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米国に関する論文

アフガンは再びテロの聖域と化すのか
―― グローバルジハードとナショナリズム

2021年10月号

ダニエル・バイマン ジョージタウン大学教授

すでにアルカイダはタリバン勢力と一体化し、合同で訓練し、共同作戦を展開しているとする見方もある。一方、タリバンとイスラム国との関係は不安定だ。「タリバンはアフガンのナショナリズムを優先して汎イスラム主義を放棄した」とISISは批判し、アルカイダとタリバンの双方に強く反発している。現実には、ジハード主義運動のなかで権力抗争が起きているとみるのが真実に近い。今後、タリバンはISIS司令官の取り込みを図り、忠誠を誓わない集団は粉砕していくつもりかもしれない。しかし、対テロ作戦上の最大の試金石は、タリバンが再びアルカイダが国際テロ攻撃の拠点としてアフガンを使用することを認めるかどうかだ。少なくとも、国際テロを支援するタリバンのインセンティブはそれほど大きくないだろう。アルカイダが実行した9・11の結果、米軍が介入してきたために、タリバンは20年にわたって権力を奪われ、米軍との戦闘で中枢のリーダーたちを失ってきたのだから。

反アジアヘイトクライムと対中政策
―― 強硬な対中レトリックがレイシズムを助長する

2021年9月号

ラッセル・ヨング サンフランシスコ州立大学  教授(アジア系アメリカ人研究) ジェシカ・J・リー クインシー研究所 シニアリサーチフェロー(東アジア担当)

アジア系アメリカ人を標的とする社会暴力が増加している。米国内のアジア系成人の45%に相当する1000万人以上が「パンデミックが始まって以降、人種差別を直接的に経験している」と調査に答えている。歴史的にみても、地政学的不安が高まった時代には、アメリカではアジア系市民や移民が攻撃の対象にされてきた。ワシントンが、中国の脅威を極端なレトリックで誇張するなか、北京とつながっているかどうかに関係なく、米社会の一部の人々はアジア人やアジア系アメリカ人を敵視している。ワシントンが「中国のことを、アメリカのあらゆる苦境の憂さを晴らすサンドバッグ」として使うのを止めなければ、アジア系アメリカ人は今後も脅かされ続けるだろう。

バイデンと北朝鮮の核兵器
―― 核を放棄しない平壌への対策はあるか

2021年9月号

スー・ミ・テリー  戦略国際問題研究所シニアフェロー

北朝鮮の核ミサイルが米本土を射程に収めるにつれて、その脅威は質的に大きく変化している。変化が長い時間をかけて起きたために、分析者や政策決定者は脅威に慣れきってその深刻さを過小評価している。だが、軍事オプションはもはやとれない。外交では、妥協をするだけで結局何も得られない。むしろ、バイデンは二つの基本的な事実を認識する必要がある。現在の全体主義政権が続く限り、平壌は核兵器を放棄しないこと。もう一つは、米主導の体制変革(レジームチェンジ)は、少なくとも短期的にはオプションにはならないことだ。したがってバイデンが望み得る最善は、脅威を封じ込め、平壌の権力掌握をボトムアップで切り崩していくことだ。いまや、かつてなく多くの北朝鮮人が、政府が植え付けた神話と現実間のギャップを認識している。

適切な中ロ離間戦略を
―― ロシアを不幸な結婚から救うには

2021年9月号

チャールズ・クプチャン  米外交問題評議会シニアフェロー ジョージタウン大学国際関係学教授

反欧米による強い絆で結ばれているかにみえる中ロも、水面下では亀裂を抱えている。中国がめざましい勢いで台頭し、自負心を高めているのに対して、ロシアは停滞し、不安を高めている。超大国としての地位を取り戻したいと願いつつも、中国のジュニアパートナーに甘んじている。このギャップと非対称性がバイデンにはチャンスとなる。中ロを離間させるには、中国との関係で明らかになったロシアの脆弱性を是正すること、つまりロシアが自国の問題に対応できるように助けることで、バイデンは、モスクワが北京から距離をおくように促せるだろう。中ロを離間させれば、両国の野心を牽制し、アメリカとその民主主義的なパートナー国家が、イデオロギーの多様化が進む多極化世界で、リベラルな価値観や制度を守り、平和的な国際システムを形作るのも容易になるはずだ。

北京では、中国の国家安全保障、主権、国内の安定に対する外からの最大の脅威はアメリカが作り出しているとみなされている。「アメリカは恐怖と羨望に駆られて、あらゆる方法で中国を封じ込めようとしている」。ワシントンの政策エリートは、このような考えが中国国内で定着していることを明確に認識しつつも、そうした敵対的環境を助長しているのは中国ではなく、「中国共産党の権力を弱体化させようと、長年にわたって介入し続けているアメリカの方だ」考えられていることを見落としている。これほどまでに異なる近年の歴史解釈が米中間に存在することを理解すれば、競争を管理し、誰も望んでいない壊滅的な紛争を回避する方法を両国が特定する助けになるはずだ。

