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ヨーロッパに関する論文

ヨーロッパ経済の近未来
――債務危機と銀行危機の悪循環

2012年7月号

◎スピーカー
ウィレム・ブイター
シティグループ チーフエコノミスト
◎プレサイダー
ラナ・フォローオハール
タイム誌マネージングエディター

ギリシャは、ユーロからは離脱しても、おそらくEUには留まるだろう。条約には一部抵触するとはいえ、ギリシャがユーロを離脱する前段階で資本規制策、為替管理策、金融機関の閉鎖措置をとれば、無秩序な離脱リスクをある程度抑えることができる。いずれにしても、ギリシャの債務帳消しに応じる必要がある。だが現状でもっとも警戒すべきなのは、ユーロ圏の銀行危機だ。ヨーロッパの銀行はわれわれがまだ知らない損失を抱え込んでおり、これがシステマティックに隠蔽されている。銀行部門が巨大な債務を作り出し、結局は政府も共倒れになったアイルランドのケースがスペインで再現されるかもしれない。たしかに、ECBにはまだできることがある。だが、ECBが紙幣を刷り増すとすれば、国債市場の無秩序な崩壊、金融システムにとって重要な金融機関の無秩序な破綻、そして、ユーロ離脱の連鎖など、そうせざるを得ない状況に追い込まれた場合だけだろう。・・・一方、フランス国債の格下げによって、次の危機が誘発される可能性もあるし、あらゆるものが次の危機のトリガーになり得る状況にある。

Foreign Affairs Update
世界はドイツの決断を待っている
――1930年代の教訓

2012年7月号

マーク・ブリス ブラウン大学教授
マティアス・マタイス ジョンズ・ホプキンス大学准教授

「ヨーロッパ」の寿命をあと3カ月とみているのはジョージ・ソロスだけではない。市場も同じ見方をしている。そして、ドイツの政策決定者の脳裏にあるのは、債務を抱え込んだゾンビがますますおぞましい姿で復活してくる悪夢のシナリオだ。・・・依然としてドイツの銀行のスペイン債務へのエキスポージャーは大きく、スペインで銀行破綻が広がればドイツの銀行も道連れになる。こうして、ドイツはこれまでの路線を少しばかり見直しつつある。だが、危機の結末を変化させるほど十分な変化ではない。ドイツは依然として反インフレ路線にこだわり、リーダーシップを引き受けるのを嫌がっている。1929年の恐慌が大きな広がりをみせたのは、イギリスには国際経済システムを安定化させる能力がなく、アメリカにはその責任を引き受ける意図がなかったからだ。このままでは1930年代の間違いを繰り返し、ECBがかつてのイギリスの役割を、ドイツがアメリカの役回りを演じることになりかねない。

ユーロ崩壊というドイツのオプション

2012年7月号

セバスチャン・マラビー 米外交問題評議会シニア・フェロー

ユーロゾーンの分裂が近いうちに現実になるかどうかに関わらず、一つだけたしかなことがある。それは、危機が具体化し始めてから現在まで、その気になれば、ドイツは通貨同盟を救う力を持っていたし、現在もそうであることだ。つまり、ユーロが解体するとすれば、それはドイツが解体を選択した場合ということになる。ドイツはどちらの方向に進むべきか困惑しているようだ。戦後の歴史に配慮すればヨーロッパ統合を維持することが重要だし、そうでなくても(ユーロの解体を認めて)強固なマルクを復活させれば、自国の輸出競争力は大きく抑え込まれてしまう。だが、ドイツの指導者たちは(ユーロを救うのに必要な)穏やかなインフレを認めることにアレルギーを示し、他国の債務や銀行システムを救済することを躊躇している。・・・

CFR Interview
銀行同盟、財政同盟構想とドイツの立場

2012年7月号

ベネディクタ・マージノット リサーチフェロー、ブリューゲル*
*ブリューゲルはベルギーにある経済シンクタンク

銀行同盟が誕生すれば、銀行危機が広がっていくリスクをある程度抑え込めるわけで、銀行の倒産に対する抑止力が形成される。すでに、ギリシャだけでなくスペインからも資金が流出し始めているだけに、銀行同盟は大きなメッセージを市場に発することができる。ドイツが銀行同盟に強く反発する理由はない。一方、ドイツはメンバー国の財政を監督する必要があると考えており、各国が財政規律を維持しているかどうかを欧州委員会が確認できるようにする財政同盟にも関心を持っている。とはいえ、ユーロ共通債が導入されなければ、財政同盟という名称は不可解なものになる。政治的にみて、ドイツがユーロ共通債を支持することはあり得ない。おそらく、各国の予算案に対する欧州委員会の監督権限は強化されるだろうが、ユーロ共通債に関する具体的スケジュールがでることはないだろう。

マフィア国家の台頭
―― 融合する政府と犯罪組織

2012年7月号

モイセス・ナイーム
カーネギー国際平和財団
シニアアソシエート

もっとも多くの利益をもたらす違法行為に手を染めているのは、犯罪のプロだけではない。いまや政府高官、政治家、情報機関や警察のトップ、軍人、そして極端なケースでは国家元首やその家族たちも違法活動に関わっている。世界各地で、犯罪者がこれまでにないレベルで政府に食い込み始める一方で、パワフルな犯罪組織を取り締まるどころか、政府が犯罪組織に代わって違法活動を行っている国もある。こうして犯罪組織と政府が融合した「マフィア国家」が誕生している。実際、ブルガリア、ギニアビサウ、モンテネグロ、ミャンマー(ビルマ)、ウクライナ、ベネズエラなどでは、国益と犯罪組織の利益が結びついてしまっている。犯罪組織が最初に狙うのは、腐敗した政治システムだ。中国とロシアは言うまでもなく、アフリカや東ヨーロッパ、そしてラテンアメリカ諸国の犯罪者たちは、従来の犯罪組織では考えられなかったような政治的影響力を手にしている。もちろん、政府そのものが犯罪行為を行う北朝鮮のような国もある。

