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ヨーロッパに関する論文

キリスト教民主主義の衰退とヨーロッパ統合の未来

2014年9月号

ヤン・ベルナー・ミューラー
プリンストン大学教授(政治学)

ヨーロッパのキリスト教民主主義者は、本質的に超国家主義的なカトリック教会同様に、国際主義志向が強く、国民国家を重視しなかった。欧州連合(EU)に象徴される戦後ヨーロッパでの超国家主義構造の形成を主導し、統合を目指すヨーロッパ政治におけるキープレイヤーとして活動したのも、こうした理由からだ。だが、ここにきて、キリスト教民主主義は力を失ってしまったようだ。その理由はヨーロッパ社会の世俗化が進んでいるからだけではない。イデオロギー的にキリスト教民主主義の最大の敵の一つであるナショナリズムが台頭し、その中核的な支持基盤である中間層と農村部の有権者が縮小していることも衰退を説明する要因だろう。欧州統合というヨーロッパの大プロジェクトが新たな危機に直面しているというのに、キリスト教民主主義は、その擁護者としての役目をもう果たせないかもしれない。

「イスラム国」の次なるターゲット
――欧米はテロに備えよ

2014年9月号

ロビン・シムコックス 英ヘンリー・ジャクソン・ソサエティ リサーチフェロー

「イスラム国」の制圧地域はヨルダンと同じ規模に達し、その後、彼らはカリフ統治領をシリア・イラク両国の制圧地域で樹立すると宣言した。軍事的攻勢を続けるなか、「イスラム国」は新たに兵士をリクルートし、武器と資金を手に入れて、短期間のうちに、テロ集団からテロ軍団へと姿を変えている。しかも、今後は欧米に矛先を向けるつもりのようだ。2014年に入って、「イスラム国」の指導者・アブバクル・バグダディは「われわれは近くアメリカとの直的対決路線をとる」と警告している。実際、ヨーロッパ人の殺害に懸賞金を出し、アメリカやヨーロッパに化学兵器を持ち込もうとしているようだ。「イスラム国」の野望がイラク・シリアの国境地帯を制圧することだけだと考えるべきではない。特に彼らのヨーロッパにおけるテロ計画を軽く見るべきではないだろう。

「ロシアか欧米か」に揺れるバルカン諸国 ―― ブリュッセルへの遠い道のり

2014年8月号

エドワード・P・ジョセフ ジョンズホプキンス大学 ポールニッツスクール シニアフェロー
ヤヌス・ブガイスキ 欧州政策分析センター シニアフェロー

シアはバルカン半島の民族対立、そしてNATOとEUへの参加を果たしていない国の脆さにつけ込める状況にある。NATOやEUへのバルカン諸国の加盟をめぐってヨーロッパが優柔不断な態度をとり続け、アメリカもリーダーシップを発揮しないままであれば、バルカンにおけるロシアの選択肢を模索するプーチン大統領を大胆にするだけだろう。ロシアが策略を用いることのできる対象はモンテネグロだけではない。すでにロシアはボスニア・ヘルツェゴビナのスルプスカ共和国(セルビア人共和国)への影響力も強化している。NATOが加盟問題を放置し続けているマケドニアでも状況は不安定化している。民族的に分裂したマケドニアで不満が高まれば、隣国のコソボにもその余波が及ぶ。・・・・

国際金融システムの改革とブレトンウッズの教訓

2014年8月号

ベン・ステイル 米外交問題評議会シニアフェロー(国際経済担当)

1944年のブレトンウッズ会議の目的は米ドルを基盤とするグローバル金融の枠組みを考案することだったが、本質的に、それは債権国であるアメリカと債務国イギリスの取り決めだった。70年後の現在も、米ドルは世界の通貨・為替システムの中枢として、その屋台骨を支えている。しかし、1940年代とは違って、アメリカは世界最大の債務国となり、いまや中国が世界最大の債権国として台頭している。だが、アメリカ経済は依然として力を失ってはおらず、1940年代のイギリス経済のように助けを必要としてはいない。アメリカと中国は世界の通貨・為替システムを安定化させるための改革を進めることには必ずしも前向きではなく両国の改革がうまく調整されず、そのプロセスが対決的なものになりかねない。・・・今後、貿易摩擦はますます増えていくと考えられる。

なぜ国は分裂するのか
―― 国境線と民族分布の不均衡

2014年8月号

ベンジャミン・ミラー ハイファ大学教授(国際関係論)

「戦争か平和か」が問われる事態となると、民族集団は、国内のライバル集団よりも、他国における宗教・民族的な同胞と共闘しようとする。ウクライナ市民の多くは、自分たちにとって「異質なロシア」の支配から独立することを望んでいるが、一方でクリミアやウクライナ東部に暮らす人々は、(欧米志向の)「異質なウクライナ」による支配からの解放を望み、ロシアの一部となるか、ロシアと深く結びついた国を作る必要があると考えている。中東でも同じストーリーが展開している。すべてのレバント諸国は、シリアの内戦をめぐって内に分裂を抱えている。スンニ派国家はスンニ派率いる武装勢力に戦士、武器、資金を供給し、シーア派国家は、(シーア派の分派とみなせる)アラウィ派のアサド政権に同様の支援を提供している。こうした国と民族の間の不均衡を解決するには、さまざまな方法があるものの、厄介なのはそのすべてが問題を伴うことだ。

