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中東に関する論文

サダム・フセイン政権存続の謎

2000年10月号

オフラ・ベンジオ テルアビブ大学中東研究所上席研究員

サダム・フセインが権力を維持しているのは、その無慈悲なキャラクターと、反対勢力の失策のためであり、さらにはバース党、治安機構、軍部、取り巻きの派閥というイラクにおける権力の支柱のすべてをきわめてうまく管理しているからだ。彼の二人の息子たちへの権力継承も視野に入りつつあるが、二人は父親同様に残忍な人物で、政権交代は地域的な安全の高まりを意味しない。軍の指導層が民間の啓蒙グループや亡命者集団と手を組めば状況は大きく進歩するのであり、このためにも欧米は、サダムを封じ込めつつもイラク民衆の窮状をやわらげる措置をとるべきである。

核廃絶か、止めどない核拡散か

2000年9月号

ジョナサン・シェル
元ニューヨーカー誌エディター

核不拡散が達成不可能とみなされれば、アメリカ政府は核拡散を認め、「核武装した世界」に向けた安定的移行プロセスの管理という目標を掲げるようになるかもしれないし、現実に、より多くの核保有国が存在する国際秩序へと世界は向かっている。核不拡散政策と核の保有による抑止戦略を両立させようとするアメリカの核政策は、道徳的にも、軍事・外交的にも、そして法的にも一貫性を欠く自己破綻の処方箋にほかならない。実際には抑止論で正当化される核の兵器庫の存在こそが核拡散を刺激しているのだから、抑止政策や核の保有と核不拡散政策とは両立し得ず、本気で核の拡散を阻止するには核廃絶を目標とするしかない。

なぜサウジは石油の高価格政策をとったか

2000年5月号

F・グレゴリー・ゴーズ/バーモント大学政治学準教授

サウジが石油の高価格政策へと転じたのは、短期的かつ切実に資金を必要としていたからである。巨大な財政赤字ゆえに、七〇年代に築きあげた寛大な福祉国家をまかなっていけなくなる一方で、福祉政策の打ち切りは、王族にとって政治的死を意味する。しかも、石油価格が再び低下していくのは目に見えている。世界最大の産油国であるサウジアラビアによる石油の供給と、この中東の同盟諸国の安定を保つには、国内の民営化や経済改革がなんとしても必要なことをサウジ政府に納得させなればならない。サウジの不安定化が、世界経済、中東秩序にどのような衝撃を与えるかを考えれば、この点でサウジを説得することの大切さは自明であろう。

中央アジアを揺るがすタリバーンの正体

1999年12月号

アハメド・ラシッド/「ファーイースタン・エコノミックレヴュー」誌記者

アフガニスタンの平和の実現を助けずして、中央アジアの広大な石油・天然ガス資源を安全に開発できると考えるのは、非現実的である。タリバーンが牛耳るアフガニスタンは、今やパキスタン、イラン、中央アジア諸国、イスラム教徒の多い中国の新疆ウイグル自治区の反政府イスラム勢力が安心して逃げ込める「聖域」となっているだけでなく、軍事訓練の拠点と化している。実際、タリバーンと協力して現在アフガニスタンで戦っている数千のイスラム原理主義者たちは、いつか祖国の政権を倒し、世界各地でタリバーン流イスラム革命を起こすつもりなのだ。しかも、アフガニスタンは今や世界最大のアヘン生産国で、この犯罪経済に周辺諸国が巻き込まれつつある。タリバーンが支配するアフガニスタンから、暴力、麻薬、カオス、テロリズムが周辺地域へと拡散するのを放置すれば、いずれわれわれは途方もないコストを支払わされることになる。

イラク経済制裁の戦略的解除を

1999年8月号

F・グレゴリー・ゴーズ  バーモント大学政治学准教授

アメリカは経済制裁の解除と引き換えに、イラクの大量破壊兵器(WMD)開発計画を監視・管理するための現地査察を復活させる提案を示すべきだ。経済制裁によって苦しんでいるのはもっぱらイラク民衆であり、この事実ゆえに、サダム・フセインの反米プロパガンダがもっともらしく聞こえ、国際コミュニティーにおけるアメリカの封じ込め政策への支持も低下しつつある。加えて、イラクのWMD開発がアメリカの国益に対する重大な脅威だとすれば、「査察なき制裁より、制裁なき査察」のほうが国益にかなう処方箋である。もしサダムが「制裁なき査察」の枠組みの下で査察を妨害した場合には、イラクの軍事ターゲットを即座に徹底的に空爆すればよい。ここに示した「制裁解除=査察の再開=軍事的封じ込めの強化」という道筋は、イラクの平均的市民の日々の生活を向上させるだけでなく、イラクのWMD開発計画に対する大きな障害を提供してくれるだろう。

