1994年以降に発表された邦訳論文を検索できます。

ヨーロッパに関する論文

ウクライナ戦争の戦略シフトを
―― 反転攻勢から防衛へ

2024年1月号

リチャード・ハース 米外交問題評議会名誉会長
チャールズ・クプチャン 米外交問題評議会シニアフェロー

ウクライナにとって、生き残るために「必要な戦争」として始まったものが、いまや、クリミアとウクライナ東部の多くを奪還するための「選択した戦争」に変化している。ウクライナの現在のアプローチはコストが高く、先の見通しも立たない。これは、勝利できない戦争であるだけでなく、時間がたつとともに、ウクライナは欧米の支持を失う危険もある。ウクライナが、ロシアと「停戦交渉」を試み、軍事的な重点を「攻勢から防衛」に切り替えるための戦略シフトをめぐって、ワシントンはキーウそしてヨーロッパのパートナーとの協議を開始する必要があるだろう。外交は戦争だけでなく、長期的にはロシアによる領土の占領を終わらせるための、もっとも現実的な道筋だ。

欧州におけるロシアの第二戦線
―― セルビアとプーチンの思惑

2023年12月号

デイビッド・シェッド 元米国防情報局長官代理
イヴァナ・ストラドナー 民主主義防衛財団 リサーチフェロー

ロシアは、バルカン半島をヨーロッパの弱点とみなし、なかでもセルビアをもっとも脆弱なポイントと捉えている。モスクワをバルカンにおける唯一の信頼される紛争調停者にして、欧米に対して影響力をもてるようにすることがプーチンの狙いだ。すでに、コソボのセルビア系住民が警察部隊を襲撃し、その後、セルビア軍がコソボとの国境地帯に動員されるという事態も起きている。実際、セルビアの指導者は、コソボで作戦を展開する機会がすぐにでも訪れるだろうと考えている。セルビアとコソボの紛争は、バルカンの他の地域に簡単に飛び火しかねず、これこそ、欧米がウクライナから他の場所へ関心を移すことを望んでいるプーチンが期待する展開かもしれない。

ウクライナと欧州、ロシアの未来
―― 対ロ封じ込めの時代へ

2023年11月号

マイケル・キマージュ 米カトリック大学 歴史学教授

ウクライナ戦争に、国家としてのウクライナの完成を見いだすこともできる。ウクライナは欧米と調和した国家アイデンティティを築きつつある。一方、プーチンそしていかなるロシアの指導者にとっても、欧米の安全保障構造の一翼を担う、パワフルなウクライナを受け入れることはあり得ず、こうして、欧米に対する不満と恨みに駆り立てられるロシアが誕生するだろう。この場合、アメリカと同盟国は、冷戦期のようなロシア封じ込め策をとることを余儀なくされるかもしれない。ヨーロッパの影響が冷戦後のウクライナを変貌させたように、今後は、ウクライナがヨーロッパ統合に影響を与えることになるだろう。それは、超国家の流れを強化するのか、それとも国家意識を強化するのか。

BBCとイギリスのソフトパワー
―― 政府と国際放送の関係を考える

2023年10月号

サイモン・J・ポッター ブリストル大学教授(現代史)

1927年に開始されたBBC(英国放送協会)ワールド・サービス(国際放送)は、現在も、短波ラジオをデジタルメディアやソーシャルメディア・チャンネルと組み合わせて提供している。だが、BBCが国内で政治的に敵視されているために、イギリスのソフトパワーを長く形作ってきたワールド・サービスは財政危機に直面し、すでに、アジアの言語やアラビア語での放送を打ち切っている。解決策は、ワールド・サービスを国家が直接出資する別組織としてBBCから切り離すことかもしれないが、国営の国際放送など、世界のリスナーにとって魅力的なはずはない。BBCを敵視する国内保守派は、イギリスの重要なソフトパワーツールを危険にさらしていることになる。

米中対立とドイツの立場
―― 微妙なバランスを維持できるか

2023年9月号

リアナ・フィックス 米外交問題評議会フェロー(ヨーロッパ担当)
ゾンユアン・リュー 米外交問題評議会フェロー(中国研究担当)

貿易上の比較優位を中国が戦略ツールとして利用することへの懸念を共有したことで、アメリカとヨーロッパは「ディリスキング・アジェンダ」の下、緊密な協調関係を築いている。それでも、欧米間の大きな立場の違いは依然として存在する。ドイツは、地政学リスクを慎重に回避しながら、中国との貿易を通じて繁栄を維持することを望んでいる。当然、ベルリンは反中国「ブロック」のメンバーになることは望んでいない。だが、より強硬になった中国が作り出す地政学的リスクの回避に努めずに、ベルリンが、もっぱら、経済利益を優先し続ければ、おそらく台湾をめぐる安全保障危機でも(中国に)経済的強制策で手足を縛られる恐れがある。・・・

