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年度別傑作選に関する論文

The Clash of Ideas
ポスト・ワシントンコンセンサス
―― 危機後の展開

2011年4月号

ナンシー・バードサール グローバル開発センター会長
フランシス・フクヤマ スタンフォード大学国際研究センターシニアフェロー

2008―2009年の金融危機の結末とは、「うまく規制されていない国内市場と資本の自由化という組み合わせは、壊滅的な事態を招き入れる」という東アジア諸国が10年前に学んだ教訓を、ついにアメリカ人とイギリス人も学んだということにほかならない。危機によって、アメリカ流資本主義への信用が完全に失墜したとは言えない。だが、少なくとも支配的なモデルではなくなりつつある。「その他の台頭」と呼ばれる現象は、経済、政治領域における新興国のパワー拡大を意味するだけではない。思想とモデルをめぐるグローバルな競争にも、その影響が出ている。欧米世界、特にアメリカは、もはや社会政策上の革新的な思想をめぐる唯一の拠点とはみなされてはいない。アメリカ、ヨーロッパ、日本は今後も豊かな経済的資源とアイディアの集積地であり続けるだろうが、すでに新興市場国もこの領域でのライバルとして台頭してきており、今後その存在感をますます高めていくことになるだろう。

中国の対外強硬路線の国内的起源
―― 高揚する自意識とナショナリズム

2011年4月号

トーマス・クリステンセン
プリンストン大学教授

民衆レベルでの大国意識が定着し、ナショナリズムが高まる一方で、国内の不安定化が予想される。このため、中国政府は世論動向に非常に神経質になっている。民衆の声を北京のエリートたちが無視できた時代はすでに終わっている。政府は、長期的な政府の正統性と社会的安定をいかに維持していくかをもっとも気に懸けており、党指導層は、ナショナリスト的立場からの政府批判をもっとも警戒している。しかも、軍、国有エネルギー企業、主要輸出企業、地方の党エリートなど、国際社会との協調路線をとれば、自分たちの利益が損なわれる集団が中国の外交政策への影響力を持ち始めている。これが、中国がソフト路線から強硬な対外路線へと舵を切った大きな理由だ。中国での権力継承が完了する2012年までは、中国国内における政治、心理要因ゆえに、中国の対外路線をめぐって状況を楽観できる状態にはない。

9カ月後、日本経済は復活する
―― 再建コストで債券市場がパニックに陥ることはない

2011年4月号

セバスチャン・マラビー 米外交問題評議会地勢経済学センター所長

日本政府は復興・再建コストを負担しなければならず、これが、すでに先進国のなかでは最大の対GDP比債務を抱える日本経済に重くのしかかると懸念する専門家もいる。だが、冷静に考えるべきだ。復興・再建にどのくらいのコストがかかるだろうか。ざっくりとしたところで言えば、1000億ドル程度だろう。・・・たしかに、1000億ドルと言えば、かなりの金額だが、ほぼ10兆ドル規模の日本の債務総額からみれば、たいした数字ではない。債務総額が1%増えるだけだ。・・・・金融市場に流動性を提供する必要があるし、必要以上の円高には対抗策をとるべきだ。被災地域の再建のために、財政赤字をさらに大きくすることを躊躇すべきではない。いまは、慎重で保守的な路線ではなく、大胆な対策をとるべきタイミングだ。私は、日本政府は間違いなく大胆な措置をとると信じている。

第3の石油ショックか
―― 中東の政治的混乱と原油価格高騰

2011年4月号

エドワード・モース 元国務副次官補(国際エネルギー担当)

「石油の呪縛」として知られる社会・政治構造が引き起こす産油国の絶望的な経済・社会的な停滞が、現在中東各地で起きている政治的混乱の背景にある。人々は、高い失業率、極端な所得格差、(食糧価格など)高い生活コスト、そして老人支配政治と泥棒政治などに対して怒りを表明している。つまり、産油国が「石油の呪縛」を断ち切るために、経済を多角化していかない限り、政治的争乱の原因である社会不満は解消しない。さらに、産油国国内における石油の消費も増大している。その結果、中東石油に依存する消費国は厄介な先行き見込みに直面している。現在の政治的混乱による供給の乱れだけでなく、産油国の国内消費の増大による供給の乱れを織り込まざるを得なくなっている。2011年は1971年同様に、石油をめぐる地政学の分水嶺の年になるかもしれない。

1930年代の悪夢が再現されるのか
―― 高まる保護主義の脅威

2011年4月号

リアクァト・アハメッド ピューリッツァー賞受賞作家

1930年代の教訓からみて、失業率が高止まりし、通貨供給、為替、財政政策上の選択肢が失敗するか、選択肢にならない場合、国は貿易障壁を作り出す可能性が非常に高い。・・・しかも、20世紀の初頭同様に、いまや世界はグローバル経済のリーダーシップをめぐる大きな移行期にある。アメリカのパワーは大きく弱体化し、ワシントンには、もはや単独でグローバル経済のリーダーシップを担う力はない。一方で、中国がリーダーシップを果たすとも考えにくい。輸出ばかりを重視する重商主義的な貿易アプローチをとっている限り、北京が困難な状況にある諸国からの輸出を受け入れる開放的市場の役目を果たすことはないだろう。G20もまとまりを欠いている。1930年代と現在の類似性が表面化しつつある。経済は回復しているが、失業率が高止まりし、多くの製造部門は過剰生産能力を抱え込み、通貨問題をめぐる緊張が高まりつつある。1930年代のような深刻で大規模な経済停滞に陥るリスクを回避できたと言うのに、現在の指導者が、1930年代の近隣窮乏化政策を今に繰り返すとすれば、悲劇としか言いようがない。