再生可能エネルギーの新地政学
―― シーレーンから多国籍グリッドへ

2021年8月号

エイミー・マイヤーズ・ジャッフェ   タフツ大学 フレッチャー・スクール 研究教授

ランサムウェア攻撃でアメリカ最大のパイプラインの一つが2021年5月に閉鎖に追い込まれる事件が起きた。遠く離れた場所の得体のしれぬ勢力が遂行した(重要な国内インフラを対象とする)複雑なデジタル攻撃は今後の脅威を予兆している。(再生可能エネルギーによる)電力が世界のエネルギーシステムでのプレゼンスを拡大していくにつれて、より多くのインフラがサイバー攻撃にさらされるようになるだろう。グリッドが大きくなると、保護を必要とするインフラが巨大になり、ハッカーが侵入する機会が増えるからだ。例えば、(電力インフラをターゲットにする)サイバー空間での活動を規制する国際ルールの確立を主導するのは、冷戦期における核軍備管理合意と同じくらい重要な試みになる。「デジタル化された世界の地政学」に向けて、ワシントンは現状を大きく見直す必要がある。

W・フルブライトの二つの顔
―― 国際主義者とレイシスト

2021年8月号

チャールズ・キング ジョージタウン大学教授 (国際関係論、政治学)

優れた外交ビジョンの持ち主だったフルブライトは、一方で「レイシスト」だった。2021年4月、彼の母校であるアーカンソー大学は学部名称からフルブライトの名前を外し、彼の銅像をキャンパスからなくすことを決めた。国際主義者でレイシストというスタイル上の矛盾は、実際にはアメリカ人にとっての盲点だった。「外国にはオープンマインドで接し、国内的には偏見をもつ」という組み合わせは、彼特有のものではなかった。逆に言えば、アメリカの国際主義を再生するには、国際主義路線と国内問題を誠実に解決していく立場を一体化させる必要がある。「人種的に秩序化された国内政治がその国の世界的な役割にどのようなコストを強いるか」を、アメリカ人は先ず認識する必要がある。

アメリカの少子高齢化の意味合い
―― EU、中ロ、日本との比較

2021年8月号

ニコラス・エバースタット アメリカンエンタープライズ公共政策研究所 議長(政治経済担当)

日本やヨーロッパそして中ロ同様に、アメリカも人口成長率の鈍化と出生率の着実な低下という厳しい現実に直面している。出生率の低下は将来に対する人々の自信も低下させるだけに懸念すべき事態だ。だが、こうした人口動態の変化から、アメリカの国際的地位の低下を直ちに心配する必要はない。アメリカの出生率が人口置換水準を維持できた最後の年は2008年だが、日本とEU諸国は1970年代に、中国とロシアは90年代初頭にすでに出生率が人口置換水準以下に落ち込んでいる。さらに、10年以上前からアメリカでも出生数と死亡数のギャップが縮まり続けているが、EU諸国は2012年頃から、日本では2007年以降、出生数よりも死亡数の方が多い状態が続いている。アメリカは今後数十年にわたって、相対的にはライバル諸国に対する人口動態上の優位を維持していくだろう。

「帰ってきたアメリカ」は本物か
―― クレディビリティを粉砕した政治分裂

2021年7月号

レイチェル・マイリック   デューク大学研究助教授(政治学)

「本当にアメリカは帰ってきたのか」。トランプだけではない。同盟国はアメリカの国内政治、特に今後の外交政策に大きな不確実性をもたらしかねない党派対立を気にしている。これまでは、外交が政治的二極化の余波にさらされることは多くなかったが、もはやそうではなくなっている。議会での政治対立ゆえに条約の批准が期待できないため、米大統領は議会の承認を必要としない行政協定の締結を多用している。だがこのやり方は、次の政権に合意を簡単に覆されるリスクとコストを伴う。国内の政治的二極化が続き、ワシントンが複雑な交渉に見切りをつけ、新政権が誕生するたびに既存のコミットメントが放棄されるようなら、「敵にとっては侮れない大国、友人にとっては信頼できる同盟相手としてのワシントンの評判」は深刻な危機にさらされることになる。

米経済とインフレ論争
―― インフレは本格化するか、収束するか

2021年7月号

ロジャー・W・ファーガソンJr 米外交問題評議会特別フェロー(国際経済担当)

連邦準備制度理事会(FRB)の政策決定者が、2021年の平均インフレ率を約2・5%と予測し、その後、低下していくと考えているのに対して、他のエコノミストは、インフレ率は4%にまで上昇し、今後数年でさらに上昇するとみている。FRBの意思決定者は、「金利の引き上げに踏み切る段階になるまで、今後も忍耐強く状況を見守る」とコメントしており、受け入れ可能な範囲を超えた、突出した物価上昇があっても、それは、パンデミックによる経済シャットダウン後の経済再開に派生する一時的なボトルネック現象だとみている。だが、現在のインフレ率の上昇は一時的なものだとみなす、FRBの分析が間違っていれば、そして、FRBは認識面で後れをとっているという批判派の見方が正しければ、アメリカ経済だけでなく、世界の他の地域の経済も無傷では済まなくなる。

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