欧米の偽善とロシアの立場
―― ユーラシア連合と思想の衝突

2014年7月号

アレクサンドル・ルーキン ロシア外務省外交アカデミー副学長

冷戦が終わると、欧米の指導者たちは「ロシアは欧米と内政・外交上の目的を共有している」と考えるようになり、何度対立局面に陥っても「ロシアが欧米の影響下にある期間がまだ短いせいだ」と状況を楽観してきた。だが、ウクライナ危機がこの幻想を打ち砕いた。クリミアをロシアに編入することでモスクワは欧米のルールをはっきりと拒絶した、しかし、現状を招き入れたのは欧米の指導者たちだ。北大西洋条約機構(NATO)を東方に拡大しないと約束していながら、欧米はNATOそして欧州連合を東方へと拡大した。ロシアが、欧米の囲い込み戦略に対する対抗策をとるのは時間の問題だった。もはやウクライナを「フィンランド化」する以外、問題を解決する方法はないだろう。ウクライナに中立の立場を認め、親ロシア派の保護に関して国際的な保証を提供しない限り、ウクライナは分裂し、ロシアと欧米は長期的な対立の時代を迎えることになるだろう。

移民と社会同化
―― 追い込まれたスウェーデンの壮大な実験

2014年7月号

イーヴァル・エクマン スウェーデン公共ラジオ
国際問題プログラムホスト

この数十年にわたって、ボスニア、イラク、ソマリアなどから逃れてきた人々は、ヨーロッパでもっとも寛大なスウェーデンの難民保護政策の恩恵に浴してきた。だがその結果、かつては同質的だったこの国の社会はいまや大きく姿を変えた。経済が停滞するなか、単純労働を中心とする雇用状況が改善せず、失業率は高止まりしている。しかも、社会保障政策が大きな圧力にさらされている。こうして反移民の立場をとるスウェーデン民主党が政治的支持を伸ばしている。「巨大な社会実験がスウェーデン社会に強制されてきたが、その実験が失敗しているのはすでに明らかだ。多文化社会のビジョン、理想郷そして夢は崩れ去った」 と民主党は主張している。一方で、移民の若者たちによる暴動も頻発している。移民国家スウェーデンは大きな岐路に立たされている。

CFR Briefing
欧州における反移民感情の台頭

2014年7月号

ジェーン・パーク cfr.org Deputy Director

依然として経済的停滞から十分に立ち直れずにいるにも関わらず、ヨーロッパは、アフリカや中東から流入する移民、難民の急増という事態に直面している。欧州連合(EU)の対応は場当たり的で、「移民や難民の権利よりも国の安全保障を守ることを重視している」との批判も聞かれる。一方で、財政難に苦しむ多くのEU加盟国は、社会サービスを切り捨てざるを得ない状況に追い込まれ、反移民の立場をとる極右政党が急速に台頭している。いまや、人権の尊重、自由な人の移動というEUの中核理念が脅かされかねない状況にある。ほとんどのEU加盟国は難民対策として地中海の海上警備の強化・拡大や取り締まりめぐる情報共有には前向きだが、難民や移民の権利を守るための枠組み合意は形成されていない。移民排斥を唱える極右政党が今後も支持を集め、彼らが政治スキルを高めていけば、経済が回復しても、ヨーロッパに反移民感情が定着する恐れがある。・・・

欧州が対ロ制裁へ踏み込めない理由
―― ロシアとの経済関係か欧州安全保障か

2014年6月号

トム・キーティング 金融・安全保障アナリスト

最終的に、ロシアに対する欧米の経済制裁は十分なものにはならないだろう。厄介なのは、ヨーロッパの指導者たちが直面しているのがロシアからのエネルギー供給の問題だけではないことだ。この20年にわたってロシアとの関係に多くを投資してきたヨーロッパの企業は、ロシアとの経済的つながりを失うことを心配している。政治指導者たちも、経済制裁を通じてプーチンの対外路線を変化させる必要があると感じつつも、「制裁によって自国が経済的やけどを負うのではないか」と心配している。こうして、ヨーロッパはロシアに対する経済制裁をめぐって分裂し、結局は消極的な態度に終始している。他に選択肢がない状況に陥らない限り、ヨーロッパの政治家たちは自国の企業と産業を守ることを優先するだろう。

プーチンの戦略とヨーロッパの分裂

2014年6月号

マイケル・ブラウン ジョージワシントン大学エリオットスクール学院長

NATOの東方拡大路線がロシアを刺激することはない。この欧米の認識は希望的観測にすぎなかった。欧米との明確な対立路線を選択したプーチンのロシア国内での支持率は高まっており、当面、状況は変化しないだろう。一方、ヨーロッパの安全保障は機能不全に陥っている。しかも、ヨーロッパはロシアからのエネルギー供給に依存している。このため、ロシアにどう対処するかをめぐってヨーロッパ諸国の足並みは乱れている。プーチンは「近い外国」におけるロシア系住民地域をロシアに編入してロシアの勢力圏を確立し、国内の政治的立場を支えるためにも欧米との対決状況を維持していくつもりだ。プーチンの野望、そして脅威の本質を過小評価するのは間違っている。欧米の指導者たちは、プーチンの最終的な戦略目的を見極めて、それに応じた行動をとる必要がある。

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