大国間競争という幻想
―― 曖昧で変動する世界

2023年9月号

ジュード・ブランシェット 戦略国際問題研究所 フリーマンチェア(中国研究)
クリストファー・ジョンストン 戦略国際問題研究所  シニアアドバイザー

アメリカが直面しているのは、はっきりとした米中競争ではないし、二つの政治ブロックが対立しているわけでもない。緊密なパートナーや同盟国だけでなく、便宜的な二国間関係、不安定で暫定的な連合が織りなす国際環境で大戦略を展開していくには、ワシントンは、相互依存と自立、多極化とブロック化の間に位置する曖昧な世界でうまく流れを制御していく必要がある。はっきりとした反中国の立場で協調しようとする国がほとんどない以上、アメリカはパートナーにゼロサムの選択を求めることには慎重でなければならない。様々な連合を迅速に組織しなければならない世界では、パートナーの立場に配慮して、微妙な部分は口に出さない方が賢明な場合も多い。

欧米の所得二極化と社会混乱
―― ラテンアメリカ化する欧米社会

2023年9月号

ブランコ・ミラノヴィッチ ニューヨーク市立大学 シニアスカラー

産業革命から20世紀半ばまでは、世界の富は欧米先進国に集中した。このために世界的な不平等が拡大し、冷戦期にそれはピークに達した。その後、中国の経済的台頭のおかげもあって、世界レベルでの格差は低下し始めたが、いまや世界的な平等の進展はもはや必然ではなくなっている。中国はすでにかなり豊かな国になっているし、インドやアフリカにかつての中国の役割を期待するのは無理がある。しかも、世界的な不平等が縮小しても、各国の社会的・政治的混乱が緩和されるわけではない。実際、米英、日独などの世界の富裕層は世界トップレベルの所得を維持しているが、非欧米諸国の所得レベルが上昇し、欧米の貧困層や中間層に取って代われば、豊かな国々における富裕層とそうでない人々との二極化、格差はさらに大きくなる。・・・

戦後も続くゼレンスキーの闘い
―― ウクライナの民主主義を考える

2023年8月号

ヘンリー・E・ヘール ジョージ・ワシントン大学 教授(政治学)
オルガ・オヌッチ マンチェスター大学 教授(比較政治)

俳優やコメディアンとしてのキャリアゆえに、政治指導者としては未知数とみなされていたゼレンスキーも、ウクライナ戦争以降、そのリーダーシップは高く評価されるようになった。しかし、戦争が終われば、別の大きな試練に直面する。平時には、戦時とは大きく異なるリーダーシップ、まったく別のスキルと能力が求められるからだ。都市やインフラだけでなく、民主主義も再建し、強化しなければならない。政治腐敗の温床となりやすい、個人的後援ネットワークを中心とする、これまでの政治スタイルを終わらせなければならない。これらの課題を彼がクリアできるかが、ウクライナの運命と民主主義の未来を左右することになるだろう。

欧米世界とグローバルサウス
―― 失った信頼を回復するには

2023年7月号

デービッド・ミリバンド 元イギリス外相

欧米と「その他の世界」のビジョンの間には大きな溝が存在する。非欧米世界で、「ウクライナの自由と民主主義のための闘いは、自分たちの闘いでもある」という欧米の主張を受け入れる国はあまりない。これは冷戦後の欧米によるグローバル化の管理ミスに対する途上国の深いいらだち、実際には怒りの産物に他ならない。グローバルサウスは、欧米のダブルスタンダードに怒りを感じ、国際システムの改革が停滞していることに苛立っている。欧米とその他の世界のビジョンとの間にこうした溝が存在することは、気候変動、パンデミックという巨大なグローバルリスクに直面する今後の世界にとってきわめて危険であり、その根本原因に対処しなければ、溝は広がる一方だろう。

新産業政策の恩恵とリスク
―― 建設的な国際協調か補助金競争か

2023年7月号

デビッド・カミン ニューヨーク大学ロースクール教授
レベッカ・カイザー フォーダム大学ロースクール教授

グローバルミニマム課税の成功は、大企業が利益を最大化しようと、国を競い合わせることに対して、各国が協力して「法人税引き下げによる底辺への競争」を回避できることを示した。問われているのは、国家安全保障や気候変動との闘いに不可欠な産業の生産拠点をどこに移すかをめぐっても、ワシントンが友好国や同盟諸国と協力して、解決策を見出せるかどうかだ。気候変動問題への対応、新サプライチェーンの構築、中国の脅威への対応といったわれわれと友好国が共有する目標を達成するための措置をめぐって協力できなければ、ワシントンは、同盟諸国や信頼できる貿易相手国との間で激しい競争を新たに引き起こすことになる。それを回避するには何が必要なのか。

Page Top