ギリシャ離脱でもユーロは存続する
――マーストリヒトの崩壊と「ニューノーマル」

2012年6月号

ダニエル・ケレメン ラトガース大学政治学教授 同大学ヨーロッパ研究センター所長

たしかに、ギリシャがユーロ圏から離脱すれば壊滅的な事態となり、ヨーロッパは大きなトラウマに苦しむことになる。だがそれによって、「ポスト2008年のユーロの新統治システム」が揺るがされることはない。重要なのは、マーストリヒトが定めた統治システムの多くが今回の危機によって放棄され、いまや、危機前に存在したものよりも、はるかに持続性のある、力強い統治システムが誕生していることだ。今後は、マーストリヒトではなく、加盟国の財政に対する厳格な監督、力強い強制措置、より積極的な中央銀行の介入によって規定される、ポスト2008年の「ニューノーマル」がユーロとEUを支えていくことになるだろう。

CFR Interview
「ギリシャ後」のフランスとドイツの思惑
――統合の維持か、ユーロの解体か

2012年6月号

セバスチャン・マラビー 米外交問題評議会シニア・フェロー(国際経済担当)

ギリシャのユーロ離脱に伴う危機が国債を通じて他のヨーロッパ地域へと広がりをみせていくリスクはあまりない。だが他のルートを通じて、危機が拡大していく危険がある。ギリシャの銀行にユーロ建ての貯金をもつ人々は、(ユーロよりも価値の低い)新ドラクマ建てに交換される前に、預金を引き出そうとするだろうし、ポルトガルやスペインでも同じ現象が起き、ヨーロッパの周辺地域で銀行破綻が広がりをみせていくかもしれない。・・・さらに、ギリシャの企業が、例えばフランスの銀行への融資返済をストップすれば、銀行は大きなダメージを受け、フランス政府は銀行に公的資金を注入せざるを得なくなる。そうなれば、フランスの対GDP債務は、イタリア並みの深刻なレベルに上昇する。・・・この状況でドイツは統合を維持していくことのコストをどう評定するか。メルケルは実利と歴史の双方を考慮することになるだろう。

CFR Interview
だが、いかなる成長路線なのか
―― 緊縮財政路線と成長路線

2012年6月号

トーマス・フィリポン ニューヨーク大学ビジネススクール准教授(金融)

重要なのは、欧州中央銀行(ECB)マリオ・ドラギ総裁が「新財政協定の内容を見直す必要はないが、アジェンダに経済成長という視点も加えるべきだ」と述べていることだ。ECBは、ヨーロッパの経済成長を実現するには、特に南ヨーロッパ諸国の労働市場の柔軟性を高める必要があると考えている。・・・一方、オランドは量的緩和を実施したいと考えている。ここからは交渉になるだろう。ユーロ圏のメンバー国が「受け入れ可能なものが何で、何を諦めてもいいと考えているか」をすり合わせていく必要がある。ドイツはある程度のインフレ(インフレターゲット)なら受け入れることはできると考えている。・・・ドイツがこの方向での議論に応じた場合には、フランスに労働市場の改革を強く求めるはずだ。・・・論点と重心が成長策へとシフトしていくのは避けられない。だが、何について合意できるだろうか。望ましい成長路線が何であるかについてヨーロッパが合意できる状況にはない。

ユーロリスクと ヨーロッパの政治危機

2012年5月号

トマス・クロー 欧州外交評議会シニア・フェロー

ソブリン債務危機の拡散を懸念する市場を安心させるとともに、IMFからの支援を取り付けようと、ユーロ参加国はファイアーウォールを増強した。だが、債務危機がスペインに広がっているために、市場は依然として慎重な見方を崩していない。実際、「将来における危機を食い止め、危機が起きても対処できる強固で安定した枠組みが築かれたわけではなく、(ファイアーウォールは)これまでの対策同様に、ユーロゾーンのための強固なシステムの確立に向けた暫定措置にすぎない。・・・一部の諸国が経済と財政の悪化に苦しむ事態が続けば、ユーロ圏の利益や目的に関する共有意識が損なわれ、状況を管理していくのは、政治的にますます難しくなる。・・・救済のための橋を架けても、それがどこへつながっているのか、わからない状況が続いている。

CFRミーティング
ヨーロッパ経済の危機再燃は避けられない
――世界経済アップデート

2012年5月号

スピーカー
ルイス・アレキサンダー 野村ホールディングスアメリカ担当チーフエコノミスト
ジョイス・チャン JPモルガン・チェース新興市場・債券調査担当統括責任者
ヴィンセント・ラインハルト モルガンスタンレーアメリカ担当チーフエコノミスト
モデレーター
セバスチャン・マラビー 米外交問題評議会 地政経済学研究センター所長

現状ではギリシャのプライマリーバランスは黒字ではない。この状況が続く限り、(支援をめぐる)政治的均衡が崩れれば、深刻な危機局面へと舞い戻ることになる。(L・アレキサンダー)

赤字と債務を減らそうとすれば、成長のための投資が後回しにされ、経済の持続可能性は低下する。結局、国債を通じた借入コストだけが高くなる。その結果、国内の金融機関が債務を塩づけにする貯蔵庫と化している。(V・ラインハルト)

現在から2014年までにスペインとイタリアだけでも、8000億ドル規模の資金を、国債発行を通じて調達しなければならない。これだけをみても、ヨーロッパにとって今後3年間は楽ではない。(J・チャン)

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