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ヨーロッパに関する論文

イギリスの暴動と緊縮財政路線
―― 緊縮財政と階級政治の政治学

2011年9月号

マティアス・マタイス アメリカン大学准教授

2011年夏、イギリスの複数の都市で起きた暴動の背景には、財政・債務危機と政府の緊縮路線に対する反発があった。暴動は、緊縮財政路線への不満と階級政治が重ね合わせられた結果の社会反乱であり、その構図は、30年前にイギリスで起きた暴動を彷彿とさせる。当時のサッチャー首相はこの危機に強硬な治安対策で対処した。その後、小さな政府を目指すネオリベラリズム路線が消費の拡大をもたらし、経済を浮遊させたことで、最終的に危機は克服された。だが、いまは消費の拡大など望みようもない状況だ。政府は銀行救済のために介入したが、貧困層への救済策はとらなかった。それどころか、福祉と社会保障プログラムを打ち切らざるを得なくなった。イギリスが陥っている事態は、他の諸国にとっても他人(ひと)事ではないだろう。結局のところ、大きな社会格差、低成長、そして緊縮財政はイギリスに特有のものではない。いまや主要先進国を含む、多くの諸国が似たような状況に直面しているのだから。

欧州によるスマート・ディフェンスを提唱する
―― 緊縮財政時代の大西洋同盟

2011年9月号

アナス・フォー・ラスムセン NATO事務総長

冷戦終結以降、NATOに加盟するヨーロッパ諸国は防衛支出を約20%削減している。一方、軍事予算のレベルを大幅に引き上げている新興市場大国は、欧米と必ずしも利害認識を共有していない。つまり、そこにあるのは、グローバル秩序に利害を共有するプレイヤーの数がかつてなく増えているにも関わらず、それを擁護していこうとするプレイヤーの数が少なくなっているという皮肉な現実だ。私が提唱する「スマート・ディフェンス」とは、他国と協力し、より柔軟な路線をとることで、これまでよりも少ない予算で安全保障を維持していく防衛態勢だ。防衛費を増やすかどうかではなく、それをいかにスマートに用いるかで今後は左右される。多国間アプローチを模索し、大西洋同盟の戦略志向を強め、グローバル化が作り出した安全保障問題を管理していくために新興国と協力する必要がある。ヨーロッパ防衛により一貫性をもたせ、大西洋の絆を深め、他のグローバルアクターとNATOの関係を強化していくことこそ、経済危機が安全保障危機を招き入れるのを阻止する唯一の方法だろう。

「今回の危機はヨーロッパの人々に自分がヨーロッパ人となることを夢見ているのか、それとも、結局は、ドイツ人、フランス人、イタリア人に戻るのかという命題を突きつけている」。ソブリン危機が、ヨーロッパで第3の経済規模をもつイタリアにも飛び火しかねない緊迫した情勢下で、ユーロ圏首脳は対ギリシャ第2次支援策で合意し、状況は一時的に落ち着いたかにみえる。だが、問題は残されている。7月中旬にも、ベルルスコーニ首相は緊縮財政プログラムを成立させることで、市場の動揺を抑えて、かろうじて危機発生を食い止めたばかりだった。イタリアがソブリン危機に陥らずにすんだのは、ポルトガルやスペインとは違って大きな対外債務を抱えていないからだと指摘するジョン・キャボット大学のフランコ・パボンチェッロは「国債の多くはイタリア人が保有しており、今後もイタリア人は国債を買い続けるだろう」とみる。だが、イタリアの政治的な不確実性が「市場のコンフィデンスを損なっている」と同氏は語る。「危機にどう対応すべきかをめぐってイタリアの政治家が困惑していることを、市場は懸念している」と語った同氏は、結局、ユーロゾーンは、ユーロ共同債の発行を含む、共通の解決策を模索するしかないとコメントした。聞き手は、クリストファー・アレッシ(cfr.orgのアソシエート・スタッフライター)

