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ヨーロッパに関する論文

紛争が長期化する理由
―― 理想主義対現実主義

2023年1月号

クリストファー・ブラットマン シカゴ大学教授(国際関係論)

なぜウクライナ戦争は長期化しているのか。「敗北すれば自分の政権が終わるかもしれないと考えれば、それがロシアにとってどんな結果をもたらすとしても、プーチンは戦い続けるインセンティブをもつはずだ」。しかし、この他にも重要な理由がある。ウクライナがロシアに抵抗し、戦争を速やかに終わらせるための不快な妥協を拒絶していることは、地政学対立において理念と原則が作り出す不変のメカニズムの作用を示している。ウクライナの指導者と市民は「いかなるコストを支払おうとも、ロシアの侵略に屈して、自由や主権を犠牲にすることはない」と決意している。ロシアにとっても、これはイデオロギー戦争でもある。ウクライナ戦争は、戦略的ジレンマだけでなく、双方が妥結という考えを嫌悪しているために、戦いが長期化している。

変化したグローバルな潮流
―― 多極化時代の新冷戦を回避するには

2023年1月号

オラフ・ショルツ ドイツ連邦共和国首相

ツァイテンヴェンデ(時代の転換、分水嶺)は、ウクライナ戦争や欧州安全保障問題を超えた流れをもっている。ドイツとヨーロッパは、世界が再び競合するブロック圏に分裂していく運命にあるとみなす宿命論に屈することなく、ルールに基づく国際秩序を守る上で貢献していかなければならない。われわれは民主国家と権威主義国家の対立は模索していない。それでは世界的分断を助長するだけだ。その歴史ゆえに、私の国はファシズム、権威主義、帝国主義の流れと闘う特別な責任を負っている。同時に、イデオロギー的・地政学的な対立のなかで分断された経験ゆえに、新たな冷戦の危険を直接的に知っている。多極化した世界では、対話と協力を民主主義世界のコンフォートゾーンを越えて広げていかなければならない。・・・

穏健化した欧州の右派ポピュリズム
―― 民主主義が勝利する歴史的理由

2022年12月号

シェリ・バーマン バーナードカレッジ教授(政治学)

「過激主義の政治集団が民主主義の大きな脅威になるかどうかは、それが登場した社会の本質に左右される」。民主主義の規範と制度が社会に力強く定着している社会では、反民主主義や過激主義をいくらアピールしても支持者はほとんど得られないために、急進派は穏健化せざるを得なくなる。効率的に民意を汲み取れる民主的社会において、反民主主義や急進主義が受け入れられる余地がほとんどないことは歴史が裏付けている。この状況下では、急進派は周辺化を受け入れるか、穏健化するかどちらかを選ばざるを得なくなる。戦後、共産党がたどった軌道、穏健化を選んで台頭した「イタリアの同胞」、「スウェーデン民主党」などの右派ポピュリスト政党の軌道は、まさにこの歴史的流れを裏付けている。問題は、アメリカ政治が逆方向に向かっていることだ。

ロシアの衰退という危険
―― 脅威がなくならない理由

2022年12月号

アンドレア・ケンドール・テイラー 新アメリカ安全保障センター 大西洋安全保障プログラム・ディレクター
マイケル・カフマン 米海軍分析センター ロシア研究プログラム・ディレクター

ロシアのパワーと影響力が衰退しているとしても、その脅威が今後大きく後退していくわけではない。プーチンが敗れても、ロシアの問題は解決されないし、むしろますます大きくなっていく。欧米は、この現実を認識し、ロシアがおとなしくなることへの期待を捨て、モスクワの標的にされているウクライナへの支援を続けなければならない。ロシアは往々にして再生、停滞、衰退のサイクルを繰り返す。ウクライナ戦争でそのパワーと世界的地位が低下しても、ロシアの行動は、今後も反発、国境沿いの勢力圏の模索、そして世界的地位への渇望によって規定されていくだろう。ヨーロッパが単独でこの問題を処理できると考えてはならない。ロシアの脅威は変化するとしても、今後もなくならない。

ウクライナは冬を越せるのか
―― 欧米の支援疲れ、難民危機、電力不足

2022年12月号

メリンダ・ヘリング アトランティック・カウンシル ユーラシアセンター副部長
ジェイコブ・ヘイルブラン ナショナル・インタレスト誌編集長

キーウが直面している問題は、資金不足だけではない。ロシア軍によるエネルギーインフラ攻撃で、ウクライナ全土で停電が起きている。モスクワは空爆によって、この冬、ポーランドなどの周辺国に新たにウクライナ難民を流出させ、政治的混乱を起こし、その多くがプーチンと立場を共有する極右政党を勢いづけたいと考えている。しかも、アメリカの支援はやり過ぎだと考える共和党支持者の割合は48%に達している。それでも欧米は、資金援助、電力と暖房の復旧に必要な機器の提供、ウクライナのインフラをミサイル攻撃から守る防空システムの供与など、さまざまな対策をとることで、ウクライナがこの冬を乗り切れるように助けなければならない。ワシントンと同盟国がウクライナ支援に失敗すれば、今度はヨーロッパの別の戦場でプーチンと再び対峙することになる。

