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米国に関する論文

民主世界と中国の冷戦
―― 北京との共存はあり得ない

2020年10月号

アーロン・L・フリードバーグ プリンストン大学教授(政治・国際関係)

欧米の期待に反し、政治体制の締め付けを緩め、開放的政策をとるどころか、習近平は国内で異常なまでに残忍で抑圧的な政策をとり、対外的にもより攻撃的な路線をとるようになった。アメリカに代わって世界を主導する経済・技術大国となり、アメリカの東アジアでの優位を切り崩そうとしている。北京は、民主社会の開放性につけ込んで、相手国における対中イメージと政策を特定の方向に向かわせようと画策している。だが、北京は、中国市民を恐れている。自分たちが「社会の安定」と称するものを無理矢理受け入れさせるために大きな努力をし、国内の治安部隊やハイテク監視プログラムに数十億ドルを費やしている。共産党が絶対的な権力をもつ中国が、リベラルな民主世界が強く団結している世界において快適に共存できるとは考え難いし、民主世界が団結を維持できれば、中国が変わるまで、ライバル関係が続くのは避けられないだろう。

迫りくる米中ハイテク冷戦
―― 北京による対抗戦略の全貌

2020年10月号

アダム・シーガル  米外交問題評議会シニアフェロー

ワシントンは、中国ハイテク大手のサプライチェーンからの排除にはじまり、そうした企業との取引禁止、テレコミュニケーションが依存する海底ケーブルの規制にいたるまで、近未来における対中技術戦略のアウトラインをすでに定めている。中国も対抗策を準備し、半導体その他の中核技術の国内開発に取り組んでいる。ハイテク企業を動員し、一帯一路イニシアティブに参加する国々とのつながりを強化し、サイバー空間での産業スパイ活動も続けている。「ハイテク冷戦」の輪郭はすでに明らかだが、この競争から誰が恩恵を受けるのかは、はっきりしない。ドイツ銀行の報告書は、米中ハイテク戦争のコストは今後5年間で3・5兆ドルを上回る規模に達すると試算している。それでも、両国の指導者は、ハイテクを国家安全保障問題とみなすことで、国内の技術開発を最速で進めたいと考えている。

米中対立の本質とは
―― イデオロギー対立を回避せよ

2020年10月号

エルブリッジ・コルビー  元米国防副次官補(戦略・戦力展開担当) ロバート・D・カプラン  外交政策研究所の地政学チェアー

ワシントンの中国批判は的外れではない。アメリカは中国との非常に深刻な競争を展開しており、多くの面で強硬路線をとらざるを得ない状況にある。だが、米中間の問題の根底にイデオロギー対立が存在するわけではない。経済、人口、国土の圧倒的な規模とそれがもたらすパワーゆえに、 たとえ中国が民主国家だったとしても、ワシントンはこの国のことを警戒するはずだ。逆に、これをイデオロギー競争とみなせば、対立の本質を見誤り、壊滅的な結末に直面する恐れがある。中国に対抗する連帯を構築するのさえ難しくなる。大国間競争では、イデオロギー的な一致を求めたり、完全な勝利を主張したりすることなど無意味であり、むしろ、壊滅的事態を招きいれることを理解する必要がある。

バイデン政権の課題
―― 米外交の再生には何が必要か

2020年10月号

ベン・ローズ  オバマ政権大統領副補佐官 (国家安全保障問題担当)

トランプを指導者に選んだ共和党は、力が正義を作るという信念をもっている。国防予算の規模、外国の体制変革を追求する意欲、アメリカの経済力と軍事力への強硬な主張からもこれは明らかだ。さらに、白人キリスト教文明の先駆者というアイデンティティがアメリカに固有の例外主義を授けていると彼らは考えている。一方、民主党は正義が力を生むと考えている。米国内における欠陥や問題を是正する力や、移民を歓迎する民主国家としてのアイデンティティ、法の支配の順守、そして人間の尊厳に気を配る姿勢が、アメリカに世界のリーダーシップを主張する道徳的権威を与えているとみなしている。バイデンは、これを国内外で平常な感覚を取り戻すチャンスと説明している。その努力に、新しいタイプの世界秩序形成を加えるべきだろう。それは、ルールを押し付けることなくアメリカがリーダーシップを発揮し、他国に求める基準に自らも従い、グローバルな格差と闘う世界秩序だ。

米警察による殺人と人種差別
―― 警察改革の世界的教訓

2020年10月号

ローレンス・ラルフ プリンストン大学人類学教授

非白人の容疑者を殺害したアメリカの警官の多くは「身の危険を感じたため」と弁明する。1985年に最高裁が、容疑者が警察官その他の者に脅威(身の危険)を与えたときには、警察官は殺傷能力のある武器を使用できるとする判断を示して以降、こうした弁明がスタンダードになった。アメリカの警察による最悪の権力乱用が変わらないのは、銃の蔓延や地方分権型の警察活動、あるいは連邦政府による監督の欠如だけが理由ではない。いまやブラック・ライブズ・マター(BLM)運動の要求は、警察の改革から予算削減、あるいは警察の廃止へとエスカレートしている。実際、現在警察に費やされている何十億ドルもの資金を、医療、住宅、教育、雇用の提供に向けるべきだと主張する活動家もいる。・・・

