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年度別傑作選に関する論文

1990年代に日本の企業利益、公益、個人の利益は大きな食い違いを見せ始め、それまでの経済・社会システムはもはや非効率的で現実と符合しないものと考えられるようになった。企業利益、公益、個人の利益をうまく重ね合わせた日本株式会社はここに崩壊し、90年代以降、企業は利益を求めて国内投資よりも外国投資を重視するようになる。そして、いまや、高齢社会と社会保障支出の増大、巨額の財政赤字、グローバル・インバランスの調整プロセスとしての円高によって日本はさらに追い込まれ、しかも、日本経済は金利ゼロでも消費者も企業も投資をしない「流動性の罠」にはまっているかにみえる。経済・貿易の基盤である国際秩序の安定を支える日米の同盟関係も大きく揺らいでる。もはや政界再編や状況対応策では問題解決はおろか、先送りさえできないだろう。必要とされているのは、グローバル世界の現実を踏まえた上で公益と企業・個人の利益を確保できるような制度改革、新たな制度設計ではないか。日本というシステムの改革を求めて声を上げるか、それともシステムから退出するか。問われているものは非常に大きい。

ヨーロッパ、アメリカ、日本は、高齢化とそれに伴う年金問題、医療制度問題、財政問題を抱えている。若年人口を多く抱える新興国が台頭し、高齢化する先進国が相対的に衰退していくのは、もはや専門家の間では、はっきりとした未来トレンドとして認識されはじめてる。問われているのは、先進国と新興国、途上国の経済・社会交流が今後どのような形態になるかだ。すでにG7からG20へと流れは変わっている。先進国の企業は、途上国のインフラ投資、そして女性の役割に注目しはじめている。先進国の患者が、より安価な途上国での医療を求める医療ツーリズムも大きな流れをつくりだそうとしている。一方、先進国は新興国、途上国からの移民を受け入れざるを得なくなるのだろうか。経済、医療、年金、移民問題をめぐって、日本を含む先進国と新興国・途上国はどのように交流していくのか。

21世紀は新興市場国の世紀に
― G20、世銀、IMFの未来

2010年7月号

スピーカー
スチュワート・M・パトリック 米外交問題評議会シニアフェロー国際機関およびグローバル統治プログラム責任者
司会
デビッド・E・サンガー  ニューヨーク・タイムズ ワシントン支局長
パネリスト
ホイットニー・デベボイス 元世界銀行 理事
アルビンド・サブラマニアン ピーター・ピーターソン国際経済研究所 シニアフェロー
アントニー・フォン・アットマール 新興市場マネジメントLLC会長兼チーフ・インベストメントオフィサー

最終的には、アメリカ、ヨーロッパ、日本のような、すでに確立されたパワー、中国、インド、ブラジルのような新興大国、さらには新興のミドルパワーの間でタフな取引と交渉が行われ、その結果、新しい秩序が形成されていくことになる(S・パトリック)

G20は新しいG7に至る通過点にすぎない。新しいG7は、アメリカ、EU、日本、BRICs諸国で構成されることになるだろう(アットマール)

金融超大国・中国の政治的ジレンマ
―― 重商主義路線か資本の自由化か

2010年7月号

ケン・ミラー 米国務省諮問委員会メンバー

圧倒的な規模の外貨準備を持つ中国は、依然として低い一人あたり所得のレベルからは到底考えられないような、金融市場における圧倒的な影響力を手にしつつある。中国の対外投資の目的は、国内の経済成長を刺激し、雇用を創出することで、共産党政府の正統性を維持していくことにあり、必然的に重商主義路線をとっている。だが、これまでのところ、中国がうまく資金を用いているとは言えない。FDI(外国直接投資)はさまざまな理由から伸び悩んでいるし、技術アクセスを得るための先進国の企業買収もうまくいってはいない。途上国のプロジェクトに資金を提供して、中国企業に発注させるやり方も、現地の反発に遭遇している。結局のところ、これまでの重商主義路線は、中国よりも取引相手国により大きな恩恵をもたらしており、いまや中国もその費用対効果が高くないことを認識しつつある。だが、中国が重商主義路線を止めて、資本の自由化に踏み切るには時間がかかる。共産党の権力維持という大きな政治問題が絡んでくるからだ。グローバル経済の安定に貢献するような形で金融パワーを行使するように北京にうまく促すには、ワシントンは中国の国内的な優先課題が何であるかにもっと配慮すべきだろう。

ウィレム・ブイターが語る先進国の
財政問題とソブリンリスク
― アメリカも日本も潜在的リスクに
さらされている

2010年6月号

◎スピーカー
ウィレム・ブイター
CITIグループ チーフエコノミスト
◎プレサイダー
マイケル・エリオット
タイム・インターナショナル エディター

2~3年後に、アメリカは財政緊縮路線をとらざるを得なくなる。これが、ブッシュ前政権が導入した高額所得者向けの減税措置の打ち切りとタイミングが重なるとしたらどうなるだろうか。この場合、米国債はAAAの格付けを失い、金利の上昇、ソブリンスプレッドの拡大によって、米経済は市場に試されることになる。・・・(日本はどうだろうか)。人々が巨大な政府債務があっても(大きな金融資産を持っているのだから)問題は起きないと考えているうちは、大きな変化はないだろう。だが、多くの人々が、デフォルトに陥ると考えだしたら、どうなるか。この場合、リスクは限りなく大きくなる。投資家が、状況が持続不可能だと懸念するようになれば、現実に、状況は持続不可能になる。・・・いかなる国にも逃げ場はない。(ウィレム・ブイター)

