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米国に関する論文

自由貿易でインフレを抑え込め
―― 関税を下げれば、物価も下がる

2022年8月号

ゲリー・ハウバウアー ピーターソン国際経済研究所 シニアフェロー(非常勤) ミーガン・ホーガン 同研究所 リサーチアナリスト エイリン・ワン 同研究所 リサーチアナリスト

関税を引き下げ、輸入割当を撤廃すれば、アメリカの企業や家計が購入する輸入品のコストは下がる。安価な輸入品は、競合する国内製品の価格を押し下げる圧力を作り出す。関税引き下げはアメリカの貧困層にはかなりの恩恵をもたらす。手始めに2%の関税引き下げを実施すれば、今後1年間で約1・3%程度インフレを抑え込める。地政学的利益も期待できる。バイ・アメリカ規則を緩和すれば、貿易パートナーの政府調達市場へのアクセスを拡大できるし、乳製品や衣料品の関税を引き下げれば、パートナー国に具体的な恩恵を提供できる。こうして政治的な好意を示せば、アメリカのイニシアティブへの外国での支持を高めることにもなる。インフレ対策がバイデン政権の最優先課題なのであれば、それに貢献できる貿易保護主義を撤廃していくことの価値は自明だろう。

あらゆる都市に猛暑対策担当官を
―― 熱波に備える最高猛暑責任者の任命を

2022年7月号

キャシー・ボーマン・マクラウド アトランティック・カウンシル シニア・バイスプレジデント

2022年は暑い年になるだろうが、少なくとも今後100年間でみればもっとも涼しい年の一つになるはずだ。熱波は人命を奪うだけでなく、道路の陥没や線路の歪みなど、インフラにもダメージを与える。ほとんどの飛行機は気温が49度を超えると離陸できなくなるし、携帯電話は気温が40度に達すると機能しなくなる。ハリケーンや竜巻とは違って、熱波はドラマチックなニュース映像になりにくいが、暴風雨と同じように、熱波は対策をとり、備えることができる。熱波に名前をつけたり、カテゴリーを示したりすれば、大衆の注意を引きやすくなる。実際、この措置はアテネ(ギリシャ)やセビリア(スペイン)など世界6都市で実験されている。だが、気温上昇への対応計画を立案し、実行する担当者を置いている都市は、世界にも数えるほどしかない。人命を救うために、各国の自治体指導者は、最高猛暑責任者(CHO)のポストを設けるべきだろう。

ウクライナ戦争とインドの選択
―― ロシアと欧米、どちらを選ぶのか

2022年7月号

リサ・カーティス 新アメリカ安全保障センター インド太平洋安全保障プログラム部長

ウクライナ戦争をめぐってインドは中立の立場をとり、ロシアを非難するのを控えているが、米政府高官たちはインドの行動を看過できぬとまではみていない。インドがロシアの軍事ハードウエアに依存していること、それを一夜にして解消できないことを理解しているからだ。しかし、ロシアが残虐行為を繰り返すなか、インドがロシアの原油や天然ガスを大量に購入し続ければ、ワシントンはニューデリーがロシアの戦争継続を可能にしているとみなし始めるだろう。インドの中立路線が長期化すれば、ワシントンが「インドを信頼できないパートナーとみなす」ようになる可能性は高まっていく。本意ではなくとも、ニューデリーは、結局、ロシアと欧米のどちらかを選ばなければならなくなる。・・・

太平洋の断層線
―― 高まる中国の影響力

2022年7月号

チャールズ・エデル 米戦略国際問題研究所(CSIS)上級顧問

2022年4月、ソロモン諸島は「中国との安全保障協定を締結した」と発表し、5月後半には中国の王毅外相が同様の協定を取りつけようと太平洋の他の島嶼国を訪問した。しかも、ソロモン諸島との協定は「社会秩序を維持する」要請を受けた場合、中国は警察や軍を派遣できるとされている。こうした協定は中国軍の影響圏を拡大して、海上交通の要衝へのアクセスを与えることになる。こうして、太平洋諸島はグローバルな地政学的競争に引きずりこまれ、この地域の安全保障が損なわれる恐れがある。アメリカと同盟国は目を覚ますべきだ。北京がこれ以上、太平洋全域に軍事的プレゼンスを拡大するのを阻止するには、従来のアプローチを早急に見直す必要がある。・・・

紛争のエスカレーションリスク
―― 激化するロシアと欧米の戦い

2022年7月号

イアン・ブレマー ユーラシア・グループ代表

ロシアの戦争目的が、もっぱらウクライナの「非ナチ化と非軍事化」だった段階はすでに終わっている。ワシントンと同盟諸国政府が、ウクライナの主権と領土の一体性を守るための支援に関与を限定してきた段階も同様だ。双方の指導者たちは、越えられないはずの一線を越えてしまっている。いずれ、両国は、相手の重要インフラに破壊的なサイバー攻撃をかけたい衝動に駆られるだろう。現状ではその可能性は低いが、核兵器の使用やNATO軍の投入さえも、もはや想定外とはみなせない。エスカレーションを阻むガードレールがなければ、この新冷戦のロジックがどこに向かうか、分からない状況にある。