破壊された米外交
―― 戦後秩序の終わりと次期政権の選択

2020年10月号

リチャード・ハース  米外交問題評議会会長

今後の世界では紛争がより一般的になり、民主主義はさほど一般的な政治制度ではなくなっていく。友人を安心させ、敵を抑止する同盟関係の作用が弱まっていけば、核拡散が加速し、大国の勢力圏が拡大していく。貿易はより管理され、ゆっくりと成長する程度で、縮小していくかもしれない。ドルの影響力も低下するだろう。そして戦後75年間続いた世界秩序は確実に終わる。唯一の疑問は、何が旧秩序にとって代わるかだ。その多くは、アメリカが今後どのコースをとるかに左右される。トランプの外交ブランドがさらに4年続くようなら、第二次世界大戦後から2016年までアメリカが主導したモデルが規範からの逸脱とみなされ、孤立主義、保護主義、ナショナリズムの単独行動が本流とみなされることになる。

ネイティブアメリカンの民族浄化
―― 「この土地はあなたのものではない」

2020年9月号

デービッド・トルーアー  南カリフォルニア大学教授

先住民族を東部から締め出すための19世紀の強制移住プログラムに連邦政府は7500万ドルを費やしたが、その経済的見返りは大きかった。彼らの土地を民間に売却することで、買収費用を約500万ドル上回る約8000万ドルの収入を得た。北部の資本家は、インディアンがいなくなった土地への投資、つまり、奴隷が綿花の苗を植え、収穫し、加工するビジネスへの投資から莫大な利益を上げた。1840年代には、これらの土地で、7万2500トンもの繰り綿が生産された。その結果、1830年代に「アラバマの奴隷人口は2倍以上に増えて25万3000人に達し、1830年代の終わりには、奴隷のほぼ4人に1人が、かつてはクリーク族の土地だった農園で働いていた」。先住民を締め出した政策の真の勝者は、奴隷を所有する南部の農園主と、彼らに投資したニューヨークの資本家だったのかもしれない。

解体する米韓同盟
―― 変化するアメリカの国防戦略

2020年8月号

スー・ミ・テリー  戦略国際問題研究所  シニアフェロー

北朝鮮との取引を無謀に模索する一方で、トランプはソウルとの関係に大きなダメージを与えた。北朝鮮の核兵器は手つかずのままだが、ボルトン回顧録が明らかにしている通り、長くアジアにおけるアメリカの防衛戦略の要だった米韓同盟は、トランプが再選されれば、もはや生き残れないかもしれない。米軍は「韓国を守るために」現地に駐留しており、この保護の代価として韓国はアメリカにより多くを支払うべきだとトランプは信じている。ボルトンによると、トランプは、アメリカ政府が部隊派遣からきちんとした利益を確保できるように、同盟国は「コストプラス50%」を支払うべきだと考えている。当然、韓国のアメリカへの信頼はひどく揺るがされており、かつてのような関係に戻ることは、おそらくないだろう。

何がアメリカを引き裂いているのか
―― 人種対立と階級闘争

2020年8月号

エイミー・チュア イェール大学法科大学院教授

アメリカにおける階級闘争と人種的分断がいかに相互作用をしているかを把握しない限り、パンデミックのアメリカにおける影響、それを取り巻く政治環境、破壊的な政治ダイナミクスを完全に理解することはできない。新型コロナウイルス感染症による死亡率が、白人よりも、マイノリティの間で際だって高いという事実から考えても、アメリカがシステミックな限界に達しつつあることは明らかだろう。カオスのなかで、アメリカは「暴力的な政治的報い」に遭遇する道のりにあるのかもしれない。米社会は機能不全に陥っており、その社会的断層線を乗り越えるためのツールを必要としている。

次のパンデミックに備えるには
―― COVID19の教訓とは何か

2020年8月号

マイケル・T・オスタホルム  ミネソタ大学感染症研究政策センター  ディレクター  マーク・オルシェイカー  ドキュメンタリー・フィルムメーカー  作家

ワクチンが開発されて利用できるようになるか、多くの人が感染して集団免疫が達成されれば、現在の危機は終わる。しかし、ワクチンであれ、集団免疫であれ、それが短期間で実現することはなく、そこに至るまでの人的・経済的コストはかなりのものになる。しかも、将来における感染症アウトブレイクはより大規模で、致死性も高いはずだ。言い換えれば、現在のパンデミックは、世界のあらゆる疫学者や公衆衛生当局者が悪夢とみなす深刻な感染症(ビッグワン)ではおそらくない。次のパンデミックは、1918年のスペインかぜと同様に壊滅的な「新型インフルエンザウイルス」になる可能性が高い。COVID19を次のパンデミックがどれほど深刻なものになるかの警告とみなすべきだし、再び手遅れになる前に、アウトブレイクを封じ込めるために必要な行動を促す必要がある。

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