた。しかし、輸出主導型経済成長の時代はすでに終わっている。・・・「アジア経済は欧米経済からほぼ独立した経済圏になった」という見方が一時は浮上したが、実際には、アジアの地域内輸出の約60%は中間財で、中国を経由して最終的には欧米諸国へと輸出されるグローバル・サプライ・チェーンの一部だった。その結果、アメリカの消費需要の激減という事態を前に、アジアの製造業も崖から突き落とされてしまった。アジア諸国が、貿易不均衡を是正し、国内消費を増大させ、社会のセーフティーネットを整備するといった必要不可欠な経済改革を実施しなければ、アジア地域は、長期にわたる低成長から抜け出せなくなる恐れがある。

論争 グローバル経済危機は
いつまで続くのか
― 日米、二つの経済バブルを検証する

2009年7月号

ロバート・マッドセン……マサチューセッツ工科大学国際研究センター シニア・フェロー
リチャード・カッツ………オリエンタル・エコノミスト・レポート誌編集長

今回の金融危機の原因はアメリカででたらめな住宅ローンが組まれた結果なのか、それとも、中国その他の過剰貯蓄が米市場に流れこんでバブルを発生させたのか。犯人は行き過ぎた規制緩和なのか、それとも「グローバル・インバランス」なのか。今後のグローバル経済の中期予測、そして規制強化をめぐるグローバル金融改革の方向性は、危機を引き起こした原因を何とみなすかで大きく違ってくる。以下は、フォーリン・アフェアーズ・リポート4月号に掲載したリチャード・カッツの論文『アメリカは「日本の失われた10年」と同じ道をたどるのか』に対するロバート・マッドセンのコメントとカッツの再反論。

経済危機の長期化は避けられない
――市場経済モデルの衰退は地政学秩序をどう変えるか

2009年7月号

ロジャー・アルトマン 元米財務副長官(1993~1994)

「現在の経済危機は秩序を揺るがすグローバルな事件だ。世界経済の今後は全般的にきわめて憂鬱な状況にあり、状況を不安定化させるような深刻なリセッションが世界中を覆い尽くしている。しかも、この30年にわたって地球を席巻してきた市場経済資本主義、グローバル化、規制緩和というアングロ・サクソンモデルの時代が終わりつつある。・・・(今後を考える上で)重要なのは「深刻なグローバル・リセッションが長期化する」と考えられ、金融危機によって受けた大きなダメージゆえに世界の3大経済であるアメリカ、EU、日本が循環的な回復を遂げることはおそらくあり得ないこと、そして中国が明らかな勝者として台頭しつつあることだ」

「核のない世界」と核拡散という現実
――北朝鮮、イランと核不拡散

2009年7月号

スピーカー
 ウィリアム・ペリー
元米国務長官
ブレント・スコークロフト
元国家安全保障担当大統領補佐官
司会
ジャクソン・ディール
ワシントン・ポスト紙論説ページ副編集長

「核のない世界の実現にもっぱら焦点を合わせれば、戦争や危機を回避するという目的に目がいかなくなってしまう。・・・私に言わせれば、核兵器が存在しなかった時代とは、第一次世界大戦、第二次世界大戦に象徴される時代だ。核廃絶という目的にコミットする前に、それが何を意味するかをもっと具体的に検討する必要がある」。(B・スコークロフト)

「核のない世界を実現するという目的を表明し、それに取り組んでもイランや北朝鮮の行動を変えることはできないだろう。だが、イランや北朝鮮に対処していく上でその協力が必要な諸国の支持を得ることができる。だからこそ、核のない世界という目的は重要だし、私が核のない世界を支持しているのもこうした理由からだ」。(W・ペリー)

国家資本主義の台頭と市場経済の終わり?

2009年6月号

イアン・ブレマー ユーラシア・グループ会長

グローバルな金融危機にもかかわらず、国営石油企業が依然として世界でもっとも戦略性の高い資源の75%を支配し、国有企業そして政府の後ろ盾を持つ民間の覇権企業が、民間のライバル企業に対する競争上の優位を持っている。しかも、政府系ファンドは依然として潤沢な資金を持っている。本当に大きすぎて潰せないのはこれらの企業や組織のほうだろう。いまや市場経済の勢いは弱まり、国と政府が主要な経済アクターとして、主に政治的利益のために市場を利用しようとする「国家資本主義」が台頭し始めている。(冷戦期のような)政治的イデオロギーではなく、「市場経済」と「国家資本主義」という2つの経済モデルをめぐるグローバルな抗争という構図が生まれつつある。しかも、グローバルな金融危機とリセッションによって、「国が管理する資本主義」という強力なブランドが突きつける問題と課題はますます大きくなってきている。

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