ドル高の悪夢から逃れるには
―― 準備通貨を多様化すべき理由

2022年12月号

バリー・アイケングリーン カリフォルニア大学バークレー校 特別教授(経済学・政治学)

ドル高が進むと、中・低所得国のドル建て債務の重荷が増し、持続可能性が脅かされる。原材料価格もドル建てであるため、対ドルで通貨安になると資源輸入国のコストや物価が上昇し、この流れがインフレを誘発する。こうして、ドル高になると多くの国の中央銀行は為替市場に介入し、外貨準備を用いて自国通貨を買い支えようとする。だが売却された米国債の多くは、米金融市場に流れ込み、結局はドル高になる。長期的には、各国の中央銀行が外貨準備を多様化し、ドルからユーロ圏や中国あるいはより小規模な国の通貨へと取引を多様化することが解決策になる。そうすれば、各国は連邦準備制度理事会(FRB)という一国の中央銀行の決定に左右されにくくなる。

ウクライナと核戦争リスク
―― 三つのシナリオ

2022年10月号

ジョン・J・ミアシャイマー シカゴ大学教授(政治学)

専門家の多くは、交渉によるウクライナ戦争の解決は当面実現しないと考え、血塗られた膠着状態が続くと予測している。この認識は正しいが、すでに長期化している戦争に破滅的なエスカレーションメカニズムが埋め込まれていることが過小評価されている。ニューヨーク・タイムズ紙が報じたように、すでにワシントンは戦争に深く関わっており、米軍の兵士が引き金を引き、パイロットがボタンを押すまで、あと一歩のところまで来ている。米軍が介入した場合、プーチンを核使用に走らせることなく、ウクライナを救えるのか。ロシアがウクライナ軍にひどく追い込まれた場合には、モスクワが核を使用する恐れはないか。エスカレーションの先にあるものは、第二次世界大戦を超える犠牲と破壊という、まさに壊滅的な事態かもしれない。

グローバル化からリージョナル化へ
―― 地域内貿易の時代へ

2022年9月号

シャノン・K・オニール 米外交問題評議会 シニアフェロー(ラテンアメリカ担当)

モノ、カネ、情報、ヒトの国際的移動の半分以上は、三つの主要な地域ハブ、つまり、アジア、ヨーロッパ、北米の内部で起きている。中国、韓国、台湾、ベトナムの経済成長は、アジア地域内部からの投資と投入によって始まった。東欧の急成長は西ヨーロッパとのリンクが発端だった。1993年から2007年にかけて、メキシコの経済規模は2倍以上になったが、その多くは93年にカナダ、アメリカと合意した北米自由貿易協定(NAFTA)の効果で説明できる。一般に理解されているグローバル化はほとんど神話であり、実際に起きているのは貿易のリージョナル化(地域化)に近い。いまやアジア諸国はともに生産し、相互から購入し、最終製品の3分の1近くがアジア域内の消費者に販売されている。アメリカも北米地域ネットワークを強化し、活用する必要がある。・・・

ロシアのヨーロッパ分断戦略
―― エネルギー危機が揺るがす欧州の連帯

2022年9月号

ナタリー・トッチ 伊国際問題研究所 ディレクター

ウクライナ戦争をめぐるヨーロッパの連帯はいつまで維持されるのか。それを崩壊させるのは何か。連帯を脅かす最大の脅威は、戦闘が比較的小康状態になることかもしれない。この状況でエネルギー危機がさらに深刻化すれば、モスクワが一部のEU諸国に働きかけてキーウに譲歩を迫らせることも不可能ではなくなるかもしれない。エネルギー危機は、欧州のポピュリストを台頭させる機会を提供しており、ヨーロッパの結束だけでなく、欧州連合(EU)の存続さえ危うくする恐れがある。すでに分裂は起き始めている。バルト諸国やポーランドなどウクライナと国境を接する諸国が、経済制裁と力強い軍事支援を通じて正義をもたらすことを求めているのに対して、イタリア、フランス、ドイツなど西ヨーロッパ諸国はロシアとの妥協に傾き始めている。・・・

ウクライナ戦争はもはや制御不能か
―― レッドラインとエスカレーション

2022年9月号

リアナ・フィックス 独ケルバー財団 プログラム・ディレクター(国際関係)
マイケル・キマージュ 米カトリック大学教授(歴史学)

プーチンは傲慢さと怒りから、欧米を驚かせ、徹底的に脅かすには、戦争を劇的にエスカレートさせるしかないと判断する恐れがある。「現状がかつてないものであること」を認識する必要がある。何年も続く可能性のある大きな戦争が、無政府状態に近づきつつある国際システムの中枢で血を流している。リベラルな国際秩序のルールに従うように教育されてきた同盟国の政策立案者と外交官は、無秩序のなかを歩んでいくことを学んでいかなければならない。「戦場の霧」が、ソーシャルメディアのスピードと信頼性の低さによってさらに濃くなり、辺りを覆っている。この霧がもっともうまく考案された戦略さえも曖昧にしてしまうかもしれない。世界を震撼させたキューバ・ミサイル危機は13日間続いたが、ウクライナ戦争が引き起こす危機は今後長期的に続く。

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