大中国圏の形成と中国の海軍力増強
―― 中国は東半球での覇権を確立しつつある

2010年6月号

ロバート・カプラン アトランティック誌記者

陸上の国境線を安定化させ、画定しつつある中国は、いまや次第に外に目を向け始めている。中国を突き動かしているのは、民衆の生活レベルの持続的改善を支えていくのに必要な、エネルギー資源、金属、戦略的鉱物資源を確保することだ。だが、その結果、モンゴルや極東ロシアに始まり、東南アジア、朝鮮半島までもが中国の影響圏に組み込まれ、いまや大中国圏が形成され始めている。そして、影響圏形成の鍵を握っているのが中国の海軍力だ。北京は、米海軍が東シナ海その他の中国沿海に入るのを阻止するための非対称戦略を遂行するための能力を整備しようとしている。北京は海軍力を用いて、国益を擁護するのに軍事力を使用する必要がないほどに、圧倒的に有利なパワーバランスを作り出したいと考えているようだ。しかし、中国の影響圏の拡大は、インドやロシアとの境界、そして米軍の活動圏と不安定な形で接触するようになる。現状に対するバランスをとっていく上で、今後、「米海軍力の拠点としてのオセアニア」がますます重要になってくるだろう。

Vol.30 学問とビジネスの出逢い
――シンクタンクはいかに社会と政策に貢献できるか
/ ピーター・グローズ

2010年5月発売 / ピーター・グローズ (フォーリン・アフェアーズ誌副編集長/1983-94)

ベルサイユ講和会議に参加したアメリカの学者チームは、帰国後、アメリカに国際問題研究所を立ち上げようと試みる。だが、彼らは、外交経験を語り、外国の指導者との接触を実現することはできても、なにせ資金を欠いていた。一方、法曹界、銀行界のメンバーたちは、学問的な知性、ダイナミズム、そして外国の指導者との接触を必要としていた。このビジネスと学問の必要性の出逢いこそが、現在の外交問題評議会の成長を促し、その後何十年にもわたってこの組織を傑出した存在とした「シナジー」、つまり、共働作用を生み出した。学問的、政治的専門意見が、現実的なビジネス利益と出逢い、このプロセスによって、概念的思索家たちが、「岩の上にたっているのか、あるいは、流砂の上にたっているのか」を見極める機会が提供されることになる。

アジア諸国の指導者たちは、科学、産業、政府、市民社会へと送り込む優れた人材を育成する場として、世界でトップクラスの大学がもっとも適切な訓練機関であることをすでに理解している。そうした教育機関は、問題を解決し、技術革新を促し、社会をリードしていくのに必要な、思想的な奥行きと建設的・客観的な批判的思考(クリティカル・シンキング)を持つ人材を生み出すことができるからだ。これまでのように、専門知識を与えることばかりを重視し続ければ、広い視野を身につけさせぬまま学校から社会へと学生を送り出してしまう。伝統的な暗記中心の教育法では、社会的創造力を生徒たちに与えられないことをアジア諸国は明確に認識しだした。自分のために考え、議論を体系的に行い、新しい情報や正当な批判に直面した場合には、自分の立場を擁護するか、見直すことを学んでいかせなければならない。これが、21世紀の社会で成功していくための大学教育の基本であることをアジア諸国は強く認識し始めている。

善意に根ざしているにも関わらず、援助が適切に用いられる条件が整っていなければ、援助は世界の貧困国を助けるのではなく、ますます追い込んでしまう。歴史が何らかの指針になるのなら、貧困に対する戦争を闘う主要な武器は先進国からの援助ではなく、途上国における政策路線のリベラルな改革だ。その理由を知りたければ、最近における中国やインドの成長と、一方で停滞に苦しむアフリカの途上国のコントラストに目を向ければよい。援助を被援助国の健全な開発政策とうまくリンクさせ、援助を適切に使う意思をもつ国に対してだけ供与するのなら、開発援助も貧困国の助けになる。重要なのは、援助を注ぎ込むにために世界的なキャンペーンを行うことではない。途上国の市民や指導者が、自分たちの運命を形づくるような経済政策の改革とその実施という選択を、襟を正して下すかどうかだ。

CFRミーティング
ジョセフ・スティグリッツが語る
金融危機と規制、経済の不均衡、中国、ドルの将来

2010年3月号

スピーカー ジョセフ・E・スティグリッツ  コロンビア大学教授 司会  スティーブン・R・ウェイズマン  ピーター・ピーターソン国際経済研究所公共政策フェロー

私の考えでは、今回の経済危機は金融システムが社会的な機能を果たしていなかったことを示す何よりの証拠だ。大きすぎて潰(つぶ)せない銀行が何をするか。リスクをとって成功すれば利益を独占し、リスクをとって失敗すれば納税者がその損失を埋め合わせる。これが現実に起きたことだ。貧困に苦しむ世界の人々を助けるためにも、地球温暖化の問題に取り組んでいくためにも巨大な投資が必要となる。重要なポイントは、資金を生産的な投資へと向かわせる方法を模索することだ。今回の経済危機は、金融システムがそのような機能を果たせなかったことを意味する。金融システムが果たすべき機能は、貯蓄をもっとも高いリターンをもたらす領域への投資へと向かわせることだ。世界でもっとも豊かな国の住宅部門に返済能力を超える水準になるまで資金を注ぎ込むのは、どうみても効率的ではなかった。(J・スティグリッツ)

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