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アジアに関する論文

インドネシア大統領の政治的ギャンブル  

2000年1月号

アダム・シュワルツ   前・外交問題評議会フェロー

メガワティの副大統領起用から異なる宗教・民族・地域的背景を持つ多彩な顔ぶれの組閣に至るまで、大統領選挙以後にワヒド大統領がつくりだした政治的潮流は、ギャンブル以外の何ものでもない。新大統領はこうした内閣をつうじて、分離主義が突きつけるこの国の統合に対する脅威を緩和させる賭けに打って出たのだ。実際、分離主義に端を発する散発的な軍事紛争が続き、現政府が軍事政権化するとすれば、それはアチェの独立以上に危険な事態となる。民族・文化・言語の多様性こそがインドネシアの強みであるという信条を持つワヒドは、政治・経済的分権化を進めて、連邦制の枠組みをもって分離主義に対処しようと試みている。また、イスラム教徒でありながらイスラエルとの関係強化を公言し、一方で欧米よりもアジア重視の外交路線をとる大統領の真意は、国内政治上のリスク、経済利益、そしてインドネシアの国際的地位の向上という意図に導かれている。妥協の人であり、優れたバランス感覚の持ち主である新大統領の戦略を検証し、政治的ギャンブルの行く末を探る(本文は一九九九年十一月十一日にワシントンで開かれた外交問題評議会のミーティング・プログラムでのスピーチ。「フォーリン・アフェアーズ」誌には掲載されていない)。

中央アジアを揺るがすタリバーンの正体

1999年12月号

アハメド・ラシッド/「ファーイースタン・エコノミックレヴュー」誌記者

アフガニスタンの平和の実現を助けずして、中央アジアの広大な石油・天然ガス資源を安全に開発できると考えるのは、非現実的である。タリバーンが牛耳るアフガニスタンは、今やパキスタン、イラン、中央アジア諸国、イスラム教徒の多い中国の新疆ウイグル自治区の反政府イスラム勢力が安心して逃げ込める「聖域」となっているだけでなく、軍事訓練の拠点と化している。実際、タリバーンと協力して現在アフガニスタンで戦っている数千のイスラム原理主義者たちは、いつか祖国の政権を倒し、世界各地でタリバーン流イスラム革命を起こすつもりなのだ。しかも、アフガニスタンは今や世界最大のアヘン生産国で、この犯罪経済に周辺諸国が巻き込まれつつある。タリバーンが支配するアフガニスタンから、暴力、麻薬、カオス、テロリズムが周辺地域へと拡散するのを放置すれば、いずれわれわれは途方もないコストを支払わされることになる。

台湾は主権国家だ

1999年11月号

李 登輝/中華民国総統

「中国という国は、中華人民共和国が自らの存在を宣言した一九四九年に分裂している」。したがって、「台湾の動きが国の分裂を引き起こすことはあり得ず、台湾が独立宣言をすることに中国側が警告を発する必要などない」。そもそも中華民国は一九一二年の建国以来、主権を持つ独立国家だからである。海峡間関係は、いまや「特別な国家間関係」にほかならない。必要とされているのは、台湾は国ではなく、「反抗的な一省」にすぎないとする、中国がふりかざす「虚構」を捨て去り、民主国家としての台湾の「現実」を踏まえた、海峡を隔てた国と国の「平等な立場」に立つ話し合いである。そのためにも、国際コミュニティーと海外のメディアは、これまでの「虚構」に振り回されるのではなく、台湾の「現実」を直視すべきであろう。

核とカシミール
―パキスタンの立場

1999年8月号

シャムシャド・アーマッド パキスタン外務次官

インドとパキスタンによる核実験の直後、本誌は、インドの国防・外交問題担当上席補佐官ジャスワント・シンが国防と外交について書いた「インドが核を持つ理由」(Against Nuclear Apartheid 『論座』一九九八年十月号)(※1)と米国務副長官ストローブ・タルボットによる「核実験後の南アジアをどうする」(Dealing with the Bomb in South Asia 『電子メール版』一九九九年五月号)(※2)を掲載した。以下、これらの論文に対して、パキスタンの外務次官が回答した。(※巻末に各論文要旨を添付)

途上国の苦しみはわれわれの苦しみ

1999年6月号

ジェームス・グスタフ・スペス  国連開発プログラム総裁

この相互依存世界にあっては、国際援助・協力は、公共政策の一部でなければならない。われわれの繁栄は環境から経済に至るまで、すでにグローバル化している様々な要因によって規定されだしている。当然、途上国の債務問題への寛大な対策を講じるとともに、旧西側諸国は途上諸国への投資を増やすべきである。世界の社会階層間の境界線が次第に形成されつつあることを無視し続ければ、環境の悪化、人的災害、経済成長の悪化という形で、膨大なしっぺ返しを食うことになろう。

