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ヨーロッパに関する論文

ブレグジット後のヨーロッパ
―― 経済より政治統合を優先させよ

2020年7月号

マティアス・マティス ジョンズホプキンス大学 高等国際関係大学院(SAIS) 准教授(国際政治経済学)

市場統合は英仏が、ユーロは仏独が主導した。欧州連合(EU)の東方拡大を支持したのはイギリスとドイツだった。イタリアのエリート層は、これら三つのプロジェクトすべてに進んで同調した。しかしいまや、こうしたコンセンサスはほとんどない。EUが現在の病を克服するには、加盟国首脳が幅広い政治原則や経済原則で妥協する必要があるが、東欧や南欧の反対の高まりを考えると、現状を維持したいドイツの願いを叶えるのは難しいだろう。したがって、イタリアが望む「加盟国により大きな柔軟性を認める路線」とフランスが求める「EUの連帯強化路線」との間で均衡点をみつける妥協が必要になる。これが実現すれば、ドルのパワーに対抗していくユーロのポテンシャルを開花させていくことも、エアバス社などの優れた欧州企業をさらにパワフルな企業に育てていくことも夢ではなくなる。・・・

ブレグジット後のイギリス
―― 漂流する連合王国

2020年6月号

ローレンス・D・フリードマン キングス・カレッジ・ロンドン名誉教授

国際社会におけるイギリスの例外的役割は何か。イギリス外交をこれまで規定してきた「ヨーロッパやアメリカとの関係」は「ブレグジット」そして「欧州との関係を軽視するドナルド・トランプ米大統領の登場」によってさらに不透明化している。問題は「もはやアメリカとイギリスが特別な関係にないこと」ではない。壮大な戦略プロジェクトを共有していないことだ。それでもイギリスは、テロとの戦いにおける長い経験を持ち、経済開発の領域でも大きな貢献をしてきた。かなりの軍事大国であり、ヨーロッパでそれに比肩する軍事力を持つのはフランスだけだ。パワーバランスが変化し続け、破壊的な行動が日常化しつつある。このような世界で、イギリスが貢献できることは数多くある。しかしそのためには、独立国家としての限界を受け入れ、ユニークかつ例外的な役割探しを断念する必要がある。・・・

集団免疫作戦しか道はない
―― スウェーデンは第2波を回避できる?

2020年6月号

ニルス・カールソン リンショーピング大学教授(政治学) シャロッタ・スターン ストックホルム大学教授(社会学) ダニエル・B・クライン  ジョージ・メイソン大学教授(経済学)

OECDの予測によれば、パンデミック関連の規制や制限によって先進国経済は毎月2%ずつ縮小し、フランス、ドイツ、イタリア、スペイン、イギリス、アメリカは今後1年間で経済が25%以上縮小すると推定される。失業率は未曾有のレベルに達し、政治的な反動が起き、社会的分断も大きくなっている。いまや多くの諸国が、規制を最低限に抑えたスウェーデンアプローチの一部を取り入れつつある。デンマークとフィンランドは幼稚園と学校を再開し、ドイツは小さな店の再開を許可し始めた。犠牲者の絶対数がもっとも多いアメリカでも、すでに多くの州が規制を緩和している。健康弱者が十分に保護される限り、集団免疫作戦がコロナウイルスに対する唯一の実行可能な防御なのかもしれない。パンデミックを管理するためにスウェーデンがとってきた方法を、いまや各国は「時代を先取りしていた」とみなし始めている。

各国は、あたかも2020年夏まで経済生産がゼロの状態が続くかのような財政支出を約束している。ニューディールを含めて、このレベルの政府支出には歴史的先例がない。つまり、これは「ハイパーケインズ主義」の実験のようなものだ。有事であると平時であると、先例はない。このような試みがアメリカ経済、ヨーロッパ経済、世界経済を救えるかどうかは誰にもわからない。希望をもてるとすれば、パンデミック前の段階で対GDP比債務がすでに230%近くに達していたにもかかわらず、日本の金利とインフレ率が引き続き安定していたことだ。多額の借入と財政出動がジンバブエよりも日本のような状況を作り出すのなら、楽観的になれる根拠はある。しかし、政府支出で永遠に現実世界の経済活動を代替することはできない。

ウイルスの拡散を封じ込めようと奮闘するなか、欧米のリベラルな民主国家は、アウトブレイクを制限するための中国のやり方に注目し、権威主義的な手法の一部を採用すべきかどうかを考えている。この10年というもの、中国はデジタル権威主義の監視(サーベイランス)国家を構築し、5G技術やオーウェル的な顔認識システムを外国に輸出してきた。パンデミックとの闘いにおいて強固なサーベイランス体制が不可欠であることを東アジア諸国はすでに立証している。一方、欧米の民主国家は、自国の市民を守るための「民主的サーベイランス」を確立しなければならない。どのようなモデルなら、リベラルな価値を犠牲にすることなく、AIの能力を利用したサーベイランス上の大きな恩恵を生かせるだろうか。今後数年間で、疫学とテクノロジー部門の世界的な混乱が重なり合い、グローバルな歴史が形作られることになる。

