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アジアに関する論文

Review Essay
アジアの資本主義と文明の変容

2001年1月号

外交問題評議会シニア・フェロー
ウォルター・ラッセル・ミード

企業家の野心を解き放ち、社会的つながりを弱めていく、あたかも台風のような資本主義の創造的破壊力がアジアを引き裂いている。資本主義と西洋の源流思想が、どちらもアジアの大半の地域にはまだ目新しい存在であるために、これが外来思想、あるいはおそらく不法侵入者のように受け止められることも多い。二十一世紀が、アジアの興隆に特徴づけられる可能性もあれば、一方でアジアの終焉によって記憶されることになる可能性も十分にある。間違いなく言えるのは、すべてをのみ込んでしまう資本主義や西洋の源流思想が、「地理的アジア」の人々に深い社会的・文化的変化を強い、この地域の諸文明を弱め、変容させていく可能性が高いことだ。

終わりなきカシミール紛争の本質

2001年1月号

ジョナー・ブランク/人類学者

かつてカシミールは、ヒンズー教徒とイスラム教徒が調和のなかでともに暮らす、世俗的な多宗教国家としてのインドの可能性を示す模範地域だった。しかし今やここでは、インドとパキスタン間の核戦争の引き金となりかねない武力衝突が頻繁に起きている。パキスタンの支援の下で活動しているといわれるイスラムゲリラがヒンズー教徒を攻撃し、これにインド政府の治安部隊が反撃するというパターンが終わることなく悪循環のように繰り返されており、民間人を含むすべての人々が暴力に手を染めている。カシミールが安定しないかぎり、インド、パキスタンの安全は確保されず、両国民衆の協調がなければカシミールが安定することもない。たとえ政府間の合意が成立したところで、それは臨界に達していない核爆弾も同然である。本質的問題は宗教対立よりも、むしろこの地域の経済的貧困にあるからだ。事実、多くの若者が食いぶちを稼ぐ「仕事」としてゲリラ活動に参加している。テロによって、カシミールの最大の資源である自然を生かした観光産業も台なしとなり、復興しようにもテロリズムを根絶するのは事実上不可能である。核戦争の危険を排除し、カシミールの平和を取り戻すには、まず、悪循環の根源であるカシミールの経済的貧困に世界は目を向けなければならない。

アジアの資本主義と文明の変容

2001年1月号

ウォルター・ラッセル・ミード
外交問題評議会シニア・フェロー

「非公式なやり方に依存して、膨大な資本を呼び込んだうえに、経済行動を拡大するためであれば収益への配慮を無視するような傲慢な姿勢が生まれたため、結局、流れ込んだのと同じ速さでアジアから資本が逃避してしまった」かつて「奇跡」を実現したのと同じ文化的価値が、どうして今は「大失敗」を招いているのか。アジア危機を経た世界は、「質素、勤勉、家族中心の価値観、権威への尊重」という美徳が、「強欲、硬直性、情実主義、あからさまな腐敗」といった悪徳へと変貌しうることを知っている。それでも、アジア的価値の優越性を唱え続け、アジア危機を契機として欧米批判の論陣を張る人物たちの真意は、どこにあるのか。

北京の軍事計画は中台紛争へのアメリカの介入を前提としており、アメリカの航空母艦を沈める必要性も視野に入れている。台北政府の軍事計画でもアメリカの介入が前提とされている。アメリカがどう出るかわからないと考えているのは、実際にはワシントンだけである。(フリーマン)

中国だけに焦点を絞り、台湾に苦言を呈し、アジアのほかの国々を緩衝地域としか考えなくなってしまうときに、アメリカの政策は危険な状態に陥る。中国に焦点を絞った政策ではなく、広範囲にわたる汎アジア的政策こそ、成功への処方箋である。(ウォルドロン)