ドイツ経済モデルの成功
―― 他の先進国が見習うべき強さの秘密とは

2011年7月号

スティーブン・ラトナー
前米財務長官顧問

ドイツ経済の成功は、中国、インド、その他の新たな経済的巨人が台頭する環境でも、先進国が競争力を維持できることを示している。ドイツモデルを他の先進国が取り入れるには、各国の政治家が2005年にシュレーダー独首相が示したような決意あるリーダーシップを示す必要があるし、国の比較優位をうまく生かす方法を見極めなければならない。付加価値連鎖のなかのもっとも高い部門を重視するのが、先進国経済が状況を先に進める上で、もっとも間違いのないやり方だ。実際、ドイツの工業的成功の多くは、製造業の二つの高付加価値部門が牽引してきた。第1は、ミッテルスタンド(中小企業)がひしめき合う工作機械部門、第2は、ドイツ経済のスターである、BMW、ダイムラー、ポルシェ、アウディといったブランド企業が牽引する自動車産業だ。ドイツは雇用と高付加価値の製造業を大切にすることを決断し、この決定が経済的成功に大きな貢献をしている。

ユーロとEUを救うには
――  「ハードな」ケインズ主義を導入せよ

2011年6月号

ヘンリー・ファレル ウッドロー・ウィルソン・センター フェロー
ジョン・クイッギン クイーンズランド大学オーストラリア研究委員会フェロー

危機に直面したユーロ経済を前に、ドイツはユーロ参加国にさらに厳格な歳出削減を制度化するように求め、2011年3月に各国は、ドイツ同様に、歳出削減措置を国内で法制化し、これを憲法に盛り込むことに合意した。だが、厳格な歳出削減措置は、ヨーロッパ経済に短期的なダメージを与えるだけでなく、長期的にはEUの政治基盤そのものを揺るがしかねない。いかなる政治制度も、有権者に経済の調整コストを繰り返し負担させながら正統性を維持していくことなどできないからだ。金本位制下の国家はまさしくこの轍を踏んで失敗した。厳格な歳出削減策で何とか債券市場を安定させることに成功しても、すでに損なわれているEUの政治的正統性がさらに損なわれれば、EUそのものが存続のリスクにさらされる。将来の経済危機のリスクを最小化し、経済危機に陥ったときに政治的に維持できない厳格な緊縮財政をとらないで済むような長期的な制度を導入するために、ヨーロッパは再びケインズに学ぶ必要がある。

トルコはイスラム、欧米のどちらを選ぶのか
―― 誤解されるトルコの新外交路線

2011年4月号

ヒュー・ポープ 国際危機グループ プロジェクト・ディレクター

フローティラ事件をめぐるイスラエルとの対立、そしてイランとの核燃料スワップ合意をめぐる欧米との確執によって、いまやトルコは西洋の一部ではなく、イスラム世界を志向し始めたのではないかと考えられている。たしかに、トルコは中東各国と緊密に接触し、中東版の超国家共同体をまとめあげる構想にさえ意欲をみせている。だが、アンカラは依然として欧米とのつながりを重視している。他の中東諸国とは違って、EUとアメリカの尊重されるパートナーであり続けていることが、トルコの繁栄と正統性を支えており、他の中東諸国はこれをうらやましく思っている。これがトルコの強みだ。中東問題の経済、安全保障面での余波を受けているのは、欧米諸国よりも、むしろ、トルコのほうが当事国だ。だからこそ、トルコは欧米とは異なる手段で問題を解決しようとしている。トルコが有する異なる手段とアプローチは、むしろ欧米に機会をもたらすことを認識すべきだ。

