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ヨーロッパに関する論文

ロシアの衰退という危険
―― 脅威がなくならない理由

2022年12月号

アンドレア・ケンドール・テイラー 新アメリカ安全保障センター 大西洋安全保障プログラム・ディレクター
マイケル・カフマン 米海軍分析センター ロシア研究プログラム・ディレクター

ロシアのパワーと影響力が衰退しているとしても、その脅威が今後大きく後退していくわけではない。プーチンが敗れても、ロシアの問題は解決されないし、むしろますます大きくなっていく。欧米は、この現実を認識し、ロシアがおとなしくなることへの期待を捨て、モスクワの標的にされているウクライナへの支援を続けなければならない。ロシアは往々にして再生、停滞、衰退のサイクルを繰り返す。ウクライナ戦争でそのパワーと世界的地位が低下しても、ロシアの行動は、今後も反発、国境沿いの勢力圏の模索、そして世界的地位への渇望によって規定されていくだろう。ヨーロッパが単独でこの問題を処理できると考えてはならない。ロシアの脅威は変化するとしても、今後もなくならない。

ウクライナは冬を越せるのか
―― 欧米の支援疲れ、難民危機、電力不足

2022年12月号

メリンダ・ヘリング アトランティック・カウンシル ユーラシアセンター副部長
ジェイコブ・ヘイルブラン ナショナル・インタレスト誌編集長

キーウが直面している問題は、資金不足だけではない。ロシア軍によるエネルギーインフラ攻撃で、ウクライナ全土で停電が起きている。モスクワは空爆によって、この冬、ポーランドなどの周辺国に新たにウクライナ難民を流出させ、政治的混乱を起こし、その多くがプーチンと立場を共有する極右政党を勢いづけたいと考えている。しかも、アメリカの支援はやり過ぎだと考える共和党支持者の割合は48%に達している。それでも欧米は、資金援助、電力と暖房の復旧に必要な機器の提供、ウクライナのインフラをミサイル攻撃から守る防空システムの供与など、さまざまな対策をとることで、ウクライナがこの冬を乗り切れるように助けなければならない。ワシントンと同盟国がウクライナ支援に失敗すれば、今度はヨーロッパの別の戦場でプーチンと再び対峙することになる。

ドル高の悪夢から逃れるには
―― 準備通貨を多様化すべき理由

2022年12月号

バリー・アイケングリーン カリフォルニア大学バークレー校 特別教授(経済学・政治学)

ドル高が進むと、中・低所得国のドル建て債務の重荷が増し、持続可能性が脅かされる。原材料価格もドル建てであるため、対ドルで通貨安になると資源輸入国のコストや物価が上昇し、この流れがインフレを誘発する。こうして、ドル高になると多くの国の中央銀行は為替市場に介入し、外貨準備を用いて自国通貨を買い支えようとする。だが売却された米国債の多くは、米金融市場に流れ込み、結局はドル高になる。長期的には、各国の中央銀行が外貨準備を多様化し、ドルからユーロ圏や中国あるいはより小規模な国の通貨へと取引を多様化することが解決策になる。そうすれば、各国は連邦準備制度理事会(FRB)という一国の中央銀行の決定に左右されにくくなる。

ウクライナと核戦争リスク
―― 三つのシナリオ

2022年10月号

ジョン・J・ミアシャイマー シカゴ大学教授(政治学)

専門家の多くは、交渉によるウクライナ戦争の解決は当面実現しないと考え、血塗られた膠着状態が続くと予測している。この認識は正しいが、すでに長期化している戦争に破滅的なエスカレーションメカニズムが埋め込まれていることが過小評価されている。ニューヨーク・タイムズ紙が報じたように、すでにワシントンは戦争に深く関わっており、米軍の兵士が引き金を引き、パイロットがボタンを押すまで、あと一歩のところまで来ている。米軍が介入した場合、プーチンを核使用に走らせることなく、ウクライナを救えるのか。ロシアがウクライナ軍にひどく追い込まれた場合には、モスクワが核を使用する恐れはないか。エスカレーションの先にあるものは、第二次世界大戦を超える犠牲と破壊という、まさに壊滅的な事態かもしれない。

グローバル化からリージョナル化へ
―― 地域内貿易の時代へ

2022年9月号

シャノン・K・オニール 米外交問題評議会 シニアフェロー(ラテンアメリカ担当)

モノ、カネ、情報、ヒトの国際的移動の半分以上は、三つの主要な地域ハブ、つまり、アジア、ヨーロッパ、北米の内部で起きている。中国、韓国、台湾、ベトナムの経済成長は、アジア地域内部からの投資と投入によって始まった。東欧の急成長は西ヨーロッパとのリンクが発端だった。1993年から2007年にかけて、メキシコの経済規模は2倍以上になったが、その多くは93年にカナダ、アメリカと合意した北米自由貿易協定(NAFTA)の効果で説明できる。一般に理解されているグローバル化はほとんど神話であり、実際に起きているのは貿易のリージョナル化(地域化)に近い。いまやアジア諸国はともに生産し、相互から購入し、最終製品の3分の1近くがアジア域内の消費者に販売されている。アメリカも北米地域ネットワークを強化し、活用する必要がある。・・・