アジアの軍事力がアメリカの優位を脅かす

2000年4月号

ポール・ブラッケン  イェール大学政治学・経営学教授

過去二百年にわたって世界の枠組みを定めてきたのは、欧米の軍事的優位だった。かつて国力の象徴といえば砲艦だった。次いで戦艦となり、そして巡航ミサイルやステルス爆撃機へとそれは代わっていった。その間、これらの軍備を独占してきたのは、欧米諸国であった。しかし、そうした欧米による先進軍事技術の独占時代も、いまや終わりを迎えようとしている。今日では、イスラエルから北朝鮮にいたる十にものぼるアジア(東洋)の国々が、通常兵器や大量破壊兵器(WMD)を搭載した弾道ミサイルや、その他の先端技術を手にしようとしている。世界のバランス・オブ・パワー(勢力均衡)が大きく変わろうとしているのだ。第二次世界大戦後の冷戦期が第一の核時代だとすれば、アジアの軍事力の台頭は、第二の核時代がやって来ることを告げている。欧米がつくりだした世界の枠組みが変わろうとしているのは、軍事面だけではない。こうした変化は、文化的・哲学的な意味においても起こりつつある。一九六○年代と七○年代に経済分野で存在感を強めたアジア諸国は、いまや軍事分野でも存在感を強めつつある。これらの諸国が保有する兵器のことを考えると、欧米によるアジアへの干渉は平時においてすら、これまでになく危険でコストの高いものになるだろう。欧米諸国の軍事力は、非欧米諸国の弱い軍隊を打ち負かす以上の意味をもっていた。それは、欧米の方針に沿って世界を構築するための手段であり、さらに、商業・技術の全般におよぶ欧米優位の象徴として先進国と後進国の格差も表してきた。欧米の掲げる世界構想に積極的に反対すれば、敗北することが目に見えていただけに、一九九○年代初期までは、そのような反対者の出現はありえないと考えられていた。しかし、ペルシャ湾や旧ユーゴで示された、圧倒的なアメリカの軍事力にもかかわらず、欧米諸国の既成概念を打ち破る国が登場しつつある。これらの国々は、先進国との軍備格差を埋めようとしたわけではない。むしろ、アメリカの軍事力の裏をかき、アジアにおける米軍の弱点をつくような、妨害・非対称テクノロジー(disruptive technology)の開発に力を入れたのだ。欧米の戦略の基本的前提は、現在の技術的・軍事的均衡を維持し、その他の分野でも欧米支配を継続させることにある。しかし、それは(インド、パキスタンの核実験に象徴される)第二の核時代の幕開けによって覆されてしまった。一例をあげると、欧米が掲げる国際的課題はもっぱら経済的な視点から語られ、「大切なのは経済だ」という主張が、一九九○年代を通じて内政と同様に外交にも大きな影響を与えた。外交の主要任務はアジアの大国を欧米主導の経済システムに組み入れることと考えられていた。「どの時点で中国のWTO(世界貿易機関)加盟を承認すべきか」「どうすればインドに海外からの投資に対する規制を緩和させることができるか」「どうすれば新たな金融危機を予防できるか」といった問題設定は今でも適切ではある。しかし、欧米が依然としてアジェンダ・セッティングをし、アジアが世界システムに参加する条件を設定できるとみなすのは、果たして妥当だろうか。

ホット・マネーを動かすのはだれか

2000年4月号

マーチン・N・ベイリー 米大統領経済諮問委員会委員長 、ダイアナ・ファレル マッキンゼー社プリンシパル、 スーザン・ランド マッキンゼー社コンサルタント

一般に外国の銀行による融資は、ポートフォリオ投資よりも変化が激しく、ボラタイルである国内での不良債権の山とお寒い限りの投資全般の収益という事態に直面した日本の銀行は、危機前にはタイや東南アジアにおける最大の貸手になっていた。実際には、ヘッジファンドは流動性を提供することで、市場のボラティリティーを緩和させる重要な役割を果たしてきた。