制裁継続か、それとも和解か
――カダフィ大佐との単独インタビュー

1999年5月号

ミルトン・ビオースト  ジャーナリスト

テロ事件に対する国連とアメリカの制裁措置は、リビアを相当に追い込んでいる。今後は、ベルリンのナイトクラブ爆破事件やパンナム機爆破事件の裁判がどのように進展するかにかかっている。リビア人たちは、「これら裁判の結末が自分たちにとっていかに痛みを伴うものであっても、これまでのように反抗的な態度をとり続け、制裁を受け続けるよりも、裁判の決着をつけ、問題を過去へ葬り去りたいと考えている」。カダフィ自身「この国を現在の窮状へと追い込んだ挑発的な政策をこれ以上リビアがとり続けるのを民衆が望んでいないこと」を理解している。裁判の結審によって本当に制裁が解除されるのだろうか。裁判では、被告のリビア人だけでなく、リビアという国家が裁かれるのか? テクノクラート的な社会と部族的社会に二分されているリビアで、カダフィは本当はどのような役割を担い、状況をどうとらえているのか?

国家間戦争から内戦の時代へ

1999年3月号

スティーブン・R・デービッド ジョンズホプキンス大学政治学教授

冷戦が終わり、今や内戦がほぼ唯一の戦闘形態となった。国家間戦争ほど関心を引かないとはいえ、各国の内戦は紛争勢力の「本来の意図とは関係のないところ」で、国境を超えた破壊的衝撃を伴う。しかも、対外的にダメージを与えるという意図に導かれていないだけに、内戦の発生を抑止するのは難しい。例えばサウジアラビアだ。世界一の石油資源を持つこの国で内戦が起きれば、油田地帯が戦場と化し、紛争勢力にその意図がなくても、世界経済は瞬く間に窒息する。しかもサウジアラビアで国内紛争が起きる可能性は現実に高い。われわれは、一刻も早く「安全保障上の脅威のすべてが、一貫した信条を持つ敵対勢力によって周到に準備されているわけではなく、具体的目的に導かれているわけでもなければ」、適切な政策をとれば抑止できる性格のものでもないことを肝に銘じるべきだ。内戦への対応を考えない限り、われわれにとって軍事的選択肢は、自国防衛の強化か予防的先制攻撃の二つしかない。

カスピ海資源とOPECの教訓

1999年2月号

ジャハンガー・アムゼガー  元イラン大蔵大臣

アゼルバイジャン、カザフスタン、トルクメニスタン、ウズベキスタンという四つのカスピ海周辺諸国は、今後、間違いなく石油資源を中心とする経済ブームに沸き返ることになるだろう。だが、あり余る豊かさから、使い古しの雑巾のようなボロボロの状態へと至った石油輸出国機構(OPEC)の経験から教訓を学ばない限り、カスピ海周辺諸国もエネルギーブームの魅力が持つ危険な落とし穴にはまりこむことになろう。労なくして手にできる「石油地代」に惑わされたOPEC諸国は、社会保障や官僚制の肥大化、無節操な投資計画、効率性を欠いたインフラ整備プロジェクト、大規模な軍事支出など、財政上の「ブラックホール」を次々とつくりだした。その結果、莫大な資金を浪費して、今日の悲惨な現実に至っているのだ。OPECを反面教師として、カスピ海周辺諸国が堅実な経済運営を行い、市場経済に必要な透明性を備えた制度を確立していかない限り、限りある資源を持続可能な豊かさへ変えていくのは不可能である。

サダム・フセインは追放できるか

1999年2月号

ダニエル・バイマン/ランド・コーポレーション政策アナリスト
ケニース・ポラック/米国防大学教授
ギデオン・ローズ/外交問題評議会・国家安全保障プログラム副議長

ワシントンの外交サークルでは、イラク国内の反政府勢力を利用してサダム・フセイン政権を転覆させようとする、六〇年代のキューバ侵攻作戦まがいの考えが流行している。だが、このサダム追放を目的とする「巻き返し戦略」は、軍事的に不可能なだけでなく、アメリカ市民や同盟諸国の支持も得られず、最終的には米軍を大規模投入するか、それとも反政府勢力の崩壊を放置するか、という選択をワシントンに強いるだけだ。したがって、代替策を求めて現在の封じ込め政策を捨て去るのではなく、むしろ現在の政策をいかに活性化させるかを考えるべきだろう。すでに問題を伴いだした多方面に及ぶ現在の封じ込め政策から、「限定的封じ込め」へと移行することこそ現実的選択である。反政府勢力への支援は、独立した政策オプションではなく、国連による新決議と引き換えに、飛行禁止空域や経済制裁を解除する「限定的封じ込め」を補完するものとしてとらえるべきである。

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