ロシアのヨーロッパ分断戦略
―― エネルギー危機が揺るがす欧州の連帯

2022年9月号

ナタリー・トッチ 伊国際問題研究所 ディレクター

ウクライナ戦争をめぐるヨーロッパの連帯はいつまで維持されるのか。それを崩壊させるのは何か。連帯を脅かす最大の脅威は、戦闘が比較的小康状態になることかもしれない。この状況でエネルギー危機がさらに深刻化すれば、モスクワが一部のEU諸国に働きかけてキーウに譲歩を迫らせることも不可能ではなくなるかもしれない。エネルギー危機は、欧州のポピュリストを台頭させる機会を提供しており、ヨーロッパの結束だけでなく、欧州連合(EU)の存続さえ危うくする恐れがある。すでに分裂は起き始めている。バルト諸国やポーランドなどウクライナと国境を接する諸国が、経済制裁と力強い軍事支援を通じて正義をもたらすことを求めているのに対して、イタリア、フランス、ドイツなど西ヨーロッパ諸国はロシアとの妥協に傾き始めている。・・・

ウクライナ戦争はもはや制御不能か
―― レッドラインとエスカレーション

2022年9月号

リアナ・フィックス 独ケルバー財団 プログラム・ディレクター(国際関係)
マイケル・キマージュ 米カトリック大学教授(歴史学)

プーチンは傲慢さと怒りから、欧米を驚かせ、徹底的に脅かすには、戦争を劇的にエスカレートさせるしかないと判断する恐れがある。「現状がかつてないものであること」を認識する必要がある。何年も続く可能性のある大きな戦争が、無政府状態に近づきつつある国際システムの中枢で血を流している。リベラルな国際秩序のルールに従うように教育されてきた同盟国の政策立案者と外交官は、無秩序のなかを歩んでいくことを学んでいかなければならない。「戦場の霧」が、ソーシャルメディアのスピードと信頼性の低さによってさらに濃くなり、辺りを覆っている。この霧がもっともうまく考案された戦略さえも曖昧にしてしまうかもしれない。世界を震撼させたキューバ・ミサイル危機は13日間続いたが、ウクライナ戦争が引き起こす危機は今後長期的に続く。

経済秩序とヒエラルヒー
―― 経済主権という幻想

2022年8月号

ブランコ・ミラノビッチ ニューヨーク市立大学 大学院センター教授

いかなる国際経済秩序も「不平等で分裂した主権」で校正される不安定な基盤の上に成り立っている。表向きは対等な加盟国によって構成されていた国際連盟においても、フランス、イタリア、イギリスという戦勝国とその傍らにいたアメリカは、「自国に弱小の加盟国と同じルールが適用される」とは考えてもいなかった。アジアの国である日本には、そもそも大した影響力はなかった。アフリカ諸国や植民地は、このヒエラルヒーの最底辺に位置づけられた。同じような序列は今も続いている。IMFや世界銀行は、融資の見返りに改革を求めるなど、加盟国の主権を日常的に侵害してきた。パワフルな国内の社会集団が自らの求める政策を定着させるために国際条約を結んで、主権を削り取ることも多い。国際経済システムが主権そして主権の平等を尊重すると期待するのは、あまり現実的ではないだろう。

ウクライナとEU
―― ヨーロッパへの第一歩

2022年8月号

マティアス・マタイス CFRシニアフェロー

プーチンはこれまで、ウクライナの欧州連合(EU)加盟よりも北大西洋条約機構(NATO)への加盟に強く反対していると明言してきた。同様に、フィンランドやスウェーデンのEU加盟は問題ないが、NATO加盟申請は挑発行為とみなすと発言している。だが、2014年のマイダン革命が、「ウクライナのヤヌコビッチ大統領(当時)がEUとの関係よりもロシアとのより緊密な経済関係を選択したこと」に対する反動だったことを考えれば、ウクライナ市民の立場ははっきりしている。いまやウクライナはより明確に欧米へと舵をとり、すでにEUの加盟候補国の地位を手に入れた。もちろん、正式加盟には時間がかかるとしても、ウクライナ民衆はいまや「自分たちが何のために戦っているのか」を理解している。それは、「欧米とより完全に統合された、自由で民主的な未来」に他ならない。

日独の自主路線と対米協調のバランス
―― ポストアメリカの協調モデル

2022年8月号

マーク・レナード ヨーロッパ外交評議会 ディレクター

ロシアのウクライナ侵攻と米中対立の激化は、戦後秩序の現状とパックス・アメリカーナを根底から覆そうとしている。モスクワのウクライナ侵略を前に、ドイツは外交政策を抜本的に見直し、国防費の大幅増額を約束している。中国の覇権主義を警戒する日本も、同じような変貌を遂げようとしているようだ。短期的には、こうした変化は欧米世界の結束、あるいは復活さえも促すかもしれない。しかし、ドイツが新たに自主路線の道を歩み、日本も同様の道を歩めば、対米依存度は低下し、むしろ、近隣諸国との結びつきが大きくなるだろう。このようなシフトは、ヨーロッパとアジアにおける安全保障秩序だけでなく、欧米世界のダイナミクスを大きく変化させる。ベルリンと東京で進行している変化は、ワシントンが戦後に構築し維持してきたものとは異なる、よりバランスのとれた同盟関係が視野に入ってきていることを意味する。・・・

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