台湾紛争と核戦争リスク
―― 米中衝突のエスカレーションシナリオ

2022年7月号

ステイシー・L・ペティジョン 新アメリカ安全保障センター  シニアフェロー(防衛プログラム)
ベッカ・ワッサー 新アメリカ安全保障センター  フェロー(防衛プログラム)

北京は「台湾防衛のコストは極めて高く、たとえ北京が台湾に侵攻しても対抗措置をとることは割に合わない」とアメリカおよびその同盟国を納得させたいと考えるはずだ。そのための手段はいくつかあるが、北京にとって、核兵器を持ち出すことがアメリカをこの紛争に介入させないもっとも効果的なやり方だろう。実際、アメリカと同盟国の戦略家は、「台湾をめぐる紛争では、中国は通常戦力と核戦力の全選択肢を検討に入れている」という事実を認識しておかなければならない。アメリカが抑止力を強化して「台湾侵攻に成功できるかもしれないと中国が考えないようにするために」残された時間はなくなりつつある。最大のリスクは、ワシントンとその友好国が、行動を起こすチャンスをあえて見送ってしまうことだ。1―2年後には、もはや手遅れになっているだろう。

AIをいかに戦力に取り込むか
―― 未来の戦力をどう評価する

2022年6月号

マイケル・C・ホロウィッツ ペンシルベニア大学教授
ローレン・カーン 外交問題評議会(CFR)リサーチフェロー
ローラ・レズニック・サモティン コロンビア大学 ポストドクトラル・リサーチ・スカラー

AIは、いまや防衛技術における進化のすべての中枢に位置し、戦力の配備や戦闘方法にまで影響を与えている。ロシアとウクライナはともにアルゴリズムを使ってソーシャルメディアと戦場から入ってくる膨大なデータを分析し、自国の攻撃にこれらの情報を生かしている。一方、ペンタゴンはAIと自律型兵器システムを含む新技術の重要性を説きつつも、軍事領域での応用ペースは緩慢だ。こうしたアメリカのAI軍事技術開発の遅れは、もっともパワフルな地政学的ライバルである中国の動きとは対照的だ。AI技術を軍事戦略、計画立案、システムに統合することに向けて中国はより積極的な動きをみせ、台湾をめぐる未来の紛争の戦闘スキームにもAIを組み込んでいる。アメリカは現状に満足するのではなく、その軍事力を未来に向けて適応させ、再編していく必要がある。・・・

ロシアとの連帯という幻想
―― 中国の間違った選択

2022年6月号

オッド・アルネ・ウェスタッド イェール大学教授(歴史・国際関係)

ウクライナでの戦争を欧米と中ロという二つのブロックを対立させる新冷戦の最初の一幕とみなす専門家もいる。かつての冷戦のように、今回も経済体制の違いだけでなく、イデオロギー的な違いもあるとみなし、新冷戦は「民主主義と権威主義、市場経済と国家主導型経済」の闘いと規定している。だが(かつての共産主義ブロックとは違って)現在の中ロは政治体制も経済制度も大きく違っており、一枚岩とはみなせない。豊かなエネルギーや鉱物資源がどれほど魅力的でも、近隣諸国との永遠の争いに明け暮れるモスクワの弱体政権との連帯が、中国の利益になるとは思えない。

中ロの行動をいかに抑えるか
―― 国際システムとアウトサイダー

2022年6月号

ステーシー・E・ゴダード  ウェルズリー大学教授(政治学) オルブライト研究所所長

中ロは連携しているが、まったく異なるタイプのリビジョニストであることを認識する必要がある。中国の攻勢はそれほど暴力的ではないが、大きな影響力をもっている。モスクワが破壊と暴力の戦略に依存してきたのに対し、北京はネットワークの拡大と国際秩序における地位を通じて影響力を行使してきた。冷戦後のアメリカは、現状に挑戦する手段と動機を兼ね備えたリビジョニスト国家を秩序に取り込む戦略をとってきたが、いまや新たなアプローチが必要だろう。アメリカは、国際秩序をライバルの基本的キャラクターを変革する枠組みではなく、こちらの意向を伝え、紛争を解決し、明確なレッドラインを設定するフォーラムとみなすべきだ。中国やロシアを変えるという高邁な計画でなくても、制度への取り込みを放棄しなくても、このやり方でリビジョニストを抑制できる。

そして「欧米と中露」の対立へ
―― 現状を規定する歴史の源流とは

2022年6月号

スティーブン・コトキン プリンストン大学教授(歴史学)

変化の源流は第二次世界大戦期にあり、冷戦期に流れは大きくなった。西側を基盤に戦後に形成された欧米の勢力圏が各国に繁栄と平和を提供しているのに対して、ロシアがウクライナで、中国がアジア地域およびアジアを越えて形成しつつある勢力圏は閉鎖性と強制を特徴とする。現在の中国は、外からの封鎖や制裁に耐えられるように、戦争を別とすれば、ナチス・ドイツや帝国日本が模索した戦略をとっている。プーチンが世界にロシア包囲網を築かれるなか、習近平はそうした努力をさらに強化していくはずだ。帝国は消えては現れるが、(経済・政治)ブロックは存続していく。だが、欧米は明確な優位をもっている。それは失敗から学べることだ。

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