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ヨーロッパに関する論文

ユーロ危機とヨーロッパの政治

2012年1月号

モーリジオ・モリナーリ スタンパ紙 駐米コレスポンデント、 アンドリュー・ナゴルスキー イーストウェスト・インスティチュート 副会長、 エレイン・シオリーノ  ニューヨークタイムズ紙 パリ支局、デビッド・A・アンデルマン  ワールドポリシー・ジャーナル エディター

ドイツは欧州中央銀行(ECB)が(周辺国の国債を買い入れるなど)大規模な資金を提供すれば、インフレがおきるのではないかと警戒するとともに、危機に直面している国が改革を実行しなくなることを恐れている。・・・「何をすべきなのかは誰もが分かっているが、それを実行して、再選されるかどうか誰も確信が持てずにいる」。だがドイツの場合、どうすべきかについてのコンセンサスもない。(A・ナゴルスキー)

イタリア、フランス、スペインは、ECBが、アメリカの連邦準備制度のように、より積極的な介入策をとることを望んでいる。だが、ドイツは立場を明確にしない。(M・モリナーリ)

なぜユーロプロジェクトは失敗したか
―― ギリシャのユーロ離脱は何を引き起こすか

2012年1月号

マーティン・フェルドシュタイン ハーバード大学教授

共通通貨を導入さえしなければ生じたはずのない緊張と対立をユーロはヨーロッパにもたらした。これは、経済的に多様な国家集団に単一通貨を強要したことの必然的な結末だ。調和に満ちたヨーロッパを形作るという政治目標にもユーロは貢献できず、そこには政治的対立と反発が渦巻いている。もはやギリシャにはユーロ離脱という選択しか残されていない。ユーロを離脱し、新ドラクマを導入すれば、通貨の切り下げができるようになるし、ディフォルトに陥っても、ユーロ圏にとどまった場合よりも痛みは軽くて済む。問題は、ギリシャのユーロからの離脱がどのような連鎖を引き起こすかだ。ギリシャが離脱し、通貨の切り下げに踏み切れば、グローバル資本市場は、他のユーロ加盟国はどう反応するだろうか。・・・

漂流する先進民主国家
―― なぜ日米欧は危機と問題に対応できなくなったか

2012年1月号

チャールズ・クプチャン
米外交問題評議会シニア・フェロー

グローバル化が「有権者が政府に対して望むもの」と「政府が提供できるもの」の間のギャップをますます広げ、政府は人々の要望に応えられなくなっている。これこそ、アメリカ、日本、ヨーロッパという先進民主世界が現在直面しているもっとも深刻な問題だ。先進民主諸国が統治危機に直面する一方で、台頭する「その他」の諸国が新たな政治力を発揮しているのは偶然ではない。グローバル化した世界への統合を進めていくにつれて、先進民主国家が問題への対応・管理手段の喪失という事態に直面しているのに対して、中国のような非自由主義国家の政府は、一元化された中央の政策決定、メディアに対する検閲、国家管理型の経済を通じて、社会の掌握度を高めている。必要とされているのは、民主主義、資本主義、グローバル化の相互作用が作り出している大きな緊張をいかに解決するかという設問に対する21世紀型の力強い答えを示すことだ。政府の行動を、グローバル市場の現実、恩恵をより公平に分配することを求める大衆社会の要望に適合させるとともに、痛みと犠牲を分かち合えるものへと変化させていく必要がある。

「欧米世界」をユーラシア、日韓へ拡大し、
日中和解を模索せよ

2012年1月号

ズビグニュー・ブレジンスキー
カーター政権国家安全保障問題担当
大統領補佐官

北米、ヨーロッパだけでなく、(最終的にはロシアとトルコを含む)ユーラシア、さらには、日本と韓国を内包する「拡大欧米」世界を形作れば、他の文化圏にとっての欧米世界の中核原則の魅力は高まり、ゆっくりとではあっても、普遍的な政治文化の出現を促せるようになる。一方、中国を中心とする東洋にもエンゲージしていく必要がある。だが、アジアの安定を非アジアパワーが強要するのは不可能だし、ましてやアメリカが直接的に軍事力を用いて安定を維持していくことはできない。アメリカがアジアの安定を物理的に支えようと試みれば、下手をすると、20世紀のヨーロッパにおける悲劇をアジアで再現することになる。一方アメリカが、日中間の和解、中印間のライバル関係の緊張緩和を仲介する役目を果たせば、安定化の見込みは大きく開けてくる。第二次世界大戦後のヨーロッパの政治的安定が、独仏の和解なしでは成立しなかったのと同様に、慎重に日中関係の深化を育んでいくことが、極東における安定強化の起点になる。・・・・

「競争的権威主義」国家は帝政ドイツと同じ道を歩むのか
―― ビスマルクの遺産と教訓

2012年1月号

マイケル・バーンハード フロリダ大学政治学教授

異なる社会集団が権力を競い合うことは許容されるが、公正な選挙という概念は踏みにじられ、支配エリートによって野党勢力は抑え込まれ、リベラルな規範などほとんど気にとめられることはない。ロシアからペルー、カンボジアからカメルーンにいたるまで、帝政ドイツにルーツを持つこの「競争的権威主義」体制をとる国はいまも世界のあらゆる地域に存在する。かつてのドイツ同様に、現在の競争的権威主義国家も世界を揺るがす衝撃を作り出すことになるのか、それとも、民主化への道をたどっていくのか。これを理解するには、ビスマルクが育んだ政治文化が、なぜ彼の没後数十年でドイツを壊滅的なコースへと向かわせたのかを考える必要がある。結局、「支配エリートたちが完全に自由な政治制度がもたらす政治的不透明さに対処していく気概を持つかどうか」が、競争主義的権威主義体制を民主化へと向かわせるか、それとも独裁者の聖域を作り出すことになるのかを分けるようだ。