いかに先進国は知識労働者を移民として魅了できるか
―― ドイツのジレンマ

2011年4月号

タマール・ジャコビー イミグレーションワークスUSA代表

19世紀に大国が領土と天然資源をめぐって競い合ったように、現代の大国はブレインパワー、つまり国際経済のエンジンとなる科学者や技術者、起業家、有能な経営者を求めて競い合っている。先進国は高度な知識とスキルを持つ外国の人材を必要としているが、各国の市民は外国人が持ち込む異質な文化を受け止められるかどうかを確信できずにいる。ドイツは、今後先鋭化してくる労働力不足問題を認識していながらも、変化を受け入れる準備ができていない。移民の社会的同化を促進する制度もうまく整備されているとはいえない。それでも、ドイツが他の国々よりも早く問題に気づいて対策を検討していることは事実だし、この点を、外国の有能な人材も考慮することになるだろう。

1930年代の悪夢が再現されるのか
―― 高まる保護主義の脅威

2011年4月号

リアクァト・アハメッド ピューリッツァー賞受賞作家

1930年代の教訓からみて、失業率が高止まりし、通貨供給、為替、財政政策上の選択肢が失敗するか、選択肢にならない場合、国は貿易障壁を作り出す可能性が非常に高い。・・・しかも、20世紀の初頭同様に、いまや世界はグローバル経済のリーダーシップをめぐる大きな移行期にある。アメリカのパワーは大きく弱体化し、ワシントンには、もはや単独でグローバル経済のリーダーシップを担う力はない。一方で、中国がリーダーシップを果たすとも考えにくい。輸出ばかりを重視する重商主義的な貿易アプローチをとっている限り、北京が困難な状況にある諸国からの輸出を受け入れる開放的市場の役目を果たすことはないだろう。G20もまとまりを欠いている。1930年代と現在の類似性が表面化しつつある。経済は回復しているが、失業率が高止まりし、多くの製造部門は過剰生産能力を抱え込み、通貨問題をめぐる緊張が高まりつつある。1930年代のような深刻で大規模な経済停滞に陥るリスクを回避できたと言うのに、現在の指導者が、1930年代の近隣窮乏化政策を今に繰り返すとすれば、悲劇としか言いようがない。

CFRミーティング グローバルな資金の流れを考える
―― ラリー・サマーズとの対話

2011年1月号

ローレンス・サマーズ 国家経済会議議長
ティム・ファーガソン フォーブス・アジア、エディター

資本管理策に眉をひそめるムードがあるが、私は、流入する資本に課税したほうがいいと特定国が判断するとしても仕方がないと思うし、資本管理策をそれほど大きな問題だとは思っていない。完全なアナロジーにはなり得ないが、資金の流れを人の流れに例えることもできる。人々が外国に移住するのを認めない国は全体主義的で問題があると考えられる。一方で、国家が慎重に移民の流入を規制するのは所与のこととして受け入れられているではないか。・・・妥当な範囲での資本の流入を制限することにそれほど問題があるとは思わない。・・・一方で、通貨の切り上げを拒み資金があふれかえる状況が続けば、バブルが形成されるかもしれない。・・・中国経済が今後どうなるかわからないという見込みが高まっているために、不透明感が増している。(L・サマーズ)

新興国という無責任な利害共有者 ―― 時代は「協調なき、多極化」へ

2010年12月号

スチュワート・パトリック / 米外交問題評議会シニア・フェロー

アメリカのパワーが衰退していくにつれて、台頭する新興国は既存の制度を試し、弱め、改革して自分たちの目的に合致するように作り替えようと試み始めている。既存の大国と新興大国の間だけでなく、新興大国どうしの戦略的ライバル関係も高まりをみせている。各国が演じているゲームは一つではない。金融改革や対テロでは協調するかもしれないが、市場シェア、戦略資源、政治的影響力、軍事的優位をめぐっては競いあっている。問題は、アメリカを含む先進国が、パートナー、そしてライバルとしての二つの顔を持ち、国際社会での発言権を強化したいと望みながら、一方では自国を途上国と定義する新興諸国との関係をどのように管理していくかだ。新しい国家を制度に取り込む一方で、可能な限り、これまでの秩序を維持していくには、2世紀前のヨーロッパの大国間協調がそうだったように、常に綱渡りをしているような細かな配慮が必要になる。

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