グローバル貿易の不均衡が続けば、金融と政治を不安定化させ、長期的には通貨戦争を含む非常に危険な状況に遭遇する。そして、各国が国内経済戦略を大幅に変化させない限り、こうした不均衡はなくならない。通貨をめぐる最近の緊張は、各国が長期的にとってきた国内経済政策が重層的にもたらした持続不能な貿易不均衡に派生している。そして、不均衡を是正していくには、国際合意を通じてではなく、各国が長期的利益を重視した国内経済戦略へと独自の判断でシフトしていく必要がある。途上国経済にとって必要なのは、先進国への依存度を引き下げ、もっと支出を増やすことだ。一方、アメリカのような先進国は、消費を減らしつつ、生産を強化し、輸出を増やす必要がある。国際的な資本の流れをより穏やかで、リスクを常に意識したものへと変化させるための規制の見直しも必要だ。一方、各国が改革を嫌がり、過去に成功をもたらした経済戦略に政治的に固執し続ければ、1930年代の悪夢に再び直面することになるかもしれない。

金融危機が出現させたGゼロの世界
――主導国なき世界経済は相互依存から
ゼロサムへ

2011年3月号

イアン・ブレマー
ユーラシア・グループ会長
ノリエル・ルービニ
ニューヨーク大学教授

市場経済、自由貿易、資本の移動に適した安全な環境を作りだすことを覇権国が担ってきた時代はすでに終わっている。アメリカの国際的影響力が低下し、先進国と途上国、さらにはアメリカとヨーロッパ間の政策をめぐる対立によって、世界が国際的リーダーシップを必要としているまさにそのときに、リーダーシップの空白が生じている。われわれは、Gゼロの時代に足を踏み入れている。金融危機をきっかけに、さまざまな国際問題が噴出し、経済不安が高まっているにもかかわらず、いかなる国や国家ブロックも、問題解決に向けた国際的アプローチを主導する影響力をもはや失ってしまっている。各国の政策担当者は自国の経済成長と国内雇用の創出を最優先にし、グローバル経済の活性化は、遠く離れた二番目のアジェンダに据えられているにすぎない。軍事領域だけでなく、いまや経済もゼロサムの時代へ突入している。

暗闇では銃を発射できないように、世界がどのように機能するかについてのビジョンなしに、政策を決めることはできない。だからこそ、現実主義者は、この世にいない経済学者か、政治理論家の奴隷となるしかない。政策決定者が、世界を間違った方向ではなく、正しい方向へと動かす可能性を高めるような、情報と知識に裏付けられた思想的な基盤とビジョンをわれわれは常に必要としている。冷戦末期以降、『文明の衝突』、『歴史の終わり』、『大国政治の悲劇」』という三つの壮大なビジョンが表明された。ベルリンの壁が崩壊した段階ではフクヤマは真実の鐘をならし、9・11以降の世界政治についてはハンチントンの予測は現実を言い当てていた。中国パワーが今後開花していけば、ミアシャイマーも現実を言い当てることになるのかもしれない。だが、ハンチントン、フクヤマ、ミアシャイマーは未来の何を言い当てて、どこを読み誤ったのか。それを理解することが、世界が必要とする第4のビジョンを描く鍵となる。

「天然ガス革命」の到来
――天然ガス・グローバル市場の誕生は近い

2011年2月号

ジョン・ダッチ 元米エネルギー省次官

水平抗井や水圧破砕という二つの技術進化によって、これまで開発が難しかった世界のシェールガス資源の開発・生産効率が劇的に改善し、その生産コストも大きく低下している。シェールガスという安価な非在来型天然ガス資源の開発が急ピッチで進められているのは、こうした理由からだ。しかも、シェールガス資源のような非在来型天然ガスの生産が強化される一方で、地域間を結ぶパイプラインが整備され、天然ガスの液化施設の建設も進められている。必然的に、天然ガス価格を石油価格に連動させた、供給側に有利なこれまでの契約は次第に姿を消していくだろう。いずれ、より透明性の高い天然ガスの世界市場が誕生し、最初に電力生産部門で、次に、産業・交通部門で天然ガスが石油に取って代わっていくことになるだろう。この流れを「天然ガス革命」と呼んでも、過度に事実を誇張することにはならないはずだ。

インターネットのジレンマ
――セキュリティと相互運用性をいかに両立させるか

2011年2月号

ロバート・ネイク 
米外交問題評議会国際関係フェロー

世界に一つしか存在しない相互運用性のあるネットワークであるインターネットは、世界の経済成長を大きく促し、文化的な境界、国境線を越えてビジネスと思想を共有することを実現し、各国を結びつけてきた。だが、サイバー犯罪やサイバー空間の軍事化が、個々のネットワークだけでなく、インターネットの相互運用性と相互接続性そのものを脅かしている。現状を放置すれば、相互接続空間は、国が管理し、厳格な監督下に置かれる国別の閉鎖的なインターネットへと分断されていく危険がある。したがって、サイバー攻撃を阻止し、サイバー犯罪を防ぎ、国家アクターによる悪意のある活動を制御できるような国際メカニズムを新たに考案する必要があるが、インターネットを支えるプロトコルをもっと安全にするための再設計に投資するとともに、その試みが、インターネットに由来する開放的価値を温存・拡大するように十分に配慮しなければならない。

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