Foreign Affairs Update
ドイツ社会とイスラム系移民
―― 社会的統合に苦悶する移民たち

2012年1月号

ジェームズ・アンジェロス 前アレクサンダー・フォン・フンボルト財団フェロー

1961年10月30日、ドイツはその後数十年にわたって社会を否応なく変えてしまうゲストワーカーの受け入れを認める協定をトルコと交わした。協定締結後、ヨーロッパの炭鉱や鉄工場で働こうと、非常に多くのトルコ人ゲストワーカーが堰を切ったようにドイツへ殺到した。戦後におけるドイツ経済の繁栄を安価な労働力で支えたのは、こうしたトルコ人たちだった。今日、ドイツには300万人のトルコ系移民が暮らしており、いまや彼らはドイツ最大の民族マイノリティだ。両国の協定50周年を迎えた2011年にはさまざまな記念式典が催され、労働移民とその遺産についての議論が展開された。「新生ドイツの歴史は50年前に始まった」と切り出したズードドイチェ・ツァイトゥング紙の記事は、以来、ドイツは好むと好まざるとに関わらず「多文化主義」になったと指摘した。しかし、トルコのゲストワーカーたちを受け入れてから半世紀も経っているのに、ドイツ人は移民が果たしてきた役割について、いまも分裂症気味とまでは言わないが、どこか割り切れない思いを抱いているようだ。

ユーロゾーンの将来を左右する ヨーロッパの政治
――ECBは最後の貸し手になれるか

2011年12月号

トーマス・フィリポン  ニューヨーク大学ビジネススクール准教授
ベン・ステイル  米経済問題評議会国際経済ディレクター

自己資本比率を9%に引き上げるように求められた銀行は、結局、資本を増強するよりも、資産を減らしているようだ。これによって、イタリア国債が犠牲になっている。・・・・最終的には、欧州中央銀行(ECB)の資本が間違いなく再構築されると市場が考えるようにならない限り、ユーロ離れは加速し、ユーロは崩壊することになる。問題は、投資家がドイツ政府と有権者がECBを最終的に支えるとは考えていないことだ。(B・ステイル)

イタリアが債務を返済できるかどうかは、新政府が構造改革を実施できるかどうかがポイントになる。・・・短期的、つまり、今後2―3年については重要になるのは政治だ。経済的解決策そのものはきわめてシンプルだ。ECBが行動を起こせば、イタリアの債務危機は簡単に解決できる。だが、ECBが動けるかどうかを左右するのが、ドイツの政治とイタリアの政治だ。(T・フィリポン)

CFRミーティング
依然として安定化にはほど遠いユーロゾーン危機
――債務減免措置、自己資本比率強化、EFSFの拡充で
危機は本当に収束するか

2011年11月号

セバスチャン・マラビー 米外交問題評議会地政学研究センターディレクター
ベン・ステイル 米外交問題評議国際経済担当ディレクター

合意では債務減免が債権者(銀行)の「自発的意志に委ねられる」とされている。現実には、銀行が減免に合意しない可能性もある。・・・新聞のヘッドラインにある通り、50%の債務減免が実現するとすれば、むしろ、私にとっては驚きだ。・・・さらにヨーロッパの指導者は、2012年までに銀行の自己資本不足問題を解決したいと考えている。これは逆に言えば、今後8カ月間で市場がパニックに陥れば、それに対応する力はないと認めたのも同然だ。(S・マラビー)

指導者たちは、EFSF(欧州安定化基金)を増強したいと考えている。だが、これをどのように実現するかの具体策は示されていない。もっとも可能性が高いのは、EFSFがCDO(債務担保証券)に置き換えられていくことだ。だが、これは、CDOが不良資産化した、2008年のサブプライムローン危機をわれわれに想起させる。(B・ステイル)

Foreign Affairs Update
ヨーロッパの新しいドイツ問題
―― 指導国なきヨーロッパ経済の苦悩

2011年12月号

マティアス・マタイス アメリカン大学准教授
マーク・ブリス ブラウン大学教授

20世紀の多くの時期を通じて、「ドイツ問題」がヨーロッパのエリートたちを苦しめてきた。他のヨーロッパ諸国と比べて、ドイツが余りに強靱で、その経済パワーが大きすぎたからだ。こうして、NATOと欧州統合の枠組みのなかにドイツを取り込んでそのパワーを抑えていくことが戦後ヨーロッパの解決策とされた。だが、現在のドイツ問題とはドイツの弱さに派生している。ユーロ危機を引き起こしている要因は多岐にわたるが、実際には一つのルーツを共有している。それは、ドイツがヨーロッパにおける責任ある経済覇権国としての役割を果たさなかったことだ。かつてアメリカの歴史家C・キンドルバーガーは「1933年の世界経済会議ではさまざまな案が出されたが、リーダーシップを発揮できる立場にあった国の指導者が、国内の懸念に配慮するあまり、状況への傍観を決め込んでしまった」と当時の経済覇権国の姿勢を批判したが、これは、現在のドイツにそのままあてはまる。求められているのは、ルールメーカーではなく、指導者としての役目を果たすことだ。

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