インドネシア大統領の政治的ギャンブル  

2000年1月号

アダム・シュワルツ   前・外交問題評議会フェロー

メガワティの副大統領起用から異なる宗教・民族・地域的背景を持つ多彩な顔ぶれの組閣に至るまで、大統領選挙以後にワヒド大統領がつくりだした政治的潮流は、ギャンブル以外の何ものでもない。新大統領はこうした内閣をつうじて、分離主義が突きつけるこの国の統合に対する脅威を緩和させる賭けに打って出たのだ。実際、分離主義に端を発する散発的な軍事紛争が続き、現政府が軍事政権化するとすれば、それはアチェの独立以上に危険な事態となる。民族・文化・言語の多様性こそがインドネシアの強みであるという信条を持つワヒドは、政治・経済的分権化を進めて、連邦制の枠組みをもって分離主義に対処しようと試みている。また、イスラム教徒でありながらイスラエルとの関係強化を公言し、一方で欧米よりもアジア重視の外交路線をとる大統領の真意は、国内政治上のリスク、経済利益、そしてインドネシアの国際的地位の向上という意図に導かれている。妥協の人であり、優れたバランス感覚の持ち主である新大統領の戦略を検証し、政治的ギャンブルの行く末を探る(本文は一九九九年十一月十一日にワシントンで開かれた外交問題評議会のミーティング・プログラムでのスピーチ。「フォーリン・アフェアーズ」誌には掲載されていない)。

中央アジアを揺るがすタリバーンの正体

1999年12月号

アハメド・ラシッド/「ファーイースタン・エコノミックレヴュー」誌記者

アフガニスタンの平和の実現を助けずして、中央アジアの広大な石油・天然ガス資源を安全に開発できると考えるのは、非現実的である。タリバーンが牛耳るアフガニスタンは、今やパキスタン、イラン、中央アジア諸国、イスラム教徒の多い中国の新疆ウイグル自治区の反政府イスラム勢力が安心して逃げ込める「聖域」となっているだけでなく、軍事訓練の拠点と化している。実際、タリバーンと協力して現在アフガニスタンで戦っている数千のイスラム原理主義者たちは、いつか祖国の政権を倒し、世界各地でタリバーン流イスラム革命を起こすつもりなのだ。しかも、アフガニスタンは今や世界最大のアヘン生産国で、この犯罪経済に周辺諸国が巻き込まれつつある。タリバーンが支配するアフガニスタンから、暴力、麻薬、カオス、テロリズムが周辺地域へと拡散するのを放置すれば、いずれわれわれは途方もないコストを支払わされることになる。

台湾は主権国家だ

1999年11月号

李 登輝/中華民国総統

「中国という国は、中華人民共和国が自らの存在を宣言した一九四九年に分裂している」。したがって、「台湾の動きが国の分裂を引き起こすことはあり得ず、台湾が独立宣言をすることに中国側が警告を発する必要などない」。そもそも中華民国は一九一二年の建国以来、主権を持つ独立国家だからである。海峡間関係は、いまや「特別な国家間関係」にほかならない。必要とされているのは、台湾は国ではなく、「反抗的な一省」にすぎないとする、中国がふりかざす「虚構」を捨て去り、民主国家としての台湾の「現実」を踏まえた、海峡を隔てた国と国の「平等な立場」に立つ話し合いである。そのためにも、国際コミュニティーと海外のメディアは、これまでの「虚構」に振り回されるのではなく、台湾の「現実」を直視すべきであろう。

核とカシミール
―パキスタンの立場

1999年8月号

シャムシャド・アーマッド パキスタン外務次官

インドとパキスタンによる核実験の直後、本誌は、インドの国防・外交問題担当上席補佐官ジャスワント・シンが国防と外交について書いた「インドが核を持つ理由」(Against Nuclear Apartheid 『論座』一九九八年十月号)(※1)と米国務副長官ストローブ・タルボットによる「核実験後の南アジアをどうする」(Dealing with the Bomb in South Asia 『電子メール版』一九九九年五月号)(※2)を掲載した。以下、これらの論文に対して、パキスタンの外務次官が回答した。(※巻末に各論文要旨を添付)

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