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に関する論文

プーチン主義というシステム
―― ロシア社会の変化にプーチンは適応できるか

2012年9月号

ジョシュア・ヨッファ エコノミスト誌モスクワ特派員

現在のロシア市民には一連の自由が与えられている。イケアで安い家具を買ったり、外国で休暇を過ごしたりと、いまやロシア市民はヨーロッパ中間層と生活の特質の多くを共有している。野心と才能のある者にとっては、モスクワはキャリアを築く大きな舞台だ。政治に関わらないかぎり、ありとあらゆる場所で選択肢が用意されている。この仕組みゆえに、プーチンのロシアには国を否定する者がいなかった。不満があるならいつでもロシアを離れることができた。プーチン主義は、ソビエト時代の硬直した管理システムよりもずっと狡猾で現代的なのだ。だがプーチン体制は共産主義とは違って、一貫した世界観を示しているわけではなく、安定と権力を維持するためにつくられている。逆に言えば、現状に不満を持つ新しい政治家や政治運動は、「根深いイデオロギーの壁を乗り越える」必要がない。これが、今後プーチン体制を脅かす最大の問題を作り出すことになるだろう。

南シナ海対立の新構図と紛争の危機
――中国の影響力拡大とASEANの内部対立

2012年9月号

ジョシュア・クランジック
米外交問題評議会東南アジア担当フェロー

南シナ海の島嶼群の領有権を主張する中国と東南アジア諸国は、誰も住んでいない岩の塊を新しい州や県あるいは市として自国の法管轄に組み入れ始めている。すでに中国は、西沙諸島や南沙諸島を含む海域を三沙市として行政管轄に組み入れ、行政を担当する役人まで任命している。その後中国は、実効支配の確立を意識してか、海域の石油と天然ガス資源に対する主権を主張するようになり、自分たちの意思をアピールするために「漁船」を係争海域へと送り込むようになった。・・・ 7月のASEAN外相会議の決裂以降、現実に南シナ海で紛争が起こりかねない状況にある。専門家は、中国が公的に新しい領土とした三沙市をめぐって今後、どのような動きをみせるかに注目している。・・・一方、ASEAN加盟国の一部が中国に急接近しつつあるために、フィリピン、ベトナム、ブルネイは、カンボジア、ラオス、そしてタイまでもが中国に取り込まれてしまうのではないかと懸念している。・・・

韓国市民の多くは、(竹島訪問という)李明博大統領の行動に大きな意義を見出したかもしれない。だが、彼が国家安全保障問題や世界における韓国の役割というアジェンダをめぐってこれまでスケールの大きな発言と行動をみせてきただけに、今回の行動には大きな違和感を覚えざるを得ない。竹島を訪問し、日本は歴史問題を含めて大国にふさわしい行動を取るべきだと示唆する発言をしたことで、李明博は韓国の地域的、グローバルな利益を犠牲にして、竹島という特定の限られた問題に不当なまでに大きな政治資源を注ぎ込んでしまった。しかも日韓両国の国益が収斂しつつあるタイミングで、トレンドにそぐわない国際環境を作りだしてしまった。李大統領の竹島訪問で(悪しき)先例が作られてしまったとはいえ、韓国の次期大統領が大きなビジョンを示してくれることを期待したい。そうすれば、日本の指導者も大所高所からの判断ができるようになる。

金融ビジネスに規律を与えるには
―― 問題は金融が経済を支配していることだ

2012年9月号

ジリアン・テット
フィナンシャル・タイムズ紙アメリカ編集長

政府は金融エリートを押さえつけて金融を支配すべきなのか、それとも、単純にダイナミックな社会を実現するために必要なコストとして所得格差と不安定な金融を受け入れるべきなのか。いずれにしても、金融システムを混乱させることなく金融機関を破綻させられる程度にその規模を小さくする必要がある。そうしない限り、適切な市場を実現することはできない。政治指導者たちは、強力なバンカーと銀行グループが自分たちの目的のためにシステムを支配するのを許さないための制度や規制の構築に知恵を絞るべきだ。もちろん、このような改革がバンカーたちの反対にあうのは避けられない。透明性が高く競争的な金融システムはおそらく現在よりも金融機関にとって利益の小さいシステムになるからだ。しかし金融が安定しているほうがより公平な社会になる。そうなるのが、バンカーと非バンカーの双方にとっても望ましいはずだ。

シリア内戦と近隣諸国の立場
――バッシャール後のシリアは国の統合を維持できるか

2012年08月

マイケル・ヤング デイリースター紙 論説ページエディター

アサド体制の命運はすでに尽きている。いまや最大の疑問は、今後、どのような政府がシリアに登場するかだ。ポスト・アサドのシリアが統合を維持できなければ、イランが介入してくるのは避けられない。一方、イランとは違って、トルコもイラクも、シリアが解体していけば、自国社会、特にシリアとの国境を接する地域に大きな余波がおよぶことになると懸念している。トルコはアラウィ派の国家内国家が出現することを嫌がっている。イラクがもっとも警戒しているのは、シリアがイラク政府を攻撃するスンニ派過激勢力の拠点と化してしまうことだ。そして、イスラエルはシリアが保有する化学兵器のこと、特に、化学兵器をヒズボラが手に入れることを警戒している。・・・シリアのダイナミクスを規定しているのは、シリア人、トルコ、サウジ、カタール、そしておらくはイラクだ。アメリカの役割は周辺的なものでしかないし、ヨーロッパはアメリカの前に出て影響力を行使するつもりはない。