韓国は平和共存をめざす

1999年5月号

洪淳瑛(ホン・スニョン) 大韓民国外交通商相

ゆっくりとしたペースではあっても、朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)は南の同胞たちや国際社会に対して自らを開放せざるを得ない状況に追い込まれつつある。そして、韓国は緊張緩和、平和、そして再統合を望んでいる。金大中大統領の経済領域を中心とするエンゲージメント(穏やかな関与=「太陽」)政策は、北朝鮮での好ましい変化と抜本的な変革を促すことを目的としている。とはいえ、「国家の能力がますます金融・経済への依存度を強め、そして経済的な強さのためには開放性が必要であることに、北朝鮮が気づき、韓国と同じ価値観を共有するようになるには,まだまだ時間がかかるだろう」。当然、完全な和解には時間がかかる。二つの分断された国家が再統合に向けて動き出せるのは、いかに統一を実現し、統一後どのようにしてともに暮らすかのコンセンサスが生まれてからである。

核実験後の南アジアにどう向き合うか

1999年5月号

ストローブ・タルボット  米国務副長官

インド・パキスタン両国の核実験は、現在の核不拡散レジームを大きく動揺させている。「NPT(核不拡散条約)レジームの現状からの後退を食い止められなければ、昨年の核実験をきっかけにNPTから次々と脱退する国がでてくるかもしれない」。印パ両国は、核による均衡が冷戦期の米ソ間の平和を維持していたように、今回の核実験によって今度は南アジアに核の均衡による平和が到来すると信じている。だが、「冷戦が平和的に終焉したという観点からではなく、この対立関係の管理にいかにコストがかかったかという現実的見地から、あらためて歴史を見るべきである」。印パがつくりだした既成事実を前にNPTレジームを譲歩させれば、潜在的に核開発能力を持ちながらも、開発を放棄した国々を裏切ることになるし、核兵器保有国の地位を得ようとするインセンティブ(動機)を他の国に与えることになりかねない。「印パ両国が核兵器を放棄し、あらゆる核関連活動に関する査察を受け入れる」のが先決であろう。

「アメリカの核の傘は必要だが、駐留米軍の規模は削減していくべきだ」。これが細川元首相が『フォーリン・アフェアーズ』に寄せた「米軍の日本駐留は本当に必要か」の提言の骨子だった。同氏は、冷戦後、東アジアの国際関係が好ましい方向へと変化するなかで、米軍のプレゼンスに対する日米の認識の隔たりが生じ、大切な二国間関係を損ねる恐れがあると警鐘をならし、特に、九五年の特別協定(SMA)に基づく日本側の経費負担は、協定が期限切れになる二〇〇〇年以降は継続すべきではないと主張した。これに対して、マイク・モチヅキ氏、マイケル・オハンロン氏は、日米同盟への貢献の度合いはアメリカの方がはるかに高いとして、日本は必要なら憲法を改正してでも、同盟国としての安全保障上の責務を負うべきだと反論した(「細川氏の日米安保論は視野が狭い」)。以下は、細川氏の提言に対する山中あき子衆議院議員による反論。(注1)

アジア的価値の空騒ぎ

1999年2月号

ルシアン・パイ
マサチューセッツ工科大学政治学名誉教授

「非公式なやり方に依存して、膨大な資本を呼び込んだうえに、経済行動を拡大するためであれば収益への配慮を無視するような傲慢な姿勢が生まれたため、結局、流れ込んだのと同じ速さでアジアから資本が逃避してしまった」。かつて「奇跡」を実現したのと同じ文化的価値が、どうして今は「大失敗」を招いているのか。アジア危機を経た世界は、「質素、勤勉、家族中心の価値観、権威への尊重」という美徳が、「強欲、硬直性、情実主義、あからさまな腐敗」といった悪徳へと変貌しうることを知っている。それでも、アジア的価値の優越性を唱え続け、アジア危機を契機として欧米批判の論陣を張る人物たちの真意は、どこにあるのか。

グローバル経済が求める「法の支配」

1998年6月号

トマス・キャロサース  カーネギー国際平和財団研究部長

経済グローバル化の潮流のなか、資本家たちは安定性、透明性を投資対象国に強く求め、投資を引きつけたい諸国も、ある程度はこれを理解している。そして、安定性、透明性、「説明責任」の鍵を握るのが「法の支配」の確立なのである。法改革がある段階で停滞し、特権的な銀行家、財界人、政治家がつくる閉鎖集団間の仲間内の取引をめぐる不透明な状況を取り除けなかったことが、アジア危機の背景として広く指摘されている。グローバル時代における「法の支配」確立の重要性は自明だが、単に法制度、法律を整備するだけでは十分ではなく、政府そして特権的指導者が自らも法の支配の下にあることを受け入れることが不可欠である。

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