ウイルスが暴いたシステムの脆弱性
―― われわれが知るグローバル化の終わり

2020年4月号

ヘンリー・ファレル  ジョージ・ワシントン大学 教授(政治学、国際関係論) アブラハム・ニューマン ジョージタウン大学外交大学院 教授(政治学)

コロナウイルスの経済的余波への対処を試みるにつれて、各国の指導者たちはグローバル経済がかつてのように機能していないという事実に向き合うことになるはずだ。パンデミックは、グローバル化が非常に高い効率だけでなく、異常なまでに大きな脆弱性を内包していたことを暴き出した。特定のプロバイダーや地域が専門化された製品を生産するモデルでは、サプライチェーンがブレイクダウンすれば、予期せぬ脆弱性が露わになる。今後、数カ月で、こうした脆弱性が次々と明らかになっていくはずだ。その結果、グローバル政治も変化するかもしれない。これまでのところ、アメリカは、コロナウイルスのグローバルな対応におけるリーダーとはみなされていない。そうした役割の一部を中国に譲っている。・・・

イギリスを待ち受ける嵐
―― 文化的内戦と予期せぬ現実

2020年3月号

ピッパ・ノリス ハーバード大学講師(比較政治)

今後もブレグジットに派生するイギリスの文化的断裂が埋まることはないだろう。若者と年長者、「コスモポリタン・リベラル」と「社会保守」間の大きな亀裂が埋まっていくとは考えにくい。「イギリスの内戦」は終わったのではなく、休戦状態にあるとみるべきだ。スコットランドが再び独立に向けた住民投票を実施する可能性も高まっている。北アイルランドとイギリス本土間で取引されるモノに関税が適用されれば、北アイルランドではアイルランドとの統合気運が高まっていく。世界におけるイギリスの役割が低下する事態を前に、英外務省は、いつも通り、アメリカとの関係強化を目指すかもしれないが、それも予期せぬ現実に直面するかもしれない。コストを強い、精神的な傷を残した離婚は、イギリスの新しい問題の先駆けなのかもしれない。

絶望死という疫病?
―― アメリカ特有の現象か、グローバル化するか

2020年3月号

アン・ケース プリンストン大学名誉教授(経済学) アンガス・ディートン プリンストン大学名誉教授(経済学)

アメリカの平均寿命が低下し始めた大きな理由は、25歳から64歳の中年の死亡率が上昇しているからだ。ドラッグのオーバードーズ(過剰摂取)やアルコール性の肝臓疾患による死亡、そして自殺が増えている。これらの3タイプの絶望死のなかでオーバードーズがもっとも多く、2017年に7万人が犠牲になり、2000年以降の累計では犠牲者数は70万を超えている。厄介なのは、他の諸国もこのアメリカのトレンドの後追いをすることになるかもしれないことだ。他の富裕国の労働者階級もグローバル化、アウトソーシング、オートメーションが引き起こす経済的帰結に直面している。エリートが繁栄を手にし、教育レベルの低い人々が取り残されるという、アメリカの絶望死危機を深刻にしているダイナミクスが、他の富裕国でも壊滅的な結果をもたらす恐れがある。

欧州連合の未来
―― ヨーロッパの理念に何が起きたのか

2020年2月号

アンドリュー・モラフチーク プリンストン大学教授(政治学・公共問題)

欧州連合に対する批判は「ブリュッセルはもっと活動を縮小しろ、いや、もっと拡大しろ」という二つの批判に大別できる。ともに、EUは国民国家に取って代わろうとしているとみなし、前者はそれに反対し、後者はそれに賛成している。反対派には、イギリスのEU離脱(ブレグジット)派や右派ポピュリストを支える欧州懐疑派、そしてフランス、ハンガリー、イタリア、ポーランドのナショナリスト同盟などが含まれる。これら統合反対派は、われわれは「国民国家を守る」と主張する。「もっと拡大しろ」と考える左派は、右派ほど注目されていないが、ヨーロッパ全体、特にブリュッセルでは右派よりも多数派だ。問題は左派の立場があまりに理念的、夢想的でリアリズムに欠けることだ。・・・

鎖につながれたグローバル化
―― サプライチェーン、ネットワークと経済制裁

2020年2月号

ヘンリー・ファレル  ジョージ・ワシントン大学 教授(政治学) アブラハム・L・ニューマン  ジョージタウン大学 教授(政治学)

デジタルネットワーク、金融フロー、サプライチェーンが世界中に拡大し、アメリカを中心とする各国は、これを、他国を捕獲する蜘蛛の巣とみなすようになった。米国家安全保障局はあらゆる種類のコミュニケーションを傍受し、米財務省は国際金融ネットワークを利用して、無法な国家と金融機関に制裁を課している。一方、ファーウェイが5Gをグローバルレベルで支配すれば、北京もファーウェイをゲートウェイにして世界の通信に侵入し、これまでアメリカが中国に対して試みてきたことを、アメリカに対して実施できるようになる。日本も重要な産業用化学製品の流通を制限することで、韓国のエレクトロニクス産業を狙い撃ちにした。鎖につながれたグローバル化の現実を受け入れ、理解することが、これらのリスクを抑えるために必要不可欠な最初のステップになる。

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