北朝鮮、中国、イランに対する毅然たる対応を
―― キューバミサイル危機の教訓

2012年8月号

グレアム・アリソン
ハーバード大学ケネディスクール教授

ケネディは、ソビエトがキューバに核ミサイルを配備しているという事実を前に、「長期的な戦争のリスクを低下させるには、短期的に戦争リスクを高める必要がある」と考えた。キューバ危機の教訓の一つは、戦争、そして核戦争のリスクでさえも引き受ける覚悟がなければ、巧妙な敵に対立局面において何度も裏をかかれてしまうということだ。イラン、中国、北朝鮮と相手が誰であれ、その一線を越えれば戦争も辞さないという「レッドライン」を設定しているのなら、その事実を敵対勢力に認識させ、実際に行動する決意をみせるべきだ。そうしない限り、警告は相手にされなくなる。

Foreign Affairs Update
偽造医薬品の恐怖

2012年8月号

ティム・マッケイ カリフォルニア大学博士課程(グローバルヘルス専攻)
ブライアン・A・リャン 患者を守るサンジェゴセンター
トマス・T・キュービック 医薬品安全研究所所長

これまで世界保健機関(WHO)は「市場に流通している医薬品の15%程度が偽造品である危険がある」と公表してきたが、アフリカや東南アジアでは医薬品の実に50%程度が偽造品だ。医薬品市場には相当規模の偽造品が入り込んでおり、その種類も多岐におよんでいる。もちろん、その品質も信頼できない。おもに中国やインドで生産されている偽造医薬品は、いまや貿易を通じて世界へと拡散している。2005年から2010年という時間枠でみると、アジアでの偽造医薬品の流通は246%増、ヨーロッパは131%増、中近東は105%増、そして北米が77%増という具合だ。インターネットを利用すれば、どの国にいても外国で販売されている偽造医薬品を購入できる。問題は、オンラインで販売されている9600を超える医薬品を検査したところ、その97%が「推奨に値しない」ことがわかっており、しかも、これが医療の現場にまで入り込んでしまっていることだ。

銀行同盟でユーロゾーンを救えるか

2012年08月

ドメニコ・ロンバルディ
ブルッキングス研究所シニアフェロー

通貨同盟が存在するのに、ユーロ危機以降、資金は投資国へと舞い戻り、資金が国境を越えて動かなくなってしまった。「単一の銀行監督機関があり、しかも、窮地に追い込まれた銀行を、政府を経由せずに直接的に支える制度があれば、ユーロゾーン内での資金の流れを取り戻すことができる」。これが銀行同盟の基本的アイディアだ。・・・だが、完全な銀行同盟を立ち上げるには、かなり踏み込んだ財政同盟が必要になる。

金融危機で揺るがされるEUの政治的未来

2012年8月号

チャールズ・クプチャン
米外交問題評議会ヨーロッパ担当シニア・フェロー

本来であれば、通貨統合の進展に併せて政治領域での統合も深化させるべきだった。具体的には、財政統合、銀行同盟を制度化するとともに、アメリカの連邦準備制度(FRB)並の大きな能力と権限を持つ欧州中央銀行を作り上げるべきだった。だが、ヨーロッパはこれらの監督機関が必要であることを理解していたにも関わらず、ユーロ導入へと見切り発車をした。適切な監督機関がなく、しかも、北ヨーロッパと南ヨーロッパの経済体質に大きな違いが存在したことが、ユーロの命運を脅かし続け、今日に至っている。そしていまや、危機に対応するためにも、EUの統合をさらに深化させるべきかどうかが問われている。だが、イギリスがEUから脱退する可能性も排除できないし、金融危機が長期化するなか、ヨーロッパ市民の間ではEUに対する反発が高まっている。

戦略的ビジネス外交の薦め
―― 途上国経済を支配する中国企業への対抗策を

2012年8月号

アレキサンダー・バーナード
グリフォン・パートナーズマネージング・ディレクター

中国政府は途上国政府に低利の融資その他の支援を提供し、多くの場合、その見返りに、相手国に中国国有企業の資源開発へのアクセスを与え、インフラ整備プロジェクトを受注させることを求める。このやり方を通じて、中国企業は途上国の経済に食い込み、いまや新興市場国は自国の経済的生存を中国に依存するようにさえなっている。だが、巻き返しのチャンスはある。途上国の多くが「自国の経済を中国に支配されている現実」に反発しているからだ。「中国国有企業は相手国の労働者を雇うのではなく、自国から労働者を呼び寄せ、環境的配慮をせず、開発に古い技術を用いて(資源にダメージを与える)」というネガティブなイメージが定着しつつある。一部の途上国は中国にばかり依存するのではなく、経済関係の多様化を図りたいと考えている。途上国における中国国有企業に対する不満が高まっているだけに、この重要な市場で、アメリカがイニシアティブを取り戻すチャンスが生まれている。今こそ、戦略的ビジネス外交を展開すべきタイミングだ。

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